例えばこんなレジェンド回   作:初手降参

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時系列
シノビ編とクイズ編の間のつもり


W編
オーとたんてい/2019


 

そこは研究室だった。辺りの台には乱雑に薬品の瓶が並び、ビーカーの中の液体が吹きこぼれていた。全く、そこは静かであった。生気のない部屋であった。

とはいえ、別に人がいないという訳でもなかった。部屋の真ん中に持ってこられたモニターに、人々の目は集まっていた。

 

 

『さて、明けましておめでとう諸君。今日からまた、頑張ってくれたまえ』

 

「「「「「はい……」」」」」

 

 

研究員は皆正月ボケしていたのだった。

 

 

『ふむ。……随分、年末年始に生活リズムを崩したように見える』

 

「申し訳ありません……」

 

 

モニターの中に映っているのは、小さなサングラスをした老人だった。膝に猫を座らせて、ちょっと困ったような含み笑いをしていた。

研究員達はまだ寝ぼけている頭をその、画面の中の老人に下げながらしぱしぱとする目を擦った。

 

研究室の外側から爆発音がしたのは、その時だった。

 

随分、大きな音だった。研究室の床が少し揺れる程度には衝撃もあった。研究員らは顔を青くして互いに互いを見つめあう。

 

 

『……まさか、設備の点検を忘れていた、という訳じゃあないだろうね?』

 

「い、いえ!! そんなことは……な?」

 

「お、おう……」

 

 

気まずい沈黙が、しばらく流れた。室内の面々は神妙な顔をして、誰も彼も脚が震えていて。しかし様子を見に行かなければ何も始まらない。

まず一人が、ドアの方に近づいていった。ドアノブに手をかけた。

 

その瞬間、鉄のドアは熱と共に爆発した。

 

 

───

 

 

 

 

 

「ああおはようソウゴ君」

 

「おはよーおじさん」

 

「あ、ゲイツ君なら散歩に行ったよ」

 

「うんー」

 

 

寒い朝だった。まだ年も明けたばかり、ソウゴは眠いのを隠すこともなく食卓に向かい、一口コーヒーを啜り始める。

そんなソウゴの隣に、ツクヨミが身を寄せた。手にはタブレット。彼女はそれに何かを映し出していて、ソウゴに差し出してそれを見せる。

 

 

「あ、おはようツクヨミ」

 

「ソウゴ、これ見て」

 

「ん?」

 

 

……そこには、今朝の新聞記事が載っていた。

『科学工場謎の爆発、何者かの工作か』そんな文字が踊っていた。文面を読めば、とある科学工場の燃料タンクが破壊され、会社が全焼したらしい。また研究員の証言によると、謎の怪人が設備を破壊していたようだった。

 

 

「……明らかに怪しいわよね」

 

「そうだね。アナザーライダーかな」

 

 

謎の怪人。怪しかった。多分それはアナザーライダーで、どうにかしなければならないだろうものだった。ソウゴとツクヨミが顔を見合わせる。

 

 

「とりあえず、事件現場をあたってみよう。工場の場所は?」

 

「……風都、だって」

 

 

 

 

風都。その名の通り風の街。遠くに望む風都タワーなる建物をはじめ至るところで風車が回り、カラカラと音を立てていた。

 

その風都の一角に鎮座する焼け落ちた工場は、とっくに鎮火されたはずなのに、何か変な臭いがした。ソウゴとツクヨミが工場の中を覗き込めば、スーツの男と私服の男が一人ずつ、燃料タンクらしき跡を観察しているのが目についた。

 

 

「うーん、これは、中々……」

 

 

二人が近づいても、私服の方は気にも止めず、いや気づかずにタンクの傷をなぞっていた。スーツの方が、二人に向き直る。

 

 

「どうしました?」

 

「あっ、あの!! ちょっと、いいでしょうか」

 

「俺達、アナザーライダー……あいや、ここの工場を襲った怪人? について調べてて。何か、知っていることはありますか」

 

 

そのスーツの男にソウゴが問えば、先に私服の方が彼らに向き直って答えた。

 

