提督が『絶対魔獣戦線バビロニア』鎮守府に着任しました! 作:乃伊
> [ 1/1 ] A.D.2001 Teitoku/Zero(2)
2001年。小学6年生イコール12歳になった俺こと堤 督太郎は、まだ冬木市にいた。
……第四次聖杯戦争は結局起こらなかった。ガス会社のガス漏れ事故は一度きりで終わり、今では事故の反省を踏まえてPDCAサイクルを日々全力でグルグル回している。今日もゼロ災で行こうヨシ! って感じのホワイト企業なのである。
***
──回想を語ろう。言い換えるならば、これまでのあらすじを。
どこまで話したんだったかな。そう、色々あって、幼い転生者こと俺が言峰ハウスから家出という名の緊急避難をキメることにしたところ……までだったか。
さて、それからの話だ。と言っても、話すことは大して多くない。
あの日バスに乗って街を出たは良いものの、ほんの一日でお小遣いを全て使い尽くしてしまった俺は、迷子として保護され、警察から教会に再び送り返されていた。教会の兄弟姉妹は、ひとり勝手に逃げ出した俺なんかのことを心から心配してくれていた。あまつさえ、会わす顔もないような心持ちで帰ってきた俺を抱きしめて、涙を流してくれた……。
俺は深く深く反省し、心を改めた。俺一人だけが助かるんじゃなく、皆が助かる道を探そうと思ったのである。
それからの俺は、多少なりとも社交的になった。最後の記憶こそないが、前世で一度、ひと通りの人生は送っているはずなのだ。この冬木という街で生きる人生が何となく想像できた。
孤児院で一緒に暮らす兄弟姉妹たち(※血のつながりはない)ともだいぶ仲良くなった。みんな良いやつだったが、なぜか総じてゲームを選ぶ眼がクソすぎたのであれこれ口を出してみたところ、それを聞きつけた外の子供たちから【目利き】なんてアダ名を頂戴したりもした。
孤児院暮らしの俺たちは元より、一般家庭のお子様にとってもゲームは高いし、買ってもらえるというのはそれだけで奇跡みたいなものである。クソゲーなど引いている余裕はない。
俺は、ときに【目利き】の名の下に転生者特有の良作ソフト情報を近所の子供たちに与え、代わりに彼らがプレイし終えたソフトを貸してもらっては兄弟姉妹でシェアしていた。教会にゲーム機はスーファミひとつしか無かったので、適宜『スーパーボンバーマン(1993年秋発売・ハドソン)』などの購入を兄弟の多い子に促し、ご近所地域内での多人数プレイゲームの普及に努めたりもした。俺たちは皆、必死だった……。
……あれ。なんで俺、ゲームに夢中になってるんだ!?
ある日俺は愕然とした。
どうやら、みんなと遊ぶのが楽しすぎたらしい。冬木に居残る腹を決めるまでは、情を残したくないこともあってクール&無愛想系少年として過ごしていたのだが、突然ハッスルしだした俺に周りの兄弟姉妹は困惑しつつも優しく遊びの仲間に入れてくれたのだ。
そんなこともあってか、結構な期間に渡り「遊ぶ→疲れる→寝る→元気→遊ぶ→疲れる→寝る→元気……」のサイクルが回ってしまっていた。ヤバイ。第四次聖杯戦争案件はどうなってる……?
ある週末のミサの時間、俺はこっそり璃正神父の部屋に忍び込んだ。聖杯戦争が近いなら、何かしらの準備が為されているはずだと思ったからだ。ミサの説教の間、この部屋は無人になる。万が一誰かに見つかっても、今の俺なら子供の悪戯で誤魔化すことができる……できるか? 本当に? 頑張ればなんとかなるだろう。たぶんな。
一応念のため、璃正神父の部屋に続く廊下の曲がり角ごとに見張りを置いていく。気まぐれにみんなへ手旗信号を教えてみたところ、新手の遊びだと思ったのか大変よく覚えてくれたので、たまには役に立ってもらいたい。最後の一人、まだ2歳の妹ミカちゃんを肩車したまま、紳士的に入室。気分はさながら少年名探偵である。
そういえば1993年現在コナンの連載はまだ始まってないけど、怪盗キッドが主人公の作品が先に始まってるんだな。『ほうれんそうマン』と『かいけつゾロリ』的な……天とアカギ的な関係だ。稀によくある。
さて、神父の部屋は一見何の変哲もない普通の部屋だ。だが、俺の知る言峰神父の部屋が何の変哲もないはずはない。
何かおかしなところはあるか? ……「眼」を凝らすと、机の引き出しが怪しい気がした。
机か。
ミカちゃんを床におろした俺は、机に近寄って引き出しに手を掛ける。軽く力を入れてみると、僅かに動く感覚の後すぐに止まった。鍵で引っかかった感じではない。……俺は、机の下から引き出しを覗き込む。淡く光る細い紐のようなものが、引き出しと机本体を結びつけていた。
自発的に発光するそれの正体は分からないが、まあ、まず魔術的なブツだろう。固定するための紐じゃない、あえて切れやすくしているような印象を覚える。
(これは開けられないか……)
開けたら最後、この紐が切れて警報みたいなものが紐を仕掛た術者のところに行くのではないだろうか。Fateシリーズに登場する衛宮邸には、鳴子を模した侵入者検知システムがあったはずだ。だが、こんなものがあるという事自体が一つの収穫ではある。何かを秘匿しているということだ。
俺は机の下から這い出て、壁際の書棚の前に移動する。いかにも高級そうな装丁を施された本、本、本。別の棚には厚紙のファイルに綴じられた紙束。これは書類か?
