【独自解釈】異説ガッチャマン【全拾羽】   作:dragonfly

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【独自解釈】ガッチャマン異聞【前篇】

 

 

 

 

 

きゅっきゅっきゅっ、と心地よい音を立ててグラスを磨きあげる。

 

ゴーゴー喫茶「スナックJ」のキッチンは狭い。すべてがおいらの手の届く範囲。

 

料理レベル【科学忍法・火の鳥】(壊滅的って意味で)な経営者を追い出して以来、ここがおいらの城だった。

 

 

「ジンペイ。

 ナポリタン大盛り。ウインナーじゃなくてベーコンで」

 

読んでた【 週刊 文潮 】をマガジンラックに投げ入れて、ケン兄が人差し指を立てた。

 

「あいよ、ナポリタン大盛り一丁。

 ウインナーをベーコン変更、承りっと」

 

伝票にチェック入れて、寸胴鍋を強火に。

スパゲッティはスナックJの定番メニューだから、お湯は常時沸かしっ放しだ。

 

「ケン兄。

 ナポリタンは腕に縒りかけて作ってやるけどさぁ、そろそろツケ、払ってくれよ?」

 

さっき書き入れたケン兄の伝票、何枚も重なってて、けっこう凄いことになってんだけど。

 

「スマンな、ジンペイ。

 今度の手当ての時には必ず」

 

片手を上げて拝むようにして、ケン兄が首をすくめた。

 

2週間寝かしといたシンペイ特製ベーコンを切り分けながら、おいらも肩をすくめて見せる。

 

こんなのはまあ、ポーズってヤツさ。

 

おいらもジュン姐もこれで生計を立ててるってわけじゃないし、ケン兄がその棒給のすべてを研究資料や訓練機器とか養育施設への寄付に回しちまうことも判りきったことだし。

 

そもそも飲食店の売掛は、1年請求しなかったら権利が消滅しちまう。

 

そしらぬ顔してジュン姐が貸し倒れ計上してんだから、おいらが口出しすることじゃあない。

 

それでも建前は通しとかなんないし、なにより……さ。

 

「ケン兄。

 そいつぁ おいらにじゃなくて、ジュン姐に言わなきゃ、だぜ?」

 

「そうだな。

 いつもスマナイ、ジュン」

 

カウンターの内っ側でレスカ飲んでたジュン姐は、ケン兄を眺めるのに夢中で、まさか自分に話が及ぶとはあまり思ってなかったらしい。

 

「えっ! あっ!」

 

突然の事態に目を白黒させてた。

 

「……んう、ツケなんかあったかしら?

 あたし数字にも弱くてよく憶えてないから、そんなものイツでも構わないのよ」

 

平静を装うなら、氷が鳴るほどストローで掻き回しちゃあイケないと思うけどね。

 

「いや、感謝してるよ。

 おかげで実に助かってる」

 

訓練中でも任務中でもない、スナックJでのひと時。ケン兄はとくに砕けた、リラックスした一面を見せる。

 

ちょっと軽めに片手で拝まれたジュン姐が、グラスの向こうに顔を隠すようにしてぶくぶくと泡を立ててた。

 

 

 

団欒って、言っていいんだろう。

 

ケン兄とジュン姐を見てると、なんだか自然と頬が緩んじまう。

 

失っちまった家族ってモノを取り戻せたような、そんなフインキに、なる。

 

 

「……」

 

――父ちゃんと母ちゃんは共働きだったから、おいらと姉ちゃを育ててくれたのは、婆っちゃだった――

 

婆っちゃは昔ながらの何でもできる人で、ご飯はもちろんカマド炊き、藁束からは縄を綯い、ウラベニホテイシメジとクサウラベニタケを一瞥で見分け、ひとたび山に分け入ればキノコや山菜を籠いっぱいにして帰ってきた。

 

明治のモガだったらしい婆っちゃはさらに、デミグラスソースの仕込みやボルシチに使う甜菜の良し悪し、ダンスホールでの踊り方にミルクホールでの正統な給仕スタイルまでおいらに教えてくれたりした。

 

おかげで現在、ゴーゴー喫茶「スナックJ」のウェイター 兼 料理人としてなんの不自由もない。

 

 

 

 

焼き皿に盛りつけたナポリタンをケン兄に差し出したところで、腕のブレスレットが鳴った。

 

アラートじゃなくて、アラーム。

 

「おっと、時間だ」

 

「ん?

