【独自解釈】異説ガッチャマン【全拾羽】   作:dragonfly

4 / 11
【独自解釈】ガッチャマン異聞【後篇】

 

 

 

 

 

「やはり、短い別れだったな」

 

ダイブコンドルごとゴッドフェニックスに収納されて、やっぱり狭い通路(這い登った)を操縦室まで移動したら、ケン兄がそんなコト言ってた。

 

「やつらを倒さねぇかぎり、オレたちに安寧は来ないからな」

 

膝からホイールを出したジョーの兄貴はおいらをとっとと置いてって、しれっとガンナーシートに座ってる。

 

 

さっき言ってたとおり、ジョーの兄貴の体は機械化が進んでるようだ。

 

 ――相棒を失って衰える一方のガッチャマンとしての能力を、そうやって補ってるらしい――

 

西側陣営に対抗意識丸出しの東ドイツやソ連は惜しみなく600万オストマルク相当の予算を注ぎ込み、技術者連中は嬉々としてジョーの兄貴の体を切り刻んだんだと。

 

連中の西側嫌いは相当なもので、アメリカ人命名の【ガッチャマン】を華麗にスルー。ガッチャマン因子が薄いのをいいことに【 TEChnologie Auxiliary MANn 】を略した【テッカマン】で、ジョーの兄貴を呼び習わしてるんだそうな。

 

「確かに、もはやガッチャマンとは名乗れんな」と、さびしげに自分の右手を眺めるジョーの兄貴に、その時はまだ身動きできなかったおいらは何も言ってやれなかった。

 

 

 

「さて、これからだが」

 

「基地としての機能は、ほぼ殺してきた」

 

うむ。って頷いたケン兄に向かって、ジョーの兄貴は言葉を続ける。

 

「しかし、あの大きさだ。

 バードミサイルはおろか、火の鳥を以ってしても壊しきるのは難しいだろう」

 

「ICBMばぁ、出前ぇが かたくらやんしちゅうか?」

 

リュウのあんちゃんの提案にも、かぶりを振った。

 

「時間がかかりすぎる。

 いや、最終的な殲滅手段としては充分だが、1時間もあればあらかた逃げおおせてしまう。

 特に、総裁Xはな」

 

「とりあえず、打診しとくわね」ってコンソールに向き直ったジュン姐をヨソに、ケン兄とジョーの兄貴がアイコンタクト。

 

ごほん。と、わざとらしい咳払いをしたジョーの兄貴が、そっぽを向く。

 

「あー、これは独り言だが、

 内偵の結果と、さきほどのヤツの言動から推測するに、総裁Xの正体はGウィルス同士のネットワークそのものである可能性が高い。

 たとえそうでなくとも、本体自体はさほど大きくないだろう。

 ああ……そう言えば、

 バックアップメディアを第2格納庫で落としたかも知れんな。南部あたりに見られでもしたら、東側連中より早く総裁Xの正体を看破しかねん。ヤツらの対西コンプレックスを刺激しても良い事は一つもないから、後できっちり回収しておかないと。

 ともあれ、

 ヤツを斃すなら所在のはっきりしてる時に、ザコども含めて丸ごと一掃しないと確実性に欠ける」

 

長い独り言だね。ジョーの兄貴。

 

「あたし、考えごとすると口が勝手に動いちゃうタチなんだけど、

 ネットワークそのものだとすると、根絶は難しいんじゃないかしら」

 

「独りごちんがぁ……

 網っちゅうらば、しぐらんか程も穴ぁば開きんど、めったさくならんけん」

 

ま、ともかく。

 

「おいら、ションベン行ってくる」

 

「任務中だ。手早く済ませよ」

 

ケン兄のお言葉に「ラジャー」と答えてハッチを潜る。

 

ゴッドフェニックスに、トイレなんか無いんだケドね。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「……と、すると、

 ガッチャマンが総裁Xの影響をほとんど感じないのは、相棒との絆のお陰か?

 推測を、メモリーへ口頭入力中だ」

 

第2格納庫から帰ってきても、まだ独り言大会が続いていた。

 

「さすがに目視できるほどの至近では免れんようだがな。

 ……と、これは報告を纏めるために、目撃事実を口に出して再確認してるだけだが」

 

うん。なんだかジョグレス進化してる。

 

いわゆるナナメ上、ってヤツかなぁ?