 

「怪人か。興味深いよ、あれは。なんでも体が右と左で色の違う、半分こ怪人らしい」

 

「……半分こ怪人?」

 

「ああ」

 

 

どことなく笑みを含んだ緑の私服の青年がそう頷く横で、スーツの方も口を開く。いかにも苦々しげな顔をして、彼は冷や汗を拭っていた。

 

 

「ふざけた名前だが、なめちゃいけない。……恥ずかしいことだが、その半分こ怪人に工場が襲われたのはこれが初めてでもないんだよ。以前は強盗紛いのことをされた」

 

「他の工場も?」

 

「ああ。もちろん警備は厳重にしたとも。だがこの有り様だ。……出来るものなら、あの半分こ怪人を真っ二つに割ってやりたいよ」

 

「……貴方は、この工場の持ち主なんですか?」

 

 

ツクヨミがそう声をかけると、スーツの男は少し迷うような顔をして、それから言った。

 

 

「ああ、名乗るのを忘れていたね。私はディガルコーポレーションの、園咲霧彦。ここを含めたいくつかの工場の統括をしているんだ。で、彼が」

 

「初めまして。園咲来人です」

 

 

ディガルコーポレーション。そういう名前の会社だったらしい。ツクヨミがタブレットで調べてみれば、いくつかのサイトが浮かび上がってきた。

 

 

「ディガルコーポレーション……」

 

 

公式サイトを開いてみれば、いくつかの情報が流れてくる。ディガルコーポレーション。IT事業を売りにしながら化学事業にも熱心であり、かつ文化事業にも力を尽くす──そんな紹介だった。

そしてその下に、風都内のいくつもの工場の地図が載せられていた。

 

 

───

 

 

そのディガルコーポレーションの工場の一つの前に、なぜかゲイツはやって来ていた。どうしてそこに自分がいるのか、ゲイツ自身もよく分かっていない。気づけば、そこにいたのであった。

しかし、何故かを考える暇はなかった。目の前に、アナザーライダーらしき怪人が出てきたからだ。右側はくすんだ緑色、もう片方は黒色の体をしたそのアナザーライダーは工場の方ばかりを向いていて、明らかになにかをしようと企んでいる感じであった。

 

 

「……アナザーライダー!!」

 

『ゲイツ!!』

 

 

当然、アナザーライダーを放置するゲイツではない。彼はジクウドライバーを腰に装着しながらウォッチを起動、変身と共にアナザーライダーに飛びかかる。

 

 

『ライダータイム!!』

 

『仮面ライダーゲイツ!!』

 

 

パンチを一撃。無抵抗な背中を殴られたアナザーライダーは大きく前に突き飛ばされて、すぐに起き上がってゲイツを見た。酷くうろたえている様子だった。

 

 

「なんだ、なんだお前は!!」

 

「わざわざ説明する気はない」

 

『ジカンザックス!! おの!!』

 

 

隙を逃さず続けて攻撃。手元に呼び出した斧でアナザーライダーを上から斬りつける。何度も、何度も振り下ろせば、アナザーライダーは呻きながら背を丸めて。

そしてその背中から、唐突に鉄の棒が飛び出した。一瞬で伸びたそれはゲイツの肩を鋭く突き、大きく吹き飛ばす。

 

 

「ぐはっ……隠し武器という訳か」

 

「っあ……はぁ、はぁ……!!」

 

 

もう一度ゲイツがアナザーライダーを見てみれば、その手には歪んだ長い棒が握られていた。心なしか、体の半分、黒かったところが錆びた鉄のように変色していた。

そして鉄棒を振り回しながら、アナザーライダーはゲイツへと迫っていく。風を纏ったその得物を体で受ければただでは済むまい、ゲイツもまたジカンザックスを握り締め応戦の体勢に入る。

 

ガン、ガンと、鉄の打ち合う音が響いた。火花が飛び散り、風の中に溶けていく。速さという点においては、アナザーライダーが上回っていた。上から叩きつけられた鋼鉄が、ゲイツの斧を押さえつける。

