平成の終わりだし伝説の平成のアイドルをガチ推ししてた少年の話を書こうと思って5分で挫折した話 作:エステバリス
平成の終わりだし伝説の平成のアイドルをお題になんか書こうとした結果です。
前回のゾンビランドサガは!
アルピノのライブ前に記憶喪失になっちゃったさくら! ゾンビになる前の記憶が戻ってゾンビになってからの記憶がなくなってアイドルやらないとか言い出して幸太郎さんと衝突していたけどフランシュシュの皆の説得を受けてなんとかライブ当日までに踊りも歌もマスターしていざ本番!
でも本番になって急に大雪しんしんでアルピノガラガラ! ライブ会場もボロボロになってもうダメ―! ってなったけど、皆の友情パワーでライブを最後までやりきってさくらもフランシュシュもファンの皆ももうウルウルのウル!
これからもさくらはフランシュシュの皆と一緒にがんばるけんね! おー!!
◇◆◇
フランシュシュのアルピノでのライブは佐賀の地方新聞で一面を使って報じられた。
曰く、ライブステージの倒壊に遭って尚ライブを続け、来場者全ての心を鷲掴みにした熱い地方アイドル達、と。
曰く、崩れたステージから一人、また一人と這い上がるその姿は暫く前に佐賀の一部で出たと噂のゾンビィの話を彷彿とさせるものであった、と。
評価は様々であれ、フランシュシュのアルピノライブは概ねがステージの倒壊の中立ち上がった不屈のアイドル精神の持ち主だった、という好意的な物。
それは名実ともにフランシュシュというアイドル達が作り出す伝説の、大きな始まりであったに違いない――
佐賀県、某高校。
2018年の冬を終え、季節はいよいよ春を迎えようとしている頃。
「おい
片手に一枚のディスクを持った、一人の男子高校生が彼を呼び止める。
「……いや、いいよ。俺ライブっていうの苦手なんだ」
呼び止められた少年は気だるげに、呼び止めた少年を拒絶する。
彼は目が死んでいた。
「そげんとこ言うなよ! がばい凄かったとよ!? もうあれ伝説とよ!? 地元新聞でも一面取っとったんだって!」
「いいよ俺は! もうライブなんて見ないんだって!」
心底から嫌がるように拒絶する少年。その目は死にながらも、確かな活力と信念を以て『見るものか』という強い意志を感じさせる。
対してディスクを持つ男子高校生もまた、『絶対に見せてやる』という確固たる決意を宿し、彼を高校内のコンピュータ室へと連れ出そうとしている。
このディスクの中身であるライブを意地でも見せてやるつもりだ。教師の許可なく。
「一回だけ! いっぺん見るだけでいいんやって! それ見てなんにも思わんかったらもう誘わったりせんから!」
「一回たりとも見るか!」
「本当に! なんでもいう事いっぺん聞きやすわ! だから見てくれん!?」
その言葉にピタリ、と抵抗の手が止まる。
二人は八年来の友人だからわかることなのだが、この男子高校生は嘘を吐かない。特に約束については相当に義理堅い。
その彼が言う事をなんでも一度聞く、とまで言った。ならばこれは、少年にとって『いい事』を突き付けられるかもしれないチャンスでもある。
「……本当にか?」
「本当の本当! いう事聞くから見て!」
「……わかった」
こうして、『絶対に見るものか』という少年の鋼鉄の決意はものの十数秒で瓦解した。
「で、なんのライブだよ」
コンピュータ室にて、無断でパソコンを立ち上げて件のディスクを投じる高校生を見ながら少年は問うた。
「フランシュシュっていうアイドルのライブ」
「腐乱臭衆?」
「ちげーわ。これ買った時近くにおったデスメタルのオッサンが似たようなこと言っとったけども」
少年の言葉に応えながら、彼は音量やら画面サイズやらを弄る。やがて真っ黒に染まっていたディスクの映像が色を得て行き、そのライブ映像を映し出す。
