『NEO』
「……アマゾン」
その声と共に、衝撃波が吹き荒れた。アマゾンアルファの変身時のそれと同じ、あるいはもっと強烈な熱が群れていたアマゾン達を吹き飛ばし、ジオウとゲイツの頬を炙って、後ずさらせる。
それが止めば、そこにいたのはもうさっきまで立っていた青年ではなかった。
青い肢体を機械の鎧で人型に縛り上げた、一体の獣が立っている。
「あれが……!!」
「仮面ライダー……アマゾンネオ……!!」
オレンジの眼光に、思わずジオウとゲイツは立ち竦んだ。その二人の肩を掻き分けて、アマゾンアルファがアマゾンネオの前に歩み出た。二人のアマゾンが相対する。
「久し振りだな……千翼」
「俺は……生きたい。生きたいんだ」
『BLADE LOADING』
二人の間にもう会話はなかった。青いアマゾンがドライバーを操作すれば、その腕から湯気と共に剣の刀身が伸び、固まる。
沈黙。木々が揺れて、風が吹いた。
そのすぐあとの一瞬で、アマゾンとアマゾンは、同時に足を踏み出していた。腕の刃を構え、獣の唸りを上げながら。
その二人の動きが、止まる。──時間ごと。
カチッ
「……タイムジャッカーか!!」
ジオウとゲイツの視点の先、凍りついたアマゾン達の時間の向こう側。そこに青い服のタイムジャッカー、ウールが怠そうに立っていた。何故かマスクをしていた。
「っ、ウール!!」
「いつもなら、ここでアナザーライダーのウォッチを巻き直す所なんだけどさ」
ウールはそう言いながらアマゾンの横をすり抜けて、アナザーアマゾンネオの変身者──七羽の脇で膝をついて、アナザーライダーのウォッチを引き抜く。
普段なら、ウォッチを再起動してまた変身者に埋め込むはずだった。そうすることで再びライダーの歴史が奪われ、アナザーライダーが暴れ始める。
しかし、ウールはそうはしなかった。
ウォッチを持ったまま立ち上がったウールは、ジオウの肩を軽く押し退けながらアマゾンネオの前まで出ていって、彼の時間だけを動かしたのだ。そして呼び掛けた。
「おいでよ、アマゾンネオ」
「……?」
時間が止まったことを自覚していて、かつ、ウールが自分を助けたのだと理解したアマゾンネオは剣を下ろした。何故そんなことをしたのかは、彼にはさっぱり分からなかったが。
「君は、ボク達が蘇らせた。協力してもらうよ」
「……分かった」
そしてウールは、アマゾンネオを伴って去っていく。その姿が見えなくなって、初めてジオウ達の時間も再び動き始めた。
カチッ
「……行ったみたいだね」
「ああ。しかし何故奴が生きている? 鷹山仁が殺したんじゃなかったのか」
「……理屈なら、通っているか」
首を傾げるジオウとゲイツの横、ウォズが目を細めながらウールの消えた先を見やる。その手前では相手を失くしたアマゾンアルファが、しかし油断を解くこともなく辺りを見回していた。
「どういうことなの?」
「最初にアマゾンネオの歴史が奪われた時点で、アマゾンアルファの歴史は崩壊した。鷹山仁は死んだという歴史も、そして鷹山仁が千翼を殺したという歴史も」
「千翼くんが存在してないんだから、殺せるわけないもんね」
「そういうことだ、我が魔王。そして今、君達はアマゾンネオの歴史を復活させた。しかし既にアマゾンネオを殺したアマゾンアルファの歴史は崩れているから、鷹山仁が千翼を殺した、という事実は起こらなかったままだった、というわけだ」
「アナザーライダーを利用した、本物のライダーの復活……」
「それがタイムジャッカーの狙いだったのね……」
……不意に、唸り声が響いた。
