AXYZ   作:オンドゥル大使

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第十五話 殲滅戦線Ⅱ

 

 洞窟内部より、プテラが鍾乳洞を砕いて現れる。岩石の鎧を身に纏ったかのようなその壮観なる姿に、自然と笑みがこぼれていた。

 

「へぇ……よくよく見りゃ、ちぃとは分かるな。エイジがさじを投げるワケだぜ。こいつは遺伝子に欠陥がある」

 

 自分の喉を震わせる全く異質なる声の主にリッカは内側より問うていた。

 

(どうするの?)

 

「落ち着いているんだな。今、テメェの肉体をオレがジャックしているんだぜ?」

 

(合意の上だもの。倒せるんでしょうね?)

 

「勘違いすんな。倒すなんて勿体ない真似するかよ」

 

 自分の身体が立ち上がり、頬についた煤を拭っていた。直後にはその下に喜悦の笑みが宿る。

 

「――捕まえて戦力にする。千載一遇のチャンスってヤツだ」

 

(異論はないけれど、あんなもの……)

 

 言葉を濁したのはプテラの放つ圧倒的な威容であった。通常のポケモンの理が通用するのはさえも不明。しかしジガルデコアは言い放つ。

 

「なに、こっちには手駒が二つある。どこで聞いてもこの通りのはずさ。一より二のほうがデカいってな! 行けよ、ルガルガン!」

 

 投擲したボールが弾け、ルガルガンが解き放たれる。瞬間的に間合いを詰めたルガルガンが跳躍し、プテラの上を取っていた。

 

「ドたまの上からぶっ潰される、その気分はどうよ! ルガルガン、ストーン――」

 

 その手が携えていたはずの岩石の散弾は、しかしプテラには命中しなかった。命中する前にその巨体が掻き消えていたのだ。

 

 まさか、と息を呑んだその時には、プテラはルガルガンの直上にいた。

 

「あり得ねぇ……。速過ぎる!」

 

 プテラが硬質化した翼でルガルガンを叩き据える。その攻撃力にルガルガンが地面を転がり、ようやく体制を整えた。

 

 ジガルデコアが舌打ちする。

 

「何でだ! ルガルガンの特性なら当たるはず……!」

 

(特性……あれは真夜中の姿よね? 確か特性は……)

 

「オレの暴きの能力で普段は現れない特性に設定してある。普通なら大した事のない特性だが、オレの操るポケモンはそのポケモンの持つ隠し特性を暴く。今のルガルガンの特性はノーガード! 相手の攻撃も受けちまう代わりに、絶対の命中を確約するはずなんだ!」

 

 まさか、ジガルデコアにそのような力があるなど思いも寄らない。絶句するリッカにジガルデコアは悪態をつく。

 

「クソが! 何であいつの攻撃射程に入れねぇ! これじゃ、ルガルガンの命中精度でも……」

 

 高空に位置するプテラを迎撃するのには、ルガルガンだけでは足りない。その帰結に、リッカは口にしていた。

 

(……フローゼルも使いなさい。なら、勝ち筋は……)

 

「ダメだ。お互いの弱点になっちまう。フローゼルの攻撃がルガルガンの特性で命中しちまうんだ。逆も然り。互いに撃ち漏らしたら、それが決定打になる。ヘタな攻撃をしちまうと、ルガルガンだけじゃねぇ、フローゼルまで戦闘不能になっちまうぞ」

 

 下手は打てないというわけか。しかし、リッカはプテラの行動を反芻していた。洞窟の中では「はかいこうせん」のようなハイリスクの技を撃ってきたというのに、今こちらを睥睨するプテラはどうしてだか攻撃を待っているかの如く大人しい。無論、凶暴性は露だが、それでも洞窟内のような行動には移らない。

 

(……理由がある)

 

「何だって?」

 

(プテラは洞窟内なら勝てる算段があった。でもここにはない。そうだと思わない?)