 

 

「なら威力を上げるまで!!」

 

『ザックリ割り!!』

 

 

だがゲイツは、その棒ごとアナザーライダーを上に突き飛ばした。さらに続けて腹にも一撃を加え、アナザーライダーから距離を取る。

手から武器を取り落としたアナザーライダーはよろけながら後退り、近くの壁に背をつける。……ゲイツはそれと同時に、アナザーライダーの右目、くすんだ緑色の目が点滅するのに気がついた。それと共に。

 

 

「──うるせぇ!! うるせぇ!! こんなやつ、こんなやつ殺してやる!! 殺してやるさ!!」

 

「お前、誰と話してるんだ!? タイムジャッカーか!?」

 

「黙れ、黙れ、黙れ!! 強くなれなきゃぁ……強くなければ、生きていけない!!」

 

 

それと共に、アナザーライダーは唐突に激昂した、ように見えた。

力なく身をもたれていた壁から飛び出してきたそれの左半身は、今度は濁った青色に変色する。その時には、アナザーライダーの手には一丁の銃が握られていた。ゲイツが反応するよりも早くその引き金は引かれ、弾丸がゲイツの体に着弾する。

 

 

「っ──!!」

 

 

一発、二発、三発、四発。

一陣の風が如く突き刺さるそれを回避することも敵わず、大きく吹き飛ばされた彼の変身は溶けていた。地面に転がる生身のゲイツに、再び鉄棒を手にしたアナザーライダーが迫っていく。

そして、アナザーライダーがその手の得物を振り上げて。

 

 

「──おりゃああっ!!」

 

ゲシッ

 

 

不意に、何者かの脚がアナザーライダーの脇腹を蹴り飛ばした。

 

大きく横に転がされるアナザーライダー。呆然とそれを目で追っていくゲイツの目の前に、一つ手が差し出される。視線を上げれば、黒い中折れ帽が目についた。パシャパシャと、カメラのシャッターが下りる音がしていた。

 

 

「大丈夫かボーイ?」

 

「……誰だお前は?」

 

「左翔太郎……探偵だ。……立てるか?」

 

 

そう名乗った男に起こされて、ゲイツは再び立ち上がる。アナザーライダーは既に立ち上がっていて、ゲイツと翔太郎の姿を見比べていた。

 

また、アナザーライダーの右目が赤く点滅した。

その瞬間。

 

 

『ヤリスギィ!!』

 

 

斬撃音。アナザーライダーの背後に、いつの間にか仮面ライダーウォズが立っていた。

 

 

「やぁ我が救世主、随分な格好じゃないか」

 

「白ウォズ……」

 

「私が君をアナザーWとわざわざ引き合わせたと言うのに」

 

 

そう言いながらウォズは手の槍を振り回し、ろくに動けずにいるアナザーライダー──アナザーWの背を斬りつける。ゲイツと翔太郎はその様子をしばらく見つめてから、互いの目を見合わせた。

 

 

「……誰だアイツ。知り合いか?」

 

「俺もよく知らん」

 

「……とにかくここは引くか。行くぞ」

 

「あ、ああ」

 

 

そして二人はその場を後にする。それを見送りながら、ウォズはそのドライバーにミライドウォッチをセットした。まだ、アナザーWはよろけている。

 

 

『フューチャーリングシノビ!! シノビ!!』

 

『ジカンデスピア!! カマシスギ!!』

 

「とどめといこう」

 

「っあ……あっ……あ!!」

 

 

今ならいける。ウォズはそう確信していた。ジカンデスピアをスワイプし、刃に風を纏わせる。腰を少し下げて、狙いを定めた。

 

 

『イチゲキカマーン!!』

 

 

そして、ウォズはその鎌を振りかぶって。

 

──刹那。ウォズとアナザーWのその間に、不意に光が炸裂した。

 

 

───

 

 

 

 

 

「え、マジっすか? ここタダでメシ食えるんすか!! はっはあ一食分浮いたぜ、ありがとなボーイ」

 

「その呼び方はやめろ」

 

