【独自解釈】異説ガッチャマン【全拾羽】   作:dragonfly

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ハーメルン様では はじめまして、Dragonflyと申します。

この作品は「映画ガッチャマン」の設定に感銘し、
それらを己なりに咀嚼して構築した独自解釈のガッチャマンです。
映画版はおろか原作とも乖離した内容となっており、キャラクターもギャラクターも別物です。
それらを原作冒涜と感じる方はブラウザバックして戴けるか、感想板やメールにてガッチャマン愛をお教え下さると幸いです。

                        Dragonfly 2013年度作品

dragonfly_lynceus@yahoo.co.jp(@は半角に打ち代えてください)


ちなみに、Arcadia様でも2話まで投稿しています。

それでは、10話で10日間、Dragonfly流ガッチャマンにお付き合いくだされば幸いです(UPは22~25時くらいの予定)

(あと、PVと感想は作家の主食です。パン屑で充分なので投げてやってください。苦い実、辛い実でも、きちんと芯まで残さず頂きますので)


【独自解釈】異説ガッチャマン【前篇】

 

 

 

 

「ツバメはいいよなぁ…」

 

見上げた空は小さく切り取られてて、見えたのはほんの一瞬だったけど……。

 

格子窓を横切った小さな影はツバメに違いないって、おいらは確信してた。

 

「……っ!」

 

喉が猛烈に痛くて、たった一言でおいらは盛大にガハゴホ。

 

さっきまでなら釣られて咳き込む声がしたもんだけど、今は誰一人として身じろぎ一つしない。……うんにゃ、できなくなったんだろう。

 

 

キテレツな連中に取っ捕まって、ヤバソーな注射打たれて、吹きっサラシのこんな牢屋に転がされて。

 

父ちゃんも母ちゃんも、婆っちゃも姉ちゃも。隣のミヨっぺに、向かいの蛇巣おじさんも、顔馴染みも、見知らぬ人も。

 

おいら一人を残して、みんな逝っちまったらしい。

 

 

 

……

 

ぅあ……、熱でしんどくて、ところどころ記憶が途切れてらぁ。

今さっきお天道さまが昇ったトコだったはずなのに、いつの間にか塗り潰したように全て真っ赤。

 

「ん、……なんだ? お前ぇ」

 

吹きっ曝しの格子窓の桁枠に、いつから居たのかツバメがちょこんと。

 

だからおいらはつい、そいつに声をかけちまったってのに、

 

「我が名はベルク=カッツェ」

 

応えは反対側から来た。

 

鉄格子の向こっ側。いつの間に現れたのか、黒いキツネみたいな恰好をした野郎(だよな?)が、ひょろり。

 

「貴様はG型ウイルスの試練に耐えた。

 ようこそ、栄えあるギャラクターへ」

 

男とも女ともつかぬ、やたら甲高い声。まるで、耳にやすりをかけられるような。

 

「……ぎゃらくたぁ?」

 

疲れ切って咳き込むことすらしなくなった喉から、なんとかそれだけを絞り出す。

 

……嫌~な、フインキだぜ。

 

「さよう。

 G型ウイルスに導かれた、人類を凌ぐ超人類。

 それが我れら、ギャラクターである」

 

黒ギツネの両隣に控えてた緑色のイヌっぽいカッコした連中が、格子戸を開けて、おいらに手を延ばそうとする。

 

だけど、

 

「ヒィッ!」

「ギャァッ!」

 

どこからともなく飛んできた三日月めいたきらめきが、おいらとやつらの間をびゅんと切り裂いた。

 

「何奴!」

 

翻って戻っていく輝きを追って、黒ギツネの視線は廊下の向こう。おいらからは見えない彼方。

 

      「 ……音もなく忍び寄る白い影…… 」

 

「おのれ慮外者め!

