人形達を守るモノ   作:NTK

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今回他作品についての言及があります。


Code-6 カルト教団を殲滅せよ

「D08基地?」

 

「あぁ。知ってるだろ?」

 

「HK417っていうイレギュラーな人形がいる基地だろ?知ってるよ。少し前にそこの指揮官が九人と結婚したって聞いたよ」

 

「そういやその九人の中にFALがいたよな。つまり、ウェイターにとってはそこの指揮官は義兄にあたるわけか」

 

「それについては深く考えないようにしています。それだと何人義兄がいるかわかったものではありませんので…

 

そう言うウェイターの目は若干死んでいたのであった。

当然だろう、彼の姉であるFALはグリフィンの人形の中でもトップクラスの人気と性能を誇っている。それ故に彼女と誓約する指揮官も数多くいるのだから。

 

「お、おぅ…」

 

(しかもFAL姉さん、所属によっては女性もイケるから場合によっては義姉もいるんですよね…)

 

ウェイターの胸中はおいて置き、バレットは言葉を続けた。

 

「そう、それでそこのHK417と、デストロイヤー・ヴィオラって言う元鉄血人形もいるんだが、その二人は二週間くらい前に妊娠したんだが…最近、残りの嫁さん達も全員妊娠したそうだ」

 

「へぇ、先の二人は知ってたが、残りの嫁さんも…は?全員⁉︎それって同時に発覚したのか?」

 

「あぁ、そうらしい…」

 

「へ、へぇ…なんつー()()()…良かったなウェイター。叔父になれるぞ」

 

「私が叔父に…感慨深いものがありますね…」

 

「それで?今回の任務はおおかたそのD08基地を狙ってる人類人権団体の殲滅ってところか?」

 

レストがそう質問したのも無理はない。人形を毛嫌いする人類人権団体にとってこれ以上面白くない知らせはないだろうし、実際彼らの活動が活発になっている話がある。

だが、バレットの答えは違っていた。

 

「いいや、今回は『人形教団』っていうカルト教団の殲滅だ」

 

「人形教団?なんだそりゃ?」

 

「人形を新たな人類の先導者や使徒として崇め祭る連中だが、実際は人形を扱ってるPMCや店に対して爆破テロをしたり、そこの人間を司祭に扮して近づいて暗殺したりしてるイカれた連中だ。しかもそれで巻き込まれた人形がいても『無理矢理働かされた人形たちを救済してる』とかほざいてやがる」

 

「滅茶苦茶だな。つまり、連中の狙いは大事な『人形サマ』と結婚した挙句に妊娠させたD08基地の指揮官を殺す事と、連中から見たら無理矢理妊娠させられた哀れな人形達の()()って訳?まったくふざけた話だな。妊婦をぶっ殺そうとする教団がいてたまるか」

 

レストの言葉に他のメンバーも同調する。

すると、スミスがふとこう呟いた。

 

「そのカルト教団を潰せばD08基地の面々も助()()()言うわけか」

 

「「「「…………」」」」

 

「……よし、続けるぞ」

 

「無視しないでっ⁉︎」

 

スミスの抗議も虚しく、バレットは説明を続ける。

 

「すでにアジトの場所は掴んである。あと、教団の中に巫女として崇められている人形がいるらしい。彼女の救出もやってくれとのことだ」

 

「その人形が連中の思想に染まっていたら?」

 

「その時は可哀想だが…メンタルモデルを一から書き換えることになる」

 

メンタルモデルを書き換える、それはその人形が持っている記憶や人格を全て消去することであり、つまりは『死』に等しく、破壊するよりは良いができれば避けたいことであった。

 

「よし、じゃあ準備が出来次第出発だ」

 

各自準備を進めるなか、スミスがバレットに声を掛ける。

 

「ちょっといいかバレット。話がある、場所を変えよう」

 

「…わかった」

 

二人は別の部屋へと移った。

 

「話を戻すんだが、人形が妊娠って確か後天的に出来るんだよな?」

 

「あぁ。ナノマシンを投与して後天的にその人形のDNAデータを入れた人口卵子をこさえたらしい」

 

「と言うことはだ、逆に人口精子の技術もあるのか?」

 

「…そうだが」

 

そこまで聞くとスミスは眉をひそめた。

 

「……俺らが実験台にされたりしねぇだろうな?特にレストとノアは…」

 

