大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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少し長めになりました。
独自のルールがあります、雰囲気で伝われば良いかなと思ってますので笑って流して下さい。


諏訪での日々 2

 

「――気になってたんだけどさぁ」

 

時刻は20時過ぎ、夕食を食べ後は寝るまでの自由時間。モミジ達はトランプを広げて遊戯に勤しんでいた。

 

内容は“七並べ”。手札と場に交互に目線を送りながら、綾乃が口を開いた。

 

 

「何だよ」

 

「モミジ、何時から白鳥さん達の事下の名前で呼んでたの?」

 

 

綾乃の言葉に、そういえば、と歌野達も思い返す。

正直何時からかと言われれば分からない。先日のバーテックスの侵攻から呼んでいるくらいだろうか。

 

 

「自然な事で気付かなかったわ、ビックリ」

 

「私も。……でも、嫌じゃないからそのまま名前で呼んで貰っても」

 

 

綾乃が場にカードを出す。次は水都の番らしく、膝に座って一緒に手札を眺めている梓とどうしようかと悩んでいた。

悩んだ末にカードを切り、歌野へと順番が回る。あまり慣れてないのか、そうねぇ、と何度も場と手札に目を移す。

 

 

「俺も気付かず言ってたわ。まぁ、本人許可取ったし良いってことで」

 

「それはそれとして、私は切り札を出すわ! 此処を止めてる人、大人しくカードを出しなさい!」

 

口上と共に出されたカードは、ジョーカーのカードだった。それを見たモミジがぐぅと唸る。

 

 

「ぐぅぅ、折角止めてたのに……」

 

「やっぱりアンタねモミジ。良い度胸だわ……ッ!」

 

新たに開通された数字に、全員の目が手札へと向かう。ギリギリまで止めるつもりだったが、こうなっては仕方がない。

 

さて、と気合いを入れ直したモミジの視界の隅に、何やらコソコソと動く影。虫か?と思いそれを見た瞬間、考えるより先に叩き潰した。

その光景を見て、綾乃から舌打ちが出る。

 

どうやら、小型の“式神”を用いて此方の手札を覗き見しようとしたらしい。

 

「良い勘してるわねー。バレないと思ったのに」

 

「“式神”使うなんて、大人気ないのでは、綾乃さん?」

 

モミジがニッコリと外向きの笑顔で問えば、綾乃も同じ笑顔で答える。

 

「勝てば良いのよ、勝てば!」

 

「人間のクズ」

 

綾乃の返答に悪態吐いて返答したモミジは、何やら水都・梓ペアが静かなのに気が付いた。チラリと静かに様子を伺うと、何やら内緒話の最中の様だ。

 

 

「次はー、これ」

 

「これで良いの? その次は?」

 

「んっとねー、ちょっと待ってて」

 

そう言うと、その場で俯く様に梓は停止した。まるで、ひなたや水都達巫女が神託を受ける時の様――ってちょっと待て。

 

 

「ちょっとぉ? “予知”を使うのは反則なのでは?」

 

モミジの演技掛かった問いかけに対して、隣の歌野が梓へ耳打ちした。

 

「ワタシ ナニモ シテナイ」

 

「嘘つけぇ!!」

 

「いやー、“予知”はちょっと対抗策がないわー」

 

しらばっくれるようだ。

綾乃も打つ手なしと、苦笑してカードを場に出していく。止めるべき所は止めているのだが、この先の展開が分かる以上、この様な頭を使うゲームでは勝ち目がない。

 

綾乃、そして四国のひなたとの通信教育のおかげで梓の能力はレベルアップしていた。このような簡単な“予知”なら、集中して瞑想すれば直ぐに視ることが出来るらしい。

この短期間での変わりように、綾乃と、そしてひなたも驚いていた。

 

 

――そして、時は流れて。

 

 

当然というか、何と言うか。

 

「やったー、私達が一位だよ!」

 

「わ、わーい」

 

結果的に一抜けは水都・梓ペアだった。最初は子守り感覚でズルに共犯していた水都だったが、その的中精度に途中から冷や汗をかきながらどうしようと困っていたのが見えた。

子供のやったことにケチをつけるのは止めて、残った者同士で火花を散らす。

 

 

因みに、ここまで本気でやっているのは負けたくないというプライドの他に、もう一つ理由があった。

 

