大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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諏訪での日々 1

 

「――精が出るわね、モミジさん」

 

早朝5時、身体の調整を兼ねたトレーニングをしていたモミジは、掛けられた声に振り向いた。

見れば、首にタオルを掛け鍬を担いだ歌野がまだ薄暗い道を籠を片手に歩いている。

 

 

「おはよう、歌野さん。もう少しで四国に戻るだろ? 最終調整も兼ねてさ」

 

「そうなの? 暇さえ有ればトレーニングしてると思うけど……」

 

「まぁ、強くなくちゃ死ぬだけだからさ」

 

 

モミジの言葉に、そうね。と歌野は返す。遠い目をしているのは、何か思い返す事でもあるのだろうか。

空気を変えるべく、何か話題を振る。

 

「これから作業だろ? 手伝うよ」

 

「ありがとう。早朝からのケアが重要だから、助かるわ!」

 

ニコリ、と見てる此方が元気になるような笑顔を浮かべる歌野と共に、畑へと足を運んだ。

 

〰️〰️

 

――諏訪のバーテックス侵攻から、5日たった。

モミジの武器の紛失、怪我の療養、倒壊した建物の復興等、諏訪ではやることが数多くあった。

四国との定期通信も短い間に交わし、武器の代わりとなる物の製作や、精霊システムの調整等四国への迷惑も多くかけている。

 

若葉やひなたは大丈夫と言っていたが、途中話した大社のお偉いさんは、明らかに疲弊した様子が声から伝わる程だった。本当に申し訳ない。

諏訪の神、建御名方神も言っていたが、それほどに痛手となる武器だったのだろう。

 

何とか探し出せないか、と聞いてみたが、帰ってきたのは要領を得ない物だった。

 

 

『あの武器はお主との縁で繋がれておる。お主が真に目覚めし時、自ずと現れるだろうよ』

 

 

具体的にいつ?と聞けば、返ってきたのは跳び蹴りだった。

“精霊”をまともに御せれないままでは話にならない、との事。細かい事は考えず、さっさと力を付けろというのが返答だった。

という訳で、現状では睡眠時は“精霊降ろし”の修行、日中は鍛練とお役目を行う。というのが主目的となっている。

 

そのお役目というと……

 

 

「おう、坊主。こんなもんで良いのかい?」

 

「……うん、良い仕上がりですね。これなら良い生け簀になりますよ!」

 

強度を確かめるように足で成らすおじいさんと、二人で生け簀を見に来ていた。

 

 

大社の中央付近、その場所に四方10メートル程の木枠が地面に据えられていた。下は地面のままではなく、砂利やコンクリート等を使用し崩れないよう防護してある。

――以前歌野さんが言っていた、野菜だけではなく肉類も安定して供給出来るようになりたい。というのを実現しているのだ。川から此方へと魚を誘き寄せ、ここで捕らえれば子供でも漁が出来るだろう。

 

 

「ありがとうございます。来たばかりの俺の我が儘を……」

 

「なに、良いってことよ。……ワシらも、悲観に暮れてないで立ち上がらにゃいかんて理解出来たしの」

 

 

聞けば“天災”の直後、家族も住む場所も失った人達の中で一早く立ち上がったのは、歌野さんだったらしい。自分も身内を亡くしただろうに、あんな小さな、自分の孫程の年代の子が頑張っているのを見たら、うじうじしているのが情けなくなったのだとか。

 

 

「だから、力になれることなら何だってしてやりたいのさ。……この事、あの子達には言うなよ?」

 

「分かってますよ。生け簀、ありがとうございました、完成を待ってて下さい」

 

「おう。旨い魚を楽しみにしとくよ。……おい、坊主」

 

ショベルを肩に掛け、水の流れを考えながら道筋を考えているとまた声を掛けられた。振り向けば、さっきの生け簀を作ってくれたおじいさんがタオルで汗を拭いていた。

 

「さっき言った“子供達”ってのは、お前も入ってるんだ。あまり無理をせんでくれよ」

 

おじいさんの言葉に、サムズアップで返答した。

 

 

「ふぃー……、ちょっと休憩」

 

