提督が『絶対魔獣戦線バビロニア』鎮守府に着任しました! 作:乃伊
>> [ 1/2 ] A.D.2002 新世紀救済者偶像グランドオーダー(1)
「督太郎。中学進学をどうするか、もう決めたのかね? 受験をするなら対策は早いほど良い」
「師父……」
現在地、教会。
御年90を超える我らが師父こと言峰璃正神父は、現役をほぼ完全に退いてはいるものの、未だ壮健であらせられる。兄弟子の綺礼師兄も自分探しの旅的な海外仕事を辞めて、5年程前に冬木へ戻ってきた。教会関係の仕事は既に親子で引き継ぎが為されているそうだが、名目的にも近々正式に言峰教会を継ぐことになるだろう。
第四次聖杯戦争が起こらず英雄王も来なかったこの世界では、孤児院は孤児院として平穏な日常を保っていた。璃正神父も遠坂さんちの優雅な人も死んでいない。娘の凛ちゃんさんは日々魔導に勤しんでいるようで、ときどき教会に顔を出しはするものの、綺礼師兄に八極拳の弟子入りはしていないらしい。
まあ人死にやら何やら物騒なことがないという意味においてはだいぶ良い感じの世界なのだが、先々の事を考えると色々不安なことも多くある。将来への不安。それこそ俺が小学校卒業後の進路について悩んでいる理由であり、こうして師父に呼び出されている理由なのだから……。
普通にいけば、このまま冬木の中学校→穂群原学園あたりにでも入学するのが一般的冬木市民の進学スタイルである。もちろんそれも悪くはないが、問題は、第四次聖杯戦争が起こらなかった原因だ。俺の知る限り、第四次聖杯戦争が起こらない可能性は2つ存在する。
ひとつは、これがApocrypha世界線であること。つまり、第三次の時点で大聖杯が冬木からルーマニアに持ち出された世界線で、その世界の冬木は平穏無事である。
俺的にはこの可能性を超★希望したいのだが、ただまあ、Apocrypha世界線を成立させるための超重要人物シロウ・コトミネ氏が居ないっぽいんだよなぁ。璃正師父の養子としてちゃんと表の顔を持っていたはずの彼を、言峰教会にいる俺が全く知らないということはないだろう。
で、もうひとつの可能性。Grand Order世界線だ。こっちはどういう理由か知らないけど、聖杯戦争が2004年の一回こっきりだったらしい。つまり2年後。現状だと、こっちの方が可能性高そうである……超ヤバイ。
何がヤバイって、こっちの世界線は冬木の聖杯戦争に巻き込まれるのをナントカ回避できたとしても、その後の2015年に人類滅亡が確定してるっていうことだ。人理焼却ってなんだよォ……そんな超時空虐殺、どうしようもねぇだろうが……!
事前に回避する方法は唯一つ、人理焼却のトリガーになる人物レフ・ライノール氏を2015年までにブチ殺すこと。自殺させても良い。
というか、真っ向勝負だとレフ氏が強すぎて話にならない気がするんだよな。
魔術と中国武術が交差する全く新しいマジカル☆八極拳が使えるならワンチャンあるかもだけど、俺はただの貧弱一般人な上に魔術も使えないので、普通の八極拳で戦うことになる。無理。魔神柱化でもされた日には、傷一つ付けられないだろう。
魔術が使えないせいで魔術協会にも出入りできないだろうから、協会所属のレフ氏に直接弟子入りして暗殺教室/GOすることもできない。手詰まりだ。ヤバイ。
え? 「原作通り」ならFGO主人公こと藤丸立香が勝手に解決してくれるって?
冗談だろ、
……というわけで、俺に残された最後の手段。
それは、なんとか一般職員として『人理継続保証機関カルデア』に潜り込み、"不幸な事故"でレフ氏にご退場願うことだ。一見して一番まっとうな手段に見えるが、これが意外と難物で、実際どうすればカルデアの職員になれるのかが全く分からん。国連所属の機関らしいけど、それってどこで就職活動すればいいの? リクナビ登録してる? 内定後に配属希望とか出せるのかしらん? まるで分からない……。
「師父。俺は将来、世界中の人たちを助ける仕事をしたいと思っています。たとえ地味でも人類全体のためになるような、そんな仕事を。だから、進路選択もそれを踏まえて……!」
キリッ。
仕方ないので、俺は最高のキメ顔で璃正師父にそう言った。聖杯戦争が起きるなら、参加者は監視役の教会を一度は訪れるはずだ。そこで先代のアニムスフィア所長にアプローチするしかねぇ。今のうちにこうして布石を敷いて、璃正師父のコネで就職斡旋してもらう感じで行くとしよう。コネから始める人理救済。抑止力(コネ)。でも人間って、きっとそういう生き物だと思うの。
俺の渾身のキメ顔が効いたのか、璃正師父は感動に打たれたような顔をした。この数年でずいぶんシワの増えた顔をクシャクシャに歪め、小さな声で「主よ……」と呟いたのだ。師父、悪いことは言わんからそいつに感謝するのは止めておけ。
そんなことを考えている俺に、師父は言う。
「督太郎。君はこの孤児院で誰よりもよく働き、皆を思いやり、そして君自身を高めてきた……」
まあ、90年台にめっちゃ死亡フラグ立ってた孤児院の兄弟姉妹を思う気持ちで満ち溢れていたからな。転生者だから他の子供に比べて物事の要領もいいし、デキるお兄ちゃんスタイルを採用したまでの話よ。
努力云々に関しては、あれだ。死ぬ気で頑張らないと香港映画顔負けのチャイニーズ・カラテ・インストラクションを生き残れなかったってのが大きい。というか師父、あんたら親子のせいだぜ?
