名もなき英傑の詩   作:惣名阿万

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Requiem

 おや? あなたですか。

 

 心なしか、顔つきが一段と凛々しくなられたような……。

 

 

 

 《シークの事情がわかった》

 

 

 

 ――……師匠と姫様の間にそんなことが。

 

 ……そうだったのですね。

 師匠、あなたはそのような想いをずっと……。

 

 

 

 

 

 

 失礼しました。取り乱してしまいまして。

 

 では、私の方も聞いてください。

 

 何度かお話しした 私の師匠の未完の詩。

 その重要な章を、ついに私、完成させる事ができたのです!

 

 この高台こそは、その詩を詠うのにまたとない場所。

 

 

 

 それは今から100年前。

 

 あれに見えるハイラル城での出来事。

 

 選ばれし六名を任ずる荘厳なる儀式。

 

 では、お聞きください。

 

 

 

 『英傑たちの(バラッド)

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 やっぱりこういう堅苦しいのは向いてねえな。

 

 フン……。これがシーカーストーンね。

 

 それには様々な機能が備わっている筈なんですが。

 残念ながらまだ殆ど解明出来ていなくて。

 

 この前、御ひい様に見せてもらったけどさ。

 それ、本物みたいな絵が作れるんだよ。

 

 すごい……。見てみたいな。

 姫様、あの……お願いしてもいいかな?

 

 

 

 

 

 

 うん、じゃあその辺で写そうか。

 

 みんな、シーカーストーン見て。

 

 ダルケル……もうちょっとかがめない?

 あんた只でさえデカイんだから。

 

 表情暗いよ、姫さま。もっと笑って。

 

 リーバル、もっとこっち寄って。

 

 やれやれ……。

 

 ミファー緊張しすぎ。深呼吸してごらん。

 

 はいっ……。

 

 じゃ、写すよ。

 みんな、こっち見て。

 

 笑ってー……。

 

 

 

 チェッキー♪

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 この時より、彼らは英傑と呼ばれるようになったそうです。

 

 情景が浮かぶような詩を作りなさいと私の師匠はよくおっしゃっていました。

 今回の旅で、その言葉の意味が理解できたような気がします。

 

 

 

 ……ところで 師匠の資料を調べていたらこんなものが見つかったのです。

 

 私、思いました。これはあなたにお持ちいただくべきだと。

 

 あなたのその凛々しさは英傑たちの志を偲ばせてくれます。

 

 師匠亡き今、これをお渡しできるのはあなたを置いて他にいません。

 

 

 

 《どういうこと?》

 

 

 

 ――……思い出したのです。

 ある日、床に臥せっていた師匠がうわ言で呟いていたことを。

 

 それは師匠にとって何よりも大切な思い出なのだと思います。

 病に侵されながら、尚穏やかな微笑みを浮かべていたのをよく覚えています。

 

 あなたに師匠の足跡を辿って頂いたおかげで、あの言葉の意味がわかりました。

 

 

 

 

 

 

 ……実はもう一つだけ、あなたに聞いていただきたい詩があるのです。

 

 これは私が師匠の功績を伝えたいと思い作っていた詩です。

 師匠から伝え聞いた話や、あなたから伺った話をもとに作っていたのですが、今、あなたから最後のお話を聞いて、欠けていた重要な章を思いつくことができました。

 

 

 

 どうか聞いてください。

 

 今も厄災を城に封じている姫様。

 

 試練を乗り越え、厄災に挑む騎士殿。

 

 あなた方の力となり、見守る四人の英傑たち。

 

 そして――。

 

 

 

 希望を未来へと繋いだ、もう一人の『名もなき英傑の詩』を。

 

 

 

 

 

 

 時の流れは 残酷なもの

 人それぞれ 速さは違う

 そしてそれは 変えられない

 時は流れても 変わらぬもの

 それは 幼き日の追憶

 

 時は移り 人も移る

 水の流れにも似て とどまる事はない

 幼き心は 気高き大志に

 幼き恋は 深き慈愛へ

 澄んだ水面は 成長をうつす鏡

 

 時を経て 結ばれし意志

 己が届かぬ 願いのために

 目覚めし希望へ 道を示す

 闇を払い 光を取り戻せと

 秘めし祈りは その先に

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

『お待ちください!