 

 

ま、いずれにしても、上のほうの縄張り争いへの配慮なんかは任せておくしかない。

 

「……っ!」

 

座ったおいらがハーネスを締め直した途端、ゴッドフェニックスが揺れた。

 

「右翼中央部、損傷!」

 

こういう時の報告は、おいらの役目。

 

「上下、両装甲とも貫通してる。外部からの攻撃っぽい」

 

モニターに映し出されるテレメトリデータを読み上げるだけの簡単なお仕事です。

 

 

 『く~っくっくっくっ!』

 

耳障りな嗤い声が、スピーカーから。

 

 『どうだ、ガッチャマン!

  超高圧ウォーターカッター【水魚の吐息】の味は?』

 

「解説付きたぁ、ご丁寧なことだ」

 

うんうん。解析の手間が省けたね。

 

 『我れらが新鉄獣メカ、サンホエールはギャラクター生え抜きよ。

  ゴールデンバットのようにはいかぬぞ、ガッチャマン』

 

「正体まがぁ教ぇてつかぁさりちゃあ、うべしからんぞねぇ」

 

「ベルク=カッツェは軍人であり、しかしながら騎士でもある」

 

不意打ち上等だが、隠し立てはしない。とは、ケン兄の評価。

 

オ~ホッホッホ! と高笑いする黒ギツネ野郎をヨソに、おいらたちは索敵と応急処置を始めてる。

 

「さすがだな、ベルク=カッツェ。

 すさまじい威力だ、翼をやられては逃げもできん」

 

 『カ~ッカッカッカ!

  恐れ入ったか、ガッチャマンめ!』

 

わざとらしく褒め殺して、ジョーの兄貴が時間稼ぎ。

 

汚いな。さすがニンジャ汚い。

 

そうこうしてるうちにジュン姐の操作で投下されたのは、【忍者隊専用全領域音響探査装置】略して【忍イ】だ。

 

 

ピコーンって探信音が鳴り出して、ほどなく。

 

「【シノブイ】より感。10時の方向、水深20メートル。

 全長およそ380メートル。音紋採取完了、ロックしました」

 

おいらの方はっていうと、インテークから取り込んだ大気を圧縮冷却して翼内へ充填させてる。名付けるなら【「化学」忍法・水雲】かね?

 

「翼内圧力、確保したよ。

 けれど、揚抗比、10パーセントは悪化しちまう」

 

「ジュン、ジンペイ。

 よくやった」

 

「まずは、目障りなあのイルカ野郎を何とかしないとな」

 

ああ。と頷いたケン兄が口元を引き締める。

 

「早めに片付けないと拙い。火の鳥を使うぞ」

 

「ええ! アイツ海の中なんだろ?」

 

くくっ。と喉の奥で嗤ったのはジョーの兄貴。

 

「忘れたか、ジンペイ。

 突入採餌はそもそも、水中に飛び込む技だぞ」

 

あ、そだっけ。

 

「20メートルや30メートル程度の水深、わけはない。

 なあ、ジョナサン」

 

くるりと一回転半したゴッドフェニックスは、そのまま真っ逆さまになって急降下。

 

「目標の図体がでかい。

 ジョー、あれを使うぞ」

 

「ラジャー」

 

ジョーの兄貴ん所のコンソールから、グリップがポップアップした。

 

「バーストモード・5点斉射にセット」

 

あれが立ち上がったってコトは……

 

「いくぞ! 科学忍法・火の鳥……、」

 

ケーン! と怪鳥の叫びを空に残して、ゴッドフェニックスが炎と化す。

 

   「 影 分 身!」

 

まさに水面に飛び込むって瞬間に、ジョーの兄貴がトリガーを絞る。

 

射出されるなり炎に包まれたバードミサイルたちは、外から見れば、火の鳥が分裂したように見えただろう。

 

ミサイル特有の急加速で先行する、炎のミツオシエが5羽。

 

わずか20メートルの海水をあっという間に押しのけて5つのバードミサイルが、「くっ!」さらにはゴッドフェニックス本体が鉄獣メカにぶち当たった。

 

「急速反転、海上へ離脱!」

 

「ラジャーやき」

 

ゴッドフェニックスは、水ん中でも行動できる――大気の代わりに水を使えばいいだけだから――。問題は水圧だけだ。

 

とはいえ海中は敵の領分で、そこに留まることに益はない。

 

戦果を確認もせず海面を突破、空中へ帰還したゴッドフェニックスが、また揺れた。

 

「被……被弾?

