提督が『絶対魔獣戦線バビロニア』鎮守府に着任しました!   作:乃伊

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昔書いていたものです。
とりあえず書き上がってる分だけ平成のうちに投稿しておこうかなって……。



A.D. 1992-1993

B.C.2655 プロローグ

 

 

 ──海は遥かに。我らの勝利は、暁の水平線にこそ刻まれる。

 

 

 『提督』の纏う白い制服の裾が、潮風に揺れた。

 見下ろす眼下に広がる海は、青く、青く。けれど、水平線に近づくほどにその色合いを濁った暗い色へと変えていく。

 

 決戦の時は近い。

 

 『提督』を主と慕う部下たちは、既にこの地へ築かれた『鎮守府』を離れ、作戦開始の瞬間を待っている。すなわち、『提督』の口から号令が発せられるそのときを。

 

 しかしその誰一人とて、彼が心の内に秘めた困惑を知ることはない。

 

 (……どうしてこうなった?)

 

 『提督』の見つめる先で暗い水面が泡立ち、黒々とした異形が現れる。

 

 それはまさしく『提督』の敵。人類の敵。『深海棲艦』と称される、人理を喰らう泥人形。

 

 『提督』は腹の底から声を張り上げる。

 号令一下、人類を庇護する守護者たちが、各々の手に武器を構えた。

 

「qkde!」「qkde!」「qkde!」「qkde!」「qkde!」「qkde!」「qkde!」「qkde!」

 

 『深海棲艦』が、口を揃えて嗤い声を上げた──

 

 

 

>> [ 1/2 ] A.D.1993 Teitoku/Zero(1)

 

 

 俺は不用意に「眼」を使いすぎたらしい。

 

 どういう経緯かは知らないが、俺が何の気なしに呟いた「とある情報」が外に漏れ、ご近所界隈をシメる頂点(トップ)すなわちガキ大将にまで伝わってしまった。そして不幸なことに、その情報はガキ大将のプライドを傷つけるには十分すぎるものだった。奴はもう、引くに引けないところまでそのネタへ首を突っ込んでいたからだ。

 

 その日、俺はガキ大将からの命令で近所の公園に呼び出された。

 

 俺から話を聞きたいというのは建前で、俺自身の口から例の情報を否定させようというのだろう。

 

 まったく。どこのどいつが漏らしやがった。あれほど内緒だって言っておいたのに……。

 

 

「テメェか。ガセを言いふらしてる張本人ってのはヨォ」

 

 すべり台に併設された砂場のそばで、俺(4歳)はガキ大将および数人の取り巻きたちに囲まれた。

 公園の入口あたりでは、ついてきてくれた俺の兄や姉たちが心配そうにこちらを見ている。まだ2月だ。こんな寒い中で立ち尽くしてたら風邪なんか引かないだろうか。俺は、みんなを安心させるようにヘラヘラと笑いかけた。ガキ大将はキレた。

 

「アァン!? テメェ舐めてっとマジでシバくぞ!? マジで……オイ!」

 

「……ガセじゃない」

 

 ガキ大将に視線を戻して、努めて冷静に言い返す。ガキ大将はやや怯んだように見えた。おそらく、俺がこれまで「眼」を使ってやってきたことを一部なりとも知っているのだろう。ならばこそ、俺は決して軽視できぬ情報源であるはずだった。

 

 俺は断言する。処刑人がギロチンの刃を落とすような残酷さとともに。

 

「ガセじゃないんだ。本当に……」

 

「ッ……!」

 

「本当に、『エスタークはどれだけ早いターンで倒しても仲間にはならない』んだよ!」

 

 ドサリ、と音を立ててガキ大将が膝から崩れ落ちた。

 その目は虚ろだ。取り巻き達が慌てて駆け寄る。

 

「嘘、嘘だ……。オレは……。じゃあ、オレの努力は、一体……」

 

「卒業。もう何周もしてるんでしょ? ビアンカともフローラとも結婚した? もう、いいじゃんか。クリスマスプレゼントにファイナルファンタジーV(※1992年冬発売・スクウェア)貰ったって言ってただろ。そっちをさっさと進めてやりなって」

 

「ウウウ……オレ、オレは……何周したってビアンカを裏切ったりしねぇ……。ビアンカぁ……」

 

 うずくまり、嗚咽するガキ大将を、俺は哀しげな目で見下ろした。

 ドラクエ5(※1992年秋発売・エニックス)において巡り合うことになる二人の結婚相手候補。彼のように、その一人(ビアンカ)だけに操を尽くすというなら……やりこみ要素は、徐々に減っていく。既に彼は、仲間モンスターも全て加入させていたはずだ。

 JRPG。それは、いずれ避けようのない終わりが来るゲーム……。あるいはヒトの命にも似て。

 

 ゲーマーの悲哀に耐えられず踵を返した俺に、取り巻きの一人が話しかけてきた。俺にガキ大将からの命令を運んできたやつだ。自然、俺の目は険しくならざるをえない。

 