 ……ああ、今日か?」

 

口元に運びかかっていたフォークをいったん止めて、ケン兄。

 

「うん。

 南部のおっちゃんに、この時間でって言われてたんだ」

 

腰巻きのショートエプロンを外して畳む。

 

「……というワケで、ジュン姐」

 

「早く行ってきなさい」

 

サンキュー。って言い終わる頃には、おいらはもうドアの外に出てた。

 

 

 

 

半地下にある店舗から、階段を駆け上がって路地裏に出る。

 

大通りに出ると、昼間のGタウンは結構な人通りだった。

 

つっても、ここはただの街じゃあない。

人工島【三日月珊瑚礁】の地下(?)で、暮らしてんのはガッチャマンとそれを補佐する国連機関の関係者だけ。

 

ギャラクターに見つからないように7つの海を常に移動してるらしい秘密基地が、3万人もの人間が暮らす空間を抱え込んでるっていうから凄ぇ。

 

 

いざというときはこの街そのものを囮にして、さらに地下の本部機能だけ脱出するってぇ寸法らしい。

 

「科学忍法・空蝉地残」だとか南部のおっちゃんはほざいてたケド、忍法じゃなくて外道だよね。それ。

 

ま、ここにいる人たちに、そのことを覚悟してない人はいないってんだから文句をつける筋合じゃあねぇけどさ。

 

 

電話ボックスとか公衆トイレなんかに偽装された地下へのシュートを一つ使って、目的地へ。

 

――情報漏洩対策として、ガッチャマンの正体はごく一部の人間しか知らない。勿論この街の住民も例外じゃないから、Gタウンはこんな仕掛けだらけだった――

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「あれぇ?

 ゴッドフェニックスってば、修理中?」

 

「ん? ジンペイか」

 

タブレット片手に作業を監督してたらしい南部のおっちゃんが、こっち向いた。

 

「いや、ゴッドフェニックスにこれといった問題は存在しない」

 

じゃあなんで、装甲板すべて取っ払われちゃってるの? 底面のカーゴベイどころか、機首のエアロックまで丸見えじゃん。

 

「修理ではなくて、改修だよ。

 改良された装甲や、新たな装備を載せるためにな」

 

ふうん。

 

「じゃあ、ニュー ゴッドフェニックスだね」

 

「ん?」

 

なに? なんで急にタブレットなんか覗き込んだの?

 

「いや、そこまで改修回数は重ねていない。

 4回目だから、さしずめデルタ ゴッドフェニックスだろう」

 

南部のおっちゃん。ワケわかんないよ。

 

「ああ、しかしC整備や部品のマイナーチェンジまで数えると確かに13回目か。

 流石だな、ジンペイ。

 男子三日会わずんば、即ち活目して見よ。とはこの事か」

 

何が心の琴線に触れたのか知んないけれど、やたらと感心することしきり。

 

これさえ無ければ、ホントーに凄い人なんだけどなー。

 

 

「それより、南部のおっちゃん。

 本題本題」

 

「おお! そうだったな」

 

こちらに来たまえ。とキャットウォークを歩き出したおっちゃんに、ついてく。

 

「すでに【コジロー】はキャビン入りして、機体との同調を進めている」

 

キャビンっていうのは――ジュン姐のスワンUボートで見たことあるけど――、コクピット内にあるガラスケースっぽいヤツ。

 

そこにガッチャマンの相棒が収まって、各々のマシンを制御してくれるってワケ。

 

 

「さあ、御開帳だ」

 

ゴッドフェニックスの格納庫には、6つのシャッターがある。

カタパルトに続くメインエントランスと、各ガッチャマン専用マシンの格納庫に続くベルトコンベアーの先に。

 

ま、格納庫が立方体してる以上、6つより多く開口部を設けても意味はないんだろうけど。

 

それらのうち、【5】って大書されたシャッターがゆっくりと降りてった。

 

 

「これが君の専用機、【スワロゥテイル】だ」

 

バババッ! と、スポットライトが照らし重ねる先に、青い機体。

 

リフトアップされて、ちょうどおいらの視点くらいの高さ。

 