 今度は機体後部、左肺を掠めたっぽい。出力低下中!」

 

機内テレメトリでワーニングがゴーゴーとモンキーダンス踊ってる。これ、シャレになんないよ!

 

 『く~くっくっくっく!

  我れは言うて置いたぞ、【3ホエール】だとな』

 

「【シノブイ】に感、反応3に増大! 囲まれてます」

 

「伏せてやがったか。意外にやるな、山猫野郎め」

 

しかも、

 

 『火の鳥破れたり! よ。ガッチャマン。

  サンホエール1号もま~ったくの、無傷!』

 

カーカッカッカ! と高嗤い。

 

「目標浮上。映像まわします」

 

「なんだいありゃあ……」

 

メインスクリーンに映し出されたのは、海面で燃え盛る3つの火の玉だった。

あまりの熱量に、周囲の海水が蒸発はおろか爆発すら許されず、ただただ電離していってるのが見て取れる。

 

『きゅい~』『きゅい~』『きゅい~』とマイクが拾った、外部音声。

 

3吼え~る、かぁ。

 

 『火の鳥に対抗すべく、ギャラクターの叡智を詰め込んだ究極の鉄獣メカ。

  【Sun・Whale】の名は伊達ではないわ!』

 

お~ほっほっほ! と黒ギツネは愉快そう。

 

 『まさしく【太陽の鯨】!

  火の鳥なんぞ比ぶるべくもなき灼熱を纏うソーラーガーダーシステムが、

  しかも3機』

 

今日こそガッチャマンの命日よ! って、悔しいけど反論できねぇ。

 

 『さあ、ガッチャマン。

  観念しやれ!』

 

クジラで云うなら鼻の部分。潜水艦で云うなら艦橋にあたる部分に、穴が開いた。あれが超高圧ウォーターカッターとやらか。

 

 

「3方向がぁ狙われんちゅあ、逃げ場っぐ在らんさむす、いごーるね!」

 

そう言いつつ、リュウのあんちゃんはもの凄く滅茶苦茶にゴッドフェニックスを振り回し始めた。お陰でコブラとかクルビットの操作方法が体感できるのは嬉しいけど、Gで手元が……。

 

 

「科学忍法・幻影ハリケーン」

 

ジュン姐が射出したのは、ゴッドフェニックスの立体映像を投影するプロジェクターみたいな代物。

 

 

「科学忍法・空蝉」

 

おいらがなんとか手配したのは、機体全部を覆うシリコンポリマーの泡だ。

 

こいつはいざって言うとき、加わった熱を吸収して硬化、その場でゴッドフェニックスの身代わりになる。

 

 

 『カッカッカ! 無駄な足掻きよ。

  【水魚の吐息】には弾切れも刃毀れもない。

  いつまで躱し続けられるかな? ガッチャマン!』

 

ヤツの言うとおりだった。

光学デコイも、シリコンポリマーも、リュウのあんちゃんのアクロバット飛行だって有限だ。

実際、何度も掠って、そのたんびにゴッドフェニックスは揺さぶられてる。

 

「リュウ、あそこだ。あそこへ向かって火の鳥!」

 

ケン兄が示したのは、2体の鉄獣メカの、ちょうど中間地点。

 

「ラ……ジャー!」

 

応えが途切れたのは、ハイGループの途中から無理やり急降下を始めたから。

 

「科学忍法・」

 

 『愚か者め!』

 

ゴッドフェニックスを追ってきてた超高圧ウォーターカッターを、そのままなら相討ちに、少なくとも相殺する筈だった。

 

 『見え透いておるわ!』

 

火の鳥が目指す着水地点。

そこを先取りして3本目の超高圧ウォーターカッターが、横一線になって待ち構えてる。

 