時間は、今日の昼間へと遡る。

 

 

「モミジさん、そろそろオーケーかしら?」

 

「……うん。大丈夫な筈、水門を開けて!」

 

「はーい!」

 

此方からの合図に、歌野さんが水門の木板を上に引き上げる。

川から繋がった水路が、音を立てて大社内の生け簀へと流れ込んで行った。

 

生け簀の方から歓喜の声が上がったのが聞こえる。どうやら上手く行ったようだ。

 

 

「成功みたいね!」

 

「あぁ、上手く行って良かった」

 

「感謝してもしきれないわ! ベリーベリーサンキュー!!」

 

「うわっ?!」

 

何時もより何倍も良い笑顔の歌野が、言葉と同時に抱き付いて来た。

少女らしい良い香りと、柔らかな感覚に思わず体勢を崩し掛ける。

間一髪立て直し、ちゃんと受け止めると胸元の歌野が顔を上げる。

 

 

「――本当に、ありがとうございます、モミジさん。私一人じゃ、ここまで出来なかった」

 

「買い被り過ぎだよ。諏訪をここまで守ってきたのは歌野さんでしょ、俺ならとっくの昔に心が折れてる」

 

「私一人じゃないわ、みーちゃんも、それに他の人達も。皆で作ってきた諏訪だもの」

 

 

歌野さんのそんな言葉を聞いて、敵わない、と感じた。

諏訪の皆、と彼女は言うがその皆を動かした、手を差し伸べたのは自分だろうに。

 

若葉が同じ勇者だという他に一目置く理由が、よく分かった気がする。

 

 

そんな事を考えていると、近くにある歌野さんの顔がだんだんと赤くなる。どうしたのだろうか。

 

「そ、ソーリー! 少しはしゃぎ過ぎちゃったみたいね!」

 

「えっ、……あぁ」

 

先程までの距離感の事を言っているのだろうか。確かに、彼処まで積極的に近付いたのは初めてかもしれない。

茶化す気にもならず、紳士的に笑顔を浮かべて気にしないで、と言うと、照れ臭そうに彼女は笑った。

 

〰️〰️

 

「良かった。魚が段々と来たね」

 

「わぁ、キラキラ光ってて綺麗……」

 

諏訪大社へと戻り、生け簀の様子を確認する。水位、水の流れ共に問題はなく本命の魚も見えていた。

生け簀の淵に座り込む水都の近くに、モミジが確認するように生け簀を見渡した。

 

モミジが手にしている鉄製の器には、魚用のエサがこんもりと盛られていた。

 

 

「それが、例の?」

 

「おう。諏訪神が言うに、成長程度なら問題ないってよ」

 

綾乃の言葉に、エサをパラパラと撒きながら答える。例の、と綾乃は言ったが、これはただの食べるには値しない穀物の残りだ。

 

 

 

――今回のこの生け簀の計画で、一番に危惧されたものがあった。

 

ずばり、魚が一定で育ち、供給されるかだ。

 

乱獲する予定はないが、川の魚を捕り尽くしてしまった、では話にならない。

その件で諏訪神に相談したところ、思わぬ返答があった。

 

 

『結界の領域内ならば、我が“豊穣”の力の一端が作用する。成長までなら、問題なく行えるじゃろう』

 

だが、と続ける。

 

『欲を出し、仔魚までをも欲するならば、早々に途絶えると考えておけ』

 

そんな、脅しに近い警告と一緒に、だったが。

 

 

 

 

「――だから、数を絞りつつ計画的に捕っていけば問題はないだろうってさ」

 

「なるほどね」

 

綾乃がちゃぷちゃぷと片足を生け簀に浸ける。水深は子供の事を考えて浅く掘ってあるから、簡単な水浴び程度なら行えそうだ。

 

子供達に声を掛けると、待ってましたとばかりに釣り用のタモを手に此方へと駆け寄る。

 

釣竿は要らない、この生け簀での漁の仕方は――

 

「そぉら、魚がそっちに行ったぞ!」

 

「今だ!」

「ちょ、すばしっこい!」

「もう少しだよ!」

 

――そう、掬い漁である。

 

 

〰️〰️

 

「藤宮さぁん、お刺身は後何人分だったかしら?!」

 

「二人分よぉ、歌野ちゃん」

 

