お互い意識なんてしていなかった幼なじみの二人を主役とした失恋物語。

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大切なことは、失って初めて気づく。
なんて、よく言ったものだと思う


無自覚な初めて

(りん)ー! まだ寝てるのか? そろそろ起きないと遅刻するぞー!」

「……起きてるー。今あたし着替えてるんだから、入って来ないでよ!」

 

 相変わらずうるさいなぁ、と心の中でだけ悪態をつく。これ逆ギレとも言える気がするけど。

 当然のように幼なじみの拓真(たくま)はあたしの家に入り、寝坊しやすいあたしに寝室の外から声をかけて起こそうとする。最初こそあまりいい気はしなかったけど、なんだかいつもこんな感じなのですっかり慣れてしまった。お母さんも普通に拓真を家に入れちゃうし。

 なんだかどっちが女の子かわからなくなるやりとりだけど、多分それは相手が彼だからできるんだろうと思ってる。仲は悪くないし、昔から関わりがあるけど、お互いに対する恋愛感情はない。拓真のことは普通にいい人だし、一緒にいて楽しいな、とは思うけど、彼と今の関係でなくなるのは、なんだか想像がつかない。だから少女漫画とかでありそうな幼なじみの恋愛には発展しない。

 

 お母さんはそんなあたしを見て、時々、

 

「……燐、あなた、本当は拓真くんのこと好きなんじゃないの?」

 

 ってあたしとお母さんだけの時に冷やかし混じりに言うけど、

 

「そんなことないよ。ただの幼なじみだし、彼と恋するなんて……なんか、想像つかない」

 

 と、毎回否定していた。これもいつものよう。初めてなんかじゃない。

 

 学校でも特に関わり方を変えることはない。特に関わりを変える理由もないし、仲良くないように演技するのはちょっと嫌だし。

 おかげさまであたしと拓真はよく勘違いをされるし、たまに仲良しな女の子に問いただされるけど、その度にお母さんの時のように否定していた。

 

 今までは、それで良かった。あたしと拓真との関係は、それだけで良かったはずだった。でもいつからか、あたしはそれだけじゃなくなっていた。今の関係ではなく、もっと違う何か(あたしだけの関係)を求めるようになっていた。でもその時には、その()()()()()()()の正体に気づかなかった。何故もっと早く気づかなかったのかと、今となっては深く後悔している。

 

 初めてそう思ったのは、きっと些細なきっかけだった。いつものように優しくしてくれた彼にいつもと違う()()()()()()()と、顔が熱を帯びるのと、胸がドキドキするのを感じた。今まではそんなことなかったのにな、とあたしは不思議に思った。当時はちょっとびっくりしていただけだと思っていた。びっくりしたから、ドキドキしたり、変な気持ちになっただけだと。

 それならどんなに楽だっただろうな、と今でも思うけど、むしろそれが止むことはなかった。

 

 それからは拓真に何か言われる度に一喜一憂したり、もっと綺麗だと思って欲しくなったり。何気ないやりとりだったはずのお母さんのいつもの言葉に焦ってしまったり、終いには、拓真が他の女の子と話しているのを見て胸にもやもやした何かを感じたり。ここまできてなんでその気持ちの正体に気づかなかったのか、というのは自分でも思うけど、多分拓真に限ってそんなことにはならないと思ってたのと、初めての気持ちだったから前例がなかったという二つの理由があったからだと思う。

 そのままその気持ちに名前をつけないまましばらくはいつも通りに過ごしていたけど、多分気づいていても拓真に打ち明けるのは無理だったと思う。

 

「今のままじゃダメなのか?」

 

 と言われるならまだしも、そのままでいられなくなるなんてことがあれば、あたしは耐えられなかっただろうから。それと、拓真にもあたしとそういう関係になるなんて全く想像つかないだろうから。

 でも言わずに気づかれずにいたら、あたしの願いは叶わなくとも今まで通りでいられる確率は高い。あたし自身がハイリスクハイリターンな賭けを実行できないタチなのが、今回は少し恨めしく感じた。

 

 そんな気持ちを抱いてはいても、あたしは拓真と可能な限りいつものように仲良くしていた。相変わらずだったお母さんや友達の勘違いが半分当たりになりかけてるのが恥ずかしくなったけど。それでも誰にも悟られないように、必死に取り繕っていた。たかが名前も知らない感情のくせに、それでも秘密にし続けていた。

 しかし、そんな秘密とささやかな幸せが共存した日常も、いつかは終わりを告げてしまうものだった。

 

 それは、ある日の放課後の出来事だった。

 いつものように拓真を誘って家に帰ろうとした時のこと。その日は拓真を見つけるのに少し手間取り、少し不思議だった。教室にいなければだいたい玄関で先に待ってるはずなのでそこに行ったけど拓真はいなかった。かといって用事があるなら先にトークアプリで教えてくれるはずなので、先に帰った訳でもない。かなり妙なケースだった。

 だから周囲を歩き回りながら拓真を探して見ると、体育館の裏で、一人の女の子と何かを話していた。

 盗み聞きなんて普段は悪趣味だからやらないけど、この時だけは意図せず聞こえてしまったのと、身を隠すので精一杯だった。

 

 

 

 そして、その時聞こえてしまったのは、あたしにとって何よりも知りたくなかった現実だった。女の子から拓真への愛の告白。それに『俺も君が好きだ』と応じた拓真。あたしの感情の名前が『恋』だったことと、それが実らないという事実。

 

 ──初恋は実らない、なんてよく言ったものだなぁ。

 

 なんて軽く思えたのは束の間で、一瞬にして胸に巨大な穴が空いたような空虚感と、溢れて止まらない涙が同時に訪れた。あたしは逃げるようにその場を後にし、走って家に帰った。

 家に着いてからは一直線にあたしの部屋まで駆け抜け、ドアを閉める。そこで足の力が抜け、ドアに寄りかかりながら座り込んでしまう。

 

「ううっ……」

 

 まだ頬を流れて止まらない涙を拭いつつ、抑えきれなくなった声が漏れる。

 

 ──なんであたしは今まで気づかなかったの。

 

 ──あなたと一緒になりたかった。

 

 ──あなたのことが好きでした。

 

 散ってしまった初恋。それに伴って存在意義なんてもうないはずの想いを、心の中で叫ぶ。

この物語のifルートの有無

  • あの本編だけでいいんじゃないかな
  • 主人公が報われるルートも見てみたい

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