「要求通り、高速かつ高機動な、空飛ぶ王者として設計した」

 

カツカツと靴を鳴らして歩み寄った南部のおっちゃんが、翼端を潜る。

 

「小型ながら、量子反応タービンを2基搭載。

 ケンのイーグルストライクには一歩譲るが、巡航速度はマッハ3を誇る」

 

撫でたのは翼の下、エンジンナセルのライン。

 

「速度と相反する高機動性を保証するのは、この先尾翼」と、機首に取り付けられた小さな(つっても片翼だけでゲイラカイトぐらいある)翼を指し示す。

 

「それに。

 取り入れた大気を流用した反動姿勢制御システム」

 

機体のあちこちについてる、蓋付きの溝っぽいモノをベーンって呼ぶことを、後日教わった。

 

なにより。と、再び翼下を潜って尾部へ。

 

「極めつけは、このフレキシブル排気ノズルだ」

 

エンジン部分から機体後部にかけて、2本の蛇腹が伸びている。

 

「それぞれ15度の可動域を持つスラストリングを12基連結。推力偏向180度を実現した」

 

そう聞いた途端にそのフレキシブル排気ノズルとやらがくねっと曲がったのは、コジローの挨拶だろう。

 

まだ喋る気満々の南部のおっちゃんの邪魔すんのもなんだから、おいらも片手を上げるだけで応えた。ノシ

 

「垂直離着陸もホバリングも難なくこなす、いわば超音速のヘリコプター」

 

それにしても、機首の先尾翼といい、全翼機めいた大きな三角翼といい、流すように伸びたノズルといい……

 

まるで、凧の足をくっ付けたイカ飛行機みたいだ。

 

「まさしく空飛ぶ王者、翼ある物の頂点と言っていい機体に仕上がっているぞ!」

 

ババーン! と効果音が入りそうな勢いで両腕を広げた南部のおっちゃんが、

 

「ぁ痛タタ……」

 

垂直に立ち上がってたフレキシブル排気ノズルに指先ぶつけてしゃがみこんだ。

 

 

……

 

「……大丈夫かい? 南部のおっちゃん」

 

フレキシブル排気ノズルも申し訳なさそうに「Ω」みたいな形になってる。

 

「……大事ない。……掠っただけだ」

 

一所懸命に指先ふうふうしながら言ったって、説得力ないんだけど。

 

ご覧のとおり。と、南部のおっちゃんが立ち上がった。

 

「航空機としては破格の頑丈さだ」

 

立ち直り早いね。……でも、なんで後ろ手に指先を隠してるのかな? かな?

 

「今ゴッドフェニックスが換装している新型装甲と同じモノだから、強度は折り紙つき。

 こちらはかなり薄いが、それでも機銃掃射くらいなら難なく弾く」

 

もっとも。と、フレキシブル排気ノズルを撫でて宥めて「装甲そのものは無傷でも、スワロゥテイル自体は弾き飛ばされてしまうだろうが」だって。

 

そりゃそうか。空飛ぶ戦車そのもののゴッドフェニックスみたいにゃあ、いかないよな。

 

火の鳥みたいな体当たり戦法が出来るかも。って考えたことは心の棚に仕舞っとこ。ないないだ。

 

 

「武装は硬X線パルスレーザー砲が一門。機首軸に、固定式だ」

 

飛行機としての要求性能が厳しかったから、武器なんか期待してなかったんだけど。

 

「威力も射程もないが、質量変動がない上にほぼ無限に投射できるのが強みだな」

 

なるほど、反応炉サマサマだね。

 

効果的な戦法は……。って続ける南部のおっちゃんの腕時計が、ヒヨヒヨヒヨって鳴った。

 

「む。こんな時間か。

 コジロー君、もう休みたまえ。あまり根を詰めても能率が下げるだけだ」

 

ぐにゃりと曲がって「ノシ」みたいなフインキになったフレキシブル排気ノズルが、まっすぐ水平に。それが定位置なんだろう。

 

ぷしゅっ。と缶コーラでも開けるような音を立てて、機体下面の一部がスライドした。

 

「前後どちらからでも、お互いに飛行したままで搭乗降機ともに可能だ」

 

機体との間に生じたわずかな隙間からコジローが飛び出してきて、おいらの周りをぐるり。

 

「スルーインハッチは、そのままパイロットシートになっている」

 

丁度おいら1人を載せれるほどのサーフボードみたいな代物を、スルーインハッチって呼ぶらしい。

 

「操縦は、うつ伏せに寝そべるような形で行う」

 

そのまま格納庫の隅に設えてある止まり木に向かったコジローを視線で見送ってから、ハッチの中を覗き込んだ。

 

 

 

 

 

……

 

 

              狭っ!