「一、お前の母ちゃんに聞いたんだけども。お前佐賀に来る前にアイドルの追っかけやっとたんやろ? その話聞いた時、『なんでそげんこと』って思ったけども、よくわかったわ。
だからお前といっぺんライブ行ってみたいなぁって思ったとよ」
「……はァ」
少年は物憂げに、大して興味もなさげに答える。そして映像が確かな色彩を伴い、ステージに立つ
「……え?」
瞬間、少年は絶句した。
ライブ映像のセンターから左。花が咲いた紺色のショートカットを見て、彼は絶句した。
「……は?」
「ん? どげんかしたか?」
彼の言葉も、少年には届かなかった。
少年の視線も意識も、確かに映像の中の『彼女』ただ一点にのみ向けられて、少年の見て、聞く世界には『彼女』以外の人間が存在していないに等しかった。
「……愛、ちゃん……?」
少年は、アイアンフリルの水野愛が推しメンだった。
I CAN BE SOMEBODY SAGA
少年の名は
20世紀が終わり、21世紀が始まるから
家族構成は父、尾張
東京で生まれ、東京で育った彼は6歳の頃、一人の少女に一目惚れをしたのだ。
少女の名を水野愛。当時一斉を風靡したアイドルユニット『アイアンフリル』の中心人物である。
馴れ初めは週刊少年サ〇デーの巻頭カラーを飾った彼女の制服グラビアを見た瞬間。
あまりにも真っ直ぐな瞳、少しふんわりとした短い髪。なんかよくわからないけど頭に咲いてる花。一挙手一投足でアイドルの誇りを体現するかのような姿をグラビア一枚から感じ取った一は、気付けばCDショップでアイアンフリルの、特に水野愛がセンターを飾る曲を購入していた。
まあ、そんなわけで尾張一という少年は水野愛ガチ勢である。ガチで推していた。なんなら家族が引くくらい推していた。
しかし、尾張家はアイアンフリルが平成の00年代のトップアイドルの座を不動のものとしたまさしくその瞬間に水野愛が落雷で死亡した事件の後を追うようにして、佐賀へと昭の仕事の都合で引っ越すことになった。
そうして一が佐賀に来て9年、佐賀は今、熱かった――!!
『皆さーん!! 今日もフランシュシュのライブに来てくれてありがとう!』
1号、とファンに呼ばれる少女が声を張る。どうやら彼女はリーダーではないらしいが、1号という肩書きや重要な語り口からして、彼女がこのユニットの中心人物となっていることはアイアンフリルの実質的なリーダーであった水野愛を長年追っていた一にはすぐわかった。
なおフランシュシュのリーダーは2号らしい。1号がリーダーじゃない辺りに拘りを感じる。
そんなこんなでチェキチェキしていく。一のお目当てはあくまでも水野愛に瓜二つな3号だが、銀髪の4号だけはチェキ禁止で、代わりにブロマイドを――というカタチで進むらしい。
「随分と、昭和チックな……」
「ん? わり、もしかするとフランシュシュのライブば初めてやと?」
「え? あー……はい。この前のアルピノライブの話を行ったっていう友達に聞いて」
「ほーお! よかよか! そいなら不思議に思うのも無理あらせんか!」
一の後ろに並んでいたデスメタルな恰好をした二人組が丁寧に教えてくれる。
曰く、あのブロマイドの少女。4号はチェキを個人的にお断りという方針を取っているという、時代錯誤なスタイルを貫き通している、良い意味での古さを特徴として持っているらしい。
そんなスタイルを貫く彼女に周囲が何かを感じ入ったのか、フランシュシュでも彼女は強い人気を博しているらしく、チェキでの列が一番長いということもザラではないらしい。
「確かに超の付く美少女だ……愛ちゃんには劣るけど」
ついでに一は超の付く水野愛マジ推しである。
そしてチェキの列は前へ、前へと進んで行き、いざ一の番。
「今日は来てくれてありがとう!」