開いてみると、それはミサのお知らせや結婚式場案内といったチラシの類だった。他のファイルも開いてみる。だいたい同じようなものだ。どうやら璃正神父は、チラシのファイリング癖があるらしい。『マウント深山商店街』のチラシに『新都』の企業パンフレット、市役所が出してる街の地図や市政報告に、『穂群原学園』の入学案内、小中学校の学校だより……。
……いや、おかしい。
こんなものを教会が一々持っている必要なんて無い。趣味の蒐集にしては雑すぎる。とりあえず色々集めてみた、以上の意味を見いだせないコレクションだ。一体何のために……?
ペラペラとめくっていく。途中に一枚、間仕切りのような厚紙が挟まっていた。そしてその後ろ、区分けされた先にあったのは……ガス会社からの、ガス管工事のお知らせだった。
……。ゾッと背筋に悪寒が走り、俺は震えた。
「にぃー!」
大人しくしてくれていたミカちゃんが、突然揺れたお馬さんこと俺に向かって抗議の意思をあらわにする。小さな両手で俺の頭をバンバンと叩きだす。ごめん、ごめんって。俺は謝りながら、ファイルを元の位置に戻した。
これ以上騒がしくすると気づかれかねない。俺は再び、部屋を紳士的に退出した……。
その夜、俺は布団にくるまれながら考えていた。両脇からは兄弟の寝息が聞こえてくる。
ガス管工事のお知らせ。おそらく、工事区域周辺に配ったビラなのだろう。それが、選り分けられていたのは……。
(カバーストーリー、か)
『Fate』において、教会は聖杯戦争に関するあれこれを世間の目から秘匿するための工作を行っていた。ガス漏れは、その中でも特に大規模な被害を出した事件の隠蔽に使われたカバーストーリーである。おそらく、ああして使えそうなネタを常に準備しているのだろう。
……正直、ショックだったことは否めない。
冬木市。言峰教会。士郎。そういうアレコレを経て、ここが『Fate』世界だと確信していてなお、俺は言峰璃正・綺礼親子が悪人だとは思えなかったのだ。その印象が『原作』で語られた裏の顔を隠すためのガワであるなら、それは間違いなく完璧に近いと言わざるをえなかった。
だからこそ……今日見つけたガス会社の広告が、彼らが『原作』通りの人物なのかもしれないと思わせたことが、俺を打ちのめしていた。
俺は……どうすればいい?
転生。人生。英霊。救世。この世全ての悪……。
そういうことについて俺は思いを巡らせようとして、3秒後に眠りに落ちた。
寝る子は育つ。スヤァ。
*****
言峰教会の人々が善人であるのか。それとも、俺の「眼」が知るとおりの悪人なのか。
いずれにしても、俺にはもう逃げるという選択肢はなかった。
ここはもう『Fate世界』ではなく『俺の生きる世界』であり、兄弟姉妹はもとより、きっと言峰親子に災いが降り掛かったとしても、それに対して心を傷めずにはいられなかっただろうからだ。
それでも、璃正神父の部屋を訪れたあの日からしばらくは、本当に生きた心地もせぬまま暮らしていたのを覚えている。力無き者は力有る者に虐げられるのが世の定めだ。弱肉強食。マネーイズパワー。課金は圧政。畜生、俺に金さえあれば……!
嘆いていても仕方ないので、俺は璃正神父に八極拳の手ほどきをお願いすることにした。金が足りないなら筋肉で補うまでだと思ったのだ。小さい子どもにカンフーねだられて喜んじゃう璃正神父、マジ功夫。
そうして、ジゴクのような鍛錬の日々が幕を開けた────ジャッキー・チェンの映画、俺もう涙なしには見れないわ。つらい。あいつら人間の可能性探求しすぎ。新人類かお前は……あっやめてください師父痛い痛い痛い無理です人間の体はそんな風に動かないからァ!
ときどきは師父(八極拳の弟子入りして以降、俺は璃正神父をそう呼んでいる)の息子の綺礼ボーイが、教会の代行者として世界中を飛び回る合間を縫って冬木を訪れ、ついでに弟弟子にあたる俺をしごいていった。
*****
……まあ、そんな感じで色々ありつつも辛うじて平穏な9年が過ぎ──西暦2001年に至るわけだが。12歳になった俺を襲う理不尽なあれやこれやに関しては、また機を改めて話したい。具体的には次回で。じゃ、一旦CM入りまーす。