 このベルク=カッツェが直々に討ち果たしてくれるわ!」

 

高らかにヒールを鳴らしながら、黒ギツネがサーベルを抜いた。

 

キィンッ、ガッ、などと響きだした鉄と鉄とを打ち合わせる音が、たちまち遠ざかっていく。

 

 

「いったい、なにが……」

 

途端にどたばた倒れたのは、置いてかれてったカタチになる取り巻きの幾人か。

 

『……』

 

一人だけ立ってたヤツの輪郭がブレて、純白とピンク色したスーツに身を包んだ女の人の姿に変わる。

 

ほっそりとした、優しいシルエット。

まるで白百合か、白鳥のような。

 

「科学忍法・光学七変化」

 

なんちゃって。って舌を出したその笑顔がひどく可愛らしかったってことを、おいらは忘れられない。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「……で、アネゴ」

 

「姐御はよしなさいって言ってるでしょ」

 

屋外訓練場は、サッカーコートなら2面は取れるくらいあった。

 

2人で使うにはちょ~っと、広すぎるかな。

 

 

「いいじゃん。細かいコト気にする女はケン兄にゃ似合わないぜ?」

 

ケン兄は真面目で几帳面だけど、ズボラでだらしねぇ一面もあるから、傍らに控えんなら、おおらかな気立てのいいタイプの女性が佳いんじゃね? ってのが、おいらの見解。

 

「…ちょっ! ……コラー」

 

たちまち振り上げられたこぶしを、おいらは身に着けたばかりの能力で避ける。

 

 

 ――あの後、おいらが連れてこられたのは、Gタウンって呼ばれてる南の島だった――

 

直接救けてくれたのがジュン姐で、影ひとつ見せずに黒ギツネの注意を惹きつけたのはケン兄。

 

でっけぇ戦闘機で迎えに来てくれたのがリュウのあんちゃんで、別拠点へ陽動をかけたジョーって人も居るらしい。

 

まあ、他にも色々と説明してもらったんだけれど、おいらにゃ良く解かんなかった。

 

おいらに判るのは、ギャラクターは酷ぇ連中で(実感)、ガッチャマンはそれに対抗しうる唯一の存在ってことぐらい(推測)。

 

なにより大事なことは、おいらがその一員になれるかもしれないってことだけだ(願望)。

 

 

目の前には、柳眉を逆立てたままのジュン姐。

あの時の白い恰好じゃなくて、訓練用に支給されてる地味~なトラックスーツ姿で。

 

ま、貰って以来、おいらもおんなじ恰好なんだけど。

 

「いくわよ!」

 

今のゲンコツ空振りがゴング代わりってか。

 

ジュン姐は姿勢を崩すこともなくそのままくるりと一回転して、水平手刀。

 

目にも留まらぬ早業を、おいらはただしゃがんでやり過ごす。

 

身長差の勝利。……ってダケじゃない。おいらの授かった能力が、周囲の状況をはっきりと教えてくれる。

 

 ――ガッチャマンの基本能力の一つである【鳥瞰】は、相棒との視覚共有を可能にする――

 

……って、南部のおっちゃんが言ってた。

 

つまりおいらは今、上空を旋回してるツバメ【コジロー】の視界を借りてるってワケさ。

 

時速200㎞で狩りをするツバメの視覚なら、強化されてるっていうガッチャマンの動きだって楽勝。

 

恐ろしい勢いで頭上を通り過ぎてった手刀のうなりにおいらは冷や汗モンだけど、距離を置いて俯瞰できるこの視界のおかげで取り乱さずに済んだ。

 

「隙ありっ!」

 

「きゃっ!!」

 

さらに半回転して今度は後ろ回し蹴りの態勢に入ったジュン姐の、無防備なヒップにタッチ。

 

だって、しゃがんだおいらの目の前にあんだもん。つい、デキゴコロで。

 

慌ててお尻を押さえて、ぴょこんと跳び上がるジュン姐。その間にごろごろと、おいらは後ろ回りの要領で間合いを置いた。

 

「…こっ、この!」

 

あ、やば~いフインキ。本気で怒らせちゃったかな?