I.O.Pとて一枚岩ではない、中には人形を単なる実験の道具と見ている者もいる。彼が危惧しているのはそういう連中にレストとノアが『人形間でも子供が出来るかどうか』の実験台にされる事であった。

 

「それについては心配ない。ペルシカがI.O.Pの連中に無断で俺らに実験をしたりしないようきつく言ってあるし、俺からも脅は…()()()()をしたからな」

 

今脅迫って言ったよな?何言ったんだ?」

 

「言ったらまずお前らがドン引きする事」

 

「本当に何言ったのお前…?」

 

〜回想〜

 

「お前ら、例の技術だが勝手に俺らにするんじゃねぇぞ?」

 

「わかっていますよ、ペルシカ主任にも『勝手にやったら()()()()()首が飛ぶわよ』って言われてますから」

 

「それもそうだが、その場合俺が直接エグいやり方で手を下すからな?」

 

「えっ…ぐ、具体的には…?」

 

お前らの手足を引き千切ってそれをケバブかハンバーグにしてお前らに残さず喰わせてから殺す

 

「「「ヒェッ」」」

 

「わかったら絶対やるなよ?いいな?」

 

「「「は、ハイッ‼︎」」」

 

〜回想終了〜

 

(まぁ、あそこまで言ったらよっぽどのバカじゃなきゃやらんだろ…それかカニバリズムに興味があるかだ)

 

「そもそも人形間は実験段階にもなってないらしいし、技術自体は女性型にも導入可能みたいだが…」

 

「えっ待って?その場合って……生やすの?

 

「いや、それは知らんが…」

 

ヤベェ地雷踏んじまった、という顔を浮かべるバレットを他所にスミスは語り始めた。

 

「いやいやいやそれは大事な問題だぜバレット俺らを除けば戦術人形は女の子ばかりなんだしかもグリフィンは女性も指揮官として採用してんだだから女性指揮官と人形か人形同士の恋愛つまり百合になる可能性が充分にあるていうか視察先とかでそういうのを目撃してるお前も知ってるが俺はそういうのは大好きなんだだからこそさっきの話はかなり重要なんだ百合は好きなんだが生やすのだけはどうしても受け付けないんだ百合には変わりないんだが何が違うんだろいやナニなんだけどないやすまねぇ生やす生やすって言っても分かりづらいな要するにふたn──」

 

OKブレーキスミス。お前の趣味の話はいいからさっさと出撃準備しろ。さもないとお前だけ移動時ヘリから吊り下げ(ミノムシ)な」

 

「わかったからそれだけは勘弁して⁉︎」

 

(なんで初めは真面目な話をしてたのにこうなったんだ…?いやきっかけ作った俺も悪いんだが)

 

────

人形教団集会所付近

 

「あれが人形教団ってやつか?ま〜奇妙な格好だこと」

 

スミスの視線の先には銃を持った多数の人形教団の者たちが集まっていた。

彼らが身に纏っているのは白装束のような格好だが、肘や膝の部分には人形を模してるつもりなのか、球体関節のような模様が入っていた。

 

「で?いつ突入する?」

 

「まだだ、奴らの教祖と救出対象の姿がいない。両者が現れてから作戦を開始する」

 

しばらくして集会所がざわつき始め、壇上に二人の男女が現れた。格好からして教祖と救出対象の人形だろう。

辺りが静まり返ると教祖らしき男が口を開く。

 

「…皆さん、よく集まってくれました。今日来てもらったのは近日中に下すD08基地への天罰について話すためです」

 

「何が天罰だ、これからお前らに天罰が下るんだよ…ん?」

 

呆れ顔で言うバレットは人形の方に視線を移す。

巫女服と修道服を混ぜたような白い服を着て、赤みがかった桃色の長髪を後ろに纏め、髪と同じ色の瞳をしたその人形はその格好も相まってどこか神秘的であり、それを見たバレットは少しばかり見惚れていた。

 

(いや待て、今は任務中だ…彼女に気を取られるんじゃない…!)

 

そう思いバレットは頭を振ってすぐに意識を集中させる。

やがて教祖が信者たちに天罰とやらの内容を説明するが杜撰としか言いようがなかった。

要は司祭に扮して祝福しに来たと言い、中に侵入し対象を捉えたら隠し持った拳銃やナイフ、爆弾で暗殺といったものである。

そんな作戦で向こうもハイそうですかと通すはずも無いだろうし、ボディーチェックをしないはずがない。司祭だからノーチェックで済むとでも思っているのだろうか?