「ただ私は、君が将来に対して夢や希望を抱いているようには見えなかった。綺礼もそうだったが、あまり出来の良いのも親代わりの身としては心配になってしまうのだよ。だから、それが私の心残りだったのだが……」
まァな。こんな世界で将来に希望を抱けっていうのは無理がある。なんたって、たぶん既に人類滅亡カウントダウンは始まってるんだ。そういう明確かつ共感性の高い理由があるので、どうか綺礼師兄とかいうサイコ野郎と一緒にするのは止めてほしい。俺は心の痛みが分かる人間だ。
「いつだったか、君が『本当の家に帰る』と言って家出したことがあっただろう。血の繋がりという絆を求める気持ちを否定するのは、この世に生きる誰にもできないことだ。だが、君は再びこの神の家に帰ってきた。私は、君がこの孤児院で私たち親子や君の兄弟姉妹たちと過ごした十年余を、本当に大切な日々だと思っているのだよ……」
うん、
小学生のうちはまだ良いけどさ、中学校入ったら男女の距離はもうちょっと考えないと一人前のレディーにはなれないぜ? ジェントルメンにもだ。どうせあいつら、俺が言っても聞きやしないだろうけど。
「……督太郎。今日こうして君自身の口から、君の将来の望みを聞けて本当に良かったと思う。もちろん、私は君の夢を全力で応援することを約束しよう」
「ありがとうございます。師父」
俺はお礼を言って、頭を下げた。
「────ああ、そうだな。海外へ行きたいということなら、綺礼の方が伝手は広いだろう。私から彼に話をしておこう。なに、心配することはない。君ならこの世界の何処でだって上手くやっていけると、私はそう思っているのだから」
「……え? あ、ありがとうございます。師父」
……あれ? なんだか師父の話がちょっと進みすぎてないです? 俺は数年先を見越して布石を打ってるだけで、今すぐこの国を出てどうこうしようって気はないんですけど。
というか、
①:「巷で麻婆カレーなる料理が話題と聞きましたが、カレーに合う麻婆とは何なのでしょうか……」とか意味不明なことを呟きながら冬木にやって来て、綺礼師兄と一緒にあれこれ麻婆豆腐の研究をしていったシエルとかいう自称シスター(代行者)。あんまりお話ししなかったけど、なんか「記憶」にあるより今風だった。月姫リメイク……お前、生きていたのか……!?
②:どこのマフィアだよってくらい剣呑な顔面に、デカい刀傷までつけたカラボーとかいう黒人のおっさん(たぶん代行者)。まだガキだった頃、冬木にやって来たそいつを綺礼師兄に言われて俺が出迎えに行ったら、出会い頭にぶっ倒れやがって大変だった。起きたら起きたで綺礼師兄に何やらペラペラ喋り倒して日帰りで帰っちゃうし。いったい何だったんだ。
③:「記憶」にあるよりちょっと幼い印象の、白銀の髪がシスター服に良く似合う女の子のカレンちゃん。っていうかアンタまだ冬木に来ちゃ駄目だろ!? 幸い綺礼師兄は不在だったので、俺が全力で対応してお帰り願った。なまじFate/Zero回避して綺麗なままの綺礼師父に慣れていた分、天然サドの相手は心が非常に摩耗した。
その他、人種性別年齢様々な人間がこれまで言峰教会を訪れ、だいたい5人に1人くらいは色々まともじゃない感じだった(回想終わり)。うわ、うちの教会関係者マジ物騒過ぎ……?
やべぇな、お先真っ暗だぜ。……だが、まあいい。
OK、OK。未来にろくでもない事が起きると分かっているなら、そのときが来る前に手を打っておくのがクレバーなやり方ってもんだ。