アマゾンネオの変身の際に吹き飛ばされていたアマゾン達が、再び立ち上がってきていたのだ。何体もいるそれらが街に出れば、被害が出るのは避けられない。アマゾンアルファは既に身構えていた。
「とりあえず今は、目の前のこいつらを何とかしないと……!!」
「……そうだな。行くぞジオウ」
───
「連れてきたよスウォルツ」
開けっ放しの廃墟の一室に、それはやってきた。
まだ事態をそんなに把握しきれていない、怯えた、それでも決意の滲んだ瞳。それが、ウールに連れられて室内に侵入していた。
それを眺める瞳は三つ。ウール。そして、同じタイムジャッカーのオーラとスウォルツ。ウールがそうしているように、スウォルツもまたマスクをつけていた。
「ああオーラ」
「なによ」
「お前もマスクをしろ」
「蒸れるんだけど」
「我慢だ」
オーラもつけた。
マスクの三人に囲まれて、少年は怪訝な顔を隠さない。彼を見つめる眼光の群れは、全く彼を人としては見ていなかった。彼はその目が意味するものを知っていて、だから決して彼らに迎合するつもりはなかった。
スウォルツが一歩、彼に歩み寄る。
「さて……初めましてだなアマゾンネオ、いや、千翼」
「……」
自分を見下ろすその顔を千翼は睨んだ。しかし相手は堂々としてしかも掴み所がなく、千翼がどんな顔をしていようと興味はないと言わんばかりであった。
「お前を蘇らせた理由はただ一つ。お前に、オーマジオウに代わる新たな王となってもらうためだ」
「王……」
「そのために、ジオウを倒してもらう」
ジオウ。その言葉を千翼は知らない。だが倒すなんて言うのだから、誰かしらの人間で、彼らの敵なのだろうということくらいは理解した。
だから首を振った。
「俺は、俺は……誰も傷つけたくない。人間を、傷つけたくない」
スウォルツは、これ見よがしに大袈裟にため息をついた。それからウールの方に手を伸ばす。ウールがその手のひらにアナザーアマゾンネオのウォッチを渡してみれば、すぐに彼はそれを起動した。
「……意見は求めん」カチッ
『ネオ──!!』
直後。その手は、千翼の体の中に突き入れられていた。千翼の体内で起動したアナザーアマゾンネオのウォッチが駆動する。彼の体を、痛みと熱と電撃が駆け巡った。スウォルツが手を引き抜けば、支えをなくした千翼は地面に崩れ落ちる。
「っ……ぐぁっ……!!」
そして。
「█ああ██ぁ█あ█っ!!」
『ネオ!!』
その体は黒い血潮にまみれ、歪み、アナザーアマゾンネオへと変質した。
「█ぁ……███ぁ……っ!!」
そしてアナザーアマゾンネオは立ち上がる。時折ノイズが走って、本来のアマゾンネオの姿をちらちらと覗かせるそれは、しかし最早かつての仮面ライダーに非ず。
アナザーライダーは吠え声と共に廃墟の壁を打ち壊し、外の世界へと転がり出た。
壁に開いた穴を見つめて、オーラが軽く首を竦めた。
「……大丈夫なの?」
「あの怪物は止まらない。何故なら、あれを駆り立てているのは生存本能だからだ。生きるため、目に映る敵を排除する。生きるため、仲間を殖やす。そういう存在に、今、した」
バラバラと壁が崩れていく。砂ぼこりが少しだけ舞い上がって、煙った光の向こうから悲鳴が聞こえてきた。
「さて」
それから、スウォルツは向き直る。
手には、アルコールの入ったボトルが握られていた。
「二人とも、しっかりアルコール消毒をしておくように」
「……はいはい」
───
「やっと片付いたよ……疲れたぁ」
「そうだな」
突如発生したアマゾンの群れ。それを倒し終えたジオウらは、変身を解いて人のいなくなった保育園の壁に身を預けていた。まだ荒い息を落ち着かせ、何となく彩度が落ちたような気がする空を見上げれば、何となくやるせない気分になった。
