死を望む君と彼岸花の僕   作:パルモン

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拙い文ですが、感想、評価をもらえると続きを書くモチベーション上がっちゃいます。


1話 『僕と君』

 夕日が世界をオレンジ色に染めたあの日、君は僕に言った。

 

「今までありがとう。でもね、私、またいつか会えるような気がするの。へへっ、そんなこと、あり得ないのにね……でも、これだけははっきりと言える。君と出会えたのは単なる偶然とかじゃなくて、運命だったんだと思うの。7月のあの日、夏休みに入る前。全てはあの日から始まったんだよね」

 

 僕は何も言えなかった。気を緩めれば今にも目に溜まった涙が溢れ出しそうだからだ。そうなっては僕はもう君を見ることができなくなってしまいそうな気がした。最後の最後まで君をこの目に焼き付けたい。

 

「……っ」

 

「もう…そんな悲しい顔しないでよ。私まで…っ、泣きそうになるじゃない」

 

 君はゆっくりと、でも力強く僕を抱きしめた。君の体温が、鼓動が僕の中に入ってくるようで、ただ、悲しかった。

 

 少し長めのハグをした後、涙は僕の目から無くなっていた。君を見届ける、その覚悟ができたから。

 

「君が私に教えてくれたこと、君がいたから今日の私がいる」

 

 君は僕の手を握りはにかんで笑った。

 

 僕も君の手を優しく、離れないようにしっかりと握り返した。

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

「あ、その前に」

 

「え?」

 

 歩き出そうとした僕の手を引いて君は引き止める。

 

「最後ぐらい、『名前』で呼び合おうよ」

 

「……そうだな」

 

 ずっと僕は君の名前を呼ばなかった。

 

 ずっと私は君の名前を呼べなかった。

 

 名前を呼んでしまうと、もう、忘れられないから。

 

 名前を呼んでしまうと、もう、離れられないようになるから。

 

「ふふっ、それじゃ改めて、行こ!(まこと)君!」

 

「ああ、行こう、(ゆい)

 

 互いに初めてその名前を呼ぶ。どこか照れ臭くて、ただ呼ぶだけだというのにこんなにも緊張するものなのか。いや、そういうものなのかもしれない。互いの関係が深まれば深まるほど、初めてそれを口にする時、緊張や恥じらいが生じるものなのだろう。

 

 

 空はいつのまにか暗くなっていた。

 

 今日は神社で祭りがある日だ。僕と君は二人でその祭りに来ていた。

 鳥居の前、くぐれば別の世界に行けるような気がした。このまま二人で誰にも知られることもなく消えるのもいいと思う。

 

 一礼して鳥居をくぐる。当然そんな非現実的なことが起きるはずもなく鳥居の先は出店が立ち並び多くの人々で埋め尽くされていた。

 

 これが君と僕の二人で過ごす最後の時間。

 

 僕は、君と出会ってからの日々を思い出していた。

 

 

 

 

 

 そう、あれは終業式の日。明日から夏休みが始まる前日のことだった—————

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、明日から夏休みだが、生活習慣の乱れがないように。喫煙や飲酒、髪を染めてみたりとか問題を起こさないようにな。楽しい夏休み中に先生からの説教なんて受けたくないだろー?」

 

「はいはーい、わかってますよ先生ぇ!」

 

「よーし、それじゃあホームルームはこれで終わり!明日からの夏休み、宿題もしっかりして有意義な時間を過ごすように!以上!」

 

「よっしゃー!明日から何しよっかなー!」

「ひゃっほー!」

「なぁお前!明日川行かね!?」

「おー!いいね!」

 

 終業式が終わりクラスでのホームルームも終わりいよいよ明日からの夏休みにみんなは騒いでいた。

 正直僕も夏休みは嬉しい。一人でいられる時間が増えるからだ。そして何より、僕にはある秘密がある。

 

 

 

 みんなは知らない、僕だけの秘密。決して知られてはいけない秘密だ。

 

 

 

 僕は今まで何人もの人を殺してきた。

 

 ただ、それは本意ではない。

 

 

 

 

 これは仕事なのだ。脳裏に直接語りかけてくるメッセージを受け取り、その相手を殺す。大抵前科がある人や、これから死のうとしている人で、なんの罪もない人はその対象にならない。

 

 僕が殺した人はどうやらこの世界から消され、全ての人々の記憶からも消える。

 だから、僕が殺したなんて誰も思わないし、そもそもその人が死んだことすら知らない。

 

 

 誰にも知られず、この世から消える。

 

 僕はこれを『彼岸送り』と呼んだ。

 

 そして今回も新たな対象が指示された。相手は僕と同じ年齢16歳だった。この年代の場合は自殺志願者だろう。

 別に僕は対象の事情など興味はない。ただ、役目を果たすだけだ。今までだってそうだった。

 

