「平和だ…。」
お昼を少し過ぎた執務室、仕事用の机の上、書類をめくる手を止めてついつい呟いてしまう。
「平和ボケしてる暇があるなら、手を動かしてください、指揮官。」
執務室中央、ローテーブルを挟むように置かれた1組の革張りのソファ。その右側に座る戦術人形、HK416からお叱りの一言を受けてしまう。
「そうだよー、指揮官。頑張ってお仕事しなきゃ…。」
気だるげで、今にも眠ってしまいそうな声が真下から聞こえる。確認するまでもなく、G11の声。どうして真下から声がするのかというと、
「…そういうあなたは、どうして指揮官の膝の上にいるのかしら。」
G11は、指揮官である自分の膝の上にいた。以前、普段から眠そうな彼女を、面白半分で膝の上にのせてみたら、存外この場所が気に入ってしまったらしい。以来、隙あらば膝の上でだらけまくるのが恒例になっていた。
「分かってないなぁ、416は。これも副官の役目なんだよ…。」
どうやらG11的には、だらけるのも仕事の内らしい。
「あなたが仕事しないから、私たちが手伝うことになってるんでしょう…。」
「こうしてみると親子みたいだよねぇ、指揮官とG11。」
「違うよ45姉!兄妹だよ、兄妹!!」
ため息交じりに愚痴をこぼす416の向かい、同じくソファに座る2人組、UMP45とUMP9は今日も仲が良さそうだ。
ところで俺、まだお父さんって年齢じゃないんだけどな…。
出撃予定もなく、待機命令のでた平日の午後。いつも通り、他愛ない会話が続いていく。
「そろそろ休憩にするか…。」
昼食以降、約1名を除いて働き続けているんだ。時間的にも小休憩を挟む頃合いだろう。
「やった、ラムレーズン食べに行こ!」
「もう少しで今日分の作業が終わりますから、もう少し頑張ってください。」
おやつの注文を出してきたG11を、416がばっさりと切り捨てる。そんなやり取りを聞いていると、こっちもついつい小腹が空いてきてしまう。
「…俺も、ラムレーズン食べたいなぁ。」
「指揮官までだらけてどうするんですか。」
言いながら鋭い目つきに咎められてしまう。今日も彼女の完璧主義は健在らしい。
「いいでしょぉ、休もうよ…416お母さん。」
「怠け者の娘を育てた覚えはないわ。」
G11だけじゃ416には敵いそうにないな。ここは援護してやらねば。
「そういうなよ、ラムレーズンくらいいいじゃねぇか、お袋。」
「あなたのお袋さんになった覚えはないわ。」
…一刀両断されてしまった。今日のお袋は一段と手ごわいな。
「…仕事、終わったよ。」
手に持った書類の束をひらひらと揺らしながら、45が助け舟を出してくれた。
これを好機と見たのか、G11が一気に攻め込む。
「ほら、仕事終わったよ、416お母さん!ラムレーズン食べに行こ!」
「だから、お母さんじゃないって…。分かったわよ。食堂、行きましょう。」
ついにお袋の説得に成功した。思わず膝の上のG11とハイタッチを交わしてしまう。
「休憩なんていらないくらい元気じゃない…。」
416はそう言いながらも、どこか楽しそうだった。
食堂の隅、1つのテーブルを囲んでラムレーズンを食べていると、向かい側に座った45が不意に話しかけてくる。
「おいしいですか、指揮官。」
「あぁ、仕事終わりのラムレーズンは格別だな。」
突然の質問に素直に答えると、45はいたずらっぽく笑いながら囁いてくる。
「これが最後の晩餐になるかもしれませんよ。」
口の中のラムレーズンを吹き出しそうになりながら、不吉なことを言う45のことを見つめてしまう。
「勘弁してくれよ…。確かに、今は戦争中だけどさ…。」
「戦争中…?それもそうだけど、私が心配してるのはお仕事のことですよ。」
戦死の心配じゃなくてお仕事?なにか重大な見落としでもあったんだろうか?416からはそんな報告受けてないはず…。
すっかり考え込んでしまった俺をみかねて、45が答えを教えてくれた。
「さっきみたいに、戦術人形に任せっきりだと、職務怠慢で左遷されちゃいますよ。」
恐らくはジョークのつもりなのだろうが、45がいうとあながち間違っていない気がしてくる。
「…以降、気を付けます。」
自分の仕事くらい自分で面倒を見ようと心に誓いつつ、最後のひと口を胃袋に流し込んだ。
「私は、最後の晩餐はもっとおいしいもの食べたいなぁ。もちろん、家族みんなで!」
「最後の晩餐は当分先だよ。ほら、食べ終わったら戻るよ。」
スプーンをくわえたまま、無邪気な声で割り込んできた9をあしらいながらも全員の離席をうながす45の声に従って、各々が執務室に向かって歩き出す。
みんなに続いて食堂を後にしようとすると、前を歩いていた45が「あ、そうだ」と呟きながら振り返って、話しかけてくる。
「さっきの話、冗談ですから心配しないでくださいね、指揮官。」
「…本当か?」
「ほんとです、左遷の心配はないですよ。それと、戦死の心配はしなくても大丈夫ですよ。」
そこで1度言葉を区切り、目一杯の間を取ってから締めのひと言を囁いてくる。
「指揮官のことは、私が守ってあげますよ。」
さっきと同じ、いたずらっぽい笑顔でそんなことを言われてしまい、思わず返事に困ってしまう。
45はこちらの返事を待たず、先を歩いている仲間のもとに駆けていってしまった。
「…小悪魔め。」
口の上手さでは、まだしばらくは45に勝てそうにない。そう思い知らされてしまった。
仕事も終わり、ラムレーズンでのささやかな打ち上げもお開きとなって、全員が自由時間となった。はずなのに。
「なんで全員執務室に集まるんだよ…。」
折角の待機命令なんだから、各自ゆっくり過ごしたらどうなんだろうか。そう考えていると
「すぐにでも出撃命令に従える場所で過ごす。これが待機命令の完璧な過ごし方よ。」
なるほど。たしかにここなら指揮官である俺の一声で出撃できる。間違ってはいない。
「お母さん、お茶淹れてよ…。」
「私に娘はいないわ…。」
相変わらず膝の上のG11は、完全にリラックスしきっている。ここ一応仕事する部屋なんだけど、まぁいいか。
「お袋、俺もお茶飲みたいな。あったかいやつ。」
「……。」
お袋こと416は、たっぷり5秒ほどこちらを睨んだ後、諦めのため息をつきながらもお茶の用意を始めてくれる。さすが、G11の保護者。
「みた、45姉、416がお母さんだって認めたよ。」
「戦術人形が母性に目覚めた瞬間だね。」
「あなた達、ハチの巣にされたいのね…!」
執務室の中で始まった追いかけっこを眺めながら、つい明日からのことを考えてしまう。
明日からまた、出撃を繰り返す毎日が始まる。今日みたいに小隊全員がこの部屋に集まる時間も取れなくなるだろう。
さっき45は守るといってくれたけど、前線に出る彼女たちはもちろん、指揮に徹する俺自身いつ死んだっておかしくはない。
そんな現実を知っていても、それでも、彼女たちなら大丈夫だと、そう信じていた。
明日のことは明日考えよう。とりあえずは…、
「お袋、お茶まだ?」
「いい加減にしないとあなたも撃つわよ…!」
あったかいお茶は、もう少しだけかかりそうだ。
どうも、にゃんぐれです。
今回は"いつも通り"をイメージして書きました。
特に衝撃の展開なんかもないお話ですが、404がワイワイやってるのを想像するだけで楽しかったです。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。