初めの方シュガーテロ注意です。
─レストとノアの場合─
「ノア、準備出来たか?」
「はい。その…レストさん…これ、似合ってますか?」
少し恥ずかしそうにしているノアが着ているのはいつもの服ではなく、白のシャツの上に薄緑色のカーディガン、チェックのスカートを着ていた。
「あぁ、すごく似合ってるよ」
「…っ!本当ですか…!良かったぁ…」
(本当、コロコロ表情が変わるなぁこの娘。ま、そんなとこが可愛らしいんだけど)
レストに褒められて安堵するノアを見てレストは愛おしさを感じながらノアの手を引いて街へと向かって行った。
二人が向かったのは洋服店であり、ノアはそこで洋服を手に取り、自分の体に合わせている。
その様子をレストが見ていると店員が彼に声を掛ける。
「いらっしゃいませ。今日はそこの彼女さんの洋服選びに?」
「ええ。ついでに自分も良いのがあれば買おうかと」
「でしたら…こういうのはどうでしょうか?」
そう言い店員が取り出したのは薄水色のパーカーであった。だがそれを見たレストは難色を示した。デザインが悪いわけではなく、半袖であった事が彼にとって問題であったからだ。
レストが娼館時代に受けた傷はほぼ全身にあり、それらはI.O.Pの技術を持ってしても完全には消せずにいた。そのため彼は長袖や長ズボンを着用して傷跡を隠していた。
このご時世、手足に傷のある人間は珍しくないが彼の傷を見れば戦闘によるものでない事は見る者によってはわかってしまうし、何よりそうでないとしても傷について言及される事を彼は嫌っていた。
「お客様?どうかなされました?」
「あ、いえ。訳あって半袖は…その…」
「…! 失礼しました、こちら長袖の物もございますので、そちらでよろしければどうでしょうか?」
「そうなんですか?なら、そちらをお願いします」
彼の意図を察した店員が先ほどと同じデザインで長袖の物を用意する。レスト自身もデザイン自体は気に入っていたので購入する事にし、ノアも自身の買い物を済ませたので二人は洋服店を後にした。
その後も二人は幾つか買い物をし、途中レストがノアの荷物を半分持ち、街道を歩いていると、ノアはレストの空いている手をじっと見ていた。
「…ん?どうしたノア?」
「えっ⁉︎あ、ええと…その…手、繋ぎたいなぁ…って…」
「〜〜〜ッ!」
モジモジしながら耳まで真っ赤にして話すノアにレストは顔を片手で覆って悶えていた。
(ダメだこの娘可愛すぎるッ!)
「あの、レストさん?」
「……ハッ!あぁ、手だったな?いいよ、はい」
手を差し出すレストにノアは顔をパァァッと輝かせて恋人繋ぎで手を繋いだ。
そのシュガーテロじみた様子を見ていた一般市民の皆さんはというと
(尊い…)
(末代まで祝ってやる)
(ちょっと自販機でブラックコーヒー買ってくる)
一緒になって悶える者、祝福する者、コーヒーを求める者と様々であった。
なお、この周辺の自販機からブラックコーヒーが売り切れたのは言うまでなかった。
その後二人は小腹がすいてきたので行きつけのカフェへ向かう事にした。
扉を開けると一人の男性店員がこちらに気づく。
「いらっしゃいま…あ、レストさん!」
「よ、『ホーテン』席は空いてるかい?」
「ええ、空いてますよ。今日はノアちゃんとデートですか?」
「まぁな」
店員の名はホーテン。人間ではなく男性型人形であり、かつてレストと同じ娼館にいた人形であった。
レストと共に救出された後にDG小隊が信頼する人間が経営していたこのカフェを紹介され、その後当時の店長からこの店を受け継ぐ事となり今でも彼と同じ境遇の人形や戦闘時のトラウマなどで戦えなくなった人形達の働き口となっていた。
その証拠に店内には元戦術人形の97式、MG3、JS05、CZ-805が働いていた。ちなみにこのカフェは夜にはバーになり、カフェとは別のスタッフ(人形)がいる。
二人は注文したものが来るのを待っていると、ノアが誰かを見つけた。
「あ、スミスさんだ」
「スミス?本当だ、今日はアストラといるのか」
「ん〜♡美味しい〜♡」
(本当に幸せそうに食べるなぁ…ん?)
スミスとアストラが食事をしているのを見ているとスミスもこちらに気がついたようだった。
(レスト、邪魔しないから知らないフリしろよ?)