「オ、オイ、【目利き】ぃ……! わざわざ悪かったな。で、ちょっといいか!? オレの友達が今度買うゲームについて悩んでるみたいでさぁ……。相談に乗ってやってくれねーか」

 

「……いいけど」

 

 【目利き】は俺のアダ名の一つだ。勝手にそう呼ぶ奴らがいる。そして大抵、連中が俺をそう呼ぶのは、俺の「眼」の情報を求めているときだと相場が決まっていた。

 

 「眼」……すなわち、鑑定眼だ。そういうことになっている。【目利き】の俺は、見えないはずのものが見えている。知らないはずのことを知っている。モノの善し悪しがわかる……。まあ、実際のところは半分本当で、半分ウソだ。事実として俺の「予言」は大方当たるとみんなに認識されてるが、それは俺の知覚能力が凄いからではない。

 

 ともあれ、俺の承諾を聞いた取り巻き少年が、その友達とやらを呼びつけた。

 

「よォし! おい、『士郎』! こっち来いよ!」

 

「!?」

 

 その名前に密かに驚く俺の元へと、少し離れたところで様子を見ていたらしい赤毛の少年がやって来た。

 

 ……ああ。なんてことだ。彼は……紛れもなく。

 

「おう士郎! こいつが【目利き】だ。こいつが勧めるゲームには絶対ハズレ無しだぜ!」

 

「……ああ、そうなのか。ごめん、うちの()()がゲームを買ってくれるっていうんだけど、よく分からなくて。何かお勧めを教えてくれないかな」

 

 士郎少年はやや困ったように苦笑して言い、俺は再び内心の驚きを強めた。小学校……1年生か2年生くらいだろうか。家族仲は悪くないらしい。

 だが、彼に何のソフトを勧めれば良いものか? 俺は少しだけ迷う。パッと思いついたものが一つある。だが、ゲーム体験は人生に大きな影響を与えることがある。軽率に作品を勧めることは、彼の将来に大きな影響を及ぼす可能性があるかもしれない。そもそも親御さんがどう思うか……。

 

 ……いや、いいのか。目の前の赤毛の男の子は、()()()()()()()、物語の登場人物でも英雄譚じみた正義の味方でもない。俺と同じ街に暮らす、ひとつふたつ年上な先輩オニーサンなのだ。子供同士でゲームを勧め合うのに、何を臆することがあるだろう? 俺は答えた。

 

「……『超魔界村(※1991年秋発売・カプコン)』だ」

 

「えぇー、アレ!? クソむずいって聞いたんだけど? な、もっと楽しいのにしようぜ!」

 

「やって損はないと思うよ。たぶん。俺がお勧めするのは、とりあえずそれ」

 

「わかった、ありがとう」

 

「マジかよ士郎!?」

 

 即座に頷く士郎少年に、不満げな様子の取り巻き少年。こいつ、俺が勧めたソフトを自分も買おうとしてたな……? まあ、好きにするがいいさ。俺は再び背を向けた。『真・女神転生(※1992年秋発売・アトラス)』を勧めなかっただけ感謝してほしい。そういう内心もあったが、何より。

 

 俺にとって現時点での士郎少年は「ただの同じ街に暮らす男の子」にすぎない。だが、今はあまり長く一緒に居たくなかった。心の整理が必要だった。

 

「じゃ、俺帰るよ」

 

「あ、ああ! 助かったぜ! 今度なんかソフト持ってくから、一緒に遊ぼうぜ! な!?」

 

「楽しみにしてる。またね」

 

 俺は、入口で待つ兄姉の元へと歩いて行く。『教会』に帰ったらおやつの時間だろうか。神父様は俺たちを待つだろうから、残っている弟や妹たちは待ちくたびれて怒っているかも知れなかった。あとで一緒に遊んでご機嫌取りをしようと思う。

 

 心配していた兄姉に事情を説明しつつ、公園から『教会』へと続く坂道を賑やかに登っていく。俺たちの家は、『教会』に隣接して建てられた附属の孤児院だ。言峰教会孤児院。神父様の名前を取って、そう呼ばれている。

 言峰。珍しい姓だと思うだろう。俺の「眼」にも、そんな姓には一つしか心当たりがなかった。

 

 

 ……「眼」。

 鑑定眼なんてのは、大嘘だ。俺の眼にはモノの良し悪しなんて見えやしない。ただ、最初から知っていただけなのだ。

 かつて巷で話題になった『裏技』の真実を。

 良作名作と評価されることになるゲームソフトのタイトルを。

 街の教会を預かる、変わった苗字の神父親子のことを。

 そして……()()フルネームを知らない赤毛の少年の下の名前と、その顔を。

 

 俺は転生者だ。

 教会の前に置き去りにされていたらしい俺は生前の記憶を持って目覚め、そのままこの『冬木市』で育てられてきた。

 現在、西暦1993年。いずれこの街は惨禍に呑まれるだろう。

 俺も一度は逃げ出した。けれど、逃げ切れなかった。

 

 俺は抗おうと思う。気づけば、逃げるという選択肢はいつの間にか無くなっていた。

 俺はこの世界で得た兄にも姉にも弟にも妹にも笑っていてほしいし、親代わりの神父様たちにも思うところはあれど育ての恩くらいは返したい。なんなら、あのガキ大将がドラクエ5のリメイクでデボラを目にした時の反応も見てみたくはあった。

 

 ……そうだ。少なくとも俺は、この世界をこれから襲う魔術やら神秘やら、そんな訳のわからないもののために死んでやる気だけは、更々無いんだから。

 

 

 

 

>> [ 2/2 ] A.D.1992 その1年前の話。彼がピュアだった頃。あるいはイントロ第二節。

 

 

 やあ!