「ねぇ仁。あれが、アマゾンなんだよね、仁が作った」
「そうだ……いや、あれに関しては、ちょっと違うだろうが」
「どういうことだ」
「千翼のアマゾン細胞は感染する。あれの近くにいた奴らが皆感染して、アマゾンになっちまったのが、あのアマゾンだろう」
仁はそう言った。保育園のベンチに掛けた彼は、その横にアナザーライダーの変身者だった女性を横たえて、膝に乗せたその頭をゆっくりと撫でていた。
アマゾン細胞の感染。ソウゴはその言葉を噛み締める。ゲイツも、ツクヨミもまたそうしていた。まさか仁が嘘をついている訳もあるまい。となるとあのアマゾンは。ソウゴの頭に公園ではしゃいでいた子供たちと、それを見守っていた保母が過った。
「じゃあ、さっきのアマゾンは……」
「そういうこと、だろうね。……早くアナザーライダーを倒さなきゃ」
アナザーライダーを倒す。そして、アナザーライダーがいた歴史をなかったことにする。そうすることだけが、あの子供達を救う唯一の手立てだった。
ゲイツは何度も、仁の膝で倒れている女性に目をやっていた。確実に、仁と何かがあった人間だろう。タイムジャッカーがわざと関係者を狙ったということか。気になって、声をかけた。
「それにしても、そいつは誰なんだ?」
「……千翼の、母さんだよ」
「千翼くんの?」
泉七羽。そういう名前だと、仁は言った。 鷹山七羽ではなかった。
「いいお母さんになるって、言ってたのにな」
仁は寂しげに呟いて、七羽の頬をなぞっていた。
千翼。彼女の息子は、本来の歴史において仁に殺されている。仁がそう言っている。復活した千翼の態度もそう言っていた。だが今、仁の声は震えていた。
「俺も、いいお父さんに、なれなかったな」
「……なりたかったの?」
「……なれないって、頭では分かってるんだけどなぁ」
ツクヨミが問えば、窶れた男はそう返した。
いい父親。ソウゴはそれがわからない。わからないけれども、でも、息子を殺す父親がいい父親ではないことは少なくとも確信できた。
仁は、アマゾンを殺すためにアマゾンになった。そうまでして、彼は自分の産み出した者を殺したかった。実際に彼は、それの為に生き、それの為に死んだ。
ゲイツは分からなかった。仁がアマゾンを、どう思っているのか。
「アマゾンが憎くはなかったのか。お前の息子を、お前は憎んでいなかったのか」
「まさか」
仁は一言で、ゲイツの問いを否定した。
そして彼は空を見上げた。くすんだ灰色の空に、灰色の雲が流れている。
「言ったはずだ。アマゾン細胞の生成に成功して、俺は本当に嬉しかった。試験管の中のそいつらが可愛かった。それに……千翼が、俺と七羽さんの子供で、本当に嬉しかった。あいつが俺と戦って、生きると宣言したとき、嬉しかった。……嬉しかったさ」
「……嬉しいのに、殺すのか」
「ああ。嬉しかったから……俺は、俺の大好きなあいつらを、連れていかなきゃいけなかったんだ。……天国に。誰かを、これ以上傷つけさせないために。それが、俺があいつらにしてやれる、唯一のことだったんだ。それだけが……ああ、酷い親だなぁ」
「そんなことないよ」
そう言ったのはソウゴだった。
仁が空を仰ぐのをやめて顔をそちらに向ければ、ソウゴはニコニコと笑っていた。
「まだやり直せるよ、お父さん」
「……?」
「仁が望むなら。俺が、仁と、千翼くんを、親子にしてみせる」
仁は、何も言えなかった。呆然としていたのだ。目の前の青年の、突拍子のないその言葉に。
今さら親子になる? 出来るわけがない。あり得ない。そんなことは、絶対に起こり得ない。父親は息子を殺して、息子は父親と闘うと決めたのだから。
