大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

16 / 87
“紅葉”の目覚め 2

「ひなた、大丈夫か?」

 

「はい……」

 

持ってきたリュックが一杯になるほど詰め込んだ本を、ひなたがよたよたと歩きながら運ぶ。

若葉が自分が持つことを勧めたのだが、万が一に備え動ける者が万全な状態で、とひなたに諭され渋々諦めた。

 

結果はこの上なく上々だった。

ただ気掛かりなのは、ひなたが本に目を通した際に何やら深刻そうな顔をしたこと。それがモミジの家に有ったのだから、彼に関する事なのだろうとは直ぐに察しがついた。

 

 

帰ろうと“神前の間”から出、来た道を戻ろうとして――奥の突き当たりに何か扉があるのが目に入った。ひなたを見れば、此方の心中を察したのかこくりと頷く。

 

リュックを外し、床に一旦置いて扉へと慎重に近付く。何者かの気配は消えない。どんな理由があって姿を現さず観察しているのか分からないが、()()()()()なら抜刀する心決めだ。

 

ふと見ると、扉の面に何か文字が書かれてあるのが目に入った。

 

 

「“ヒトガタ”の間……?」

 

 

歪なカタカナで書かれたその文字を若葉が声に出して読む。その言葉の意味が分からずにひなたに助言を求めようとして、

 

思わず息を飲んだ。

 

 

「……こ、れがっ、これが自分の子供に対する行為なのですか……っ!」

 

長年ひなたと過ごしてきたが、こんなにも感情を表しているの彼女を見たのは初めてだった。

激怒、憤怒、およそ“怒り”という感情を詰め込んだその表情は、感情が昂りすぎてポロポロと目から涙を流している。

 

思わず彼女の肩に手を貸せば、ひなたは若葉にすがりつく様に身を寄せ涙を流した。

 

 

少し時間を置いて、落ち着いてきたひなたを気遣いながら若葉が問う。

 

「あの“ヒトガタ”とは、一体何なんだ?」

 

「……あれは、“ヒトガタ”というのは通称漢字でこう書きます」

 

泣き止んだひなたが、目を軽く腫らしながら空中に指で字を示す。

 

“人形” と

 

「……それは、ニンギョウとも読めるが?」

 

「えぇ、これがこの“降霊術”の恐ろしい所であり、肝と言える所ですが、説明には長くなるので話の続きは帰ってからにしましょう」

 

「む、そうだな」

 

正直、直ぐに理解出来る自信がない。

 

 

言いながら、部屋に入るためにドアノブへと手をかける。特に抵抗もなく開いたそこからは、また違った意味で目を開く光景だった。

 

 

幼児用、小学生低学年用の知育玩具。

 

風呂、トイレ、ダイニング等の生活空間。

 

その他には棚に詰まった大量の本に、内側から開けられないように無くなったドアノブ。

 

 

子供を飼っていた、とでも言いたげな空間がそこに広がっていた。

 

 

「屋敷の構造から考えれば、ここがモミジの部屋で間違いないな」

 

「そうですね……」

 

昔、若葉の祖父がモミジの境遇を聞いて、大神家へと殴り込みに行ったことがある。

その時には既に彼の両親も、居た筈の使用人の姿もないもぬけの殻の様な状態だったらしい。

 

ただ当の本人は、お行儀良く何時も通りに過ごしていたらしいのだ。

 

――たった一人で。

 

 

若葉達と本格的に関わり出したのは直ぐその後だったらしいのだが、ある日祖父に言われた一言があった。

 

“モミジの側に居てやりなさい”

 

その時は幼いこともあり、よく理由も分からないままだったが、今なら理解が出来る。

祖父は、この光景にモミジへの哀れみと、大神家への気味の悪さを懐いたのだろう。

 

 

 

〰️〰️

 

 

「……さて、長居をすることもない。荷物を持って帰ろ――」

 

部屋の捜索も終わり、今度こそ帰ろうと足を進めた所で直ぐ、若葉はぴたりと足を止めた。

一緒に行こうとしたひなたが首を傾げるが、若葉は通路の奥、出入口を鋭く睨みながら言う。

 

「居る」

 

その一言にひなたが総毛立つ。ここは建物の奥。逃げ場などそうある筈もない。

 

腰に差した“生大刀”に軽く手を添える。どうにかして手にいれた書物等を持ち帰りたいが、若葉は今一踏み込めずに居た。

 

 

――私はこの“生大刀”と勇者衣があるが、ひなたは違う。

 

相手の姿形が分からない以上、無闇に踏み込む訳にもいかない。そんな不注意でひなたに怪我でもさせれば、モミジや綾乃達からの激しいブーイングが待っているだろう。

それにそもそも怪我一つ負わせる気もない。ひなたは大事な親友でもあり、家族でもあるのだから。

 

 

ならば、此方から誘うか。

 

 

「おい、そこの貴様」

 

口から言葉を発しつつも、気を練り身体中の神経を最大限に発揮させる。少し後ろのひなたの呼吸音ですら聞こえる程集中すると、更に言葉を続けた。

 

「ここは私の身内の家だ。本人不在の上で侵入したのはお互い様、ならば互いに干渉はせず、今は退こうじゃあないか?」

 

返答はない。だがはっきりと感じる気配は、未だ動こうとはしない。

 

黙り(だんまり)か……。了承は得たと取るぞ」

 

リュックまでは後数歩。それを取り、先程のモミジの部屋の窓を突き破って逃走しよう。許してくれるだろう、多分。

 

そう作戦を練り、ひなたにゆっくりと部屋に入るよう後ろ手で促しつつ、リュックへ向けて一歩歩きだしたその時、

 

