2月1日11:54
イルネティア王国港湾都市ドイバ郊外
「でかいな・・・」
港湾都市ドイバの警邏兵が呟く。視線の先にあるのは先日オーギ達が遭遇した巨大な飛行物体だ。
一隻だけ旗艦と思わしき飛行甲板を載せた大きな艦が郊外に着地しており、その他の船はドイバ沖上空で制止している。着地した飛空船の周囲には船から出てきた小銃装備の歩兵部隊に大きな牙が生えた虎――――サーベルタイガーが随伴し、その周辺に巨大な一つ目のゴーレムの様なものが
数体程配置されておりそれをショウゴ伯爵軍とドイバから派遣された部隊が包囲していた。
「あのゴーレム見たいな奴、持ってるのって銃じゃないか?」
「あれだけでかいと砲だな」
彼らの視線には巨大な一つ目のゴーレムの様なものがあった。
配置されているものは二種類存在し、一種類目のゴーレムは色は灰色で全体的にやや細身な印象を受ける。頭部は兜――地球人が見れば第一次世界大戦頃のフリッツヘルメットを被ったような形状をしている。目は顔の中央部分に着いており、赤色をしている。警戒しているためかキョロキョロと視線を傾かせている。
もう二種類目は色と頭の形状と目の位置は同じものの、頭から下は一種類目と比べややマッシブな印象を受け、所々に太い管かパイプのようなものが胴体と四肢を繋いでいる。
どちらも腰に斧を吊り下げており、銃のようなものを携行している。
「何とも不気味な連中だ。」
警邏兵の一人はそう呟きながら、飛空船で警戒するゴーレム擬きを見つめた。
○●
陣地では部隊の指揮官であるショウゴ伯爵の他に、交渉に備えイルネティアの外交トップであるビーリー候を団長とした臨時の交渉チームが陣地で待機していた。
ショウゴ伯爵は陣地である報告を聞いていた。
「つまり、彼らは元から交渉を目的としており、遭遇したフリゲートが飛竜隊に要請して、
ドイバに誘導させたと言うことだが、言語は通じない相手にどうやって目的を聞いたのだ?」
「それが、大陸共通語が通じたらしいのです」
「大陸共通語が通じた?」
「はい」
ショウゴ伯爵は首を傾げた。先日聞いた話では大陸共通語が通じない未知の相手と聞いていた。
しかし、今回飛空船に遭遇したフリゲートや誘導に当たった竜騎士からは多少訛りが有るものの
大陸共通語を話していたというのだ。
「最初の報告では未知の言語をしゃべっていたと聞くが?」
「はい。しかし、最新の報告では訛りはあるものの確かに大陸共通語を喋っていたと」
この報告にビーリーは言語が通じることに安心した。
言葉が通じない事で戦争になる事がなくなったからだ。
「何にせよ、出てくるのを待つしかありません。」
視線を着地している飛空船に向けてビーリー候は呟いた。
暫くして陣地内に伝令が入ってきた。
「報告します。12:00に使者を下船させるので攻撃をしないでほしいとのことです」
「了解した。全部隊に攻撃を受けたときの反撃のみ許可。それ以外での攻撃は禁止。
各部隊に伝えろ」
「反撃以外の攻撃は禁止。了解しました。」
ショウゴの命令を聞いた伝令が陣地内から出ていく。ビーリー候は自分たちの部下を連れて
会談場所になる天幕へ移動した。
暫くして飛空船が動きを見せた。
飛空船の方から恐らく外交関係者であろう人物らが降りてきて、護衛人員とサーベルタイガーを
伴いこちらに向かってくる。
警護の兵が接触し、二、三言話した後に警護の案内のもと天幕にたどり着いた。
●○
天幕にやって来た彼らは警護の兵の案内のもと、ビーリー候達と接触した。
「初めマシテ。ワッタシはエクリプセ皇国空軍第三艦隊旗艦、
ナーゲルリング艦長のフローベルガー、彼は外交官のイルクナーデス。ワッタシは彼の通訳としてマイリマシタ」
「これはご丁寧に。私はイルネティア王国外交の長、ビーリーです」