だがソウゴは、仁の顔なんて気にしなかった。言葉は挟ませないと言わんばかりにまた口を開く。
「俺、王様になるのが夢なんだ。王様なら、民を皆幸せにしなくちゃね」
また突拍子のない言葉だった。
今度は王になるのが夢と来た。仁はもう、怒ればいいのか、笑えばいいのか、分からなくなっていた。何故だか、涙が出た。涙が溢れて、止まらなくなった。
「……そっかあ」
かすれた声が、喉から漏れる。
「聞いたか七羽さん、王様だってよ。王様が、俺達を家族にしてくれるんだとさ。面白いよなぁ、バッカみたいでなぁ」
頬を涙が伝っていった。ポタポタと、服に染みを作った。仁は泣いていて、しかし口元はすっかり笑っていた。
「でも、王様なら、七羽さん、幸せにできるかもなぁ」
遠くから悲鳴が聞こえてきたのは、その呟きと同時だった。
ソウゴ達は顔を見合わせ、すぐに立ち上がる。保育園の玄関口まで出てきてみれば、よたよたと歩きながら手当たり次第に街道を壊しているアナザーアマゾンネオがいた。
「█ぁ██ █ ██っ!!」
いや。
その姿は時々掠れては、さっき一瞬見た仮面ライダーアマゾンネオになって、また元に戻っているのだ。ただのアナザーライダーではない。
「……これ、アナザーライダー?」
「いや……どうやら、あれは本物のアマゾンネオにアナザーアマゾンネオのウォッチを無理やり使った状態らしいね、我が魔王。説得は聞こえないだろう」
ウォズがそう言った。変身者本人のアナザーライダー。どれだけ強いかは未知数だ……だが、話が出来るほどの理性もないらしい。
「どうするジオウ」
「とりあえず倒すよ。それから、説得する!!」
『ジオウ!!』
『ディケイド!!』
ソウゴは既に、ジクウドライバーを装着していた。そして片側にジオウ、片側にディケイドのライドウォッチを装填する。
ゲイツもその横でゲイツとファイズのウォッチを取り出して、ドライバーに装填する。
「分かった」
『ゲイツ!!』
『ファイズ!!』
「「変身!!」」
空にいくつか、文字が踊った。それは暴れていたアナザーアマゾンネオの体にぶつかり、それからジオウとゲイツ各々の顔に合体する。
ジオウディケイドアーマーと、ゲイツファイズアーマー。二人の仮面ライダーが、アナザーライダーと交戦を開始した。
それを見ながら、仁もまた立ち上がった。アマゾンズドライバーを装着し、グリップを捻る。
『ALPHA』
「アマゾン」
熱と共に、三人のライダーが大地を駆ける。ジオウはライドヘイセイバーを握り、ゲイツはファイズショットを握り、そしてアマゾンアルファは拳を握っていた。
アマゾンアルファが、一気にアナザーライダーに距離を詰めた。合わせてジオウが剣を突き付け動きを封じる。そして、ゲイツが背中から飛びかかった。
決まるか、と一瞬思った。
だがそれと同時にアナザーアマゾンネオは体の全身から熱と共に、鋭く針を伸ばした。急速に飛び出したそれは辺りを凪ぎはらって、ゲイツも、アマゾンアルファとジオウも吹き飛ばす。
「█████!!」
「っあ……!!」
ゲイツのファイズライドウォッチがドライバーから弾き出されて、あらぬ方向へと飛んでいった。手首からはウィザードライドウォッチが取れて、ジオウの足元まで転がっていく。
ゲイツと同じように転がっていたジオウは、それを拾い上げてディケイドウォッチのスロットに装填する。
『ファイナルフォームタイム!! ウィウィウィウィザード!!』
その音声と共に、ジオウの体を炎が包んだ。肩には『フレイムドラゴン』の文字が浮かび上がり、ライドヘイセイバーが唸りを上げる。一度剣を振ってみれば、それだけで炎の鎖が飛び出してアナザーアマゾンネオを縛り上げた。