 初めてこの指令を受けたのは半年前だった。それは唐突に訪れ、僕がちょうど帰宅した時だった。

 

 声というよりもイメージが流れ込むような感覚だった。対象の顔、名前など個人情報が脳裏に浮かびその人を殺せというものだった。当時は驚き殺人などできるはずがないとその指示を拒絶した。

 

 だが、日にちが経つほどそのメッセージは強くなり、頭痛を起こすほどにもなった。このまま拒絶し続ければ頭が割れてしまいそうな、そんな未来を想像した僕はその日の夜、対象が帰宅中のところを背後からナイフで突き刺し殺害した。

 

 

 対象は思いの外あっさりと死んだ。こうも人の命は簡単に奪えてしまうものかと、死体の前で立ち尽くしていた。

 

 その時だった。

 

 

 死体となった対象はスーと透き通るように薄く、透明になっていきやがて消えて無くなったのだ。

 気付けばナイフについた血も、流れて赤く染まっていた地面もまるで何事もなかったかのように消えていた。

 

 そして僕はこのシステムを理解した。

 

 僕は選ばれたのだと。

 

 

 

 あれから半年、今まで僕は9人の対象を殺し、存在すらも消してきた。そして今回の対象も今まで通り明日、彼女が出かけたタイミングを見計らって殺害、『彼岸送り』を計画していた。

 

 学校からの帰り、なんとなく図書館に寄ってみた。特に考え事があったわけでもなかったが、どうせ家に帰っても一人であるため暇つぶしをしようと思った。

 

 図書館の中は冷房が効いてこの暑い時期に最適な環境だった。額に流れる汗をハンカチで拭いて自動ドアを通る。入ってすぐ左に受付カウンターがありこの図書館の役員がパソコンで本の管理を行っていた。

 正面と左には本棚がずらりと並んでいる。それぞれに番号と種類が書かれた看板が置かれているため本を探しやすい。

 適当に本を取って近くの席に行こうとした時、僕は目の前の光景に足を止めた。

 

 セミロングくらいの長さの黒髪に白のシャツ、膝まで長さがある青のスカートを着た女性が座っていた。

 

 今回の彼岸送りの対象の女性だった。

 

 彼女の肌はこの時期に似合わないほど白い。

 

 この図書館の一番端の席に座っている彼女はどこか人を避けているように思えた。

 思い返せば彼岸送りの前に対象と会うのは今回が初めてのことだった。別に対象に接触してはいけないルールなどないため僕は彼女に背を向けて一つ後ろの席に座った。

 

「………」

 

 図書館の中はとにかく静かで足音とパラパラと本のページをめくる音だけが響いていた。

 

 しばらくボーと本を読んでいたら後ろの椅子がギィと音を立てた。彼女が席を立ったのだろう。腕時計を見ると30分ほど時間が経っていた。もう少しここにいようと再び本に視線を戻す。

 

「あの……」

 

 誰かが声を発した。静かな図書館の中では小さな声でもよく聞こえる。僕は気にせず本を読んだ。

 

「あ、あの…」

 

「…え?」

 

 彼女が声をかえていたのは僕だった。拍子抜けな声をあげて彼女を見上げる。対象と話をするのも今回が初めてだ。ましては相手から話しかけられるとは予想外の展開だった。

 

「…何か?」

 

 周りには人はおらず今この場には二人しかいない。僕は彼女を突き放すように素っ気ない態度をとった。

 

 彼女は僕の態度にムスっと頬を膨らませたが、すぐに表情を戻すと僕の耳元で優しい声で呟いた。

 

「あなたが、私を殺してくれるんですよね?」

 

 それは確信を持った、はっきりとした口調だった。

 

 全身に鳥肌が立ち、彼女のその言葉の意味が何を示しているのか理解した。

 

「……なんで、わかった?」

 

「えっと…ふふ、今は秘密です」

 

 彼女はこれから殺されるとは思えないほど明るかった。いや、死ぬとわかって開き直っているのか、元々は自殺志願であったためもう諦めているのか、それとも単に僕をからかっているのかよくわからない。

 

 いずれにしろこれまでとは勝手が違う。

 

 彼女という対象はなにかしら特別だというのか?

 

「君は死を望んでるの?」

 

「……」

 

  僕の問いかけに彼女は沈黙した。

  笑っているのか悲しんでいるのか曖昧な表情を浮かべる彼女を見て僕は本当に彼女が本当に死を望んでいるのかわからなくなった。

 

 計画では明日彼女を彼岸送りする予定だが、彼女の真意がわからない僕は少しの猶予を与えてやってもいいような気がした。

 

 

 その迷いが、選択が歯車のように回り続ける運命に()()を生じさせるとはこの時はまだ知る余地もなかった。

 

 

 

 

 

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