 本当に、一人で行かれるおつもりですか!』

 

『シーク……。

 はい。リンクが目覚めるまでの間、なんとしてもガノンを留めておかなくてはなりません。

 そのためには、私の封印の力が必要なのです』

 

『それは……。

 ですが、お一人で行かれるなど危険すぎます! どうかぼくも共に……』

 

『ありがとう。ですが大丈夫です。

 私は長い間、封印の力に目覚められず、ずっと修行を続けてきました。

 その苦労は、決して無駄ではなかった。今なら、それがわかります』

 

『ゼルダ様……』

 

『心配してくれてありがとうございます。

 ですが、私なら大丈夫です』

 

『……そうですね。

 貴女はずっと努力を続けてこられた。

 きっと、母君もお喜びになられていると思いますよ』

 

『シーク……?

 あなたは一体……』

 

『お覚悟、しかと承りました。

 ならばせめて、その道行(みちゆき)に詩を捧げさせてください』

 

『え、ええ……。わかりました。

 あなたの詩は私も好きですから。ぜひお願いします』

 

『かしこまりました。

 では――この詩を』

 

 

 

 

 

 

 女神のしもべに 導かれし若人

 空と大地を結び 光もたらす

 若人 2つの大いなる羽を

 光の塔に導く 彼の者の前に

 道はひらけ 詩の響きを聞く

 

 

 

 

 

 

『これ……。

 この詩は、もしかして……』

 

『ゼルダ様。

 貴女はぼくにとって輝く光、女神そのものでした』

 

『…………そう、なのですね。

 あなたはずっと……。

 ごめんなさい。私はそのことを……』

 

『構いません。

 ぼくの願いは、あのときからずっと、貴女が笑顔であれることですから』

 

『……わかりました。では、一つだけお願いがあります。

 インパの家に置いてきた写し絵――みんなで写したあの絵を、預かって欲しいのです』

 

『承知しました。

 貴女がお戻りになる日まで、大切に預からせていただきます』

 

『ええ。よろしくお願いします。

 …………じゃあ、そろそろ行きますね』

 

『後のことはお任せください。

 彼が目覚めるまで、必ずやこの国を守り抜いて見せます』

 

『ありがとう。

 あなたのことは、もう決して忘れません』

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 師匠は、亡くなる間際に呟いていました。

 

 『女神よ。貴女にお仕えすることが、ぼくの何よりの喜びでした』と。

 

 あなたのお話を聞いた今、師匠の祈りの本当の意味がわかりました。

 

 

 

 聞いてくださってありがとうございました。

 

 これで、あなたへ伝えるべき詩は全てです。

 

 

 

 

 

 

 ハイラルを見守りし英傑たちの魂に安らぎあれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















妄想垂れ流しの駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

拙作はあらすじにも書いたとおり、カッシーワの師匠の格好いい生き様をどうにかしてもう少し絡められないか考えたものです。

作中で名前が出てこないことを利用してタイトルは考えました。
また呼び名(というか称号的なもの)に関しては「シーカー族の宮廷詩人」という公式設定を利用して、BOWに登場しない名前でかつ有名なものをこれ幸いにと使用しました。

どれもこれも思いつきのネタで洗練もなにもありませんが、それぞれの詩のシーンで該当するBGMを流されたら雰囲気に合うかもです。

というわけで、簡素かつ混迷極まるあとがきですが、これにて締めさせていただきます。



※作者は拙作の執筆中、某動画サイトにて『英傑たちの詩』を三十回以上再生し、七割泣きました。涙腺激弱だなと思いましたまる。

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