提督が『絶対魔獣戦線バビロニア』鎮守府に着任しました!   作:乃伊

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A.D. 2002 and...

>> [ 1/2 ] A.D. 2002 旅立ちの時きたれり、其は苦難に臨むもの

 

 

(前回のあらすじ。)

(人理焼却を防ぐためカルデアに就職したい。そこで将来は海外に行きたいなーって璃正師父にお話ししたら、綺礼師兄の人脈を当たってくれるとの事。うわぁ、ろくでもない予感しかしねぇ)

 

 

 ……色々あった。

 色々あったが、とにかく俺は日々の生活に追われるままに、ぼんやりとした不安を抱えたまま孤児院暮らしを続けていた。そして一月ほどが過ぎた、ある日のことだ。

 

 季節は秋を過ぎ、紅葉に色づいた葉も落ちて日に日に冬の寒さが強まってくる頃だった。

 学校帰りの俺に(たか)ってくる未就学弟妹たちと、そして全身に絡みつく妖精さんらを引っ剥がしては放り投げて遊んでいた俺の元へ、いつも通りの仏頂面をやや愉しそうに歪めた(長い付き合いだから嫌でも分かってしまう!)綺礼師兄がやってきた。

 めっちゃ威勢よく挨拶したあと蜘蛛の子を散らすように逃げていった弟妹らは、まだ幼く感受性が強すぎるので、綺礼師兄のサイコパワーを敏感に受け取ってしまうのである。動物的本能とか防衛機構とかそういうモノが働いた結果だろうし仕方ないね。

 

 人生二週目で無駄に擦れてしまった俺が諦めの気持ちで師兄に向き直ると、師兄は後ろ手に組んだ両手に携えていたクリアファイルを差し出した。そこに入っていたのは、

 

 ①教会関係の全寮制学校のパンフレット。

 ②綺礼師兄直筆の推薦書。

 ③先方の校長からの私書。

 

 

 

 ……おい。

 おい。ちょっと待て、オイ! 

 は、話が早すぎるだろ!?

 

 俺は師父にふんわりした将来プランを話しただけなのに、何勝手に入学手続き進めてんだ! しかもこの学校、思いっきり海外じゃねぇか! 海外行きたいって言われて即海外へ放り出すとか、お前は慣らし運転って概念を知らねぇのかよ!?

 

「ふむ? 督太郎、お前でもそう分かりやすく動揺するのだな。まるで誕生日にプレゼントを渡された子どものようなはしゃぎ振りだが」

 

「と、突然のことで、つい……」

 

 ちっげぇェェェ!!!

 

 俺は喜んでるんじゃないの! 困惑してる! 分かる? 困惑! コンフューズ! ユーアンダースタン!?

 

「まるで私からのプレゼントを受け取ったときの凛と瓜二つの反応だ。一応面識はあるのだったか? 意外と気が合うのかもしれんな、お前たちは」

 

 そう言って、ニヤリと嗤う綺礼師兄。その口角の僅かな歪み……なんて不器用な感情表現。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 そして今の言葉で確信したが、このサイコブラザー、俺の事情をだいたい察した上で"善意で"この所業をやっていやがる。凛ちゃんさんへのプレゼントってあれだろ? セイバーさんの私服にされたことで有名な白シャツと青スカートのあれ。

 あの服毎年送ってたらしいけど、同じ服を何度も送られて女子が喜ぶとか思っちゃうのは、綺礼師兄か、でなきゃ登場人物の服装が変わらないアニメ/漫画/ゲームを現実と混同しちゃった系の痛いオタクくらいだぞ。そういうのマジでヤバイって。娘さん(カレン)の情操教育にも悪いからな、もう手遅れかもだけど……。

 

「督太郎。これは教会附属の学校だ。お前が教会の教えに帰依するかどうか、それはお前の自由だが……将来この国の外で働きたいというのなら、この学校はきっとお前に佳き日々と得難い経験を与えるだろう。信仰に国境は無き故な」

 

「はぁ……えっと、とりあえず考えておきますね。ありがとうございます」

 

「そうすると良い。ちなみに先方の校長は父と私の個人的な知り合いでな、事情を話したところ入学を希望するなら歓迎すると言ってくれている」

 

 指し示されたのは、一緒にクリアファイルに入っていた、なんか凄く高級そうな封蝋を施された手紙。超開けたくねぇ。今ここで開けたらそのままお返事まで書く羽目になる気がする……!