 

それからしばらくして。

クジゴジ堂に戻ったソウゴとツクヨミが目にしたのは、何となく疲れた感じのゲイツと、ウキウキした様子で食卓についている一人の男であった。

 

 

「ゲイツ、誰? この人」

 

「……危ないところを、助けられた」

 

 

既に、ゲイツがアナザーライダーと交戦したことは聞いていた。誰かに助けられたらしいことも。しかし、どうやらその誰かは彼らしい。今、食卓に並んだ和食を幸せそうに頬張っているこの男。三人は顔を見合わせる。その三つの視線の先で、男は携帯を取り出していた。

 

 

「あもしもし相棒? 今さ、スゲー旨い上にタダのレストラン来てるんだよ!! お前の分もあるらしいぞ!! え、詐欺? まっさかぁ」

 

 

「……ほんとに、この人に?」

 

「ああ。なんか、納得いかんがな」

 

「いい人そうではあるけど……」

 

 

「とにかく早く来いよ、クジゴジ堂ってとこだ。地図送っとくから。じゃ切るぞ。……あ、おかわり貰えますか?」

 

「はーい!! ……うち、時計屋なんだけどなぁ……」

 

 

そして、また食事に戻る。

 

 

「今回は、アナザーWが出現したようだね」

 

「……ああ、黒ウォズ」

 

 

声をかける気にもなれずただその食事を見つめる三人の横に、いつの間にか黒い方のウォズが並び立っていた。彼もまた、やはり翔太郎を眺めていた。

 

 

「アナザーW?」

 

「……そういえば、白ウォズもそう言っていたな。なら、今回手に入れるべきはWのウォッチか」

 

「そうだ。……仮面ライダーW。2009年に活躍し、風都を守った二人で一人の仮面ライダー」

 

「二人で一人……」

 

 

ライドウォッチを手にいれるには、やはりWの関係者を当たるのが一番だろう。ツクヨミがソウゴとゲイツの方に目をやれば、二人も静かに頷いている。風都。そこに鍵がある。

 

それと同時に、またクジゴジ堂の扉が開けられた。

 

 

ガラガラッ

 

「やぁ翔太郎。ここがそのクジゴジ堂かい?」

 

「おう早かったな来人」

 

「すぐそこまで来てたんだ」

 

 

翔太郎の反応からするに、どうやら今入ってきた彼がその相棒らしい。自然とソウゴらの目も新たな食客の方に吸い寄せられて。……ソウゴとツクヨミは、その背格好に見覚えがあった。というか、その姿とさっきまで会っていたのだ。

 

 

「「あーっ!!」」

 

「……さっきぶりだねぇ。君達もお食事かい?」

 

 

園咲来人が、そこにいた。

 

 

 

それから五分。

 

 

「な? 旨いだろ? タダだぜこれ」モキュモキュ

 

「うん、美味しい……ここのシェフはどこで修行してたんだい?」モキュモキュ

 

「はははー、時計の修行しかしてないんだけどなー……あ、そうだ、折角だからあれも出そっかな」

 

 

並んで食卓についた翔太郎と来人を、ソウゴらはやはり眺めていた。何となく話しかけづらかったのだ。だが、ただ眺めているだけでは埒が開かないのもまた事実。順一郎が席を外したタイミングで、ゲイツとソウゴが二人の向かいに座る。

 

 

「おい」

 

「ん? なんだボーイ」

 

 

声をかけてみれば、二人の客は全く同時に顔を上げた。ちょっと面食らいながら、ゲイツが続ける。

 

 

「……さっき、お前はそこの……」

 

「園咲来人」

 

「そうだな、園咲来人を相棒と言っていたな。あれはどういう意味だ」

 

 

そこまで聞いたところで、翔太郎は目を細めていた。どことなく自慢気な顔をして、ゲイツに左の人差し指を伸ばす。そうしながら、右手でやはり食卓のおかずに箸をつけていた。

 

 

「そりゃ言葉通りの意味に決まってるだろ。相棒だよ相棒。二人で探偵やってんだ」

 