「……火の鳥!」

 

ケン兄は命令を翻さない。

 

「南無三、だばぁっ! 」

 

リュウのあんちゃんは操縦桿を引かない。

 

ジュン姐は指を組んで祈ってて、「ヒュー♪」って口笛を鳴らしたジョーの兄貴は、腕を組んで平然としてる。

 

「……」

 

おいらは、怖さのあまり却ってまぶたも閉じれなかった。

 

だから一部始終を目撃してたんだけど、うまく説明できねぇ。

 

言えることはただ一つ。

 

ゴッドフェニックスは無事に水中へ突入し、しかも包囲の外っ側に逃れて再び空中へ舞い上がった。

 

ただそれだけ。

 

 

「……いったい、なにが?」

 

    『間に合ったようだな、ガッチャマンの諸君』

 

おいらの疑問に応えてくれたのは、メインスクリーンに現れた南部のおっちゃんだった。

 

 

「南部博士、これはもしかして?」

 

ケン兄には、心当たりがあるらしい。

 

    『その通り、今ゴッドフェニックスと合体し、ゴッドフェニックスを護ったのがG-7。

     その名も【ガッチャ・スパルタン】だ』

 

おいらのスワロゥテイルに【ホワイトスローテド】みたいな強化パーツがあるように、ゴッドフェニックスにも同様の存在があった。

 

いや、正しくは「さっき出来た」らしい。

 

それが【ガッチャ・スパルタン】。ゴッドフェニックスの増加装甲 兼 追加武装 & FASTパックってワケ。

 

ていうか、こいつと合体できるようになるために、ゴッドフェニックスは改修を受けてたんだってさ。

 

「G-7だと?

 そいつぁ、まさか……」

 

    『そのまさかだ、ジョー。

     G-7は、アダムだよ』

 

 

……後で聞いた話だけど、あの時ゴッドフェニックスは、火の鳥でゴールデンバットを粉砕したわけじゃなかったらしい。

 

キーワードは【突入採餌】と【機首のエアロック】だ。

 

つまり、あの【火の鳥】の真っ最中にゴッドフェニックスは口(?)を開けて、ゴールデンバットの中枢部――すなわちアダム――を見事掻っ攫ってたんだと。

 

そうして救われたアダムは、心を入れ替えたらしい。それはもう、きれいさっぱりと。

 

ジョナサンの命懸けの友情に感じ入って再びガッチャマンになったアダムに与えられたのが、この【ガッチャ・スパルタン】なんだそうな。

 

 

スクリーンに映し出されたのは三面図は、ゴッドフェニックスを一回り大きくしたような三角錐の機体。主翼には大きなファンが埋め込まれてて、大きさの割りに小回りが利きそうだった。

 

今はその上面装甲をぱっかりとスライドさせて、ゴッドフェニックスを載せるように合体してる。

 

『もちろん単独行動も可能だが、ゴッドフェニックスと合体し、ゴッド・スパルタンとなれば無類のパワーを発揮する』

 

ガッチャマン7人分だから、そりゃ当然だろう。

 

『さあ、新たな翼とともに飛べ! ガッチャマン!』

 

「「「「「 ラジャー! 」」」」」

 

リュウのあんちゃんがスロットルを開けると、ものすんごい加速でゴッドフェニックスが、いやゴッドスパルタンが急上昇。

 

「……くぎゅう」

 

まるで、弾道飛行ん時の、カタパルト射出みたいだ。

 

 『あっ新手だと!?

  おのれガッチャマンめ、コーザブロー・ナンブめ!』

 

黒ギツネの悲鳴を無視して、ガッチャスパルタンは反転急降下。

 

「新しい力を試すぞ。

 ジンペイ、熱転換装甲全開!」

 

「らっ、……ラジャー?」

 

よく解かんねぇケド、とりあえずモニターに新しく増えたゲージっぽいものをMAXの方にスライドさせる。

 

「フェンサー、照射」

 

「ラジャー」

 

何も知らないのは同じはずなのに、なんでジョーの兄貴には躊躇いがないのかねぇ?