 

ジュン姐、フラミンゴみたいに首まで真っ赤だ。

 

即座に謝るのと、ほとぼりが冷めるまで逃げるのと、どっちが被害が少ないだろ? って天秤にかけた時だった。

 

ぱちぱちぱち。と、拍手の音がどこからとも、なく。

 

「冷静さ、体捌き、分析力、行動力。

 まずまず及第点と言っていい」

 

コジローに教わるまま振り返った先に、人影。

 

「ジンペイ。

 お前を6人目のガッチャマン。G-6として認めよう」

 

「ケン!?」

 

不本意だと頬を膨らますジュン姐を気にも止めず、ジーンズにTシャツ姿のケン兄が歩いてくる。

 

ひのふのみぃの……、あれ?

 

まだ顔合わせもしてないジョーって人を勘定に入れても4人しか居ないはずなんだけど、おいらが6人目?

 

そのことを尋ねようとしたおいらを、アラート音が止めた。おいらがまだ貰ってないブレスレットが警告するのは、当然……

 

 『南部だ。

  ニュートーキョーにギャラクターが現れた。大規模な人間狩りを行っているらしい。

  ガッチャマン、至急出動せよ』

 

「ラジャー」

 

言うなり身を翻した2人が、あっという間に豆粒みたいに。

 

けれど、おいらだってボケっと見てたワケじゃない。一歩出遅れこそはしたものの、すぐその背中に追いついた。

 

「ケン兄、ジュン姐。おいらも連れてってくれよ」

 

「ダメに決まってるでしょ」って言うジュン姐をよそに、ケン兄は右眉を上げただけだ。

 

「南部博士。

 ジンペイのスーツは?」

 

 『……出来てはいる。

  だが、慣熟と調整には62万プラスマイナス5千秒を費やす予定だ』

 

そんな余裕はない。と続ける南部のおっちゃんの声を尻目に、ケン兄の視線はおいらへ。

 

ここが決意の見せ所。

 

「連れてってくれるだけでいい。

 ギャラクターってヤツらがどんな連中か。おいらがガッチャマンとして戦えるのか。

 それを直に肌身で確認したいダケだから」

 

3人とも、走りながら。

 

上半身を揺らさずに倒れこむような走り方は、今のこの体に慣れた翌日に教わったばかり。

 

「いいだろう」

 

差し出された手が、優しく肩を叩いてくれた。

 

「ギャラクターに立ち向かう意志があるなら、それだけで立派なガッチャマンだ。

 いくぞガッチャマン6号。【つばくろのジンペイ】」

 

「ラジャー」

 

これがおいらの初出動だった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「ん? ……ああ、出動かい」

 

無事にブレスレットをジュリョウして(駆け抜けざまに投げ渡されるのをそう呼んでいいのなら)、2人の後について行って辿り着いたのは、でっけぇ戦闘機の操縦室だった。

 

「そうだ。場所はニュートーキョー」

 

この戦闘機とメインパイロットであるリュウのあんちゃんとは、ギャラクターから救出された時に会って以来。

 

「……ふわぁ」

 

ミミズクを相棒に持つリュウのあんちゃんは基本的に夜行性で、昼間は大抵ここで寝てんだとか。

 

「しゃっきりしてよ、リュウ」

 

でかい図体を揺らしてリクライニングを起こしたリュウのあんちゃんが、操縦桿を握る。

 

ケン兄はそのななめ後ろのキャプテンシートに、ジュン姐は左端の通信・索敵手席へ。

 

Vの字型に配置された座席のうち、おいらはとりあえずってことで右端の機関士席に落ち着いた。

 

  『航空管制よりゴッドフェニックスへ。

   可変カタパルト問題なし。

   仰角55。進路クリア。

   ゴッドフェニックス、発進を許可する』

 