エクリプセ皇国第三艦隊のナーゲルリング艦長フローベルガーという人物は訛りが有るものの
確かに共通語を喋っていた。
互いに自己紹介をした後、早速ビーリーが切り出した。
「さて、早速ですが我が国に来た目的を教えていただきたい」
「ワッカリマシタ。ワッレワッレは当初はチョウサの為に周辺に艦隊を派遣チュウにアナタガタのワイバーンを発見し、コチラに来マシタ」
「調査?」
ビーリー達が訝しむ。新たな領土の獲得のために来たと推測し、
その後の展開が予想できたからだ。
しかし、イルクナーの言葉を通訳したフローベルガーは彼の推測とは別の事を言った
「ワッガ国とその周辺国とトツゼンレンラクがトレナクナッターのです。
そのタメに艦隊を派遣シマシタ」
「ここに来たのは全くの偶然と?」
「そうデス」
フローベルガーの言葉にビーリーは、訝しむ様子を隠さずに言った。
「近くの国への方向を間違えるとは思いませんが・・・」
「はい。当初はワッレワッレも機材の故障や乗員のミスを疑いマシタ。
シカシ、根本的な部分で間違えたのデス」
一呼吸しててフローベルガーは信じられないことを言った。
「周辺国が音信不通になったのデハナク、ワッが国が消えたのデス。母なる惑星「ゾラ」カラ」
一瞬ビーリーは虚を突かれたかのように無言になった。
「それはいくらなんでも・・・おとぎ話ではないんですよ」
フローベルガーがビーリーの言葉をイルクナーに通訳し、イルクナーは苦笑しながら
フローベルガーに何かを告げて、次に自分の部下にも何かを告げた。
「シンジラレナイのもムリないです。タダ、証拠は持っていマス」
そう言いながらフローベルガーがイルクナーの部下に視線を向けた。向けられたイルクナーの部下の一人がカバンから写真を二枚取り出し、机に置いた。
「これは?」
「ゾラの月とこの世界の月デス」
夜空を写した写真には一枚目には見慣れている月。二枚目には見たこともない青と黄色の月が
二つ写ってる。
「ワッレワッレの世界であるゾラには月がヨッツあり夜には青と黄色の月が、ヒルマには赤と緑の月が見えるはずナノデス。シカシ、イマハ夜に二つの月がミエルダケデ、しかも転移前は
満月だったのに転移後はミカヅキになってマシタ。この事から我が国は元の世界から何らかの原因で転移したと考えマシタ」
ビーリーらイルネティア王国の人々は写真を見ながらフローベルガーの話を聞いた。
「この情報によりワッレワッレは調査任務に国家の発見と国交の締結をクワエ、
この国にヤッテキマシタ」
イルクナーの話を聞き終えたビーリーは考え込んだ。
転移とは馬鹿馬鹿しいが、外交の場でこのような事を言うのはあり得ない。
そもそもここまで文明が発展していたら、とっくにイルネティア王国と接しているはずだ。
「国交を締結すると言いましたが、あなた方が要求するのは何ですか?」
「さしあたっては貿易デス。元の世界で我が国は工業製品と鉱物資源をユシュツシテオリ、食料は海外からユニュウシテイマシタ。イルネティア王国とも同じような貿易を行いたいのデス」
「具体的に食料はどれ程の量を?」
フローベルガーがイルクナーに視線を向けた。イルクナーは首を横に振った。
「イマハお答えする事はデキマセン。ただ、我が国カラは工業製品と
フネを守っている巨人を輸出するヨウイガアリマス」
流石に弱味になる情報は教えないらしい。イルクナーの外交手腕に感心したが、
同時に聞いたことのない単語に首を傾げた
「マギッシュアーバイター?」
「ワガクニガ三十八年前にゴーレムの後継として開発した作業用魔法機械デス。
工事現場や採掘等はモチロン、今ご覧にナッテイルヨウニ武装を施し軍の任務に着かせることも
カノウデス」
ビーリーは天幕の外で見たマギッシュアーバイターを思い出す。
「・・・私の判断では国交の締結については回答できません。ですが周辺国やその情勢であれば