 

スワロゥテイル自体がかなり小さいんだから当然かもしんないけれど、おいら1人がかろうじて嵌まれる窪みがあるっきり。

 

寝返りすらムリそうな、驚きの狭さ。

 

狭所恐怖症のヒトとか、絶対乗れないよコレ。

 

おいらがそのタグイ苦手だったらどうすんのさ?

第一おいら、絶賛成長期! って南部のおっちゃんを見るけど、気付いてももらえない。

 

「CTOLは当然だが、STOL・VTOLも可能。

 ホバリングはもちろん、NOEすらこなし、ウェーブライドだろうとお茶の子さいさい。

 空中機動でも、コブラにフックにクルビット。

 おおよそ空を飛ぶモノに出来ることで、出来ないことはない」

 

それどころか。って続ける南部のおっちゃんの腕時計から、ピーピーピーって今度はコール音。

 

 「どうした?

  ジンペイへの説明は、5491秒プラスマイナス1800で進行中だぞ」

 

いやいやいや。ドンだけ喋る気だよおっちゃん!

 

 「……ふむ、そうか。理解し、了解し、予定を変更する」

 

耳元から腕時計を離して、タブレットでフリック2回。

 

 

「ジンペイ」

 

振り向きざまにキラリンと眼鏡のフチをきらめかせた南部のおっちゃんが、宣った。

 

      「続きはWEVで」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

ちなみに【WEV】ってのは【Wirelesse Ebracement by Virus】の略で、G型ウイルスを介したガッチャマン同士の感応を利用した通信手段のコト。

 

これを利用して、さながらインターネットみたいな連絡網を築き上げられる。……らしい。

 

おいらはまだ上手く使いこなせてなくて、せいぜい専門用語の辞書代わりに照会するくらいが関の山。

 

トリインフルエンザで説明書だから、【トリセツ】って呼んでるケド。

 

 

 

ま、それらはさておき。

 

「この海域に、ギャラクターの基地があると?」

 

司令室のデカいスクリーンを見上げて、ケン兄。

 

「そうだ。

 アーサーズの初成果だな」

 

南部のおっちゃんが言ってるアーサーズってのはAASRSの愛称で、正式名称は【連結型開口合成レーダーシステム】だとか。

 

「位置は大西洋中央海域。俗に言うホース・ラティテューズね」

 

「……今んまで見つからんかっちょったにぃ、あふぁぁ……。よう見つけとばっしたなぁ」

 

ジュン姐はコンソールで操作、リュウのあんちゃんはシートを倒して半ば昼寝しながら。

 

「うむ。

 ギャラクターの秘密基地は移動式の上に潜行も可能で、しかも高度なステルス機能を搭載していると思われる」

 

「ゆえに従来のレーダーシステムでは発見が困難だった訳ですね」

 

ケン兄は、もう任務モードなフインキ。

 

「そのとおり。

 しかし、アーサーズは最低12基一組で運用され、ステルスによって生じた探査波の影そのものを検出する」

 

え~と、それってつまり……、

 

「ああ、スクリーンに影絵を映すようなモン?」

 

「イグザクトリィ!」

 

うむうむと頷いた南部のおっちゃんが「やはりジンペイは成長著しいな。期待しているぞ」だって。

 

「バミューダ・トラペジアム、ドラゴン・トライアングル、サルガッソー・シーと空振りし続けてきて、ホース・ラティテューズでようやく追いついたみたいね」

 

「各陣営から、スパイ衛星と各種偵察機の映像を入手してある」

 

スクリーンに追加されるいくつもの画像。中には動画もあった。

 

「までぇが、鬼ヶ島じゃいのう」

 

山頂が2つと洞窟まで備えた山は、確かにリュウのあんちゃんが言うとおり鬼ヶ島みたいだ。

纏わりつく雲が、まるで天然パーマ。

 

