大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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プロローグ
大神紅葉、国土綾乃1


大社。

バーテックス、頂点の意味を持つそれが現れてから、神樹様と呼ばれる土地神の集合体を奉る宗教団体。

今では四国と、その他少しの地域が安全地帯とする中でトップクラスの権威を持つ組織でもある。

 

そんな大社から“勇者”と呼ばれ、また人類の守護を担う少女達の一人、乃木若葉は、大社の本部通路を疾走していた。

 

ドタバタとした出来事がそう無い大社では、中で働く従業員が「何だ何だ」と顔を覗かせるが、走っている人と、今日の日付を思い出して「あぁ」と納得する。

 

〰️〰️

 

「――確認取れました。今回のお役目もご苦労様です。モミジさん」

 

「なぁに。こっちも大社には世話になってるからさ、ギブアンドテイクってやつさ」

 

幾つかの自動販売機と、皮張りのソファーが並ぶ休憩室で、二人の男女が会話していた。

若葉がその姿を捉えると、走って上がった息を調え、声をかけた。

 

 

「無事戻ったのだな、モミジ!」

 

「おー、若葉。久しぶりだな、今回も生還したぜ!」

 

言葉と同時に、握手を交わす。

同年代とは思えない傷だらけの、ゴツゴツとした手だったが不思議と落ち着く暖かさをしていた。

 

「今回はどうだったんだ?」

 

「おう。山口の方まで行ってはみたが、ありゃ九州は厳しいな。既に占領された霊山なんかは星屑でいっぱいだった」

 

「そうなのか……」

 

「でも、一応綾乃に“道”は作らせたからな。無理しない限りはいつでも行けるぞ」

 

「そうなのか!」

 

 

モミジの報告に一喜一憂する若葉を見て、その二人のやり取りに傍に居た上里ひなたがクスクスと笑う。

 

「若葉ちゃんたら、モミジさんが帰って来たと聞いて大喜びで」

 

「ひ、ひなた?! 誤解を招く言い方はよせ!」

 

「あらあら、誤解だなんて。私は別にやましい事は何も言ってませんよ?」

 

「んなっ……?!」

 

 

焦って顔を紅潮させる若葉に、ピンと来た顔をさせ、ニッコリと微笑みモミジは告げる。

 

「安心しろよ若葉。俺達まだ未成年だろ?大人になるまでのお楽しみだ……」

 

「お、お前まで何を言っている、モミジ! こ、これはだな……」

 

 

弁解する若葉だったが、だんだんと尻すぼみする語調に、ひなたがあらあらと頬に手を添える。

 

「カメラを持ってくれば良かったですね。せっかくの“あわあわ若葉ちゃん”なのに……」

 

「インスタントカメラならここに有るぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

奪い取るようにモミジからカメラを受け取ったひなたは、ジーコジーコとフィルムを回しつつ高速で撮り始めた。

次第に拳を握ってわなわなと震え始めた若葉に、「やべっ」と心で危険を察知すると同時に、雷が落ちる。

 

「お前たち、いい加減にしろーッ!!」

 

その怒号は、大社の本部長の部屋まで響いたという。

 

 

 

 

「――全く、私まで怒られたではないか」

 

「本当ですよ。モミジさん?」

 

「いやぁ、お前らの身代わりの速さには肝を抜かれたわ、マジで」

 

 

「モミジなら良いだろ」

「モミジさんなら良いかな、と」

 

「あはは、この畜生ども」

 

 

あの後、事情を聞きに来た大社のお偉いさんに、全く迷うことなく若葉とひなたの二人はモミジを売り飛ばしていた。

大社でのその一件の後、三人は次の目的地へと足を進めていた。夏は過ぎたとはいえ、まだ少しだけ残る残暑に額に汗が滲む。

 

軽口を叩き合いながらも歩けば、目的地へはすんなりと到着した。

 

 

「ご無沙汰してます。おじさん、おばさん」

 

乃木家之墓、と刻まれた墓石の前で、膝をついて座り、備え付けの線香に火を灯す。線香の香りが、煙に乗ってゆっくりと漂っていた。

 

「今回は山口まで行きました。ヤベー奴がいっぱい居たんで、尻尾巻いて帰りました」

 

「お前は真面目に報告出来んのか」

 

「こうして元気な顔を見せてるだろ」

 

「……うーむ」

 

「いや、今ので納得しちゃ駄目ですよ、若葉ちゃん?」

 

 

モミジの言葉を受け、それもそうか?と考え始める若葉に、ひなたが待ったを掛ける。

若葉とひなたも線香をあげた所で、モミジが立ち上がり大きく伸びをした。

 

 

「それにしても、あれから3年かぁ。長いような短いような」

 

「うむ。……本当に、色々とあったな」

 

「そうですねぇ……」

 

 

 

〰️〰️

 