「ゴッドフェニックスより管制へ、許可に感謝する」

 

スーツの首元には、咽頭マイクが仕込んであるんだとか。

 

「よし。ゴッドフェニックス発進」

 

「ラジャー」

 

リュウのあんちゃんがスロットルを引いた途端、ぺちゃんこになるんじゃないかってぐらいおいらの体はシートに押し付けられた。

 

「……ぐぎぎぃ」

 

歯を喰いしばって我慢する。

ついてくるって言い出したのはおいらだ。こんなんで弱音は吐けねぇ。

 

 

あとで聞いた話だけれど、こいつの最高速度はマッハ5で、発進の時にはカタパルト射出の分も併せて12Gもの負担がかかってるんだと。

 

「5分だけ耐えろ」

 

大鷲のくちばしを模したグラスシールドを透かして、ケン兄の横顔が見えた。

 

Gなんか存在しないって言わんばかりの涼しい顔で、前面スクリーンを見つめてる。

 

5分……、ね。

たった5分がこんなに長いって、初めて知ったぜ。加速中の物体は時間の経過が遅くなるっての、ホントだったんだな。

 

ゴメンよアインシュタイン先生。アンタの理論を疑っちまってよ。

 

 

 

 

「……か」

 

……ん?

 

「大丈夫か」

 

言われて気付いた。周囲がひどく静かだってことに。

 

「……なんとか」

 

「初めての弾道飛行にしては上出来だ」

 

あれ? なんかヘンだな。ヤケに心臓がドキドキしやがる。周りは静かなのに、おいら自身は騒々しい。

 

「今、自由落下中でゼロGよ。

 体調はどう? 宇宙酔いしてない?」

 

ああ、これが宇宙酔いなんだ。

 

「ちょっと心臓がドキドキするケド、ダイジョブ」

 

なにかモニター画面を見ていたジュン姐が頷いた。

 

「有効な対策は、いま着ているGスーツぐらいよ。

 頭とか急に動かさないように、安静にしてなさい」

 

「……ふわぁ。

 宇宙酔いりゃあ、ぶち寝ちゃるが一等じゃけん」

 

見ると、リュウのあんちゃんはパイロットシートを倒しきって横になってた。腕を枕に、高いびき。

 

「ほんの2~3分の間で寝つけるか知らないけど、効果的なのは認めるわ」

 

肩をすくめたジュン姐が、白鳥のくちばしを模したグラスシールドの中で苦笑する。

 

「すまんが、休憩できるほどの時間はない」

 

キャプテンシートをくるりと回して、ケン兄。

 

「行動中の役割分担を伝達しておく」

 

普段はもっと砕けてるんだけど、任務中のケン兄はどうやら堅物っぽい。

 

「任務は、ギャラクターが遂行している人間狩りの妨害。

 輸送用トラックを移動不可にして、足止めを最優先だ。

 なお、【ギャラクター対策特別措置法】の定めによって、現地の行政機関とは情報共有することで同意がなされている」

 

【ギャラ対特措法】は、おいらでも知ってるくらい有名な法律だ。

……って云うか、ホントは法律じゃなくて単なる国連憲章らしいんだけど、史上初めて全世界・全陣営で採択され一言一句違わず共通で条文化されたから法律扱いされてるんだとか。

 

つまり、現状唯一の世界憲法ってワケ。

 

「人々の避難誘導は、現地の特設対策本部との連携の上で臨機応変に行うことになるだろう」

 

グラスシールド内に投影された情報を読み取ってるらしく、ケン兄の視線が右へ左へ。

 

「先陣は俺が切る。

 ジュンはバディとして直接支援を」

 

「ラジャー」

 

5点ハーネスを外したジュン姐が、ヘッドレストを足蹴にして後部のシャッターから出て行った。無駄のない、手慣れた動き。ゼロGに慣れてるんだろう。

 

