AXYZ   作:オンドゥル大使

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第二十三話 新たなる場所へ

 

 メガプテラは帰投ルートを悟らせないように高度を保ったまま、隣町であるカエンシティを経由して回収する、とリッカが言った時、エイジは別の事を考えていた。

 

 今もこの身に宿るダムド――ジガルデコア。それをどう自分の中で落としどころを見つけるのか、それがまるで見当たらない。

 

 ザイレムで男の言った事が本当ならば、ランセ地方は最初から実験台であった。その事実にエイジは押し潰されそうな胸を必死に押し留める。

 

「……エイジ。どうしたの?」

 

 リッカの問いかけにエイジは頭を振る。

 

「何でもないよ」

 

「何でもなくないでしょ。……何か言われたの?」

 

 さすがは幼馴染と言ったところか。目聡いところに、エイジは頼ろうとして、内奥よりのダムドの声に阻まれていた。

 

(エイジ。何か枝でもつけられたのか? さっきから動悸が落ち着かねぇみたいだが)

 

「いや、そんな事は……ない、はず」

 

(オレが精査した限りじゃ逆探知の心配はなさそうだが、それでも不安ならもっと深層に潜っても……)

 

「いや、それは駄目だ」

 

 無論、ダムドが心の奥底まで読むと思ったわけではない。しかし、今心の内側を読まれれば、きっとダムドへの不信感が露になってしまう。そんな状態で契約を続ける自信はなかった。

 

「エイジ……?」

 

 リッカが手を彷徨わせる。エイジは何でもない風を装う。

 

「いや、本当に何でもないと思うんだ。だって、それなら僕を逃がすわけがない」

 

(同意だが、今回ばっかしはあんま楽観視も出来ねぇ。敵は何をしてくるか分からないってのがハッキリしたんだからな)

 

「……それはお前もだろ。まさかリッカを巻き込むなんて」

 

「巻き込まれたつもりはないわ。ダムドにはあたしも話を通してある」

 

(その通りだ。メスガキも色々と有能でね。メガプテラの捕獲は今回の作戦を有意義に進めた)

 

 リッカのポケモンデータベースに登録されたメガプテラにエイジは素直に驚いていた。自分が治療不可だと判断した個体をまさか捕獲しているとは思ってもみない。

 

「……あのメガプテラ、言う事を聞いたんだ……」

 

「苦労したんだからねっ。死にかけたし」

 

(笑えねぇんだがな。マジだったし)

 

 ダムドがそう言うのならば相当な戦いであったのだろう。エイジは後にした地下施設へと振り返っていた。

 

「……あんなところに基地の出入り口があったなんて……」

 

 出口に使ったルートは一方通行で、輸送車の通る専門ルートの真下に位置していた。平時には封鎖されている場所である。「汚染地帯」と書かれた札と封鎖線があり、誰も入ろうとは思わないだろう。

 

 そんな場所に――否、このランセ地方そのものに、あの組織は根を張っている。

 

「……ザイレム、か。あの組織、多分これじゃ終わらないよね……」

 

「危ない連中の集まりよ。イカレてるわ」

 

(それに関しちゃオレもそう思うが、それでも解せないのがある。ちょっと外に出るぜ)

 

 ジガルデコアが染み出し、セルを寄り集めて漆黒の獣形態を取る。その姿にエイジは言葉を投げていた。

 

「セルの数は? 相当使ったって聞いたけれど……」

 

(あと二つ。正直、この姿も維持出来ねぇ。ギリギリだな。五分もなっていれば形象崩壊しちまう)

 

「それって、やっぱりまずいの?」

 

(いくら宿主であるエイジが戻ってきたところで、オレの出れる時間は限られる。それにこれから先、セルの争奪戦に入るんだ。オレがあんまし出張っていてもしょうがねぇ。この姿は極力見せず、セルやコアの宿主から掠め取れればいいんだが……)

 

「そう簡単じゃない、か……」

 

 口にして、困難な道であるのを再認識する。セルの争奪戦。それだけではない。ランセ地方はジガルデの特色に染まった土地。この場所で闘争が繰り広げられるのは、最早運命なのだ。

 

 その運命の歯車に、自分も組み込まれた。

 

 大いなる一手として。

 

 ならば、意義のある一手になりたい。それが今のエイジを突き動かす行動原理であった。

 

「……ダムド。セル集め、僕にも手伝わせてくれ」

 

 思わぬ提言であったのだろう。二人とも瞠目している。

 

「エイジ……どうして急に?」

 

(協力的なほうがやりやすいがよ……。今回の件で分かっただろうが敵も手段は選らばねぇ。基本的には死と隣り合わせだ。それでも、やるってのか?)

 

「契約しただろ。僕は、お前の宿主だ」

 

 無論、それだけではない。戦い抜くのならばしかし、決断は早くなくてはならないだろう。

 

 いつまでも燻っている場合ではないのは、あの男より教えられた事と、そしてダムドと同じくジガルデコアが無数に存在する事実からも明らかだ。

 

 戦わなければならない。戦って勝ち抜くしかない。

 

 それが自分達に与えられた宿命だとするのならば。

 

 リッカは反対するかに思われていた。しかし、彼女は殊勝にも頷く。

 

「……正直なところ、あたしもそれがいいと思う。何もしなくても、敵は攻めてくるし、それにいつまでも逃げに徹していたんじゃ、何も出来ない。エイジが戦うって決めたんなら、あたしも応援する。一人にはしないから」

 

「リッカ……。でもこれは、僕の問題で……」

 

(言ったろ。一蓮托生なんだ。それに、このメスガキも相当にやる。味方にして惜しい戦力じゃねぇ)

 

「だから、メスガキ言うな。……いずれにしたって、今のあんた達を放ってはおけないわよ」

 

 しかし危険な戦いになるだろう。もしもの時、リッカも巻き込んでしまう。その危惧を口にしようとすると、エイジは額をデコピンされた。

 

「痛った……」

 

「今、巻き込んでまう、とか言おうとしたでしょ?」

 

 言い当てられて無言を是にすると、彼女は腰に手を当てて憮然とする。

 

「呆れた! 今さらそんなの、言ったところで通用する? もういい感じのところまで巻き込まれちゃっているのよ。だったら! そのまま長いものに巻かれるか、そうじゃないかの違いでしょ!」

 

 言ってのけた胆力にダムドが鼻を鳴らす。

 

(根性だけは据わっているな。ま、大方の意見は同じだ。エイジ。もう逃げたってしょうがねぇ。オレもこのままじゃ、契約した張りもねぇってもんだ)

 

 二人分の意思を受け止め、エイジは首肯する。

 

「……旅に出よう。ランセ地方で、僕らがセルとコアを集めて……この大きな戦争に勝利する」

 

 未だに現実感はない。それでも、高鳴る胸の鼓動だけは、本物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二章 了

 

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