モミジ、乃木若葉、上里ひなた、そしてもう一人、綾乃と呼ばれる少女を含めた四人は、所謂幼馴染というものだ。

 

家が近所というのもあるが、剣術の道場を開いていた若葉の祖父母が、日頃覗くように稽古を見ていたモミジと綾乃を誘ったのが始まりである。

稽古を通して若葉と、その後ひなたとも知り合い、気付けば半生迄の付き合いにもなっていた。

 

……余談ではあるが、モミジの名は紅葉と書いて“こうよう”と読む。

初めはモミジも訂正して呼ばせては居たのだが、後述する綾乃がモミジ呼びで定着させたのが主な原因である。

 

〰️〰️

 

あの後、一緒に帰還した綾乃と合流するべく、モミジ達一行は大社へと戻って来ていた。

相談したい事がある、という若葉について行くと、何時も使っている応接室へと通された。

 

 

「長野県?」

 

モミジの言葉に、「あぁ」と返しながら若葉は手元の書類を渡す。その書類には、長野県は諏訪の地域の生存者の可能性が記されていた。

驚くべきは、続く内容である。

 

 

「諏訪大社の勇者?」

 

「白鳥歌野という、私達と同年代の勇者が居るんだ。定期的に通信しているんだが、どうにも最近、様子が変なんだ」

 

続きを促す、

 

「通信の会話にノイズが頻繁に入り込むようになってな。機材の劣化は無いようだし、……なんだか嫌な予感がするんだ」

 

指を組み、思案顔でうつむく若葉に代わって、ひなたが続きを話す。

 

「あちらにも巫女の担当で藤森水都さんという方がいらっしゃるんですが、結界の力が弱っているのか、”星屑の侵攻が多くなっている”と」

 

いつの間にか空になっていた湯呑みに、ひなたがおかわりを注いでくれる。ゆっくりと立ち上る湯気が、お茶の香りを広げていた。

お上品に一口啜ると、ひなたが口を開く。

 

「はっきり言って、諏訪は防衛の要の一つでもあります。四国でも若葉ちゃんを含め、他にも4人勇者の方々が居ますが敵の侵攻までに準備が間に合うかどうか……」

 

「神樹の結界の強化は出来ないのか?」

 

「してはいますが、元々の地力や範囲が桁違いな物ですから。勇者やモミジさんみたいに“精霊”を使っても足りないかと」

 

「なるほど」

 

 

ただ、と続ける。

 

「最近の、モミジさんのお役目のお陰で、一つ分かったことがあるんです」

 

 

先程渡された書類の後ろの方を示され、続くように書類を捲っていく。

そこには今回のお役目の“成果”ともいえる内容が記されていた。

 

「――バーテックスが神樹の強化に繋がる、か」

 

「はい。此方の、“神樹様の領域”内でのバーテックスの消滅は、同じ神の力とでも言うのか、僅かながら強化出来る事が判明しました」

 

「僅かながら、ってのはどのくらい?」

 

「障子の和紙が画用紙に変わる程度です」

 

「本当に僅かだなぁ」

 

指で突いても中々破れなくなる程度の様だ。

 

 

でも、塵も積もれば山となる。小さな事からコツコツとしていかなければ、この先生き残れる筈もない。

 

 

「そ、それでだな、モミジ」

 

さっきまで言い難そうにしていた若葉が、意を決したように声を上げる。

その顔を見て何を言いたいのか分かる程度には、モミジは乃木若葉という少女を理解している。

 

「オーケー。任せときな、若葉、ひなた」

 

 

モミジの言葉に、嬉しそうに顔を綻ばせた後、すぐに不安気に曇らせる。

 

「良いのか。香川から諏訪だぞ? 向こうもバーテックスの侵攻がある。今までの過疎地とは訳が――」

 

「でも、無視出来ないんだろ、その白鳥って人の事」

 

「う……」

 

 

若葉はお人好しだ。

鉄仮面だのと、初対面の人間やあまり知らない人間は若葉をそう呼ぶが、本当は違う。

他人の為に怒り、泣き、身体を張る事が出来る人間だ。

 

今の勇者という、四国を護らなくてはいけない立場に居る以上、若葉は自分の我が儘で離れる事は出来ない。

 

それが無ければ、直ぐ様諏訪へと行っているだろうに。

 

 

「お前たちが出来ないことをするのが、俺の“お役目”だ。――若葉が白鳥さんを助けたいなら、俺が助けに行ってやる」

 

「……ありがとう、モミジ。でも絶対に無理はしないでくれ」

 

「当たり前だ、絶対に帰って来るよ」

 

 

――四国の勇者の代わりに、外界周辺の探索、物資の確保。そして生き残りの四国への誘導。

後の世では、任務内容は変わるが、“防人”と呼ばれる人間である。

 

 

これは、“勇者”になれない、一人の“防人”の少年の物語。

 

 

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