通路の向こう側で、ギシリと足音が鳴った。

 

 

「ッ!!」

 

弾かれた様に踏み込み、片手でリュックを後方に放り投げてそのまま居合いの型を作る。

目標まで数メートル、届く――

 

「はぁっ!!」

 

“生大刀”を一閃、感じた気配へと斬りかかる。柔らかい、肉体の様な感覚を切り裂くと、目の前で押し止まったそれへ全力で蹴りを叩き込んだ。

 

 

勇者衣で強化された蹴りは、容易くそれを蹴り飛ばす。調子が良ければ生木の幹をへし折る程の威力だ、彼方もタダでは済むまい。

ゴロゴロと吹っ飛んだのを確認すると、若葉はリュックを拾ってモミジの部屋へと飛び込む。

 

「ひなたぁ!!」

「若葉ちゃん!!」

 

部屋の中にあった椅子を此方へ引きずっていたひなたを見て即座に意図を理解する。リュックを片手で背負い、空いたもう片方で椅子を掴むと、窓へと向けて放り投げた。

 

だが。

 

「っち、強化ガラスか」

 

ヒビが僅かに入る程度で、割れる迄には至らず跳ね返った椅子を見て、若葉は思わず舌打ちをついた。

背後を見れば、先程の気配が入り口まで迫っている。もう復活したのか。

 

 

僅かな時間で思案する。

今回は何かモミジに関する手掛かりを求めてこの家へと来た。

 

だが最優先すべきは、ひなたと自分が無傷で帰還する事である。

 

「仕方ないな」

 

数瞬、だが神樹の加護により超人的な思考能力で得た答えに、諦めたように若葉がため息を吐き出す。

“生大刀”を窓へと一閃すると、まるでバターを切るかの様に簡単に窓は切り落とせた。

 

そしてその間に此方へ迫る気配に、背負っていたリュックを思い切り叩きつける。

中身が一杯の重さのある一撃に怯み、立ち止まるその隙にひなたを抱えると窓を突き破り二人は外へと飛び出した。

 

 

「あぁ……、折角の手掛かりが」

 

心底残念そうに言うひなたに、若葉は苦笑いをする。仕方がない、流石にひなたを抱えながらあの重いリュックも――とすれば、あの気配に追い付かれていたかもしれないのだから。

 

二兎追うものは一兎も得ず。とは、先人はよく考えて言葉を作ったものだ、と若葉は思う。

 

むぅ、と名残惜しそうに屋敷の方を見るひなたに、若葉は止めの言葉を言った。

 

 

「仕方ないさ」

 

 

こう言えば、きっと彼女は納得する。

 

 

「モミジ達が心配する」

 

「……そうですねぇ」

 

ひなたは、仕方ないと笑った。

 

 

 

『――っていうことがあったんです』

 

「大事じゃねぇか!!」

 

 

がたりと立ち上がり通信機へとモミジが怒鳴る。隣に座る綾乃がどうどうと鎮めると、大人しく席に着いた。それで良いのか。

 

昼過ぎ、連絡がついて第一声がそれだった。

流石にモミジも予想外だったらしく、通信機の向こうの若葉とひなたの安否をしつこいくらいに訊ねている。

 

あまり見ないモミジのその剣幕に歌野と水都がぽかんと呆けていれば、それを見た綾乃が笑って言う。

 

「本当に過保護なんだよ、モミジはこういう時」

 

「仲が良いのは聞いてたけど、実際に見ると凄いわねぇ……」

 

「うん……」

 

「身内愛っていうか、そういう感情が強いんだろうね、きっと」

 

「あら、皆はてっきり親戚か何かだと思っていたのだけれど?」

 

 

歌野の問いに、あー、と何やら考える仕草をして綾乃は言う。

 

「その辺り話し出すと長いから、また後でも良い?」

 

「勿論よ!」

 

さっぱりとした態度の歌野の返答に綾乃はありがとうと礼を言う。

実は聞きたかった水都であったが、ここはぐっと我慢した。

 

 

『――それでは、今回の成果を話させていただきます、が』

 

そこまで言ってひなたの声が若干詰まる。その理由が歌野と水都にあることが、二人になんとなく伝わった。

 

退出した方が良い、と感じた二人が席を外そうとするが、待ったをかける人間が居た、モミジだ。

 

「ひなた。二人にも聞かせてやってくれ」

 

『……よろしいのですか?』

 

「あぁ。いずれは話さなきゃならない事だしな、その様子だと色々見てきたんだろ、“大神家”(おれのいえ)の事」

 

 

ひなたは頭が良い。

学力云々の話ではなく、頭の回転の基礎が俺達の中でもずば抜けている。

身体を動かす尖兵がモミジや若葉ならば、戦略を練るのはひなたや綾乃だと理解出来ていた。

 

本人は気を付けているのだろうが、今回の成果と話を始めた時に僅かに口調が変わった。

 

恐らく、よっぽど酷い何かを見たのだろう。

 

 

丁度良い機会だ、俺の中の“天津神”の因子、そしてその因果。諏訪神(タケミナカタ)から聞かされた、俺の結末の神託もここで伝えてしまおう。

 

神託は予知の一種だ。絶対に決められた未来ではない。

 

大切な人が死ぬ予言だろうと、自分が地獄に落ちるという予言だろうと、変えようと思えば変えられる未来なのだ。

 

自分にとっての大切を守るために、俺は

 

 

「二人も聞いてくれ、“大神紅葉”の半生とこれから歩む道を」

 

 

最期まで、戦い抜くと誓う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。