 

「アー、部屋で読みますね。俺、英語? とかよくワカラナイので」

 

「そうか。ちなみにそれはイタリア語だが、読んだら返事を書くと良い。先方も喜ぶだろう」

 

 あっさり頷く師兄。ちなみに俺は英語ができる。璃正師父と綺礼師兄が仕込んだ。イタリア語は無理だ。俺にどうしろっていうんだ。イタリア語なんてグラッチェとコングラッチェしか知らないぞ。早急に経験値を積まねばならない。とりあえず相手は目の前のサイコで良いだろう。心は通じなくても言葉くらいは通じるはずだ。

 

グラッチェ(ありがとう)です、師兄」

 

「ああ」

 

 【グッドコミュニケーション】。この調子。

 

「……コングラッチェです、師兄」

 

「そんなイタリア語はない」

 

「……」

 

 【バッドコミュニケーション】! 俺は拳を固めた。可及的速やかに、目の前の男から今の失敗の記憶を抹消せねばならない。この孤児院でデキるお兄ちゃんポジションを続けていくためにも。

 綺礼師兄はひどく愉しげな表情を浮かべた。俺も笑い返そうとしたが、上手く顔の筋肉が動かなかった。

 

 俺は怯えた。

 師兄から立ち上る暗黒闘気が、俺の脳髄へ一瞬の内に40個近いバッドエンドとデッドエンドを叩き込んできたからだ。恐怖がもたらす幻覚だ。俺は正気度判定に失敗した。何てことだ。俺はただ師兄に記憶を失ってほしいだけなのに。死にたくない。死にたくない。──お前が死ね!

 

 俺はおもむろに腕を伸ばして師兄の黒衣(カソック)を掴み、引き寄せ、双掌打(地上投げ)

 奇襲に体勢を崩した師兄へ屈み強蹴(2C)肘打ち(6B)打ち上げ(2B)た。

 このまま決める! 初手のアドバンテージを確保したまま、浮き上がった師兄へ空中連撃(エリアルコンボ)を次々と打ち込んでいく。フハハ、地に足がつかない八極拳など恐れるに足らぬわ! 

 

「喰ゥらえぇーッ!」

 

 止めの連環腿!

 吹き飛ぶ師兄。死んだか? 起き上がる。死んでない……。師兄はゴキゴキと肩を鳴らした。

 

「いいぞ。久々に()るか」

 

 俺は師兄の異常タフネスっぷりに内心ドン引きしつつ、再び警戒姿勢で前に出た。守ったら負ける。攻めるんだ。まあ、たぶん攻めても負けるけど……いいや、俺は勝つね! 今こそ俺の9年間の功夫を見せるとき! 綺礼師兄、お前は負けろ! 負けて死ね!

 

 「ヤッチマエ!」「セメドキダナ!」「トッカンシマス!」

 

 妖精さんの声を聞きながら、敵に向かって走り出す。

 俺はオリジナル歩法『瞬歩(ダッシュ)』で距離を詰めつつ、初手の選択を相手に強いる。師兄は防御の構え。甘いな! 俺は瞬歩(ダッシュ)瞬歩(ダッシュ)に連携し、そのクソ硬いガードの裏から貴様を討つ! 喰らえ! 超必殺(1ゲージEX)の頂心肘──

 

 

纏──裡門頂肘(シールドバンカー)

 

「!?」

 

 

 *****

 

 

 ─────その後のことは、あまり覚えていない。

 

「進歩里胯──揚炮」

「順身翻胯──闖歩──靠山壁」

「揚炮──八門開打──連環腿」

「冲捶冲捶冲捶冲捶冲捶冲捶冲捶」

「──崩撃ッ 雲身ッ 双虎掌ッ!」

 

 

「グエアァーーーッ!」

「……10年早かったな」

 

 

 *****

 

 

 ……俺は負けた。負けて死ぬ。

 人理焼却? グランドオーダー? 俺が死ぬのにそんな大層なものは必要ないね。俺は2015年を待つこともなく、言葉も通じぬ海の彼方で朽ち果てるだけ……。

 

 師兄にボコボコにされた翌日。

 一時的狂気から立ち直った俺は、璃正師父に泣きついてイタリア語の手紙を読んでもらうことにした。それから入学願書を書き上げて、師兄の推薦書と一緒に郵便ポストへ投げ込んだ。一通りを英語で書いてから、オフィシャルな英語に自信がなかったのでもう一組同じ書類を用意し、こちらは全て日本語で書いた。意味があるかは知らない。いっそ瑞々しくも禍々しい俺の筆文字が、入学受付担当者を恐怖のズンドコに突き落とすといい。

