ハリーと時間のロード 作:長身灰色目隠し青色系
ヘルミオネが魔法世界の存在を知って1ヶ月。
昨日はハリーの誕生日で、ヘルミオネは去年から暇を見つけて編んでいたセーターをプレゼントした。
季節外れは承知だったが、ハリーからリクエストされたのだ。決して前日に喧嘩したことへの仕返しではない。いい加減、冬にダドリーのお下がりの伸び伸びになったセーターは着たくなかったらしい。ヘルミオネが寄付した服も、サイズの関係でダドリーのとそう変わらなかった。
2ヶ月前にヘルミオネが誕生日にハリーからプレゼントされたのは、お手製の肩たたきフリーパス。週5で、使用期限は来年の誕生日の前日まで。もらったその日から、休日以外は毎日欠かさず使用しているヘルミオネだ。
おかげでヘルミオネは肩こりとは無縁だ。ダーズリー夫妻を練習台にして技術昇華に励んでいるらしいハリーのマッサージの腕前は、確かに日に日に上達していた。
「ハーミー、ほら行こう」
ハリーが急かしてくる。
「お前が先に行って確かめてこいよハリー!」
カートいっぱいに荷物を積んだダドリーがハリーの背中を押した。
ヘルミオネたちの前方にあるのはただのレンガの柱だ。これが魔法界への入り口らしい。
扉なんて上等なものはない。本当に突っ込んでいくようだ。
今も赤毛の目立った家族らしき集団が消えてきくのが見える。
(よし行くか。)
ヘルミオネは気合いを入れた。
「…」
「ハーミー、ちょそんな走ったらーー」
ヘルミオネはワクワク高鳴る衝動を抑えきれずに、柱へと全速力で突っ込んでいった。
「ハーミー!わたし、あなたに会いたかったわ!!」
突っ込んでいった先で、ヘルミオネは突っ込まれた。
胸の下あたりにボリュームのある髪の毛が埋まっている。顔は見えない。
「同じだハーミー。ずっと会いたかった。久しぶりだな」
ハーマイオニーはハグを解いて、ニッコリと笑ってヘルミオネを見上げてきた。
ハーマイオニーとはお互いにハーミーと呼び合う仲になっていた。
1ヶ月前、ヘルミオネはハーマイオニーと出会った時から、名前がキッカケで親近感を強く抱いた。まさに運命といっても過言ではない。そして、どうやら向こうもそうだったらしい。
友達が少ない者同士、相手を逃がさないとばかりに変な勢い乗ったヘルミオネたちはその日のうちに打ち解けた。それから3日に1回は手紙を交換したし、半月前にはハーマイオニーの家にも遊びに行った。
ちなみに身長差は、ハリーと同じく30センチはある。
「わたし、ホグワーツでも1週間に1通は絶対に手紙送るから、必ず返信してね」
「もちろん」
「僕も。ヘドウィグに運んで貰うから」
「オーケー」
「僕も、たまに送るかもな」
「あー、ああ」
ハーミー、ハリー、ダドリーと約束をして、心にすきま風が吹くのを感じながら、ヘルミオネは3人を見送った。
(早くクリスマス休暇来ないかなあ…。)
ダイアゴン横丁へと迷い込んだ、あの日の翌日、マグゴナガル先生がホワイトニング宅、ダーズリー家へと訪問した。
帰宅したヘルミオネに、先生自らの手で手紙が渡された。ホグワーツへ入学資格があるという内容の手紙が。
ハリーだけではなく、ダドリー宛のものもあって驚いた。
先生からの説明は、ダーズリー家にて一括で行われた。先生とダーズリー一家とハリー、父とヘルミオネだ。
母は一応呼んだが、地下室にこもっていて声をかけても出てこなかった。父も何も言わなかったから、ヘルミオネもまあいいかと特に気にしなかった。
マグゴナガル先生の説明が終わり、まずダーズリー氏が顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。そんな訳のわからん場所に大事な息子をやれるかとか。途中からはダーズリー夫人を交えてファイトしていた。
しかし結局、ダドリーはホグワーツに行くことになっている。ダドリー本人は先生が魔法を実演してみせた時点で虜になっていたから初めから意思はあったようだ。
しかし、ヘルミオネには、ダドリー命な夫妻が折れることは予想できていなかった。