 

「ターゲットロック、全情報をパイロットに」

 

「ラジャー」

 

ジュン姐、アンタもか。

 

「リュウ、頼んだぞ」

 

「任しんしゃい!」

 

行くぞ! と、立ち上がりそうな勢いで、ケン兄。

 

「科学忍法・マイナス火の鳥!」

 

 

ガッチャスパルタン前面から照射されるフェンサーってのはドップラーレーザーの一種で、目標の電子運動を相殺して、その熱量を奪う。

 

一方、熱転換装甲はその名の通り、加わった熱をすべてエネルギーに変えてしまう。

 

結果、絶対零度よりもはるかに低温――謂わば【無限零度】――の体当たりが実現した。

 

 

サンホエールどころか、周囲の海域すべてを凍らせて、悠々とガッチャスパルタンは大空へと舞い上がる。

 

「どうだ! ギャラクターめ」

 

 

 

 

 

 

  ≪ 永き思索の、答えは出た ≫

 

応えたのは、黒ギツネじゃなくて、総裁Xの声だった。

 

  ≪ すなわち、人類滅ぶべし ≫

 

それと同時に、

 

「ギャラクター本部に高エネルギー反応!」

 

「なんだと!?」

 

「円周部を加速、収束していきます!」

 

 『まさか!』

 

ジュン姐とケン兄のやり取りに、黒ギツネが加わる。

 

 『お止しください、総裁X。

  このままでは、わたくしめまで巻き添えに!』

 

  ≪ カッツェよ。

    サンホエールすら凌いだガッチャマンの力を見たであろう。

    科学という名の氷をも得た獣は、あの太陽すら吹き消しかねん ≫

 

凍り付いて動けないサンホエールの一機から、黒ギツネが這い出てきた。

 

  ≪ 世界を喰いモノにするだけでは飽き足らず、滅ぼさんとする。

    人類はヤドリギよ。

    宇宙を絞め殺す危険な芽は、早めに摘んでしまうが善 ≫

 

 『総裁!』

 

氷の大地へと変わり果てた海面に降り立ち、黒ギツネが叫ぶ。

 

 『貴方に生み出され、

  仕え、

  尽くしてきたわたくしめを、お見捨てになるのですか!?』

 

 

  ≪ ガッチャマンを葬る、またとない好機。

    見届けてやろうぞ、ベルク=カッツェ。

    お主が最後の奉公を、格別の華を手向けてな ≫

 

 『……っ!!』

 

がくり。と、膝を落として。黒ギツネの背中が丸い。

 

「エネルギー反応、さらに増大。

 このままだと、このへん一帯、蒸発するわ!」

 

いかん、離脱するぞ。ってケン兄が言いかけたときだった。

 

ガッチャスパルタンがゴッドフェニックスから分離して、黒ギツネの傍に着氷したのは。

 

 『なんだ? ガッチャマン。

  憐れみか?

  このベルク=カッツェを憐れむか!?』

 

「……違うな」

 

応えたのは、ジョーの兄貴だった。

 

「そいつぁ、アダム。

 お前ぇらが言うところの、ゴールデンバットだ」

 

 『……なんだと?』

 

「アダムはお前ぇらと、お前ぇと共に在ったことがある。

 山猫野郎……。いやさ、ベルク=カッツェ。アダムはお前ぇに言ってるのさ」

 

天を見上げるようにして、ジョーの兄貴。

 

「見捨てられて、悔しかないか。ってな」

 

 『ゴールデンバット……』

 

黒ギツネの逡巡にしらを切って、ガッチャスパルタンのハッチが開いた。

 

 『……いや、アダム。……お主は、我れの気持ちが解かるというのか』

 

器用にベクタードファンを使って、黒ギツネににじり寄ってる。

 

 『親に棄てられた……みなしごのような我れの心を』

 

フィーンって高鳴る音は、ガッチャスパルタンのエンジン音。

 

 『お主は、コウモリじゃったな。

  どっちつかずなモノの気持ちが、理解できておかしゅうないか』

 

するり、と腰から抜いたサーベルの刃を、じっと。

 

 『我れは総裁Xにより生み出されしモノ。総裁Xには逆らえぬ』

 

カランって音立てて、黒ギツネの手からサーベルが滑り落ちた。

 

