リバイバーの報告から数日が経ち、今日も任務を終えたDG小隊は帰還し、それぞれの部屋で1日を終えようとしていた。
そして、その日の深夜の事であった。
「─ッハァ⁉︎」
自室のベッドで寝ていたレストは突然飛び起き、苦しげに息をしていた。その顔は酷くやつれ、脂汗をかいていた。
「ハァ…ハァ…う"っ!」
吐き気を催したレストはトイレに駆け込み、胃の中のものを吐き出し、その場にへたり込んだ。
(クソッ…!久々に
基本的には人形は夢を見ないが、スリープモード中に突発的に過去の記録が電脳内に流れる事が稀にある。特に違法製造された人形に多く見られる現象であり、レストが見たのはまさにそれであった。
彼が見たのは自分がまだ男娼人形・『ミーナ』として娼館で働かされていた頃の忌々しい記憶であった。しかもたちの悪いことにその時の感覚まで思い出していた。
あの場所特有の匂い、彼に振るわれる暴力の痛み、自分を見る客の欲情と侮蔑を含んだ笑み、そして何より自身の
洗面所で口を濯ぎ、水を飲んで自身を落ち着かせているとドアをノックする音が聞こえてきた。レストがドアを開けるとノアが心配そうな顔で立っていた。
「ノア…。どうしたんだ?」
「いえ…なにか胸騒ぎがしまして…レストさん、また思い出した感じですか?」
「…まぁな。もう大丈夫だから、心配かけてすまないな」
レストはノアの頭を撫でて微笑みかけるがノアはレストの表情がどこか弱々しいのを見て自分に心配かけないよう無理をしている事を察した。
「レストさん…少し、お話ししませんか?」
「え?…わかった。とりあえず中に入りな。立ち話もあれだろ」
一瞬ノアの提案に戸惑ったレストだが、自分が無理をしてることを悟られた事を理解するとノアを部屋に招いた。このまま一人でいるより、彼女と話していた方が気が楽になると考えての事だった。
二人並んでベッドに腰掛けていると、ポツリとノアが話し始めた。
「…思えば私とレストさんが出会ってから随分経ちましたね」
「あぁ…俺がDG小隊に入隊してしばらく経った時に壊滅した基地の生き残りの救助任務があって、そこでお前に出会ったんだよな?」
「ええ。私がもといた基地が鉄血の襲撃で壊滅して、指揮官やみんなもやられて、一人あてもなく放浪してたら人形狩りの盗賊に襲われて、もう少しで
その当時のことはノアは今でもハッキリと覚えていた。
エネルギー切れ寸前でロクに動けない自分の両腕を一人が押さえ付け、もう一人に衣服を剥がされ露わになった下半身に欲をぶつけられそうになり、諦めかけていた時、銃声と共に両腕を押さえる力が弱まり見てみると自分を押さえ付けていた男が首から上を撃たれて倒れており、直後にもう一人が横から現れた青年に蹴り飛ばされた後に撃ち殺されていた。彼女を助けたその青年がレストであった。
彼は怒りと軽蔑混じりの目で遺体を見たあとノアに近づき上着を被せながらもう大丈夫だ、と先ほどとは打って変わって優しい顔でそう語りかけたのであった。その後彼女は助かったことに安堵し、泣き出したのだがそれをレストが自分が泣かしたと勘違いし
『え⁉︎あ、その、確かに赤い目してこんなタトゥーした奴がさっき人撃ち殺したあとそっちに笑いかけてたら怖いよなうん。いや、ほんとすまない…えっと、どうすればいいんだこれ…?』
と大慌てになっていたのは今では懐かしい事であった。
その後救出されたノアは自分を助けてくれたレストに惚れ込み、治療後にバレットに直接入隊を希望したのであった。もちろん、レストに会いたいからという理由もあるが、自分が助けられたから今度は自分が誰かを助けたいという理由があっての事である。
結果、バレットからちゃんとしたスカートを履くことを条件に入隊を許可され、ARとSMGの相性の点からレストと組むことになった。その時、銃以外の名前を付けられると聞き、レストに名前を付けてもらうように頼んだ。その後彼が付けたのが9を表す『ノ』インとAのローマ字読みの『ア』でノアという、レスト本人からすれば単純な名前であった。
「そういやさ、今更だがその名前は気に入ってるのか?」
「はい。他の
「割とすぐにわかったよ。あれだけじっと熱心に見られてたからな。最初は何処行っても付いてくるお前が正直鬱陶しいと思ってたけど、お前の気持ちに気づいた時は戸惑ったけど、そのあとは段々とお前の事が可愛らしく思えてな。だから余計に怖かったさ…俺の過去を知った時、どんな顔をするのかがさ」
その後彼は自身の過去を話し、ノアがそれを受け入れた事で二人は付き合う事になり、今に至っていた。
二人はかなりの期間付き合っているが、未だにキス以上の関係に踏み込めていなかった。というのも、お互いの過去が過去なだけに互いが
もちろんノアにしろレストにしろ互いにもっと愛し合いたいと思っているし、お互い忌避感を持っていないことには何となく感じてはいるが、直接聞くには…というのがズルズルと続いていた。
特にレストは自分のこれまでの事から、ある懸念が頭をよぎっていた。
「…なぁノア。前に俺がいつかプロポーズするって話は覚えているか?」
「はい。…それがどうかしました?」
「…正直、怖いんだ。いや結婚自体はしたいさ。だが、事が上手く行き過ぎてる気がするんだ。ただの男娼人形だった俺が隊長達に助けられて、姉さんができて、お前と付き合って、復讐も遂げられて仕舞いには結婚ってところまで来てる。だからそのツケが回って何か恐ろしい事が起きそうな気がしてならないんだ。さっき昔の事を思い出したのも、その前兆かもしれない…俺は、これ以上幸せになっていいのか…?」
「レストさん…」
珍しく弱音を吐き、怯えているレストをノアはじっと見つめる。普段見せない彼の弱った姿を見て何とかしてあげたいと考えたノアはレストを抱きしめ、いつも彼にしてもらってるように頭を撫でた。
「ノア?」
「大丈夫です…今まで上手くいってたのは、レストさんが隊長さん達に助けられるまで辛い目にあってたツケですよ。もし何かあったとしても、私はずっとあなたの側にいます…だから、幸せになってもいいんですよ…」
「…ッ!ノア…ありがとう…本当、ありがとう…!」
しばらく静かに泣いていたレストだが、その後涙を拭うと顔をノアに近づける。ノアもそれに応えるように顔を近づけ、二人は口づけをゆっくりと交わしていた。
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「…本当にいいのか?」
少しだけ服装をはだけさせたノアを眼前に捉えつつ、レストは恐る恐る質問する。ノアはそれに対してにっこりと微笑んだ。
「はい。ただ、ひとつお願いが…」
「なんだ?」
「…優しく愛してくださいね?」
「わかってるよ」
でも無理なら言ってくれよな?、と付け加えたあと、二人の影は一つに重なった。
その後一夜明け、二人が部屋から揃って出るのを偶然ウェイターに目撃され、何があったか察した彼に温かい目で見られ恥ずかしい思いをした二人であった。
やりました。(一航戦の青い方感)
自身のモチベを上げるためにも言っときます。
早けりゃ年内、遅くても年明けくらいには式を挙げる予定なのでそのつもりで。さて、他の2組も進展しなきゃな。
Q.R18ある?
A.今の自分の腕じゃ無理。でももしかしたら書くかも。