アマゾンアルファはまだまだ平気なようで、とっくに立ち上がって身構えていた。
ゲイツも立ち上がる。三人で、アナザーアマゾンネオを取り囲む。
ファイズウォッチはなく。ウィザードウォッチもなく。……次に彼が掴んだのは。
「それなら……!!」
『クローズ!!』
クローズのライドウォッチ。
迷いなくそれを手にしたゲイツは、すぐにジクウドライバーに装填した。そして、ドライバーを回転させる。
「使ってみるか」
『アーマータイム!!』
『仮面ライダーゲイツ!!』
『Wake up burning!! クローズ!!』
一瞬、青い装甲がゲイツの隣に並び立ってですすぐに彼の体に合体した。赤を青で多い尽くした彼は拳を握り、エネルギー渦巻く拳を未だ動けないアナザーアマゾンネオに叩きつけた。
「はあっ!!」グシャッ
「█ぁ█……█っ ██!?」
そして殴られた相手が大きくよろめいたところを、ジオウが炎を纏った剣で切り裂き、アマゾンアルファが首筋を引き裂く。
今ならやれる。ゲイツは再びその拳に焔を纏わせ、アナザーアマゾンネオの胸ぐら、その装甲の隙間に狙いを定めた。そして、ドライバーを回転させる。
「これで決める!!」
『ドラゴニック!!』
『タイムバースト!!』
一歩。二歩。大地を踏み切り、拳を上に突き出す。ジオウに背中を抑えられ動きを封じられたアナザーアマゾンネオのその体を、ゲイツのアッパーの一撃が吹き飛ばした。
「██……█!!」
空中に打ち上げられて、重力に引かれて墜落して。そして。アナザーアマゾンネオは、青い炎の中爆発する。爆心地の近辺は吹き飛ばされ、瓦礫の山と化して。
その跡に、千翼が倒れていた。
ジオウが変身を解きながら彼に近づき、抱き起こす。
「聞こえるかい、聞こえるかい千翼くん」ユサユサ
「……嫌だ」
最初に聞こえたのは、拒絶であった。
「俺は生きたい」
そしてそれは決意であった。
「どれだけ沢山、辛い目に合っても。どれだけ沢山、苦しむとしても……それでも、俺は生きたい。この世界で生きたいんだ!!」
ソウゴはそれを聞いて微笑んでいた。彼の決意は、遂げられる。
「君は生きていていい」
「──え?」
ソウゴが返したその言葉に、千翼は目を見開いていた。その言葉をずっと求めていたはずなのに、いざ言われると信じられなくて、到底受け入れられないもののように思えた。千翼が上を見上げれば、ソウゴはまだ笑っていた。瞳に嘘は見えなかった。
「君はもう、死ななくてもいいんだ」
「──」
「俺が君の、苦しかった歴史を背負う。そうしたら、君は。お父さんと、お母さんと。幸せになってもいいんだ。……そうでしょ、仁」
そう言って、不意にソウゴは振り向いた。……千翼の父親、鷹山仁がそこにいた。千翼は反射的に身を強張らせて──でも、ソウゴの腕に身を預けた。仁が膝をついて、千翼に視線を合わせる。
「……お父、さん?」
仁が手を伸ばした。伸ばした指が、千翼の頬に触れた。傷だらけの手のひらが彼の頬を包んで、親指が彼の涙を拭った。
「俺はお前が、大好きだ」
「……へっ」
「やっぱり、七羽さんそっくりだ」
千翼はもう、笑えばいいのか、泣けばいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃで分からなくなっていた。変な声が漏れて、体が熱くなっていた。でも胸のそこには確かに安心があった。人間の温かさを、胸の中に覚えていた。
彼は人間だった。
千翼の胸から、ライドウォッチがこぼれ落ちた。アナザーアマゾンネオではなく、仮面ライダーアマゾンネオのライドウォッチだった。ソウゴはそれを拾い上げる。
「これを。俺に預けてほしい」