 俺の名前は堤 督太郎(つつみ とくたろう)、3歳だ! みんなからは親しみを込めて提督くんと呼ばれているぜ。

 

 さて、突然の質問で申し訳ないが──もし死後に物語の世界へ転生するとしたら、どんな世界に転生したいだろうか? あるいはどんな世界にだけは転生したくない?

 

 色々答えはあると思う。だけど、多くの人は「不可避の死や惨劇」が待っている世界に転生したいとはあまり思わないはずだ。誰だって死にたくはないだろうからな。俺だってそうだ。だから、何の因果か『冬木市』なんて街に生まれちまったこの俺は、何とか生き残ろうと日々足掻いているのだが……。

 

 

 冬木市。

 TYPE-MOONによるFateシリーズの舞台の一つだ。科学全盛の時代の影で古の魔術がうごめく街。英霊召喚儀式と、それに連なるバトルロワイヤル儀式『聖杯戦争』が行われる土地でもある。

 

 そんな世界に俺が転生したのが、西暦1988年のことだ。

 最初はね、赤ん坊なのに前世の記憶と自我を引き継いでいた俺は「強くてニューゲーム!」って喜んでたよ。親も分からない孤児院育ちだったけど、院長をやってた隣の教会の神父さんが良い人でさ。前世で無宗教だった俺も、いまや転生なんて神様的な奇跡を体験しているわけで、教会の信仰に目覚めかけたりもした。……『神父さん』のフルネームを知るまでは、の話だが。

 

 

 

 ……言峰神父じゃねーか!!!!!

 

 ここ言峰教会だ!! 神父さんの本名『言峰璃正』って、あの外道神父のパッパだよお前!!!

 

 

 やべぇよ……やべぇよ……。

 

 何がヤバイって、このFate世界の冬木市、このまま行けば1990年台のどっかで第四次聖杯戦争が起きて街が火の海になるってこと。Fate最初の主人公・衛宮士郎が家族を失うことになった大火災だ。燃えるのはごく一部の地域らしいけど、詳細とか覚えてないからマジで危険が危ない感じ。

 

 加えてその後、大火災で家族を失った孤児たちはこの言峰教会の孤児院に集められるんだが…………そいつら、そのうち英雄王(ギルガメッシュ)の餌にされる。たぶん孤児院にいる限り回避不能。自称魔法使いの切嗣(ケリィ)おじちゃんに引き取ってもらえなかったやつはみんな死ぬ。このままだと俺も死ぬ。

 

 えぇ……。いきなりハードモード過ぎるでしょ……。

 俺まだ3歳だよ? 魔術とか全く知らないし身体能力だって年齢相応、保護者の都合で流されるしかないお年頃。チートとか無い。そりゃあ転生はしたけど、神様に会ったり土下座されたりした記憶なんて無いし、やっぱ神様とかいないわ。信仰の加護って精神汚染のことでしょ? 俺は詳しいんだ。

 

 残された僅かな希望として「死にかけたら秘められた能力が解放されて俺Tueee」ルートも妄想してみたが、どう考えても封印指定からのホルマリン漬けコースだった。世界(アラヤ)が俺にもう諦めろって囁いてる。俺は何も悪くない。この世全ての悪が悪い。

 そうだ、まだやれることは残っている。――生存ルートを模索するのはいいが、別に大聖杯を破壊してしまっても構わんのだろう? 

 

 俺は、生き残るために大聖杯(ユスティーツァ)を殺す覚悟をキメた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……結論、無理でした。こっそり柳洞寺に偵察に行ってみたところ、参道の階段を脇に外れてすぐに璃正神父が現れて俺を「保護」した。なんか魔術的な結界とか張ってあるんだと思う。霊脈が走ってるみたいな設定あったし。うわあ、万事休すだ。

 

 こうなったらもう逃げるしかねぇ。

 三十六計逃げるに如かずってあの孔明も言ってた気がするし。孔明だっけ? まあ何でも良いか。

 

 

 ……それから数ヶ月後。市内のガス会社がガス漏れ事故を起こしたのを切っ掛けに、俺は

 

 『こんな あぶないまちに いられるか! おれは いえに かえらせてもらう!』

 

 そう置き手紙を残して家出した。俺たちの人生はこれからだ。




 なお、一年後も冬木市に残っている模様。
 今後は、前半の低テンションと後半の高テンションの中間くらいのノリで進む予定です。基本ネタ小説です。よろしくお願いします。
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