ヘルミオネとしてもダドリーのホグワーツ行きは、どちらかと聞かれたら喜ばしいと言えるだろう。ハリーとダドリーの仲は良くはないが、自分とダドリーの仲は普通だ。普通ってことは貴重な存在である。
ヘルミオネは小さい頃からデカ女とからかわれていたが、2年くらい前だっただろうか。ヘルミオネがダドリーの命を救ってからというもの、ヘルミオネに対して敬意のようなものを向けてくるから気分がいいのだ。
(あの時は大変だった。)
あまり思い出したくないとヘルミオネは陰鬱とした気分になった。
ヘルミオネの元に、ハリー達から手紙が届いた。届けてくれたのは、ハリーのペットである雌の白梟のヘドウィグだ。
3通も届けてくれて本当にご苦労様。生まれ変わっても梟にはなりたくない。
ヘルミオネが水皿と切り身にしてあるウズラの肉を差し出すと、驚くほどの勢いでつつき始めた。
ハリーからの手紙には、グリフィンドール寮になったこと。友達ができたこと。これから先の学校生活への不安などが書き綴られていた。スリザリン寮に入れられそうになったのは恐怖体験だったとも。
ハリーのことだ。きっと上手くやれるだろうと、ヘルミオネは心配はしていない。
ハーマイオニーもグリフィンドール寮入ったらしい。彼女はグリフィンドールかレイブンクローを望んでいたから、見事当たりを引けたようだ。いや、ランダムで決めるわけじゃないと思うが。とにかくよかったとヘルミオネは口を綻ばせる。
同室になった子達とは合わなそうだと書いてあった。ヘルミオネはそれを読んで少し嬉しくなった。
(ハーマイオニーの友達は私だけなんだ…。)
手紙をちゃんと送ってくれるか心配だった。書いてくれてよかったとヘルミオネは思った。ホグワーツで親友を作って自分のことを忘れてしまうじゃないかと不安だったのだ。
ダドリーはスリザリン寮に入った。ヘルミオネは誰にも言ってないが、母の出身寮でもある。母本人が言っていた。
何があったかは詳しく書かれていなかったが(ダドリーは途中で書くのに飽きたんだと思うけど)、地位のある家の子にムカついたから殴って、そして殴り合って、友達になったらしい。
(意味不明。)
ダドリーの字は汚くてなんて書いてあるのか分かりづらいのだ。
ハリー達が旅立って2ヶ月。ヘルミオネは今日も元気に過ごしていた。
一昨日のハロウィーンは父と猫と犬と楽しく過ごした。母はいつものように地下室に篭っていた。例の魔法薬があと少しでできるそうだ。気になったヘルミオネだったが、何の薬かは教えてくれなかった。
(さて。)
11月に入って最初の手紙だと、ヘルミオネは手紙の封をジッと見つめた。
先月は、城の中に怪物犬がいたとか銀行に泥棒が入ったとか、魔法薬の先生が最悪だとか不穏なものが多かったため、ハッピーな内容を期待する。
ダドリーの手紙にもハリーがインチキしてクィディッチの選手になったと文句が多かった。
ヘルミオネは手紙を読み終えた。
内容は、願っていたものとは真逆であった。
ハリーの友人の(コンチクショウ!)…が、ハーマイオニーに心無い言葉を言って傷つけたらしい。
(ハーマイオニーは友達なのに…そう友達だと思っているのはお前だけなんじゃないかとか。なんてやつだ。)
結果ハーマイオニーはトロールという魔法生物に襲われた。何とかハリーとその友人が駆けつけて事なきを得たらしい。
(この野郎。)
しかし、雨降って地は固まった。最後は仲良くなったらしい。ヘルミオネは唸った。
とりあえずヘルミオネは、ハーマイオニーからの手紙に‘わたしとヘルミオネは友達よね…?’と震えた字で書いてあったので、便箋1枚に友達だといっぱい書いた。
次の週のハリーの手紙には、これでもかというほどの喜びがつらつらと書かれていた。
箒に乗って金の玉を口でキャッチして、チームを勝利に導いたらしい。ハリーが楽しそうなのはわかったが、残念ながらヘルミオネにはあんまり面白さは伝わらなかった。ハリーと走り回っていた頃が懐かしく感じた。遥か昔のことのようだ。
ハーマイオニーからの手紙には、ニコラス何某がどんな人物か知っているかどうかと書かれていた。