「へー、俺探偵なんて初めて見た」

 

 

ソウゴが感心しているその横で、ツクヨミは一つ疑問を抱いていた。二人で探偵をしているのなら、何故さっき来人の方はディガルにいたのだろう。隣のスーツの男と同じ名字だったのはどういうことだろう、と。

 

 

「さっき、工場にいましたよね? ディガルの社員とかじゃないんですか?」

 

「ああ。ディガルは、僕の姉さんの会社さ。それが怪物に襲われたから、義兄さんに調査の依頼を受けたのさ。さっき君も会っただろう?」

 

 

だがその疑念は、来人にしてみれば特に大したものでもないらしく淡々と返された。あれは家族だったのだと。

 

 

「お姉さんが、会社を経営してるんですか」

 

「それならお前も入ったほうが良かったんじゃないか? その会社」

 

「まさか。僕の相棒は翔太郎だけさ」

 

「ああ。俺達は、二人で一人の探偵だからな」

 

「──ッ!!」

 

 

その一言で。

 

その一言でソウゴは悟った。ゲイツも、ツクヨミも同じだった。

彼が──いや、彼等が正史における仮面ライダーWだったのだ。

 

 

「さて、今回の依頼は半分こ怪人の調査だ。翔太郎、僕の予測は合っていたかい?」

 

「ああ。バッチリ合ってたぜ。奴はお前の言っていた通りの工場に現れた。これが写真だ」

 

 

左翔太郎と園咲来人。二人で一人の探偵で、仮面ライダーWだったもの。その手の中に、アナザーWの写真が握られている。

覗き込めば、まさしく半分こ怪人としか言い様のない姿があった。禍々しいその背格好はいかにもアナザーライダー然としていて、ソウゴは一つため息をついた。

 

 

「これが半分こ怪人……アナザーW」

 

「なんだその名前?」

 

「いや、こっちの話。でさ、探偵さんなら、この怪人が誰なのか、とかも探してるの?」

 

 

それに続けて、そう問った。アナザーWの起こした事件の犯人は、誰か。

答えはそんなに気にしてはいなかった。そもそもアナザーライダーという概念も、それには変身者がいるのだということも、彼らは知らない筈なのだから。

だが。

 

 

「もちろんさ。既に容疑者は絞れている。簡単にセキュリティを突破し、ディガルに何か恨みがある人物。それだけで選択肢は多くない」

 

「この男だ。元ディガルコーポレーション研究職、増木礼太」

 

 

返事は、机の上に置かれた一枚の写真であった。

 

 

───

 

 

「あのアナザーライダー、どんな調子?」

 

 

風都タワーは、何時ものようにぐるぐると回っていた。

その風都のタワーのプロペラの近くに腰かけていたウールが、下の方で街を見下ろしているオーラに声をかける。オーラは一度面倒くさそうにウールを見上げてから、ため息混じりに呟いた。

 

 

「さあ。なんかこっちの言うことも聞かないし、勝手にフラフラするし……王になるって感じはしないわね」

 

「ボク達の作る王いつもそんな感じじゃないかい?」

 

「言えてる」

 

 

風が吹いた。見下ろす街の日常は全く平穏で、アナザーライダーという脅威の気配なんて微塵も感じさせなかった。

 

 

「で、今アナザーWはどこに?」

 

「知らないわよそんなの」

 

 

───

 

 

「この男は元々、ディガルの一部署で研究を行っていたんだ。弟、増木礼次と一緒に。初めは色々、兄弟で成果を上げたり、個人で成果を上げたりしたようだ」

 

 

食事の皿は机の端に押しやられて、既にその食卓の上にはいくつかの写真、そして少しの新聞記事が並んでいた。大体は、アナザーWの容疑者らしい人物の写真で、ちょこちょこと弟らしい影も見えた。

 

 

「兄弟で仕事してたんだ」

 

「みたいだね。でもある日を境に、弟の方ばかりが成果を上げるようになった。何も特別なことじゃない。彼の才能の限界が来ただけだ。そして弟に上回られた兄は弟を憎むようになり。……殺そうとした」