「ジンペイは此処に残って基地との中継役、兼、我々をモニターして間接的な支援を頼む」

 

「ラジャーだぜ」

 

「リュウはゴッドフェニックスを旋回待機だ」

 

……ふわぁ。と上がるアクビ。

 

口を閉じるときに一度、頭ががくりと揺れたのがラジャーの代わりっぽい。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

ニュートーキョーの街は、逃げる人々と追うギャラクターで溢れてた。

 

連中は相変わらずあの緑色したイヌっぽいスーツを着てて、モノトーンな街中ではすっごく目立ってる。

 

路地に追い詰められて悲鳴を上げる母娘。銃床で張り倒される爺さん。ずるずるとトラックまで引き摺られていく学生。子供を突き飛ばしてまで逃げて、ニヤニヤしながら待ち構えてたギャラクターに跳び込んじまったサラリーマン。

 

警察や消防が出張って妨害や避難誘導とかしてるけど、十把一絡げに捕まってた。

 

国会決議とやらが長引いてて、軍隊は出動できてないらしい。

 

 

『……』

 

望遠画像越しでは音声が届かなくて、ひどく遠い世界のデキゴトに見える。

 

連中は特に作為も見せず選別もせず、片っ端から手当たり次第に人々を捕まえているようだ。

まるで雑草を鎌で刈るような、あるいは牛が牧草を食むような、いっそ無人の野を往くような、無造作さで。

 

それでも、ギャラクターに向かってく連中もいた。

 

警官とか、なぜか消防士とか、恋人を取り戻そうとするガタイのいいあんちゃんとか。

 

けれど、あの緑色のイヌっぽい恰好した奴らは見かけに拠らず案外強くて、街の人々の抵抗なんか歯牙にもかけない。

 

ネコ目のハイエナは群れでの狩りが上手い生き物だって聞いたことがあるけど、ギャラクターはまさしくミドリ色したハイエナの群れだった。

 

そつのない手際と意外に見事な連携、有無を言わさぬ咀嚼力で、人類を狩り立てていく。

 

安全な場所から見下ろしていたから、そうと解かる。

 

 

……そうだ。ああしておいらも捕まったんだ。

 

「……」

 

あん時、おいらは無力すぎて逃げだすことすら出来なかった。

 

父ちゃんも母ちゃんも、婆っちゃですらおいらを逃がそうと体を張ってくれたのに、体の弱い姉ちゃをおいらが連れて逃げ出さなきゃなんなかったのに、腰が抜けてその場から一歩も動けなかった。

 

 

でも、今なら。今ならアイツらを……

 

「G型ウイルスに適合しゆうがどうがは、ばびらとりゅうに【運】ちゅうハナシじゃけぇのぅ」

 

リュウのあんちゃんが、おいらに直接話しかけてきたのは初めて。

 

その物言いもあってか、ちょっと肩から力が抜けるようなフインキに。

 

「連中の言ん訳ぇを信じりゅぅらば、人類を進化させんてぇが通過儀礼ちゅうがよ」

 

計器盤で何かを調整してて、特にこちらを振り返ったりはしない。

 

「ギャラクターって、何者なんだろ?」

 

任されたモニターから目を離さないようにして、訊いてみる。

 

「本人らぁは【先覚者】ゃあやら【革命者】っちゃあ自称しちょるき。

 儂っきぃが確かぁばん、ギャラクターゆうは【G_Avian_influenza Revolution ACTOR】の略じゃっとか」

 

はっきりしちゅうんは、と作業を終えたらしいリュウのあんちゃんが、ちらりとこちらを。ミミズクのくちばしを模したグラスシールドの向こうで、表情はよく見えなかったけれど。

 

「G型ウイルスに適合した連中のなれの果てっちゅうことと、やっちょることがガイなっくすお世話っちゅうことだけじゃし」

 

「じゃあ、そのウイルスに適合したのにギャラクターに行かなかったのが……」

 