 『しかし、科学の真髄を、人類の脅威を目の当たりにして、総裁Xも惑われておられるご様子』

 

落ちたサーベルを踏み越え、黒ギツネ……うんにゃ、ベルク=カッツェがハッチに手を掛ける。

 

 『惑うて居られるなら、糾して差し上げるのも生み出されしモノが役務』

 

その姿が、ガッチャスパルタンの中に。

 

『いいだろう、ガッチャマン。

 今この時だけ、このベルク=カッツェの力を貸し与えよう。

 総裁Xの暴挙を止めてみせよ』

 

垂直スラスターまで使ってあっという間に離陸したガッチャスパルタンが、再びゴッドフェニックスとドッキング。

 

「呉越同舟、此処に極まれり。だな」

「敵ではあるが、今はもう仇じゃあねぇ。それもありさ」

「昨日が敵ばぁ今日ぅん味方たぁ、しょくらがどらい げるどるば」

「3人ともムダ口はあと! 計測値から算出、臨界まで残り ハチマルよ」

 

「それだけあれば、逃げられるんじゃね?」

 

『待って欲しい、ガッチャマン。

 ギャラック島には多くの部下、兵士が残っておる。

 総裁Xの支配が効いたままなら、避難もままならんはず』

 

見殺しにする。……ワケには行かねぇか。

 

「了解した、ベルク=カッツェ。

 プランはあるか?」

 

『うむ。まずは退避勧告を頼む。

 島自体からは逃れられずとも、安全地帯にまで移動することくらいは出来ようて』

 

「ラジャーよ。

 外部スピーカー、全帯域波通信、発光信号、探信音モールス、レーザーリンク、テスラ=ライヒビーコンで呼びかけを開始したわ」

 

 『……感謝するぞ』

 

続いて、メインスクリーンに【鬼ヶ島】の3面図が表示された。

 

『現在計測されているエネルギーは、島周域を巡る円形加速器の稼動を示しておる』

 

透視図の中で、ドーナツ状のパーツが赤~く、ぐるぐるぐるぐる。

 

『ギャラクターの最終兵器【ニュートロン反応ブラックホール爆弾】が、すでに最終段階ということよ』

 

ぐるぐるぐるぐる。

 

  「残り ロクマル切ったわ!」

 

「策なしに能書き垂れるようなタマじゃあねぇだろう、ベルク=カッツェ?」

 

『無論だ。ジョーよ。

 しかし、実現できるどうかは、我れの関知せざるところ』

 

ぐるぐるぐるぐる。……あ、目が回ってきた@

 

「それで、その手段とは?」

 

ケン兄の問いに応えて、詳細図の一点が、ぴこんぴこん。

 

『円形加速器へエネルギーを供給している、専用動力炉。

 円形加速器に傷を負わせずにこれを破壊できれば、被害は最小限に出来よう』

 

そいつは円形加速器とやらの中心、つまり島の地下のど真ん中にあった。

 

「……ふむ」

 

カッツェの説明に、考え込むケン兄。

 

「さっきの【マイナス火の鳥】なら、一撃でクリアー! じゃねぇの?」

 

「いや、

 相手を氷漬けにして行動不可能にする【マイナス火の鳥】は謂わば【生】の技。

 破壊力そのものは、それほどではない」

 

えぇ! 新必殺技なのに、威力ねぇの?

 

たぶん、顔に出てたんだろう。ジョーの兄貴が、にやり。

 

「ケン。

 つまりは【殺し技】である【火の鳥】の方が、威力があるってことだな?」

 

「ああ。

 必(殺)技である【火の鳥】でさえ、心優しきジョナサンは【生】の技に昇華していた。

 しかしながら今回は、手加減無用の動力炉相手……」

 

  「島内のデータリンクを奪取したわ!

   避難完了を確認。動力炉に至る射線上には、人っ子一人ナシ!」

 

うむ。とケン兄が頷いた時には、ガッチャスパルタンはブースト反転上昇。【火の鳥】のシークエンスに入ってた。

 

「……しかも、今はガッチャスパルタンに依って強化されている」

 

 「あと、サンマルよ!」

 

みんな、覚悟はいいな。と、ケン兄。

 

ラジャー。って応えた声が、5つあったような?