 

 

来人はそう言った。それから、机に散乱した資料の一枚を抜いてソウゴらに差し出す。

 

 

「これが、その記事だ」

 

 

あまり、大きな記事ではなかった。ただ風都で暴行事件が起こって、兄が弟を襲い、弟は意識不明の重体である──それくらいしか、情報はなかった。

 

 

「意識不明の重体?」

 

「ああ。……ちなみに今も意識不明だ。風都の病院で眠っている」

 

 

翔太郎がそう付け足す。増木礼太が本当にアナザーWなら、彼がアナザーWの最初の被害者ということになるだろう。

 

 

「そんな……」

 

「この事件の後、増木礼太は姿を眩ませた。だが彼の元々いた部署の研究が、別の組織に横流しされていることは分かっているから、大方そこに身を寄せたんだろう」

 

「別の組織……つまり、ディガルを裏切ったのね」

 

「うん。別段珍しいということでもないさ。……さて、その増木礼太が次に襲うだろうと予測される地点だが……」

 

 

……部屋に携帯の着信音が鳴り響いたのは、来人がそう言いながら地図を取り出したのと同時だった。二秒ほど互いに互いを見合わせてから、来人がポケットに手を突っ込んで携帯を取り出す。

 

 

「ああ、もしもし父さん? ん、すぐに来い? 何処に? ……本当かい?」

 

 

電話の向こうの声が、少しだけ漏れでていた。来人はほんの少し考え込んでから、ちらと翔太郎の方を見て、それから適当に返事をして電話を切った。そして、ソウゴに顔を向ける。

 

 

「……ちょうど、僕の父さんがそこで僕を呼んでいる。君達もついてこないかい?」

 

 

───

 

 

……それと時を同じくして。

アナザーWは息を切らしていた。全く死にそうな息遣いをして、薄暗い路地の壁にもたれて座り込んでいた。彼の体が黒い風に包まれれば、それは人間の姿に戻る。彼の名前は、増木礼太。

 

 

「はぁ、はぁ……さっきは助かったよ」

 

 

そして礼太は、一人の男を見上げていた。

 

 

「どうも、増木さん」

 

「ありがとう……ありがとう……ほんと訳わかんねぇよ、赤いのとか、銀色のとか……これからも、どうか力を貸してくれよ、あんた……」

 

 

逆光で、男の顔はよく見えない。ただ、白いスーツがハッキリと光の中に浮かんでいた。淡々とした声が、路地の影にうずくまる男に投げ掛けられる。

 

 

「当然です。貴方が倒されてしまうと、私、とても困るので」

 

 

まるで感情の籠っていない声であった。

 

 

───

 

 

 

 

 

「やあ。君達が、来人の言ってたお客さんかな?」

「どうも」

 

 

風都博物館。それが、招かれた場所の名前だった。来人につれられて中に入ったソウゴらは辺りをキョロキョロと見回していたが、彼らの視線は、気づけば博物館の階段の上、一人のサングラスを掛けた老人に集まっていた。

 

 

「連れてきたよ、父さん」

 

 

来人がそう言う。

 

 

「ようこそ、我らがミュージアムへ!! 私が館長の、園咲琉兵衛だ。歓迎するよ」

 

 

 

「凄い数の展示ですね……」

 

 

園咲琉兵衛と名乗った老人に連れられて、気づけば一行は博物館の中へと導かれていた。

カツカツと足音が響く。ティラノサウルス、トリケラトプス、ケツァルコアトルスにスミロドン。模型や骨格標本が所狭しと並んでいるのは壮観で、大きな声を出すのは憚られた。──一人、翔太郎は何のためらいもなく大きなくしゃみをしていたが、それだけだ。

 

 

「なんで、博物館を?」

 

「私は元々、考古学者をしていてね。この風都の土地で発掘を行っていた際、そこの遺跡で、『地球の記録』とでも言うべき、かつてこの星で起こった出来事が鮮明に刻まれたような地層を発見したんだ」

 

