ドルフロの短い話   作:nyngr46

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指揮官とWA2000と隠した想い

 

私は、殺しの為だけに造られた。

 

製造されたその瞬間から、頭の中、この回路に刻み込まれていた絶対の命令。

戦場を駆け、ただ引き金を絞り続ける。

そこに理由など存在せず、まして感情など入り込む余地は微塵もなかった。

 

「それは、なんていうか…。少し、寂しいな。」

 

それが彼との最初の会話。

"機械"の私、WA2000に、"人間"の指揮官が投げかけた最初の言葉。

 

 

 

彼が指揮を執る部隊に配属されてから、ゆっくりと、自分が変わっていくのを感じていた。

 

それまでひとつの兵器として機械的に戦い続けてきた私を、彼と彼の部隊のみんなは1人の"仲間"として歓迎してくれた。

言葉の意味は知っていても、初めて呼ばれた"仲間"の響きに戸惑い、困惑しきってしまった。

 

「仲間は、必要ないか?」

 

これからもっと殺すためには、きっと部隊の仲間は必要不可欠だろう。それに、和やかで暖かく感じるこの部隊に、困惑しながらもどこか居心地の良さを感じている気がした。

 

「そんなことない。でも、こんな時にどんな顔したらいいか、分からないの…。」

 

真っ直ぐな言葉で思いをぶつけた。

彼は優しい笑顔のまま、大きくて、少しゴツゴツした手を私の頭にのせてきた。

 

「他人に喜びを伝えたいときはな、精一杯笑えばいいんだ。」

 

言いながら頭を撫でる彼の手は、少しヘタクソだったけど、とても暖かかった。

これが、今この胸の内にあるのが、"喜び"なんだと知った。

 

 

 

しばらく経ったある日、大規模な掃討作戦が実行された。

私たちの部隊は、鉄血の部隊と真正面からぶつかることになった。戦闘自体は私たちの勝利で幕を下ろした。それでも、沢山の負傷者をだすことになった。

いつもと何も変わらない、そのはずなのに、どうにも落ち着かなかった。

今は戦争中で、戦場で負傷者が出るのは当たり前で。分かっているはずなのに、どこかやりきれない思いを抱いてしまう。

堪らなくなって、自身の不調を彼に相談すると、それは"怒り"と"哀しみ"なんだと教えてくれた。

 

「仲間がケガをしたら哀しい。仲間をケガさせた敵に怒る。生きてれば当然の気持ちだ。」

 

戦場に出て、戦って、殺し、殺される。

当たり前で無価値だったはずの景色に、私は、怒り、哀しんでいた。

 

「これが"怒り"と"哀しみ"だとしたら、私はどうすればいいの…。」

 

「哀しいときは思いっきり泣けばいい。怒ったときは、そうだな…眉間にシワでも寄せたらどうだ?」

 

少し冗談っぽく語り掛ける彼の、背中に隠した握られた拳は、傷ついた仲間を想って、震えるほど強く握られていた。

これが、"怒り"であり、"哀しみ"なんだと知った。

 

 

 

さらに経ったある日。大規模作戦での傷も癒えた頃。

出撃の予定もなく、いつもの通り書類仕事をこなす彼を手伝う。時折、どちらともなく世間話に花を咲かせ、笑いあった。

先日の大規模作戦とは打って変わったいつも通りの日常に、つい口元が緩んでしまう。そんな私を見た彼は、

 

「ここでの生活を楽しんでくれてるみたいで、よかったよ。」

 

楽しむ?私は今、楽しいのだろうか?

自分の胸に手を当てて、問いかけてみる。

喜び、には近くて、怒りや哀しみとは遠い。彼や、部隊の仲間たちと過ごす、この時間は、きっと。

 

「楽しいと、ついつい笑ってしまうのね…。」

 

この胸の内にある想いが、"楽しさ"なんだと知った。

 

 

 

 

「……。」

 

右腕に、微かな痺れを感じて目を覚ます。痺れは、腕を枕代わりにしていたせいだった。

姿勢はそのまま、眠気で冴えない頭をフル回転させて、状況を整理する。

1週間ほど前から、本部への出向で留守にしている彼の代わりにやっていた書類仕事を終えたところだったはず。どうやらそのまま机の上で寝てしまったらしい。昔のことばかりだったが、かなり長い夢だったみたいで、部屋は薄暗くなっている。もう日は沈んでしまったみたいだ。

彼がいなくなってまだ1週間。たったそれだけのはずなのに、気が遠くなるような時間を1人で過ごしている、そんな気分だった。

これまでだって彼が留守にすることはあったが、今までは毎日出撃を繰り返していたからか、彼の不在を意識したことは無かった。でも今回は違う。出撃の予定はなく、当たり前のように彼と2人で過ごしてきた時間を1人で過ごす日が続いていた。

机の上、積まれた書類を眺めながら、ここ数日を思い返す。彼がいない、そんな些細な違いだけでどこか味気ない数日だったと感じてしまう。

そこに"喜び"や"楽しさ"、"怒り"はなく、"哀しみ"とはどこか違う、胸を締め付けるような想いが募っていた。

この想いは、きっと。

 

「寂しいな…。」

 

「なんだ、知ってたのか。」

 

突然響いた待ち人の声に、思わず立ち上がってしまった。慌てて声の主を探すと、来客用に設置された革張りのソファに腰掛ける人影を見つけた。

 

「指揮官!い、いつの間に…!」

 

「1日早く帰ってこれたんだよ。ただいま。」

 

いつも通り優しい笑顔の彼の挨拶に返事もせず、立て続けに疑問をぶつける。

 

「知ってたのかって、どういう意味よ」

 

少し失礼だったかとも思ったが、彼はそんなこと気にも留めない様子で答えてくれた。

 

「前に言ったことあるだろ、少し寂しいって。反応がなかったから、知らないのかと思ってたよ。」

 

今しがた夢にまで見た彼との出会い、そのとき言われたひとこと。当時は意味なんて分かりたくもなかった。

戦術人形として造られ、戦場を駆け、ただ引き金を絞り続ける。

そこに理由など存在せず、まして感情など入り込む余地は微塵もない。そう思い込んでいた。

 

彼と、彼の部隊の仲間たちと出会い、喜び、怒り、哀しみ、楽しみを知った。

 

「目が覚めたなら、夕飯食べにいこうか。」

 

「…今の私も、寂しそうかな?」

 

ソファから立ち上がって、部屋を出ていこうとする背中に、素直な思いをぶつける。

 

「今は、とても幸せそうだよ、わーちゃん。」

 

振り返ることなく、いつも通りの口調で答えてくれた。

昔の自分では考えられないくらい"人間らしい"今の私は、昔の自分では考えられないくらい、とても幸せだ。

あれ、なにか、違和感が…。

 

「ちょっと待って、わーちゃんってなによ。」

 

「いや、前々から考えてたんだけど言い出す機会がなくてな…、WA2000って長くて言いにくいし…。」

 

 

殺しの為だけに造られた。その事実は変わらない。

それでも、今、引き金を引くのは、ただ殺すだけの無意味なものじゃない。人を、仲間を、あなたを守る。そのために戦う。

 

「だからってチャン付けはなし!絶対にありえないんだからね!!」

 

果たして、この言葉は(ツン)か、真実(デレ)か。




どうも、にゃんぐれです。

ハーメルン初投稿です。暖かい目と広い心で読んで頂けたらありがたいです。

拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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