 

「問答だな。洞窟の中にはあって、外にはない、か」

 

 自分の姿を取るジガルデコアは思案を巡らせているようである。リッカはフローゼルへと意識を向けていた。

 

 相手の弱点タイプをうまく取れれば、フローゼルでも勝ち目はあるかもしれない。しかしそれは危険なる賭けだ。

 

 何よりも自分達が全滅するリスクのほうが高まっている以上、下手な真似をすれば逆効果。それは分かっているのに、分析する頭はやまない。

 

 こうして自分の身体を客観視すると、何かが見えてきそうなのだ。それが見えてくる前段階で姿を消す。

 

 もう少し。もう少しだけ反証材料が欲しい。それさえあれば勝算はある。

 

(……あんた、戦いを長引かせられる?)

 

「難しい事を平然と言いやがるな。だが、まぁルガルガンとプテラなら、少しは可能か。今受けた感覚だと、プテラは飛行タイプ持ちだ。ルガルガンは岩、有効打は打てるが……それが決定打になるかは分からねぇ」

 

 しかし、それならばどうして、とリッカは疑念を持つ。飛行タイプ持ちで素早さも高いのならば何故もっと翻弄しない。ルガルガンは言ってしまえば動くだけの的。空中から攻撃を仕掛け続けるだけでも疲弊するはずなのに……。

 

 そこまで考えてリッカは先ほど、ジガルデコアの発した技に思い至る。

 

(……あんた、さっきサウザンアローって技……)

 

 それでジガルデコアも気づいたらしい。フッと笑みを浮かべる。

 

「……なるほどな。テメェを逃がすために咄嗟に撃った技だが、それが効いてきているってワケかよ。ああ、考えている通り。サウザンアローは飛行タイプにも命中する地面技。その効果は、相手が空中にいようがどこに飛ぼうが、絶対に命中するように相手の因果を捻じ曲げる。プテラはその技の残滓を感じ取って警戒しているワケだ。そりゃ、破壊光線なんて撃てねぇよな。あれは撃てば反動がある。機動力に秀でている自分の長所を殺すようなもんだ。……とすればこっちにも勝算が少しは垣間見えてきたぜ。相手は地面タイプの技、それに他の攻撃技で優位を打たれる事を恐れている。洞窟内なら、破壊光線でオレらを一掃出来たが外ではそうもいかねぇ。必ず隙が出来る。つまるところ、一撃でも与えれば勝ち目はあるってこった」

 

(……乗るにしてはちょっとばかしリスキーだけれど、でも、やるしかないわよね)

 

「思ったよりも勝負師じゃねぇか、メスガキ。そこんところは褒めてやるよ」

 

(だから、メスガキって呼ぶなっての! これ、生き残ったら相手の名前を覚えなさいよ!)

 

「へいへい。じゃあせめて、ここでは死なない事を願いますか。さて、プテラ。第二ラウンドと行こうぜ」

 

 その言葉に呼応するかのようにプテラが咆哮し、こちらへと円弧を描いて翼を翻す。

 

 やはり「つばさでうつ」。物理技であくまでも制そうと言うのだろう。

 

「悪ぃな。並大抵のトレーナーなら、それでも脅威だろうさ。だがオレは! さっき見た技なら何とでもなるんだよ! ルガルガン!」

 

 声に弾かれたようにルガルガンが跳躍する。掌に岩を貯め、照準をプテラの首筋に据えていた。

 

 しかし、プテラは瞬時に翼を返し、ルガルガンを射程に入れる。空中で制御の利かないルガルガンは格好の的だ。

 

(危ない! 狙い撃たれるわよ!)

 

「そんなヘマすっかよ! フローゼル! 出番だ! アクアジェット!」

 

 フローゼルが尻尾から推進剤のように水を噴き出させる。先制を確約する水の技「アクアジェット」。それでプテラを狙うのかと思われた。

 

 しかし、プテラは低軌道から来る相手など意識のうちに留めるまでもなく、いなすように翼を刃の如く立てた。

 

 それだけでまさしく鉄壁。

 

 堅牢なる翼の城塞が「アクアジェット」の残滓を虚しく散らせる。

 

(アクアジェットでも……)

 

「いや……狙い通りだ!」

 

 どういう、と問い返す前に、再度フローゼルが「アクアジェット」を焚く。

 

(無理よ! プテラの表皮はアクアジェットでは砕けない!)