当然ながらヘルミオネは知らない聞いたこともない。しかし、頼りにされて知りませんじゃそれは悲しかったので母に聞けば、ニコラス何某は賢者の石を作った現在老人。ヘルミオネは母の言葉をそのまま返事にした。
それと3枚の便箋に、わたし達は一生の友達よっ、と隙間なく書いてあった。ヘルミオネは感激した。
「久しぶりハーミー!また背伸びた?」
「成長期だから…久しぶりだなハリー」
ヘルミオネは今、自分の顔が綻んでいるのがわかった。
クリスマス休暇。ハリーがホグワーツから帰省した。この4ヶ月は長かった。ハリーには変化はない。小さいままだ。
この休暇中、ハリーは我が家で過ごすことになっている。ダーズリー一家は、駅でダドリーを迎えてその足で旅行に行った。昔からそうだ。
ハリーだけかわいそうとか前は思っていたヘルミオネだが、ハリー当人にとってはダーズリー達と旅行とか悪夢以外の何でもないのだ。むしろ最高のクリスマス休暇になると喜んでいた。ハリーとダーズリー一家との溝は浅いようでそこそこ存在している。
今日はクリスマスだ。
前日、ささやかながら我が家にてクリスマスパーティーを行った(例によって母は不参加)。父は特に気合いを入れて料理を作ったようで、どれも頬がとろけてしまいそうなほどにおいしかったが、ケーキだけは本当に次元が違った。ヘルミオネもハリーも狂ったように食べ尽くした。
さすが父だ。美味しかった。
「ハーミー!みてこれ!これ!」
ベッドから半身を起こしてぼんやりしているとハリーがヘルミオネの部屋に入ってきた。
「おはーーえっ…うぁ、えっ…?……ああああああああ!!あああああああああ!!!」
ヘルミオネは反転して思いっきり布団に頭を突っ込んだ。
(怖い怖い怖い怖い怖い!なんだよ、あれ!ハリーの体がねえ!首だけしかなかった! )
「ハーミー!」
「ああああああああああああ!!ああああああああ!!」
ヘルミオネには、何がなんだか訳がわからない。ただ恐怖が押し寄せてくる。
(あれはハリー・ポッターじゃないよ。あれはハリーの姿をした何かだ。嫌だ嫌だいやぁ…。)
「パパ…ママァ!ハリーが!!」
「ちょっ」
「…ワフッw」
「ニャー…」
犬が笑い、猫が犬をはたいた。
「ごめんって。僕も嬉しくって、本当ごめん」
「…」
本当に怖かったと、ヘルミオネは心の中でハリーを罵倒した。
朝から騒がしかった。ヘルミオネの叫びを聞きつけて、父は直ぐに来てくれていたようだったが、母はくーすか夢の中だったみたいだ。やっぱり頼りになるのは父だけだと、ヘルミオネは改めて認識した。
しかし、今回は別に何の頼りも要らなかったのだ。ハリーが首だけになった原因は、纏えば透明になるという摩訶不思議な代物のせいだった。差出人は不明だが、ハリーの父親の形見らしい。添えてあった手紙にそう書かれていたそうだ。
「ハーミー、それ似合ってるよ」
「!!ハーミーが、ハーマイオニーが、クリスマスプレゼントに送ってくれた。前髪が目に入ったら目が悪くなりそうって、選ぶのに一日もかけてくれたんだってよ!ニットキャップも喜んでくれてるといいな…」
「きっと喜んでくれているさ」
「……そうか?」
ヘルミオネはにやけた。ハリーの言葉には基本、ヘルミオネは単純になる。
ハーマイオニーから届いたプレゼントは、深い青色の髪留めだった。人に見られたくなくて、前髪を伸ばしていたヘルミオネでも、彼女からの物だと嬉しい。しかし、流石に外でつけるのは恥ずかしい。家ではいつもつけておこうとヘルミオネは決めた。
ヘルミオネがハーマイオニーに送ったプレゼントは、グリフィンドール寮のカラーに合わせた手編みの帽子だ。時間があったので3個作って1番出来がいいのを送った。
ヘルミオネが両親とハリーにプレゼントしたのは、毎年と同じく手編みの靴下だ。クリスマスプレゼントに靴下を送るなんて、今となっては可笑しい気もするが、昔のヘルミオネはそうは思っていなかった。もはや恒例になってしまっているので、これから先も靴下をプレゼントすることになるだろう。
「……」
「……」
「ニャ…」