「……うん」
千翼は静かに頷いた。
ソウゴは立ち上がる。紫色の夕暮れ空に孔が空いて、タイムマジーンが飛び出してきた。
『タイムマジーン!!』
「俺はアナザーライダーを倒してくる。もしかしたらまだアマゾンがいるかもしれない、ゲイツはそっちを見てくれないかな」
「……分かった」
ゲイツは何となく不満げにそう言った。自分もついて行こうと言おうかと思ったが、ソウゴの目を見るとそう言う気にもなれなかった。
ソウゴはタイムマジーンのハッチを開いて、操縦席に乗り込んで、それから声を上げる。
「お父さん」
……仁が、ゆっくりと、それに振り向いた。彼としては自分が父だとはまだ思えなかったが、それでも父親は、この場には一人しかいなかった。ソウゴは自分に振り向いた一人の父親に微笑みかけて、手を伸ばす。
「……なんだ」
「最後まで、手伝ってよ」
───
──
─
─2017─
ソウゴと仁、2017年の大地に立つ。降り立ったそこは、荒れ果てた公園のようであった。遠くの方に古ぼけた建物が見えて、近くにあるのはただ広い荒れ地だけだった。
その真ん中に、アナザーアマゾンネオがいた。隣にはスウォルツが腕を組んで立っていたが、何かをするという様子でもなさげだった。
「███ ████!!」
「……来たか」
「退いてよ。今用があるのはそっちなんだ」
「そのつもりだ」
ソウゴの一言で、スウォルツは歩き去っていく。背を向けて、一度も振り返ることなく。ソウゴはそれに違和感を覚えないでもなかったが、それよりもアナザーアマゾンネオが優先だった。
「……あれが、千翼くんのお母さんなんだよね」
「そうだな」
「じゃ、仁のお嫁さんか」
「……お嫁さんなぁ……そうだな。お嫁さん、かぁ!!」
ドライバーを巻く音が二つ。一人の高校生と、一人の大人。舞台は死地。少しでも油断すればアナザーアマゾンネオの爪の餌食。それでも二人は、何となく笑っていて、胸の奥底の希望を信じていた。
「█████!!」
「行くよ、お父さん」
『ジオウ!!』
「……分かった」
『ALPHA』
二人のライダー。異なった時代を、異なった歴史を歩んだライダー。その二人が、共に声を上げた。
「変身!!」
「アマゾン!!」
その声が、大地を揺らした。
『仮面ライダー!! ジオウ!!』
『Blood&Wild!! W-W-W-Wild!!』
仮面ライダー、アマゾンアルファ。先に飛び出したのはそちらだった。大きく飛び上がってアナザーアマゾンネオを斬りつけ、突き飛ばした。アナザーライダーもそれに抵抗し、アマゾンとアマゾンが取っ組み合う。
そしてその中に飛び込みながら、ジオウは手の中、青いライドウォッチを起動していた。
『ネオ!!』
アマゾンネオライドウォッチ。千翼から預かったもの。彼の歴史。ジオウはそれをドライバーに挿し込んで、大きく回して。
『アーマータイム!!』
それと共に、ジオウの横にもう一つ、駆ける影が現れた。その影は分解し、ジオウの体を守る鎧に変化する。
『仮面ライダー!! ジオウ!!』
『NEO──ネオ!!』
その姿の名は。
「祝え!!」
「うわっ、来てたんだウォズ」
「全てのライダーの力を受け継ぎ、時空を越え過去と未来をしろしめす時の王者!! その名も仮面ライダージオウアマゾンネオアーマー!! まさに生誕の瞬間である!!」
アマゾンネオアーマー。
「とにかく!! ……なんか行ける気がする!!」
そしてジオウは飛び込んだ。アマゾンアルファとアナザーアマゾンネオのその間へと。暴れまわるアナザーアマゾンネオの胸ぐらに飛びかかって、腕に生えた刃で乱雑に斬りつけた。
「はあっ!!」ザンッ