お話は可能です」
「ワカリマシタ。イルネティア王国の周辺の情報だけでもキチョウデス。オネガイシマス」
「はい。我が国周辺の国々は――――」
ビーリーはイルクナー達に第二文明圏の情報を伝えた。
○●
16:45
イルネティア王国北西80km
エクリプセ皇国空軍第三艦隊旗艦
エッケザックス級飛行母艦二番艦ナーゲルリング
艦内、会議室
空を飛ぶ艦隊――国を求めてエクリプセ皇国から出港したエクリプセ皇国空軍第三艦隊の
旗艦であるナーゲルリングの会議室で外交官と艦隊司令官デュンバルトや
艦長のフローベルガーら武官が集まっていた。
「やれやれ。取り敢えず我が国のみ存在ということは無くなったが・・・」
机の上に載っているイルネティア王国との会談内容を纏めた資料を見ながら武官がぼやいた。
「ええ。前大戦が終わって六年。復興が終わってないのにこんな事になるなんて・・・」
それに同意するかのように外交官の一人が資料を整理しながらぼやいた。
前大戦――新聖歴914年。突如ゾラに宇宙人が襲撃を仕掛けた。
蛙に似た人間と灰色の不気味な巨人を主力に、巨大な怪獣や無数の無人戦闘機械。
更には巨大な宇宙船が襲来。
列強の本国が存在するローマジア大陸東部地域――アクシスやアクシスから東にある新大陸の
合衆国首都コロンブスC.C。人類発祥の大陸と言われるサピエンス大陸北西部
に存在するナイル王国。
更にはローマジア大陸極西の央華帝国各地に存在する列強租界に押し寄せた。
宇宙人はその占領地をアクシスの大半、合衆国西海岸の大半、央華帝国全域
サピエンス大陸北西部とアラブ半島東部まで支配地を拡大した。
人々はこの宇宙人にインベーダーと名付け、戦線をアクシス戦線、新大陸戦線、央華戦線
サピエンス戦線の四つに分け各地で抵抗を行った。
アクシス戦線ではアクシスに近いアルビオン大陸のブリタニア連合王国と
アルビオン大陸とローマジア大陸の狭間にあるエクリプセ皇国を抵抗の拠点として戦い抜いた。
八年続いた戦争は、最終的にインベーダーの旗艦が撃沈されたことでインベーダーがゾラから
撤退したことで連合軍の勝利に幕を閉じた。
そして終戦から六年の新聖歴928年。復興の終わらないままエクリプセ皇国は異世界に転移した。
「そんな事言っても仕方ない。我々が得た情報を伝えるぞ。イルクナー殿、お願いします」
艦長のフローベルガーが彼らを諌め悲観的な空気を断ち切るように言った。
「まずイルネティア王国周辺の文明水準。次に周辺国の情報となりますが・・・」
イルクナーはチラリと時計を見やった。
「もうすぐ夕飯の時間なので取りあえずはイルネティア王国を通して見たこの世界の技術と周辺国の情報のさわりだけ教えます」
会議室の人間の視線がイルクナーに集中した。
「彼らの文明水準は我々から見て一世紀以上前の水準ですが、一部は同年代のゾラの文明を
凌いでる部分もあります。
イルネティア王国では音声形式の魔信とゾラとは戦闘方法が異なる
ワイバーンの存在を確認しました」
「音声魔信をあの文明で実現しているのか。どんな技術進化をしたらそうなるんだ」
デュンバルトが驚きながら言った。他のイルネティアと接触していない人間も驚きの表情を
浮かべている。
ゾラの通信機器は電気通信と魔信の二つがある。
この内魔信の方は百二十年ほど前の新聖歴808年に開発されたが、この魔信は魔法使いが
所謂モールス信号のような形式で通信を行っていた。音声形式のものは新聖歴860年に
電話のような形で開発。これも当時は魔法使いにしか使えず、魔法使い以外に普及し始めたのは
新聖歴900年頃からだ。
軍用では新聖歴910年に普及し始めた。
現在では魔法使いのみ、携行可能な無線機タイプ――腰に装着する本体と有線で繋がる30cm程度の受話器で構成される魔信を運用出来るものの、非魔法使いは固定魔信機のみ