(んなこたわかってる。てか、こちらのセリフだ)
レストとスミスは互いにアイコンタクトをとると何事もなかったかのように振る舞い始めた。
「お待たせしました。こちらホットケーキとザッハトルテです。それとこちらお飲み物のココアとコーヒーです」
「あぁ、どうも」
「レストさん、たまにはバーにも顔出してくださいよ?あいつらも喜びますよ」
「そのうちな」
ホーテンと会話をした後、二人はそれぞれ注文したものを食べ始める。ちなみに食べ物、飲み物共に前者がノア、後者がレストが注文したものである。
しばらく他愛ない会話をしながら食べていた二人だったが、ふとノアがホットケーキを切り分け、フォークに刺してレストの前に差し出した。
「ん?」
「はいレストさん、あーん」
「へ?ノ、ノア?「早くしてください」む…あ、あー…」
突然の行動に戸惑いながらもレストは差し出されたホットケーキを食べる。
すると今度はノアは餌を待つヒナのように口を開けた。
(…これは俺もやれという事か…)
羞恥心を押し殺してレストはザッハトルテをノアに差し出す。
「ほら、あーん」
「あーん…むぐ……へへ♪」
「〜〜〜ッッ!」
満面の笑みを浮かべるノアにまたしてもレストは悶えていた。
そして本日二度目のシュガーテロが起きた店内では─
「すみません、ブラックコーヒー一つ」
「こちらもお願いします」
「こちらも」
「はいはい、少々お待ちを〜(う〜ん、コーヒーの売り上げが伸びる伸びる〜♪)」
この様なありさまとなっていた。
一方、スミスはというと
(本当、ノアの純粋な行動にワタワタしたり悶絶するレストを見るのは面白いなぁ。やっぱこのカフェ選んで正解だったな)
そう、スミスがここに来たのは偶然ではなく、二人がここに来るだろうと考えての事であった。
弊害としてしばらく甘みを感じなくなるが、それでもスミスにとっては充分見る価値はあった。
なお、この事は誰にも話すなとあとでレストからメールが送られたのであった。
─ウェイターの場合─
「調子はどうウェイター?」
16Labの訓練所にてペルシカはメンテナンスを終えたばかりのウェイターに声を掛ける。
「問題ありません。強いて言うなら前より少々反応速度が速いことくらいですが、そのうち慣れるでしょう」
「悪いわね、せっかくの休暇なのにメンテナンスで潰しちゃって」
時計を見ると、もう夕方となっていた。
「仕方ありませんよ、私は第二世代人形でもかなり初期の方に造られましたから時間が掛かるのも無理ないです。それに、元々この日はメンテナンスって決まっていたじゃないですか」
彼が製造されたのは2058年、世に第二世代人形が出回り始めた頃であり、AR小隊が結成されたのが2060年という事を考えればかなり稼働年数が経っている。
だがAR小隊とは違いウェイターは元は民生用人形、それ故部品の質が違う為、戦術人形となった今でもこうしてメンテナンスで古い部品を交換しているのであった。
「そういえば気になったんだけど、あなた休暇は何してるの?」
「休暇は…基本私達の部屋を整理したり、そうでなければ他の人形達の部屋掃除や、たまに料理を教わりたいって娘がいるので教えたりですね」
「それは休暇って言うの?私が言えたことじゃないけど」
「元執事人形ですから、そうなってしまうんですよね。あとはFAL
「
「最初は戸惑いましたが、もう慣れましたね」
ウェイターが扱うSCAR-HもといFN SCARはFALやFNCの流れを汲んだ銃であり、彼からすれば『姉』なのである。
だが先ほど述べたように彼は『人形としては』彼女達より歳上なのである。
銃の姉妹関係がそのまま戦術人形の関係性となる特性上、ウェイターからすれば彼女達は歳下の実姉であり、彼女達からすれば歳上の実弟という奇妙な現象が発生しているのである。
別にこの現象は民生人形から戦術人形になる際には良くあることで、実際レストも銃の関係上、突然MP5という姉が出来て戸惑った事もあった。
ウェイターも戸惑ったが、次第に慣れていきFALやFNCも彼を弟と見るようになっていた。
このように、突然姉や妹が出来ることは人形達の間では珍しくない事である。
「ところでウェイター。あなた用の試作近接武器があるんだけどどう?いつもは投げナイフでしょ?」
「何ですか?」
「簡単に言えばワイヤーね。とても良く切れるし、電気信号で伸縮する特殊素材で出来てるから使い勝手もバッチリよ」
「貴女は私を吸血鬼やグールと戦わせる気ですか?しかもそれですと私最終的に自分の意思で裏切って隊長と戦うハメになりそうなんですが…」
「どっちかというとスミスじゃない?デカイ拳銃持ってるし。まぁとりあえずデータが欲しいから使ってみてよ。気に入ったらあげるから」
「わかりました…」
渋々頼みを了承するウェイターであった。
ぶっちゃけ前半書いててニヤついてましたね。
ちなみにホーテンの名前の由来はココアメーカーのバンホーテンです。
あとカフェの店員達は中の人がごちうさメンバーやってるので登場させました。
このカフェ何回か登場させる予定です。
いやね、照明妖精狙って大型製造でやっと三時間超え出たと思ったら挑発妖精で「バ〜カw」って言われてキレかけましたね。