「地球の、記録?」

 

「そうだ。ここの展示も、ディガルコーポレーションの研究も全て、そこから分岐したものにすぎない」

 

 

そう言いながら、老人は振り向いた。サングラス越しに彼は来客を見定めて、その視線をソウゴに合わせる。ソウゴもそれに気づいて、心なしか姿勢を正していた。

 

 

「我々は、いつか地球に選ばれる家族だ。そうするのが、私の夢だ」

 

「夢……」

 

「君の夢は、なんだね?」

 

 

──刹那。博物館全体に、けたたましくサイレンが鳴り響いた。辺りが赤いランプに照らされる。ソウゴとゲイツは顔を見合わせ、どちらからともなく頷いた。間違いない。アナザーライダーだ。

 

 

「……来たか」

 

「行くよゲイツ」

 

「ああ」

 

 

二人は同時に駆け出した。博物館の展示に背を向けて、ウォッチを起動しながら一気に外へと走り出す。

 

 

『ジオウ!!』

 

『ゲイツ!!』

 

 

 

『仮面ライダー!! ジオウ!!』

 

『仮面ライダーゲイツ!!』

 

「「はああああっ!!」」

 

「き、来やがった……!!」

 

 

アナザーWは博物館の玄関先にいた。右半身は緑、左半身は黒のその姿めがけて、変身した二人は躊躇いなく殴りかかる。

一発。

勢いをつけたその拳は大きくアナザーライダーを吹き飛ばし、近くの木に叩きつけた。

 

立ち上がったアナザーライダーは、二人の仮面ライダーを前に震えていた。彼はもう戦意も無いのか、ジオウとゲイツに背を向けて。

 

 

「また会ったな、バケモンめ」

 

「直に会うのは初めてだ。興味深いね」

 

「……っ!?」

 

 

だがその背後には、既に二人の探偵が回り込んでいた。翔太郎の蹴りがアナザーライダーの腹を捉えて、ゲイツの前まで突き飛ばす。

ゲイツもそのチャンスを逃がすまいと、左手で新たにウォッチを起動していた。ジクウドライバーに装填する。

 

 

「これを使う!!」

 

『ビルド!!』

 

『アーマータイム!!』

 

『ベストマッチ!! ビルド!!』

 

 

ライドウォッチを起動して、ドライバーに装填し、回転させれば仮面ライダーは装甲を纏う──そうするのを、翔太郎と来人は静かに見つめていた。視界の向こう側では、ビルドアーマーを装備したゲイツがドリルクラッシャーを振り回している。それに応じたのか、アナザーライダーもまた左半身を銀色に変え、鉄の棒を振り回していた。

ジオウもまたアナザーライダーと交戦していたが、その棒の一撃を食らって二人の近くまで転がってきていた。

 

 

「あいててて……」

 

 

腰を擦っているジオウの隣まで来人が歩いて出てくる。そしてしゃがみこんで声をかけた。

 

 

「常磐ソウゴ」

 

「ん?」

 

「これは君に渡しておこう」

 

 

そう言いながら、何かを取り出す。

 

……緑と黒のライドウォッチだった。当然それは、仮面ライダーWのウォッチ。それが、ジオウの前に差し出されていた。

 

 

「Wのウォッチ……!!」

 

「君の持っているそのベルトに合うだろう。そうだろう、翔太郎?」

 

「あーそうだな、やるか。……ところでそれなんだっけ?」

 

「という訳だ。頑張りたまえ、仮面ライダー」

 

 

迷いはない。ジオウはそれを手にとって、立ち上がり、起動する。一陣の風が吹いた。

 

 

「ありがとう!! ……使わせてもらうよ!!」

 

『W!!』

 

 

 

 

 

だが。──彼の手からライドウォッチがこぼれ落ちた。

 

 

「……あれ?」

 

 

ジオウの手が、何故か自由に動かない。何かに押さえつけられたかのように痛みが走った。そして……地面に転がっているライドウォッチが、坂でもないのに唐突に転がりはじめる。