「ほうじゃ、そいこそが儂ら【G_Avian_influenza CHArged MEMbers】

 略しゅうけん【ガッチャマン】じゃき」

 

それじゃあ。と重ねかけた質問を呑み下す。

 

ギャラクターのトラックを壊して回っている2人の元に、影が差したんだ。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

  『  おのーれおのれ! ガッチャマンめ。

     毎度毎度、目障りな! 』

 

黒ギツネの喚き声がやたら遠いのは、ケン兄の全周囲ソナーが拾った音声の中継だから。

 

『それはこちらのセリフだ。ベルク=カッツェ』

 

こっちはクリアに、ケン兄の落ち着いた声。

 

 

行って来ぅわば。ってリュウのあんちゃんが送り出してくれて、おいらは初めてのスカイダイビング体験中。

 

高度3000フィートとやらが不思議と全然怖くなかったのは、ツバメのコジローとの繋がりがあってこそ。

 

  『  ええーい! 逃げるな、ガッチャマン  』

 

トラック同士の最短経路を跳ぶケン兄を、黒ギツネが懸命に追っかけてる。

 

『まともに相手をしてやる義理はない』

 

まともに答えてやる義理すらないと思うんだけど、ケン兄は律儀だね。

 

 

『… … …、… … …』

 

トトト トトトンと咽頭マイクを叩いて、合図。即興だけど、おいらが貰った番号を示して、6回で。

 

 

ジグザグと、黒ギツネを引きつけていたケン兄が、回り込むような動きに変化。

 

おいらの意図に気付いて、やっこさんの足止めにかかってくれたっぽい。

 

 

 

「……」

 

背負ったマントは南部のおっちゃん特製のハリケーンポリマー素材で、空気をよく孕む。

 

さすがに空を飛ぶことはできないけれど、使い方次第で隕石みたいに落下することも、パラシュートよりもゆっくりと降下することもできる。

 

その中間ド真ん中の速度で狙うのは、黒ギツネの頭。

 

もちろん、直接ぶつかったりはしない。

 

かますのは、一撃離脱。

 

腰の隠しから取り出したアメリカンクラッカーの間合いの分だけ、外す。

 

 ――ツバメは歩くのが不得手な鳥だ。けれどその分、飛ぶのは上手い。雛への餌やりすらホバリングで済ましちまうほどに――

 

落下速度をクラッカーに乗せて、その反動と地面効果だけで方向転換することぐらい、今のおいらなら!

 

「……っく!」

 

「ホーッホッホッホ!」

 

勝ち誇った叫び声は、黒ギツネの。

 

「もう一度名乗ろうか、小僧。

 我が名はベルク=カッツェ。山猫の名よ」

 

「……」

 

絡め捕られた腕が、ギリギリ鳴ってる。

 

「カラカルは文字通り飛ぶ鳥を墜とす。

 貴様ごとき小鳥を、このベルク=カッツェが捕えれぬ筈があろうか?」

 

いやない、ホーッホッホッホ!っと反語つきで再び高笑いした黒ギツネが、重心を落とした。痛てっ! 肘っ、肘が!

 

「動くな、ガッチャマン!

 それ以上近寄るでないわ」

 

盾代わりに突き出されたおいらの姿に、ケン兄の足が止まる。

 

「ケン兄、……すまねぇ」

 

「……」

 

ケン兄が怒ってるわけじゃないことは、その眼を見れば解かった。

 

ひたりと黒ギツネを見据えて、逆転の機会を窺ってんだろう。一触即発のフインキ。

 

「雛鳥を一羽取り戻せただけで僥倖としゆうかえ?

 なにせ、あのガッチャマンから奪い返せたのだからのぅ」

 

いつの間にか、ケン兄の左手が体の陰に隠れてた。

 

「おっと、もう1人居るのは判っておる。

 合図を送るのもご遠慮願おうか」

 

「ほう?