 

 その足で本屋に向かい、せめてもの足掻きとして『(ポルコ)でもわかるイタリア語』とかいう本を買ってきた。来年3月に小学校を卒業したら、バチカンへ向けて出発だ。アリーヴェデルチ。チャオチャオ。

 

 

 

 

>> [ 2/2 ] A.D. 1993 - 1994 「答え」を待ちながら(1)

 

 

 

 ──ヒトの心が、分からなかった。

 ──美しいものを美しいと思えず。

 ──この世の善悪は、どうしようもなく己自身のそれとは食い違っていた。

 

 

 言峰綺礼は敬虔な信仰者であり、苛烈な修練者であると見なされてきた。

 それは実際間違いのない客観的事実で、若くして教会の教えに帰依した綺礼はいつしか神の教えに従うだけでなく、赦されざる異端の信仰を狩る教会の「代行者」としても活動するようになっていた。

 

 鋼の如き鍛錬が比類なき肉体を造り上げ、過酷な修練がその精神を研ぎ澄ませる。

 しかし同時に、その男の内に秘められた生来の心の歪みと懊悩は、誰にも知られることなく男自身を責め苛んでいたのだった。

 

 

 西暦1993年。

 

 冬木市の言峰教会孤児院に預けられた──彼にとっては、有象無象の子供たち。

 しかし、その一人『堤 督太郎』少年との出会いが、言峰綺礼の運命を少しずつ変えていくことになる。

 

 

 *****

 

 

 最初に少年の名前を知ったのは、代行者として海外を飛び回る合間に父を訪ねたときだった。

 

 父・言峰璃正は心身健康といえども既に老境、年とともに冬木の教会を出ることも減り、いずれは自分が後を継いで冬木の街に居を構えねばならないことは分かっていた。

 10年ほど後には、この冬木の霊地にて「とある大儀式」が行われる。冬木に根付く魔術師達は、今このときもその準備を進めているのだろう。教会も監視者として立ち会うことになろう。

 

 必然、帰郷は早ければ早いほど良い──それでも外の仕事を選び続けたのは。妻と呼べる女と子を成して尚、安住の地を得ようとしなかったのは。覚悟が決まらなかったからだ。迷いがあった。

 

 神なるものが明らかに「異常」な己をこの世に誕生せしめたのは何故なのか。

 如何にして己は内なる歪みと満たされぬ虚無に向き合えばよいか。

 詰まる所、この言峰綺礼は何のために生まれて、何をして生きるべきなのか──

 

 分からないまま、終わりたくはなかったのだ。ただ、その「答え」だけが欲しかった。

 

 

 *****

 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! ハイヤーッ!」

 

 さして重くもない旅行鞄を片手に教会へ続く丘を登る途中、綺礼はふとその声に気づいた。

 教会に隣り合って造られた孤児院から声は響いていた。甲高い、まだ幼い少年の声だ。だが、その声音……空気を震わす振動には、微かに「気」と「勁」が乗っているように感じる。

 

(父が弟子を取ったか?)

 

 言峰璃正が人に拳を教えるのはこれまでにも無かったことではない。他ならぬ綺礼自身もまた、父の弟子の一人である。

 八極拳。神槍・李書文に知られる中国拳法の一つ。ただし、璃正は中華思想を技術体系から切り離し、その拳理と求道のみを己のものとしているようであった。既に信仰を持つ彼にとっては不要であったのだろう。

 

 ともあれ、父が入門を認める者が現れたということは、即ち綺礼に弟弟子が出来たということを意味していた。威勢よく響く声は些か幼なすぎるようにも思えるが、父が認めたならば異論もない。

 

 荷物を持ったまま教会を素通りし、孤児院へと向かう。さして広くもない庭を駆け回る子供たちの中に、言峰璃正とその少年はいた。予想に違わず、幼い子供だった。3、4歳ほどか。

 璃正に指導されながら、少年は基礎的な型を熱心に繰り返している。周囲の子供は少しつまらなそうな様子でそれを見ていたが、近づく綺礼に気づくとやたら大きな声で挨拶し、散り散りに走り去っていく。綺礼は父に話しかけた。

 

「只今戻りました」

 

「ああ、綺礼か」

 

 そう言って頷くと、傍らの少年に「今日はここまでだ。もう行きなさい」と告げる。少年が息切れした発音で礼の言葉を述べて離れていくと、たちまち他の子供らに囲まれた。人気者であるらしい。

 

「随分と幼い弟子をお取りになる」

 