「███!!」
アナザーライダーも苦しみながら同じように攻撃してきたが、アマゾンネオの装甲がそれを阻んだ。二人のアマゾンネオは大地を転がって、ジオウがアナザーライダーを蹴り上げる。
そこに、飛び上がっていたアマゾンアルファが足裏を叩き込んだ。大きく吹き飛ばされるアナザーアマゾンネオ。もう動きも大分鈍くなっていた。
「そろそろだな。決めるぞ」
「うん!! ……これでとどめだ!!」
ジオウがドライバーに手をかけて、回転させる。そしてアマゾンアルファはそれに合わせてドライバーのグリップを捻った。
『アマゾン!!』
『タイムブレーク!!』
『VIOLENT STRIKE』
二人は、同時に腰を落として。
同時に地面を蹴って、空に飛び上がり。
その脚を突きだした。
「「はああああああっ!!」」
「█ █ ███ ██!!」
二人のライダーのキックが、アナザーアマゾンネオの胸の上をしっかりと捉えていた。踵が肉に突き刺さって、骨まで捉えて離さなかった。赤と青の仮面ライダーは叫びながらさらに脚に力を込めて。
そして、アナザーライダーを貫いた。
一つ、大きな爆発があった。
その爆発跡に、泉七羽が倒れ込んで。アナザーアマゾンネオのウォッチが飛び出して、音をたてて砕けた。
「……これで、終わったよ」
変身を解いて、ソウゴは言った。アマゾンアルファは倒れている七羽を抱き上げながら変身を解いて、ソウゴの言葉に頷いた。
「もう、アマゾンだった千翼くんはいなかったことになったから」
「……そうか」
遠くの方で、建物に微妙にノイズが走っていた。七羽の体にもまた、小さくノイズが走っていた。アマゾンネオの歴史が、書き変わりつつあった。なんだか、世界が鮮やかさを取り戻したような気さえした。
「ああ、そうだ」
「ん?」
しばらく空を見上げていた仁が、唐突にソウゴに声をかけた。ソウゴがその顔に目を向ければ、今までで一番、穏やかな笑顔があった。
「行って欲しい場所がある」
─
──
───
─2018─
「……それで? それを手にいれたのか」
「うん」
そう言うソウゴの両手には、一つずつウォッチが握られていた。
片方は赤、そして片方は緑。2016、と数字が刻まれていた。
「……アマゾンアルファのウォッチと……アマゾンオメガのウォッチ、か」
「2016年で作ってくれって、仁に頼まれたから」
「……そうか」
もう、日はとっぷりと暮れていた。空の雲は皆押し流されて、もうそこには月と星だけがあった。
「その仁はどこに行ったの?」
「……もう、あの仁はいないよ。一人で戦ってきた仁の歴史は、俺がもう預かったから」
ソウゴはそう言いながら、二つのウォッチをポケットに仕舞い込んだ。もう既に入っていたネオのウォッチと少し擦れて、カチカチと音が立った。
ソウゴ、ゲイツ、ツクヨミは互いに顔を見合わせて、それから、誰からともなく家路を歩き始めた。
途中、一組の親子とすれ違った。
赤ん坊を抱っこした父親と、空のベビーカーを押す母親が並んで、薄闇の中歩いていた。黙っていたが、笑っていた。見覚えのある顔だった気がしたが、誰も声をかけなかった。
「これからは、家族の歴史を作るんだ」
空を仰げば、星は思ったよりも近くにあった。
流れ星がいくつか降ってきていた。
次回、仮面ライダージオウ!!
「お前は誰だ」
「左翔太郎。……探偵だ」
──アナザーW襲来!!
「半分こ怪人?」
「なんで工場ばかりを襲っているんだろう」
「強くなければ、生きていけない!!」
──キーワードは、家族?
「初めまして。園崎、来人です」
「我々は、いつか星に選ばれる家族だ」
「家族……」
『オーとたんてい/2019』