 それが本当なら、お前ぇを見直さねばならんな」

 

聞いたことのない声は、おいらの足元から。

 

何奴!? と気をそらした黒ギツネも、おいらと同じものを見たんだろう。

 

「ラジコンカー?」

「む? ガキのオモチャではないか」

 

手のひらサイズのフォーミュラマシンが、おいらの影の中に溶け込んでた。

 

「科学忍法・こだま」

 

どう考えてもスピーカー越しのはずなのに、まるで本人がその場に居るかのような息遣いで。

 

「ホグヮッ!!」

 

黒ギツネの悲鳴と共に投げ出されたおいらは、これだけは昔っから得意だった前回り受け身でごろごろごろごろ逃げる。

 

「おのれ! もしや!?」

 

腕に刺さった羽根を憎々しげに叩きつけた黒ギツネを、新たな羽根が次々襲う。

 

「無鉄砲なヤツだ」

 

跳ね避ける黒ギツネに警戒してたおいらの、目の前に黒いマント。

 

キツネ野郎のテカテカしい黒じゃなくて、夜闇をそのまま切り取ったかのような、漆黒。

 

西日を遮るトバリのように、黒ギツネの視線をぶった切って。

 

「だが、悪くはない」

 

猛禽を模したグラスシールド越しに、上がった口の端が見えた。

 

 

「ジョー。来てくれたのか」

 

ブーメランでさらに黒ギツネを追い立てつつ、ケン兄が舞い降りる。

 

「顔まで見せる気はなかったが」

 

つい、な。と、意味ありげな視線をおいらに。

 

 

「よし。一旦離脱して、体勢を立て直す」

 

走るぞ。と言い終える前に駆け出した白いマントに、ついて行く。

 

 

 「礼を言う。前回の分も併せて」

 

振り返ることなく、ケン兄。

 

   「言葉など要らん。行動で示せ」

 

突き放すような声音は背後から、ジョーの兄貴。

 

 「解かっている。忘れたことなどない」

 

   「なら、いいがな」

 

ケンカしてるような言葉のやり取りなのに、2人の連携は凄まじかった。

 

おいらを中心に据えて、時にはケン兄がミドリハイエナを蹴散らし、時にはジョーの兄貴が黒ギツネを足止めする。それらをスイッチしながら瞬く間に3回は繰り返した。

 

あるいは隙だらけのジャンプで跳び越えたケン兄に気を取られたミドリハイエナが、見落とした「その影」に絞め落とされたり。

 

あるいは剣山みたいにされたミドリハイエナの、突き立った白い羽根がそのまま「白い影」となって背中を見せたヤツを襲う。

 

あるいはビルの壁を走って連続ラリアット、あるいは街灯を大車輪で競り上がって一陣のつむじ風と化す。

 

 

 『まずは小手調べ、科学忍法・影分身だ』

 

通信で囁かれて気づいたけど、たまにケン兄が真っ黒に、ジョーの兄貴が真っ白になってることがある。

そうやって入れ替わったフリをしたり、実際にすり替わったり、瞬間移動したように見せかけたり、いっそ2人とも白くなったり黒くなったりして、もう何人居んだか判んねぇ。

 

 

「せいっ!」

 

とうとうケン兄は路上放置された乗用車なんかをひっくり返しだして、「やっ!」それを蹴飛ばしたジョーの兄貴が、ギャラクターどもでストライク、ダブル、ターキーを量産しだした。

 

 

「ええぃ、構わん。撃て! 撃てぇぇぇい!」

 

黒ギツネの叫びに、ギャラクターどもがライフルを構える。

 

「ふっ」

 

 にやり。と、ジョーの兄貴。

 

「銃は最後の武器だ。

 その身を以て教育してやろう」

 

同士討ちを恐れて自重してたんだろうに、ここまで乱戦になってから飛び道具はムチャだ。

 

  「……ぐっ!」

 