ヘルミオネは、ハリーとレグと近所の公園にいた。
空気が重い。発生源はハリーだ。虫酸が走ったような顔が継続中。見るに耐えない。
事の発端は、朝食の席で父がハリーに魔法の学校での授業はどうなんだと聞いたことから始まる。ヘルミオネは帰省日には聞いていたが、父は今まで忙しくてそんな暇がなかった。
ハリーは、ヘルミオネを相手に話した時よりも面白おかしく父に話した。
(ハリー、パパのことめっちゃ好きだからな。)
頬を赤く染めて興奮した表情で一生懸命話すハリーに、ヘルミオネは胸をぽかぽかさせた。
そんな空気が変貌したのは「スネなんとかが酷い先生〜」とか、ハリーが言った時だ。ヘルミオネが、ああ聞くの二度目だしと流し聞きしていた時だ。
それまで一言も発さずに、チマチマとトーストを齧っていた母が喧嘩を吹っかけたのは、突然のことだった。
「ーー今なんて言ったの…あっあーん!?」
と聞いた事のないような声と口調で叫んだ。
本当に驚いた。ヘルミオネはミルクを口から漏らした。
しかし、ハリーはそんな母の様子にも物怖じしていなかった。それどころか、ハリーは反抗の意思を表す。
「ーーいやいや、あいつまじ最低なんすよ」
というようなことを言ってツラツラとその根拠を並べ始めた。
するとどうだろう。ハリーに対抗するように母がドンとテーブルを叩いた。
「ーーセブルス様はぁ!」
母は、狂ったようにスネ改めセブルス様を持ち上げ始めたのだ。
セブルス様とはいったい何者なんだろうとヘルミオネは混乱し始めていたが、食事はあったかい内に食べるべきだと考えて、2人のファイトをBGMに黙々と口を動かした。父もそうしていた。朝から中々刺激的な食事だった。ヘルミオネは、たまにはいいかなとは思った。
口は、母よりもハリーの方が強かった。年中引きこもって、他人と会話などしないような母の勝ち目は薄かったのかもしれない。じわじわと追い詰めるハリーに、母は劣勢になった。母よがんばれ。
そんな劣勢を悟った母は、ついに衝撃の言葉を放ったのだ。いや、きっと勢いだけで、無意識にでた言葉に違いない。
「セブルス様は、お前の母親を愛していた!なのにお前はなによ、呪ってあげましょうか…このガキ!」
ハリーは、ポカンと口を開けて固まった。
母はそんなハリーには気づかず、何かが振り切れてしまったのか、かつてないほど饒舌に話し始めた。母の舌は一生分は動いたんじゃないだろうか。
(すげーびっくり。)
母はそのセブルス様のことを本気で好きだったようだ。ライクではなくラブである。そして今も継続している雰囲気だ。もちろん、母はきっと父のことも愛しているはずだ。そう願う。
母は学校卒業間近で愛を伝えたらしいが、あえなく玉砕。それでも諦め切れなかった母はセブルス様に薬を盛った。
魔法の自白剤を飲ませて、セブルス様の好みを知って頑張って好かれようとしたらしい。猟奇的なことを実行しておいて、目的はなんともピュアなものである。
しかし、そこで母は知ってしまった。正しくは自滅したと言うべきか。
セブルス様が、幼い頃よりハリーの母であるリリーさんのことを心の底から愛していることを、母は愛する人の口から熱く愛を語られたのだ。
母は号泣して、泣く泣く諦めたそうだ。リリーさんのことは物凄く憎くて本気で呪おうかと考えもしたが、結局セブルス様の嫌なことはしたくなかったらしい。
自棄になった母は、何もかもを捨てて放浪の旅に出た。
そして、とあるバーでお酒に沈んでいる時に父と出会い、結果、子を授かった。旅は終わった。了。
言い切った母は、得意げな顔をした。
母が楽しそうなのはヘルミオネも見ていて嬉しかったが、今回ばかりはどんな顔をすればいいのかわからない。
ヘルミオネが複雑な目で見ていると、次第に母の顔色は悪くなっていった。口がアワアワしていた。
そしてキッとハリーを睨み付けたかと思えば、流れるような動きでハリーを肩に担いで、食事もそのままに騒がしく走り去った。ゴトンというドアの音からして地下室に行ったんだと予想する。
「パパ、ハリー大丈夫かな」
「ん?問題ない。何かあれば私が行こう」
「そうか」