使用可能となっている。
一方の電気通信は電信機開発が新聖歴828年。電話機は新聖歴875年と開発自体は遅いものの、
非魔法使いでも運用出来る事と整備維持が魔信より楽な事から、民間や軍への普及はかなり速く、大戦前には一家に一台は固定電話は存在しており、軍用では艦艇や基地には備えられており、
携行無線機も歩兵が背負う形で存在している。
このようにゾラの通信事情より異世界の通信事情は進んでおり
デュンバルトが驚くのも無理はない。
「ゾラのワイバーンと戦闘方法が違う、というのは・・・」
飛竜隊の指揮官が尋ねた。
ゾラのワイバーンはエアカッターによる近接戦術が基本で遠距離では騎手が装備する武器
或いは行使する魔法で行う。
「彼らの・・・というよりはこの世界のワイバーンは火炎魔法と呼ばれる方法で火球を生成して
攻撃するようです。」
「エアカッターじゃないのですか? 射程が段違いだ」
イルクナーの解説に飛竜隊指揮官が呻いた。
「はい。また、速度は時速235km出すそうです」
「我々のワイバーンが93ktだから」
「127kt。約1.4倍ですね」
「我々の追撃機より速い」
第三艦隊航空隊の司令官が内心の焦りを隠すように言った。
「ただ、歩兵、馬、ワイバーンに
イルクナーの言葉に飛竜隊の司令官が以外そうな声をあげた。
「強化鎧はゾラでかなり普及しているんだが・・・」
MVH――――正式名称は
地球でいうところのパワードスーツだ。普及したのは最近であったものの原型は魔信よりも古い。
オーギ達が最初に遭遇した少女達もこれを装着して空を飛んでいた。
他にも陸戦部隊や騎馬、ワイバーンの物も存在する。運用には魔力が必要で魔法使いや竜
ユニコーン等の魔力を持った生物しか使えないもののゾラではありふれた装備と言える。
ワイバーンが装備した場合、速力と魔法出力の向上やエアカッターから派生した機動補助による
高機動化の恩恵を受ける。
「マスケットや戦列艦がある時点で一世紀前と思っていたのだが・・・流石異世界だな。我々とはひと味違う」
デュンバルトは異世界の技術に感心している。
イルクナーはそこで説明を終えた。
「これはイルネティア王国のみの情報です。イルネティア王国は全部で三つ存在する文明圏の
一つ、第二文明圏と呼ばれる場所に存在しており、国力は高くなく文明圏外国という
分類で分けられ外交的な地位はそれほど高くはないそうです」
「つまり、他の国はこれよりすごいと言うことでしょうか」
「そうです」
イルクナーは頭の中でビーリーから聞き出した第二文明圏の国々が浮かばせながらデュンバルトの言葉を肯定する。
「私としてはイルネティア王国だけでなく他の国に積極的に国交を開くべきと考えています。
イルネティア王国に仲介を頼むのも視野にいれています」
「そうでしょうな。流石にイルネティア王国だけで食糧問題が解決するとは思えません」
デュンバルトがイルクナーに同意した。
「まずは帰還し、本国に報告して指示を仰ぎます。恐らく第三艦隊は
当面、我々外交官を送り届ける役目になりますね」
「でしょうな。一部優れていたとはいえ、全体的にはまだまだゾラより遅れています。護衛なしでは無理でしょう」
「いささか気が早いですが、よろしくお願いします」
この後、本国に帰還した第三艦隊はイルクナーの予想通り、外交官を送り届ける使節として、
第二文明圏中を駆け回る事になる。
今更ながら、詰め込みすぎました。
もう一話使うべきだったかorz。
一応これでオリジナル国家は登場しません。
次からは異世界での外交やらになります。
因みにサブタイトルの元ネタ
魔力なき侵犯機
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