 

「おいおい、いつ、オレがフローゼルでプテラを倒すって言った?」

 

 その言葉にリッカは「アクアジェット」の矛先を目にし、震撼する。

 

(まさか……)

 

 フローゼルが狙い澄ましたのは空中で身動きの取れないルガルガンそのものであった。しかし、とリッカは慌てて声にしようとする。

 

(岩タイプに水は効果抜群! 沈むわよ!)

 

「安心しろ! 致命傷は免れるようにコントロールする!」

 

 フローゼルの水流のジェット噴射がルガルガンの鳩尾へと突き刺さった。その一撃の重さにルガルガンが目を見開く。

 

 通常のポケモンバトルならばここで勝負が決するはずだ。しかし、ルガルガンの赤い眼光は諦めていなかった。

 

 それどころかフローゼルの一撃に対して闘魂を燃やしている。

 

 その瞳がぎらつき、拳が大きく振るい上げられた。

 

(……ダメージはレッドゾーンのはずなのに……)

 

「いい事を教えてやるよ、メスガキ。追い詰められた獣ほど、その牙は恐ろしく研ぎ澄まされている。今のルガルガンみたいに、な。そして仕上げはこいつだ! フローゼル! 泥かけ!」

 

 何とフローゼルは味方であるはずのルガルガンへと、泥を引っかけたのである。その行動にはさすがのリッカも狼狽した。

 

(何やってるの! 泥かけなんてしたら――)

 

「ああ、命中しねぇよな。――フローゼルには」

 

 ハッと戦局を目にする。フローゼルに振るうはずであった拳が空を切った。離脱したフローゼルに代わり、その射程に現れたのはプテラである。

 

 プテラの頭上で繰り広げられた仲間同士の諍いが、まさか降りかかるとは思ってもみなかったのだろう。

 

 さすがにその行動速度は遅れていた。

 

「プテラの意識から攻撃の予見を割くのにはこれしか方法がねぇ。そして! 一発でも上を取れば、ルガルガンは優勢を行ける! ぶちかませ! ルガルガン! 怒りを拳に乗せて、食らい尽くさせろ!」

 

 ルガルガンの拳が赤く煮え滾る。思わぬ攻撃にプテラは応戦の翼を見舞おうとしたが、ルガルガンの動きのほうが早い。

 

 前が見えていないのにも関わらず、ルガルガンは身に携えた闘争本能で射程の相手へと拳を食い込ませていた。

 

 その一撃に空間が鳴動する。

 

 茫然自失の声でリッカはその技の名前を紡いでいた。

 

(カウンター……。相手の攻撃を、倍にして返す格闘技……)

 

 それも今回は標的を誤った形での一撃だ。プテラは頭部の鎧めいた黒い岩石を砕かれ、その飛翔能力に翳りを見せる。どうやら脳震とうに陥ったらしい。ルガルガンはその隙を逃さない。

 

 地面に降り立つなり手で砂礫を舞い上がらせ、それぞれを拳で叩いてプテラに向け、一斉掃射する。それはまさしく、回避不可能な岩石の散弾――。当然、それらは完全にプテラの躯体へと突き刺さったかに思われたが……。

 

 プテラは何と牙を噛み締めて持ち直し、翼を回転させて暴風を作り出したのだ。

 

 その風の間合いに岩石の散弾は撃ち落とされていく。ジガルデコアは舌打ち混じりにフローゼルに指示を振っていた。

 

「フローゼル! もうちょいのはずだ! アクアジェット、再噴射を……」

 

 刹那、プテラが舞い降りる。あり得ない距離での対峙に内側のリッカは委縮した。

 

(これが……化石ポケモン……)

 

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