水平線との対比から見る限り、島自体はさほど広くない。その大きからざる島の大部分を、鬼頭そのものな山が占めていた。

 

「問題はこれだ」

 

南部のおっちゃんが指し示した画面が、大写しに。

 

「アホウドリ? いや、オオミズナギドリか?」

 

つばさの差し渡しが2メートルはあろうかってぇ白い鳥が数羽、編隊を組んで飛んでいる。

 

 

「!!」

 

大きなつばさに能く風をはらみ、悠々と高空を渡ってたそいつらが突然、掻き消えた。

 

【REPLAY】って表示のついた別の画像は、ご丁寧にもスロー再生。

 

「フォノンメーザーか」

 

「対空砲代わりに緩収束で運用してるようだが、それでも殺傷能力が高すぎてこの有様だ」

 

頭の先端からあっという間に塵にされて、きっと痛みも、死ぬ実感もなく逝ったことだろう。

 

「ゴッドフェニックスの新型装甲なら、耐えられるのでは?」

 

「観察結果から、少なくとも周囲に360門は配備されていると想定した。

 4分の1からの照射でも、9秒58:26でローストチキンだ」

 

「火の鳥でもムリ?」

 

「火の鳥ばぁ、装甲の寿命りゃぁ縮めらん諸刃の剣だでん。

 むしろ、焼き上がりぃが早ぅなるとよ」

 

おいらの提案は即効で却下。

 

「スワンUボートで隠密潜入、破壊工作で無力化ならどうかしら?」

 

ジュン姐の提案にも、南部のおっちゃんが首を振った。

 

「1メートルを超える物体は、海上海中に限らず……」

 

映し出される別の画像。

 

「……この有様だ」

 

こちらはかろうじて原形をとどめて、カマイルカ。死屍累々。

 

……対水中音波砲は周波数が違ぇから、粉微塵にはならないんだと。

 

 

それにしたって、空もダメ、海もムリじゃあ……

 

「打つ手ナシじゃん」

 

「いや、そうでもない」

 

腕を一振りして一連の映像を消した南部のおっちゃんが、おいらを見た。

 

「私は言ったはずだぞ、ジンペイ。

 君には期待していると」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

右見て左見て、も~一度右見て。

 

よし、誰も居ないな。

 

 

おいらは今、例の【鬼ヶ島】に居る。

 

分子レベルでスーツ表面の光反射を制御する【科学忍法・光学七変化】でミドリハイエナに化けて、地下通路を移動中。

 

通信妨害が激しくて、無線で指示は仰げない。

 

すべておいらが独力で把握して判断して実行しなきゃなんねぇ。

 

いっとこまも油断できなかった。

 

 

 

 

この島までは当然、スワロゥテイルで。

 

 

――ツバメの近縁に、アマツバメって呼ばれる鳥が居る。飛んだまま眠れるっていう、まさに空の申し子みたいな連中だ――

 

 

スワロゥテイルには、機体下面全体を覆うようなサポートユニット【ホワイトスローテド】があった。

 

こいつはスワロゥテイルにマッハ4の速度と、最高のステルス性能、それに、(寝返りが打てる程度の)わずかな居住性の向上を与えてくれる。

 

コードネーム【ニードルテイル】こと【雨燕】

 

フレキシブル排気ノズルを嵌め殺しちゃうから機動性は損なわれるけど、こういった長距離移動を伴う潜入任務には持って来いの装備だった。

 

 

 

 

さて、最優先は動力炉。次善で対空指揮所。

 

どちらかを無力化できれば、ゴッドフェニックスで攻撃できる。

 

そのためにこうやって、こっそり【鬼ヶ島】をうろちょろしてるって寸法だ。

 

 

大まかな構造は南部のおっちゃんが推測してくれてて、これまでのところ合ってるっぽい。

 

そうして、このゲートを開ければ……

 

 「 ビンゴ 」

 

グオングオンとうなりを上げる巨大な装置。この島の動力源だろう。

 

あとは腰の隠しからジュン姐特製爆弾を取り出して、貼り付けるダケ。

 

     「オイ! お前っ」

 

……だったのに。

 

  「動くな。そこで何をしている」

 

どっかでドジ、踏んじまってたらしい。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「自らやってくるとは、殊勝な雛鳥も居ったものよのぅ」

