ヤマダさんの勘違い   作:詞瀀

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ようやく、テストがおわったんじゃよ……二重の意味でね!


第四話

「ーーー、ぅん?」

 

ーー目が覚めた。…目が、覚めた? おかしいな。眠った記憶など無いのだけれど。

 

「あ、先生。おはよーございます。()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、先生おねむさんなんですねー」

 

そうか、朝ごはんを食べてすぐに眠ってしまっていたのか。

 

「うん。おはよう、ミーナ。ごめんね、先生、どれぐらい眠っちゃってたのかな?」

 

そもそも眠りに落ちた時の記憶がないけれど、寝すぎてないか不安だったので、一応のため確認をしておく。

 

「えーっとねー、10分ぐらいだよー?」

 

良かった、あまり寝すぎてしまっていたわけでは無いようだ。本当に、最近はいろいろとあったから疲れてしまったのだろうか。

 

そう思いながら、これからの予定を考えていく。

 

取り敢えずは、洗濯物を干して、お昼ご飯の下準備と、それから掃除に今日の分の授業をして、後はーーー

 

「ねー、せんせい、どうかしたのー?」

 

「ーーうぅん、今からの予定を考えてたんだよ。」

 

急に黙りこんだので不安にさせてしまったのだろうか?

 

「予定ー? んー…、あ、あのねあのね、ミーナ、あいす食べたい! あの、カフェで売ってあるオレンジ味のやつ!」

 

そうだな、今日は冒険者ギルドに用事があったので街に行く予定ではあったし、丁度いいかもしれない。

そう思いながら、しかし、ミーナには我儘に育って欲しくないので少しだけ注意する。

 

「ミーナ、一昨日も甘いもの食べに屋台に行ったでしょう? 少しは我慢しないと、将来太ったおばあちゃんになっちゃうよー?」

 

おかしいな、脅しているみたいになってしまった。

 

「えー? ミーナ、吸血鬼だから太ったりしないよー? まったく、先生ってばお馬鹿さんなのね?」

 

訂正しようと口を開くと、ミーナがそのようなことを言ってきた。嘘だよ、と言って頭を撫でて終わらせようとしていたけれど、予定を変更し、伸ばした手をそのままミーナの背中へと回す。

 

「なんだとぅー! この生意気娘めー!」

 

そして、そう言いながらミーナを抱き寄せて、思いっきり頭をわちゃわちゃとかき回す。

 

「きゃぁーー!!! やーめーてー!」

 

ミーナが笑いながらそう叫ぶのがおかしくって、二人で笑いながらじゃれ合う。

と、ドタドタと階段を走って降りてくる音が聞こえてきたので、ミーナとじゃれ合うのを一旦停止して扉の方を見る。

 

「せんせいー? もっとしてぇー!」

 

ミーナが不思議そうにこちらを見たかと思うと、そう言って頭を俺の胸にグリグリと押し付けてくる。

そう言われてしまっては仕方がないなぁ、なんて口では言いながらも、こんな風に甘えてくる子供が可愛くって思わず頰が緩んでしまう。

 

「ミーナ! 先生に一体何かあっ……何を、なさっているのですか? 先生?」

 

現れたアリシアに視線を向けると、昏い瞳と目があった。何故か感じる寒気に身を震わせて、しかし、アリシアがこのような目を向ける理由が分からずに、アリシアの目線をーー

 

ーーあっ

 

アリシアの目線を追って自分を見てみると、どうしたことだろうか。

ミーナと今にもキスをしそうな体勢に見えないこともないのではないだろうか?

 

いや、いやいやいや、待ってほしい! 俺は自分の子供に手を出すような人間ではないとアリシアならわかってくれているはずだし、そもそも愛する家族にスキンシップを取る手段として、キスというのは一般的な表現方法なのでは無いだろうか? 大体、キスをしようとはしていないしーーー

 

と、ミーナがアリシアの方を見て、次いで俺の顔を見る。ミーナの目と俺の目があった瞬間、ミーナがにんまりと笑いーー

 

「んー! せんせいー? ちゅう、まだぁ?」

 

そう言いながら目を瞑り、口を可愛らしく尖らせるミーナ。

 

そして、遂に殺気の様なものが出始めたアリシアが、つかつかと此方に歩み寄ってくる。

 

「あ、いや、ミーナ!? あ、アリシア、これは違っ、違うんだよ!? そういうのじゃなくって、そもそもキスしようとーー」

 

「先生、もう口を閉じてください。……それ以上、聞きたくありませんから」

 

そう言って、アリシアが俺の顔を手で包みこみながらを覗き込んでくる。

思わず振りほどこうとして、けれど何故か一ミリも動かせない。

 

「先生ーーー」

 

アリシアの顔が近づいてくる。普段と違う、まるで妙齢の女性の様な雰囲気のアリシアに、思わず目を閉じてーー

 

「んー!」

 

閉じていく視界の隅に、綺麗な銀髪の髪が見えた気がした。


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