 

 

「全力全開、この一撃に地球と人類の命運を託す。

 ジンペイ、熱転換装甲、反転全開!」

 

「らっ、ラジャー?」

 

よく解かんねぇケド、とりあえずさっきMAXにしたゲージを、ゼロを越えてマイナス方向へスライドさせる。

 

「フェンサー、反転降下と同時にデルタパワーでフィールド照射開始。

 さらに、バードミサイル、斉射準備」

 

「ラジャー」

 

ほいほいほい。と気楽そうに、ジョーの兄貴はコンソールを操作。

 

「ターゲットロック、地盤データの逐次解析をパイロットにフィードバック」

 

「ラジャー」

 

ずらずらずらららってモニターに現れた数字の羅列を、ジュン姐は(文字通り手で)丸めて固めて、3D画像に加工しちまった。

 

それが、パイロットシート前に投影される。

 

「リュウ、任せた」

 

「やるくっつばぁ、ちぃとん変わんがらいね!」

 

  「あと、フタマル!」

 

ガッチャスパルタンが、スライド反転で急降下に移る。……Gが、きっつぇ。

 

 

 

「……ジンペイ。

 カミナリの語源を知ってるか?」

 

グリップに手を添えたジョーの兄貴が、ぼそりとおいらに聞こえる程度に。

 

「……神鳴り、じゃねぇの?」

 

それもある。と、トリガーセイフティを弾いて解除。

 

「だが、一説には【火御成り】だとも言われている」

 

ふうん。

 

「まずは露払いだ! フェンサー、デルタパワー!」

 

 

 

 

「ベルク=カッツェ」

 

『なんだ? 大鷲のケン』

 

「科学忍法・火の鳥は、ゴッドスパルタンにガッチャマンの意思を込める技だ。

 強く、念じろ」

 

ケン兄が口を開いたのはそこまで、「何を」とは言わず。

 

『……。

 心得た、ガッチャマン』

 

ベルク=カッツェも、あえて答えず。

 

 

 

  「あと、ヒトマル!!」

 

では行くぞ! と、飛び立ちそうな勢いで、ケン兄。

 

「真 科学忍法・火の鳥【雷鳥】!」

 

 

    空気抵抗すら斬り伏せて、大空を真っ逆さま。

 

 

ガッチャスパルタン全面から照射されるドップラーレーザーは、収束すれば普通に攻撃手段になる。

 

しかも、目標に向けられたレーザーは往きがけの駄賃に大気を灼いて、今まさにそこに突っ込もうとするガッチャスパルタンの花道をプラズマで飾った。

 

 

一方、熱転換装甲は逆に、エネルギーを与えれば発熱する。

 

たちまち火を噴いたガッチャスパルタンが、その炎すら置き去りにして急降下。

 

レーザーに灼かれて電離した大気を、さらに斬り割いて。

 

 

「まだまだ行くぜ、超 科学忍法・聖エルモの火」

 

セレクタをずらしたジョーの兄貴が、トリガーを引きっ放し。

 

斉射されたバードミサイルが瞬時に炎上、プラズマ化した。大気圧の壁に遮られて逃げ場もなく、球雷状でガッチャスパルタンに纏わりつく。

 

 

 

 

まさにイカヅチ。

 

岩盤なんか瞬時に蒸発させて、ガッチャスパルタンが島を貫通した。

 

 

もちろん動力炉なんか、跡形も残さねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイムアップまで、あとマルフタだったわ」

 

見れば、ジュン姐のコンソールは【002】でカウンターが止まってた。

 

ファイナルカウントダウン002ってか、くわばらくわばら。

 

周囲の海水を電離化させて、ガッチャスパルタンはそのまま海中を飛行。なんなく大空へ舞い戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

♪ぴーっぴーっぴーっ!

 

アラートだ。何が起きた?