 

簀巻きにされて転がされたおいらの、はるか頭上から声。

 

「ホーッホッホッホ!」

 

忘れたくても忘れようのない黒ギツネの、耳障りな高笑いが落ちてくる。

 

「ガッチャマンに見切りをつけて、我れらがギャラクターへ帰依しにまいったか」

 

「ジョーダン顔だけにしろよ」

 

ガッ! と鳴ったのは、おいらのアゴ。

 

とっさにフェイスガードが護ってくれなかったら、舌を噛んでたかもしんねえ。

 

「ぐっ……」

 

蹴っ飛ばされてぶつかったのは、祭壇のようなモノ。

 

黒ギツネが居て、おいらを捕まえたヤツ以外は真っ赤なハイエナ野郎どもがコンソールに噛り付いてるところを見ると、どうやらここが【鬼ヶ島】の中枢っぽい。

 

「躾が足りないようだわえ」

 

睨みつけてたのが気に入らなかったらしい黒ギツネが、サーベルを抜きつつ近寄ってきやがる。

 

舌なめずりなんかしやがって、ホントに気色ワリィ野郎だな。

 

  ≪ ひかえよ。ベルク=カッツェ ≫

 

「はっ、総裁Xの御心のままに」

 

どこからともなく声がした途端、黒ギツネが跪いた。

 

「……うしろ?」

 

振り返った先、祭壇の上。

 

燃え盛る炎をスクリーンにして、顔が映ってた。シミュラクラ現象でようやくそうと認識できる程度の、点の集まりだったけど。

 

  ≪ 汝もまた、吾が声を聞きし者 ≫

 

口は動いてる。けど、直にそいつが喋ってるわけじゃないって判った。

 

  ≪ 即ち、従え ≫

 

「ヤなこったい!」って言おうとした口が、だけど動かねぇ。

 

  ≪ 答えは訊いてない ≫

 

ホーッホッホッホ! と黒ギツネが高笑い。

 

「G型ウイルス感染者を統べる者。それこそが総裁Xであらせられる」

 

  ≪ さよう。

   

    吾れこそは22番目にして、最初の生き残り。

    イスカより生まれ、すべてを司る。

    出生は、X-bill

    形態は、X-ing

    存在は、Xtra

    誘うは、Xanadu

    抗うは、X-current

    使命は、X-fertilizer

    手段は、X-contaminated

    装うは、X-enotransplant

    目的は、X out a mistake

   

    すなわち、X。

    吾れこそ総裁Xである ≫

 

黒ギツネの野郎がパチンと指を鳴らすと、おいらをグルグル巻きにしてたワイヤーが滑り落ちた。

 

なのに、おいらは指一本自由にできない。

 

そのまま、勝手に体が起き上がって、勝手に跪いて、勝手にひれ伏そうとした。その時だった。

 

「戯れは終わりだ」

 

ふわり、と体が浮いたかと思ったら、いつの間にか一段高く周囲を巡るキャットウォークの上に。

 

 「なにやつっ!」

 

「陰 在れば、影 忍び」

 

おいらを横抱きにしたミドリハイエナの顔が、間近。

 

「科学忍法・……」

 

あれ? ……この、猛禽そのものの面構え。

 

  「……・電影虚月」

 

 「コンドルのジョーだと!」

 

自由に口も開けないおいらに代わって、黒ギツネが叫ぶ。

 

「山猫風情が、その名を口にするな」

 

ジョーの兄貴がそう吐き捨てたのと同時。「うぎゃっ!」黒ギツネの野郎がひっくり返った。

 

バナナの皮を踏んだって、ああも見事には転けないだろう。

 

「科学忍法・すねこすり。存分に味わえ」

 

階下では、いつぞやのラジコンカーが走り回って、アカハイエナの連中にまで足払いを掛けてた。

 

 

「敵を騙すにはまず味方から、だ。

 スマンな、ジンペイ。そちらの作戦をそのまま利用させてもらった」

 

お陰で。と見下ろす先に、青白い、炎。

 

「警戒厳重な中央制御室に、ようやく潜り込めたぜ」

 

 

 「おのれガッチャマンめ。たばかりよったな」

 

いち早く立ち直った黒ギツネが、一息にキャットウォークまで跳び上がる。

 