案の定、ケン兄もジョーの兄貴も敢えて発射の直前まで銃口の前に身を曝して、その射線を誘導しだした。

 

  「ぎゃぁ! ……」

 

おかげで、おいらの方には一発も飛んでこない。

 

  ……まるで、台風の目だ。

 

 

降り注ぐ剣林弾雨の嵐の中で、それに劣らぬ勢いで速度を増していく。

 

ぐるぐると目まぐるしく入れ替わり、変幻自在に敵を翻弄する。

 

全てを巻き込み、薙ぎ倒す、まるで野分の大風。

 

 

「憶えておけ、ジンペイ」

 

ジョーの兄貴が一本背負いで投げ飛ばしたミドリハイエナを小内巻き込みで叩き落として、ケン兄。

 

「これぞ科学忍法・竜巻ファイター」

 

あくまで前を見据え続ける白いマントの後ろ姿に、ジョーの兄貴が羽根を投げた。

 

   「お互いの存在を感じ取れるGスーツを着たG型ウイルス適合者が、完璧に息を合わせて初めて成せる連携技だ」

 

ミドリハイエナに足払いをかましたケン兄の頭上を通り過ぎて、羽根が黒ギツネに刺さる。

 

 

「いずれお前にも、加わって貰うぞ」

 

おいらはただ、2人の動きに置いてかれないように懸命に走って。

 

「……ラジャー」

 

ただ、それだけ応えた。

 

 

 

 

「おのれおのれ、おのれおのれおのーれっ!

  忌々しーい、やつばらよ! ガッチャマンどもめ!」

 

またもや腕に刺さった羽根を憎々しげに叩きつけて、黒ギツネが喚く。

 

「にーっくき大鷲のケンめ! 目障りなコンドルのジョーめ!」

 

「山猫風情が、オレをその名で呼ぶな」

 

マントの一振りで打ち出した羽根が四四の16枚。狙い違わず黒ギツネに。

 

 

「ク~ッ、クックック……」

 

けれど、今度は届かない。

黒ギツネの目前で空気が歪んで、一枚残らず叩き落とされたから。

 

「来~たか、我れらが鉄獣メカ。

 ゴールデンバットよ」

 

見れば黒ギツネの背後、その上空からキンキラキンのコウモリが飛んできてた。

 

「カーッ! カッカッカッ!

 今日こそガッチャマンの最期、命日よ!」

 

背骨が折れそうなほど胸をそらしてた黒ギツネが、一転、こっちを睨めつける。

 

「やれい、ゴールデンバット!」

 

羽ばたきとジェット噴射で浮く金属コウモリの、鼻っツラが花みたいに広がった。

 

「むっ!?」

 

「いかん!」

 

ケン兄に両足を蹴り払われて、おいらは刹那の空中遊泳。すかさずジョーの兄貴が蹴り押して、10メートルは弾き飛ばされる。

 

「!!」

 

その直後、ジョーの兄貴の脚が、ぶった斬られた!

 

なにか、目に見えない刃のようなものが、地面ごとえぐって行ったっぽい。

 

 

 『フォノンメーザーか』

 

 『いきなり奥の手とは。

  山猫野郎め、そうとうオツムに来てやがるな』

 

ささやくような2人のやり取りが、通信で聞こえてくる。

 

しかし、それにしたって……ジョーの兄貴……。

 

 『ジョー、ゴッドフェニックスで集合だ』

 

 『已むを得んな』

 

駆けつけようとするおいらに向かって、ケン兄が五指を弾くようなジェスチャー。

 

習ってないけど、フインキで解かった。

 

とっさにバックステップでその場から離れるおいらに頷きかけて、ケン兄の姿がブレていく。

 

 『ジュン。

  ジンペイの撤退をフォロー』

 

 『ラジャー』

 

途端に伸びてきたリボンが、おいらを河の中に引き摺りこんだ。

 

 

 

 

                            後篇へ つづく

 

 

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