 

『ここまでよな、ガッチャマン』

 

ガッチャスパルタンにある第7ハッチが開いたって、モニターに。

 

「行くのか、ベルク=カッツェ」

 

『無論だ、大鷲のケンよ。

 我が理想は、未だ潰えておらぬ』

 

「総裁Xは、本当の意味で人類の敵になりやがったぜ?」

 

『コンドルのジョーよ。

 それがすなわちお主らとの共存、共闘を示すものではない』

 

「人様に迷惑ばぁかけるっちゅうらば、いつだぁなし現れちゃるきに」

 

『今までと変わらぬ、と言うことよ。ミミズクのリュウ』

 

ホッホッホって高笑いしてやがらぁ。

 

「……でも」と、ジュン姐は口をつぐんだ。

 

『総裁Xが心変わりなされようと、ギャラクターが滅びようと、我が信念は揺るがぬよ。白鳥のジュン』

 

「けど、総裁Xとは闘うんだろ?」

 

『我が宿願は、人類の新たなる覚醒よ。

 総裁Xが人類ごと根絶を目論むなら、そうなるも已むを得ずよのぅ』

 

ふむ。って、なんだか頷いた気配。

 

「まるで【X】の字のごとく、我れと汝ら、交わるはずのない道が一度は交わった。

 すぐに離れるが必定とはいえ、また交わることがないとは言えまい?

 ツバクロのジンペイよ』

 

カーッカッカッカ。と、やっぱり高笑い。

 

『ガッチャマン。

 投降した部下どもの処遇を頼む』

 

「心得た」

 

ケン兄は即答。

 

『サンホエールも預けておこう。救助と荷客にも適しておるでな』

 

「……図体でけぇもんなぁ」

 

預ける。って言い方が気になるけど、ま、いいか。

 

 

『それではさらばだ、ガッチャマン』

 

おーっほっほっほ! カーッカッカッカ! って高笑いを残してベルク=カッツェは姿をくらました。

 

その後は、杳として知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ギャラクターは滅びた。

 

けれど、総裁Xも、ベルク=カッツェも健在だ。見つかってない幹部級だって多い。いずれ第2、第3のギャラクターが現れることだろう。

 

その日のために、おいらも毎日、訓練の日々だ。

 

 

「こらっ! てめぇらぁ!

 レッドインパルスだかクラウズだか知んねぇが、こんなんでアゴだしてちゃあ、あっという間にお陀仏だぞ!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 サー! イエッサー! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

レッドインパルスってのは国連の精鋭部隊のひとつで、ガッチャマンとよく共同戦線を張る一流の戦士たちだ――他にもチャリンコエンジェルスとかホワイトリンゴとか色々在るらしいケド――。

 

もう一方のクラウズってのはガッチャマン直属の戦闘支援チームで、頼れる野郎しかいない(女の人も居る。しかもデラべっぴん。だけど性格は男前)。

 

そうした特殊部隊には元ミドリハイエナだったってヒトも居て――なんでも年季が明ければ某国のグリーンカードが貰えるんだとか――、一騎当千の猛者ばっかりだった。

 

 

 

ただし、今おいらの前に並んでる連中は、別。

 

おいらのナリがガキだからって油断するようなヒヨッコばっかりだ。

 

ま、2、3人ひっくり返してやったら、認識は改めたらしいケド。

 

 

「Sir.スワローの仰るとおりだ!

 てめぇらの中に、さらに10周、我々について走れるってぇウジムシが、1匹でも居るかぁ!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 サー! イエッサー! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

おいらの隣に居るのは、その名も高き鬼軍曹、バーナード=バードマン。今回の選抜教育課程の、レッドインパルス側インストラクターだ。

 

「聴こえん! どうやら、走りたくないらしいな!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 サー! イエッサー! ノー サー! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

この道30年という、安心と実績の鬼教官さまである。教育される側じゃなくって、ホンっトに良かった。

 

「ようし、ムジムシどもにしては真舳な返事だ。

 全体、グラウンド10周! 駆け足!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 アイサー! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

走り出したおいらたちの鼻先を、コジローが掠めて飛んだ。

 

 

 

 時は秋、

 

  日は昼、

 

   昼は2時、

 

       演習場に汗みちて、

 

     コジロー、なのりいで、

 

   ヒヨッコども、地面に這ひ、

 

  先任軍曹、そこに知ろしめす。

 

今のところ、すべて世は事も無し。

 

 

 

          ……なんてね

 

 

 

 

                                  つづく

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。