ジオウは動けない。ただ見ることしかできない。転がって、転がって。ウォッチは勢いを保ったまま何メートルも転がって。不意に止まった。誰かの足元だった。

 

そして、Wのウォッチが拾い上げられる。

 

 

「彼を殺されてしまっては、我々も困りますから」

 

 

そう呟きながら、ウォッチを拾った誰かはそれを懐に仕舞い込んだ。そうしたのは、左手にアタッシュケースを持った、白いスーツが特徴的な男だった。

 

 

「何者だ!!」

 

 

ゲイツがアナザーWへの攻撃を止めて、ウォッチを取り返そうとその男へと走っていく。だが白いスーツの男がその右手をかざすだけで、ゲイツのすぐそばで爆発が巻き起こった。

 

爆風に吹き飛ばされたゲイツが近くの茂みに叩き込まれる。変身は解けていた。……圧倒的な力だった。ゲイツは一撃で変身解除に追い込まれ、ジオウは未だに動けない。

ジオウの背後、翔太郎と来人も、ツクヨミもまた、何も出来ずにその男を見つめていた。

 

 

「久しぶりだね、加頭くん。財団Xが、我々への融資を取り止めて以来かな?」

 

 

……声を上げたのは、いつの間にか博物館を出てきていた琉兵衛だった。

 

 

「そうですね」

 

 

スーツの男も淡々と答える。彼の視線がジオウから外れて、ようやく彼の腕は自由になった。ジオウはウォッチを取り戻そうと一歩足を踏み出して……いきなり鳩尾を強打した見えない力に膝をつく。

 

 

「っあっ……!! なんで……!!」

 

「生身でどうしてこんなパワーが……」

 

「なんて力だ……まるで、超能力だ」

 

 

そんな声には目もくれず、スーツの男は──加頭と呼ばれた男は、アナザーWの横に立った。庇うように。そしてアナザーライダーは、男の脚を頼りにして立ち上がった。

 

 

「ありがとう……ありがとう……!!」

 

「彼は、我々財団Xの保護対象です」

 

「財団X……」

 

 

聞いたことのない組織だ。だがそれが、アナザーWの変身者が身を寄せた組織ということなのだろう。ジオウは膝をついたまま、何時でも戦えるようにジカンギレードを手元に呼び出す。

しかし、加頭はそれを止めなかった。代わりにアタッシュケースを開いて、一つ銃のような機器を取り出す。

 

 

「まだ試作段階のこれを完成させるのに、彼のデータが必要ですから」

 

 

その根本には、円形の、本来そこにあるはずの無いものが刺さっていた。

 

 

「それは……ライドウォッチ!?」

 

「どういうことだ!!」

 

 

アナザーライダーのライドウォッチのようなもの……それが、加頭の手にあった。彼は迷いなくその銃のような機器の、先端部分を自らの腕に押し付けて、トリガーを引く。それと共に彼の体には白と赤の稲妻が駆け抜けて。

 

 

『エターナル』

 

 

そう、音が漏れた。

稲妻が止めば、もうそこにいるのは先程までの男ではない。アナザーWの前に立っているのは……何処と無く黄ばんだ白い体に赤い手足を持つ、どこか崩れかけにも見える鎧を纏った怪人。……全く、本当にアナザーライダーのようだった。

 

 

「アナザーライダーに……変身した……!?」

 

「アナザーライダー、ですか。では私も、その名前を借りるとしましょう」

 

 

そして彼は名乗りを上げる。誰も、それを止めることは出来なかった。

 

 

「私はアナザーライダー、エターナル──!!」

 




次回、仮面ライダージオウ!!


「あいつは一体何なんだ!!」

「アナザーライダーによって消されなかった歴史、その一つ」

──新たなアナザーライダー!?

「こいつ、不死身か!!」

「私はNEVER。死者を超えた者です」

「ライドウォッチを返せ!!」

──強敵に立ち向かえ!!

「Nobody's perfect」

「いつまで魔王と相乗りするつもりだい?」

「「さあ、お前の罪を数えろ!!」」



『アイのなのもとに/2009』
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