掘った穴をペンペンとショベルで叩いてならし、息を吐いて座る。精霊システムを使用して掘り進めているので、思いの外作業はスムーズに進んでいた。

ちょうど大きな木陰が広がっているスペースで横たわって目を閉じる。緩やかな風が、草花の匂いと共に吹いていた。

 

 

「モミジお兄ちゃん」

 

声に起きれば、重箱を手にした梓とその後ろにサトシが居た。サトシが抱えていた大きめの水筒をよいしょと降ろすと、掘った水路を見て言う。

 

「これが、魚を誘き寄せる道?」

 

「おう。正確には生け簀へ繋がる道だけどな。明日には完璧に繋がると思うぞ」

 

「明日? もう少しで川に着くんじゃないの?」

 

 

確かに、もう川へは目視で見えるほどにまで近付いている。返答代わりに、サトシへと持っていたショベルを手渡した。

精霊システムで力任せにやっていたせいか、刃先がボロボロで使えそうにない状態になっていた。

 

 

「諏訪大社にも、もう替えが無いらしくてな。ちょいと調達に行かねばならんのだ」

 

「それって、もしかして……」

 

まさか、という顔をする梓に、笑顔でモミジは言った。

 

「市街地まで行ってくるよ」

 

 

〰️〰️

 

『そっちはどんな感じ?』

 

「目的の物は大体集まった。……何か必要な物はあるか?」

 

『ちょっと待って』

 

諏訪大社から徒歩2~3時間程にある市街地。その中の一番大きなデパートへとモミジは居た。

あの後、市街地に行くと聞いた子供達からの要望(遊び道具等)を聞き、その騒ぎに何事かと歌野さん達保護者組が来るというちょっとした事件があったが、無事に乗り越えて今に至る。

 

季節は春が過ぎ、もう少しで夏が来るという時期だからか、はたまた鉄筋コンクリートの建物で中の熱気が逃げないからか、デパートの中はじっとりと熱気を放っていた。

幸いなのは食料品が置いてあるホールは広い空間を保つためか、そこまでの熱気は無かったが二階、三階となると話は別だった。

 

「…………」

 

嗅ぎ慣れた臭いに、思わず顔をしかめる。暗い空間のなか、精霊システムで僅かに強化された眼はそれを捉えていた。

遠目からそれを見て、近くにバーテックスが居ないかを確かめる。近くにあった瓦礫を手に取ると、下へと続く階段へと放り投げた。

 

甲高い音を立てて、瓦礫が何かに当たる。その場で動かず、集中して耳を澄ませば、聞こえてくるのは何もなかった。

 

安全を確認し、足早にホールを進む。途中、手芸屋の前の造花が目に入り足を止めた。

何本か拝借し先程の場所へと戻る。そしてそれ――乾いた大きな血溜まりの痕に、造花を供え手を合わせる。

 

人類の敵。

 

諏訪神から言われた言葉が、頭の中で再生される。“天津神”、それが何者か明確には分からないが、こうやって手を合わせることくらいは許されないだろうか。

 

「大神、紅葉」

 

ポツリと、確かめるように自分の名を呟く。静かな空間に、それは寂しく響いた。

 

「俺は、大神紅葉だ」

 

かつて綾乃が与えてくれた名を再確認するように言い、モミジは再び歩きだした。

 

 

 

 

「おかえりなさい。ごめんなさい、危険な目に遭わせてしまって……」

 

「大丈夫だよ。俺が好きでやってる事だから」

 

諏訪大社へと無事帰還し、幾つかの大袋をどさりと下ろす。申し訳なさそうな顔をした歌野さんに、苦笑して応えた。

諏訪の助けとなるのが今回のお役目だ。なら、これくらいは仕事の範疇となる。

 

 

「お疲れ様、モミジさん。これ、どうぞ」

 

「お疲れ様!」

 

差し出されたコップを受け取れば、水都が笑顔を浮かべた。その隣で、梓も笑顔で言ってくる。

後はゆっくりしてて。という歌野さんの言葉に甘え、畳へと腰を下ろす。

 

横を見れば、期待に満ちた目をした梓やサトシ、並びに諏訪の子供達が居た。

それに苦笑してモミジは袋を差し出す。僅かに開いた袋からは、子供が遊ぶような玩具が覗いていた。

 

喜ぶ子供達の姿を見ながら、氷が浮かんだコップの中身を一気に喉へと流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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