「ふん。ウソもサギも鳥の名だ」

 

振りぬかれたサーベルを余裕で躱し、おいらを抱えたまま反対側のキャットウォークまで滑空。

 

「科学忍法・髭鷲颪」

 

 「ヒィッ!」

 「ギャァッ!」

 

置き土産に、大量の羽根を撃ち落としてくことも忘れない。

 

  ≪ 仲間すら利用するか。屍肉漁りらしき浅ましさよ ≫

 

「泥水を啜り、腐肉を喰らってでもお前らを倒す。

 それがオレの誓いだ」

 

手摺りを蹴ってターン。再び羽根の絨毯爆撃。

 

  ≪ その さもしささえ、吾れは赦そう。而して、従え ≫

 

まずい。今ジョーの兄貴まで動けなくなったら……

 

「断る」

 

 ゑ?

 

「オルガネラ化したGウイルスを使って、体内から操る魂胆だろうが」

 

「ぐわっ!」

 

黒ギツネを蹴りつけた反動で、上昇。

 

逆さになって、ぴたりと天井に降り立った。

 

ブーツ底の電磁石と微細真空吸盤を併用したこれは、たしか【科学忍法・つらら】

 

「今や体組織のほとんどを機械化し、脳髄までプラスティネーションしたパーフェクト・サイボーグたるこのオレには通用せん」

 

すなわち。と、ジョーの兄貴は壁を駆け下り始める。

 

「東ドイツの科学力は世界一ッ!」

 

木の幹を垂直に歩いて降りるゴジュウカラみたいに、壁を走って。

 

「科学忍法・鵯越え!」

 

ジャキンッと踵から生えたスパイクで、総裁Xを蹴りつける。

 

 

 

 

  ≪ 無駄である ≫

 

「だろうな」

 

まったく手応えがなかった。かといって、火みたいに熱いわけでもない。

 

まるで陽炎のような、触れえざる虚像。

 

「だが、お前の正体は見切った。それだけでも此処に来た価値はある」

 

 「生きて還れると思うておるか、ガッチャマンめ!」

 

ようやっと復活したらしい黒ギツネがキャットウォークから跳び下りるけど、

 

「もちろんだ」

 

カチリ。と、ジョーの兄貴が奥歯を噛むほうが早い。

 

途端に、部屋全体が揺れた。

 

照明が落ちて、非常灯が赤く点る。

 

 「なっ! なにごとか!」

 

「オレが此処に来るまでに、仕掛けを少々、な」

 

 

ばたばたと、アカハイエナたちの動く気配。

 

非常灯の赤い光の下だと保護色になるのか、連中の様子がよく判んねぇ。

 

    「対空指揮所、通信途絶!」

 

  「動力室、モニターできません!」

 

        「第1から12まで、格納庫沈黙!」

 

 「アンテナタワーの安否、確認できず!」

 

「ええい! 自動修復はどうしたっ!」

 

「ダメです!

 この大規模でダメージコントローラーを動かすには、リソースがまるで足りません」

 

「おのれ、コンドルのジョーめ!」

 

こっちを睨みつけた黒ギツネの鼻先を、バコーン! と勢いよく鉄板が掠めて飛んでった。

 

「……」

 

「山猫風情が口にするな。汚らわしい」

 

エンジン音も高らかなフォーミュラマシンが一台、床にタイヤを切りつけながらおいらたちの前まで。

 

どうやらさっきの鉄板は、こいつが蹴破った隔壁そのものだったっぽい。

 

「紹介しよう。オレのマシン、【ダイブコンドル】だ」

 

ガルウイングが自動で開いて、ジョーの兄貴はおいらを抱えたまま乗り込んだ。

 

「残念ながらキャビンは空っぽで、こちらは紹介しようがないが」

 

ホントなら相棒のコンドルが居るであろう空間は、なんだか真空管の集まりみたいなモノで占められてた。

 

「行くぞ」

 

 『待てぃ、ガッチャマン!』

 

わめき散らす黒ギツネをアクセルターンで下がらせて、ダイブコンドルが来た道を戻る。

 

あの狭い廊下をどうやって? て疑問は訊くまでもなく、壁に張り付いて走り出したダイブコンドルそのものが教えてくれた。

 

 

 

 

                            後篇へ つづく

 

 

 

 

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