別にアイドルとチェキなんて初めてじゃない。だけれども目の前にいる彼女の存在が、一の心臓をドクン、と鳴らしていた。
――水野愛が死んだあの時から、一の人生は死人のようなものだった。生きているが、死んでいる。生き甲斐を無くした彼の9年間はまさしく、ゾンビという呼称が一番似合う。
「え……っと」
ドクン、と鳴った心臓の音。
何かを言おうとしていたわけではない。ただ、チェキというすぐ近くまで接近できるチャンスで、彼女の顔を見てみたかったのは事実だが。
「どうかしましたか?」
「……っ」
詰まる言葉。そもそも、身体が硬直している。
もしかしたら、彼女は水野愛の生まれ変わりで。一のような、水野愛の死に生きる力を見失ってしまった人達を励ます為にまたアイドルになってくれたのかもしれないと。そんな想像をしてしまう。
「……あの!」
「はい?」
彼女はじっと一を見ている。
この行動が後がつっかえる大迷惑行為だとわかっているためか、一は早く何かを言わなきゃという想いと、何も出てこないという現実。それと水野愛への迸る感情がないまぜになっていて。
「す、好きです。愛ちゃん」
「………!? ……あ、ああ……ありがとうございます?」
一は、ドルヲタとして最低の言葉を発してしまった。
◆◇◆
結局、一はそれから3号と、後ろにつっかえていたデスメタルおじさんに謝ってチェキすら忘れて会場からそそくさと出て行ってしまった。
「お、おおおおおおお俺はなんて事を……! 推しと推しに激似の人を知ってて見間違えた挙句、待機列を待たせてその上大迷惑を被らせるなんて!」
後悔後先なんとか。新たなるトラウマをご進呈。
「……でも、本当に愛ちゃんそっくりだった……いやそっくりなんてもんじゃない。あの子は、愛ちゃんそのものだった」
ふと、一は初めて水野愛を直に見た日の事を思い出す。
あれはアイアンフリルの都内ライブチケットが満席余裕というぐらいの知名度を獲得しはじめた頃の話。偶然、初めて応募したチケットの立見席が当たった時のこと。
親について来てもらって観たライブはとにかく煩かった。マイクの音量も、熱狂するファン達も。そして、水野愛が魂と誇りを込めて躍り、歌う姿を目の当たりにして高鳴る心音も、何もかもが煩かった。
熱い、熱い夏の思い出だ。
それから一は幾度となくアイアンフリルのライブに赴いて、観て、観続けた。その度に水野愛という少女に焦がれていくのを感じた。
『今日も来てくれてありがとう』『今日は来てくれてありがとう』『皆の応援があるからアイアンフリルはこれからも頑張れる』それらの言葉は、アイドル大戦争の仕組みを知るような年齢でもなかった一には、とてもチープに聞こえるハズの言葉だった。
それでも、一は水野愛の生声と心を煩くする感謝を聞く為にライブに通い続けた。
『愛ちゃーーーん!!!!! ほ、ほーっ、ほああ!!! ほああああああああ!!!!!!』
そしてものの見事に年齢一桁だった一はアイドルという概念の沼へと沈んだ。
時に、まるで関係ないがA〇B48のゲームを御存じだろうか。AK〇48メンバーから推しメンを選んでハッピーエンドにする、というゲームがある。
そういうゲームもアイアンフリルにはあった。アイドル戦国時代の勝者であるアイアンフリルにはそんなこともできた。当然一もこれを買って水野愛単推しを貫き通した。まさしく専門教育の領域だった。
「……あのゲームまだあったっけ……確か引っ越す時に売った気が……」
水野愛が死んだショックで売ったゲームは彼女の死が話題を呼び、プレミアで売れたのを覚えている。
携帯のネットショッピングを調べたらまだプレミアが付いていてげんなりした。そして鳥栖付近を駆け回って買い直した。
なおこれを書いた人はさくら推しの模様。