「弟子などと、そんな大仰なものではない。乞われたから応えたまでのことだよ」

 

 もみくちゃになり転げ回って遊ぶ子供たちを見やりつつ、父は言った。

 

「どれくらい居る予定だ?」

 

「一週間ほど身体を休めようかと」

 

 綺礼は答える。

 日本に来る前、大きな仕事を請け負っていた。異端の討滅。此度『教会』が指示した敵は強大であり、代行者・言峰綺礼と言えども相当な消耗を強いられたのである。総身を覆うカソックの下には、いまだ癒え切らぬ傷も残っていた。

 

「そうか……では、時間のあるときでいいから、あの子を気にかけてやってくれ」

 

「……稽古をつけるにはまだ早いと思いますが?」

 

「そうではない」

 

 璃正は苦笑した。そして、例の少年に視線を投げる。つられて綺礼も少年を見た。

 

「堤 督太郎という。親はいないが、聞き分けの良い子だ。他の子にも慕われている」

 

「はぁ」

 

 結構なことだ。

 関心薄げな綺礼の様子を察したか、璃正は続いて彼自身の目に指をやった。

 

 父の目に何か? ……いや、あの少年の話か。

 綺礼が改めて少年の目を注意してみると──何か、違和感を覚えた。

 

妖精眼(グラムサイト)。生まれつきのものだ」

 

「……魔眼、ですか」

 

 なるほど、と綺礼は呟く。

 

 魔眼とは文字通り魔性の、世の理の外にある目だ。

 本来は光を感知する受容器であるはずの眼球が、魔を帯びることで逆に見ている対象へ能動的に働きかけるようになったもの。それ自体が独立した魔術回路としての性質を有し、(ランク)によっては単独で大魔術の行使すら可能とする────真偽定かでない噂によれば、最上位の魔眼はその更に上、失われし権能にまで至るとも。

 

 とはいえ、妖精眼(グラムサイト)はそこまで格の高い魔眼ではない。

 機能は単純で、「視えないものが視える」。世界の理で覆い隠された神秘のヴェールを一枚剥がし、その裏に息づく者たちを認識するのだ。それでも上位の妖精眼(グラムサイト)にもなれば、それら幻想の住人との対話さえ可能になる。ただし代償として、精神を「向こう側」に引っ張られ、現世に適応できなくなる者も多いという。

 

 強い魔眼は所有者に大いなる力を与えるが、制御できなければ破滅をもたらすことになる。

 

「ときどきだが……督太郎は、不意に得体の知れぬ知識を口走ることがある。そういうものの出処が幻想の住人ならば、かなり上位の妖精眼(グラムサイト)かもしれん」

 

「わかりました。そういう事情ならば、心身の修練は早く始めるに越したことはないでしょう」

 

「我らの教会へ彼が預けられたのも主の配剤であろう。……私も随分年を取った。頼むぞ、綺礼」

 

「……」

 

 未だ迷いの解けぬ綺礼は、明確な返事をすることなく、ただ頷くのみに留めた。

 

 だが、「現実と幻想の境界を超える魔眼」……

 

(……それを持つ彼は、きっと現実の理だけに従うことはできないだろう。視るということ、認識するということは、外の世界を己の内に取り込むということだ。異界を取り込んだ人間は、異物にならざるをえない。……ならばあの少年は、己の同類か?)

 

 そう思えば、多少の憐憫(あわれみ)の情も湧かないではなかった。

 以降、綺礼はそれまでより多少は高い頻度で帰省するようになり、帰った際には督太郎少年に拳の手ほどきを行うようになる。少年には武の天稟があったが、魔術回路は持たないようであった。

 

 良質な魔眼は、魔術師から狙われることがある。それを思えば、彼の武が彼自身を護るに足るかは怪しいところだと綺礼は判断していた。少年は変わらず孤児院の人気者であったが、やはりどこか集団に溶け込めきれていないようにも思われた。

 

 そんな折のことだ。

 綺礼は、とある筋からこの日本に教会の代行者『カラボー・フランプトン』が訪れることを知った。カラボーは教会でも数少ない、強力な魔眼を有する代行者である。必然、その扱いにも長じていよう。綺礼はペンを取り、ごく短い手紙を綴るとその代行者宛に発送した。

 

 

 ────時に、1994年晩秋。

 

 一つの歴史において、第四次聖杯戦争が始まる頃のことである。

 

 




※『「答え」を待ちながら』は言峰綺礼視点によるエピソード群であり、督太郎の物語の合間に不定期で挿入される予定です。2部であんなことになったので、考えます。
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