 

「なぁバレット、正直放っておいても向こうで対処できるんじゃね?」

 

「いや、通してもらえないと知って暴れられても厄介だし、何より余計なストレスを妊婦に与えるわけにもいかないだろ?とりあえずそこのアホ教祖を撃ち抜くからお前達はそのあと閃光弾を投げて突入しろ」

 

指示を飛ばした後、バレットは教祖に銃の狙いを定める。ちょうど教祖は両手を広げて締めの言葉を言おうとしていた。

 

「では我らが巫女と共に祈りましょう。我らの策が成功し、使徒を使役する愚者に天罰がくだ──」

 

─ダァン‼︎

 

銃声が鳴り響き、教祖の頭部が弾け飛び血肉と脳漿が飛び散った。頭部を喪った身体は数秒ほど立っていたがやがて倒れていった。

 

「教祖様⁉︎」

 

「いったい何が─」

 

信者達が戸惑う中、バレットは突入の合図を出す。

 

「Go」

 

「よし来た!『光あれ』っと」

 

軽口を叩きながらスミスは閃光弾を投げる。数秒後に眩い光と激しい音が鳴り、ほとんどの信者の視覚と聴覚を一時的に奪う。

すぐにスミス、ウェイター、レスト、ノアの四人は突入、それぞれの獲物で信者達を撃ち倒していく。

すぐに集会所は阿鼻叫喚の図となり視覚が戻り始めた信者達は自分らを襲撃しているのが人形だと知り激しく動揺していた。

 

「なっ何故人形(使徒)が我らに攻撃を⁉︎」

 

「愚者達の考えに染まったか‼︎今すぐ()()しろ‼︎」

 

そう言い信者達は銃を撃つが回復したばかりの視界でロクに当てられるはずもなく、返り討ちに遭うばかりであった。

そんななか、突然何かが一閃したかと思うと、信者達の手足や首がバラバラになって床に落ちた。その攻撃の正体は先日ウェイターに渡された試作武器のワイヤーであった。

 

「ウェイター、それの使い勝手はどうなんだ?」

 

「悪くはないのですが、メインウェポンならともかく、サイドアームとしては不向きです。ペルシカさんには悪いですが、返却しますかね」

 

「ふーん」

 

十分と経たないうちに信者達は全滅し、スミスは人形の元へと駆け寄る。

 

「君、大丈夫かい?」

 

「え、ええ…貴方達は?」

 

「DG小隊っていうグリフィンの部隊さ。君の保護とこいつらの殲滅を依頼されて来た」

 

「えっと…私は罪に問われたりするのでしょうか?」

 

「直接テロを指示してなきゃ平気だと思うけど…」

 

「スミス、保護対象はどうだ?」

 

「ん、無事だよ。思想も奴らに染まってはないみたいだし」

 

「そうか…ならいい。回収ポイントに向かうぞ」

 

通信を終えるバレットだが、その様子にスミスは違和感を感じていた。

 

(バレットの奴、何か変だなー。対象が無事だったときの反応がいつもより安堵感があったような…?)

 

DG小隊は少しして回収ポイントに辿り着き、ヘリに乗り帰還する。

その途中で彼女から事情を聞いたが、どうやら彼女は信者達の象徴として教祖が用意した存在であり、時折彼らを鼓舞する発言はしたが教祖が用意した文書を代読するだけで彼女の意思ではない事が判明した。また、巫女として祀られた事が幸いし、性的暴行は加えられていないようであった。

 

「ふむ…そういう事ならば貴女は罪に問われることはないでしょう。まぁしばらくは検査や詳しい事情聴取などでグリフィン内に留まることになりますが」

 

「そうですか…良かった…」

 

バレットの話を聞いてほっとした笑みを浮かべる彼女にバレットも微笑み返す。そのやりとりを見てスミスは先ほどの違和感の正体に確信がついた。

 

(間違いない…バレット、この娘に惚れたな。いや〜恋愛に興味ないあいつが恋とはね〜しかも一目惚れとは。ま、出来るだけ応援はするかな)

 

なお、この出来事がちょっとした事件を起こすことになるのだが、それは後の話である。




はい、というわけで今回はカカオの錬金術師様の『元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん』よりD08基地を狙う輩を殲滅させました。
カカオの錬金術師様、承認ありがとうございます。

ちなみに今回救出した人形なんですが、大陸版で()()()の人形になるのですが…まぁその辺のことは今後の話にしますかね。

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