ことり、と刺身用の醤油皿をテーブルに置いて藤宮さんが返答する。

勝者である水都・梓ペアは、目の前に置かれた刺身に目を奪われていた。

 

魚には詳しくないが、脂が乗った今が旬の物なのだろう。醤油皿に付けた後に残る脂が旨みを物語る。

 

 

「畜生、滅茶苦茶旨そうだなぁ。……おい綾乃、ここにクラッカーがある、これを」

 

「食べるならアンタが食べなさい。私は久しぶりに刺身を食べるのよ……ッ!」

 

「私も食べたいわー! 二人とも、ガチンコファイトよ!」

 

 

今回の漁での収穫分は、夜に子供達を優先に食べてしまった。

だが、気を利かせた藤宮さんが刺身用に四人分残しており、それを俺達で食べる予定だったのだが。

 

『それ、なぁに?』

 

丁度お手洗いに行く途中の梓な見付かってしまい、今に至る結果となった。

 

 

「――これで上がりよ! コングラッチュレーション!」

 

「「なにぃ?!」」

 

満面の笑みでカードを場に出し、上機嫌で刺身の置かれたテーブルへと歩いていく。

そんな歌野を見送ったモミジと綾乃の間に、バチバチと火花が散った。

 

場と自分の手札を見比べれば、結果が出るのは数ターンだ。だが、残った手札には歌野から渡されたジョーカーが残っている。

 

 

「(ジョーカーは最後に出してはいけない……ならば)悪いな、パスだ」

 

「なっ?!」

 

モミジからの宣告に、綾乃から驚愕の声が上がる。綾乃の手札も残り少ないが、それはモミジが続く数字のカードを出せばの話だった。

 

「あ、あ、アンタ、汚いわよ?!」

 

「おいおいどうした、ならカードを出せば良い話だろう?」

 

「ぐ、ぐぬぬ……、パス!」

 

綾乃はもう一度パスを使っている、つまりここでモミジがパスと言えば、自動的に綾乃が飛びになるのは確定だった。

 

 

「悪いな綾乃、パスだ」

 

 

そう言って、項垂れる綾乃を尻目に勝者の席へと向かうモミジに、あれ、と水都が思い出す様に言った。

 

 

「パスって連続で使えたっけ?」

 

 

水都のその言葉に、私達のルールでは無しだったわね、と歌野が刺身を頬張って言う。

その会話を聞いた綾乃が、ユラリと立ち上がった。

 

「席に着きなさいモミジ、ゲームはまだ終わってないわ……」

 

「い、いや、四国じゃ連続パスはありだろ?!」

 

「此処は諏訪よ、“郷に入りては郷に従え”、ということわざをご存知かしら?」

 

「ち、畜生ーッ!」

 

 

ゲーム再開。自動的にジョーカーしか切れないモミジが場に出せば、代わりのカードを綾乃が出し、続いて綾乃のターンへと切り替わる。

つまりは、枚数的にモミジの負けが濃厚となった瞬間だった。

 

 

 

「――ま、本来ならモミジの勝ちだしね。半分こなら良いわよ」

 

刺身の乗った皿を二人の間に置いて、自分の醤油皿にワサビを溶かしながら綾乃が言う。

 

「え、良いの?」

 

「良いわよ」

 

そう言って早速一切れ、綾乃は口へと放り込む。むぐむぐと数回咀嚼すると、ふにゃりと頬を弛めた。

 

「新鮮なだけあるわ、美味しー!」

 

「綾乃さんはワサビ大丈夫な人なんだ、大人だなぁ……」

 

「慣れれば平気よ、食べてみる?」

 

「えっ、うーん、じゃあ……」

 

遠慮がちに開いた水都へ、綾乃は刺身を食べさせた。少ししてワサビが鼻に来たのか、涙目で鼻を押さえる。

その様子に大丈夫?と綾乃が笑うと水都も鼻を押さえつつも笑った。

 

そんな様子を笑って見ながら、モミジも刺身を一切れ頬張る。コリコリとした食感と、刺身の甘さと醤油の辛さが絶妙に合っていた。

 

旨い。とつい口に出せば、隣の綾乃が自慢気に笑う。それにつられる様に、他の皆も楽しそうに笑った。

 

 

そんな、平和な諏訪の一時。

 

 

 

 

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