父はドン!と盛り上がった胸筋を拳で叩いた。
父が言うならば大丈夫なのだろうと、ヘルミオネは納得した。
それから3時間後、ハリーは疲労困憊な様子で上に上がってきた。
薬品の匂いでいっぱいだからきつかっただろうと、ヘルミオネはハリーを外に誘ったわけだ。
ゆらゆらとハリーと並んで無言でブランコを漕ぐこと5分。ヘルミオネが本気で漕ぎ始めたので、レグは頭から飛び降りて芝生でぐてーんと寛いでいる。
気持ち良さそうだな、そうだ自分もしようとヘルミオネが考え、ブランコから飛び降りようとしたところで、ハリーが口を開いた。
「ヘルミオネ…ヘラさんの言っていたことは今でも信じられないけど…僕、学校に戻ったらスネイプ……先生に聞いてみるよ」
「何を?」
「…あっ、そうだった。これは手紙に書いてなかったんだっけ…。えっとねーー」
ハリーは、手紙には書かれていなかった学校での出来事を話した。
危険な目に遭っていたようだ。レグも近くに来て、興味津々といった様子で聞いている。
さらに問題は、詳しくは教えてくれなかったが(聞きたいとも思わねー)、進行形で危険らしいということだ。
(大丈夫かよ、ホグワーツ 。)
今までハリーはセブルス様が犯人だと疑って、彼の耳に届くことを恐れて誰にも相談しなかったらしいが、母の話を聞いて少し思い直した様子だ。
(何か力になれたらいいんだけど…。)
そう考えたヘルミオネが口にすれば、十分力になっているよってハリーは笑った。ヘルミオネもつられて曖昧に笑った。
年が明けて、休暇終わりにハーマイオニーが家に遊びに来てくれた。彼女はここから家には帰らずにハリーと一緒にホグワーツへと向かう予定だ。
つまり、2日間お泊まりする。いっしょに過ごすことができる。ヘルミオネは内心、飛び跳ねんばかりに興奮している。
「どうしたのハーミー?そんなにニコニコして。わたし、なにかついてる?」
「別にー」
ハーマイオニーは、ハリーの残っていた休暇の課題をみていた。優秀な彼女にとっては、既に終わっているものだが、ハリーは四苦八苦して取り組んでいる。
ヘルミオネは、ただ眺めているだけと言えばそれまでだったが、それだけで楽しかった。昨日会った時も、ハーマイオニーにプレゼントした帽子を被ってくれていて嬉しかった。
明日の夕方にはもう行ってしまうが、それまではみんなでショッピングだ。このまま休暇が終わらないでほしいし、夏の休暇が待ち遠しいとヘルミオネは思った。ホグワーツに行きたい気持ちはあったが、ヘルミオネはまだ決めかねていた。学校に行かなくても自宅で魔法の教育を受けることもできるのだ。
ヘルミオネが思い悩んでいると、不意に視線を感じた。今度はハーマイオニーがこっちを見ていた。手を伸ばしてくる。
「あっ、動かないで。そう……よし、これで。うん可愛い。こっちの方がいいみたい」
ハーマイオニーは、ヘルミオネの額の髪留めをいじっていたようだ。確認できないが、彼女が言うんだからきっとそうなのだろう。
何を言えばいいか分からないヘルミオネは、ありがとうと一言だけお礼を言った。
「またね、ハーミー。行ってきます」
「…」
抱きしめられていた時にあった心地よい温もりは、離れた瞬間、嘘のようになくなってしまった。
(泣きそ…。)
駅のホームで、ヘルミオネは本当に泣きそうになっていた。寂しさから心は荒み、胸は苦しい。これであと半年は会えないのだ。ハーマイオニーがあと何か一言でも言えば、ヘルミオネの涙腺は即決壊するレベルまできている。
特徴的な赤毛の双子の少年たちに引っ張られ、一足先に別れたハリーに続いて、彼女の姿が列車の中へと消えていく。
(……いいよなぁ、少しだけだ。)
ヘルミオネは、胸元にそっと手をやる。
『ーーー』
"カチ"
機械的な音、それとは別のもう一つの音がヘルミオネの耳だけに届いた。
"カチ""カチ""カチ""カチ""カチ""カチ""カチ""カチ""カチ""カチ"
(ふふふふ。ふふ。)
「ーーあれ?」
「どうしたハーミー?」
「ううん…?わたし、すっごく寂しいわ。またね、ハーミー。行ってきます」
「ああ、手紙待ってるよ」