大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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“紅葉”の目覚め 4

 

――身体が軽い。

 

「これは、武器が変わったからって訳じゃあなさそうだな、っとぉ!!」

 

身体を支柱に、小さく棍を沿わせて回転させる。大きく振りを付け、勢いをつけたそれを接近していたバーテックスへと叩き付けた。

 

打撃音と地面へめり込む様に潰れるそれを尻目に、此方へと絶えず接近する奴等へと目を配る。

そして、奥で鎮座するかの様に大人しい融合体達へも。

 

 

動かない。まるで此方の動きを観察するかの様に、その融合体達はじっと動きを止めていた。此方から手を出そうと接近すれば、他のバーテックスが阻止するかの様に立ちはだかる、というのが続いている。

 

「さて、どうしようか……」

 

積極的に攻めて来ないのであれば、一旦退いて本殿で奮闘している歌野さんの加勢に行くのもアリだ。彼方の目的がどうであれ、わざわざ付き合ってやる理由はない。

それに、虫の知らせとでも言えば良いのか何か嫌な予感がすると、自分の勘が騒ぐ。

 

 

そこまで考えて、雪崩れ込む様に殺到してくるバーテックスに思考を切り替え応戦する。

いくら勇者衣擬きを纏っているとはいえ、まともに一撃が当たれば下手すれば即死する。慢心はせず、上昇した身体能力を行使して対応するのが得策だろう。

 

それにしても――

 

「何処からわらわら湧いてやがんだ、てめぇらは……ッ!!」

 

キリがない。融合体へと足を進めようとすれば奴等の背後から飛び出し、かといって後ろに退けばいつの間にか背後に回られている。

結界で情報を断っていたとはいえ、こんな大群が居れば分からない筈がないのだが。

 

右、左、上方から背後……。次々と絶え間なく襲いかかるバーテックスを、殺しは出来ずとも対処しながらも思考を回す。

歌野さんの腕は疑っていない。諏訪の勇者であり、何年も犠牲者を出さず守ってきたという彼女は、間違いなく俺より格上の存在とも言える。

 

だが。

 

「あの融合体、何体存在している……?」

 

精霊を使用して、尚且つベストの一撃でなければ屠れなかった奴等の情報を、歌野さんは口伝でしか仕入れていない。

彼方が軍勢ともいえる大群で侵攻してきている以上、此方の戦力を根絶やしにする準備は整えて来ているだろう。

 

ならば、歌野さんの方へも融合体が行っている可能性は非常に高い。

 

 

「退こう」

 

各個撃破を狙っているかもしれない相手に対して、連携も取れない距離で離れて戦うのは危険すぎる。非常事態なのは最初からだ、ここはまず――

 

モミジの思考がぶれたのは、バーテックスが一塊になって突っ込んで来ていた時だった。

 

まずい。という言葉と同時に、回避の為に横へ飛んだ。モミジが避けた後には、地面を抉りながらバーテックスが木々を薙ぎ倒していた光景があった。

効果あり、と普段からにやけ顔に見えないともないバーテックスの顔がモミジへ向けられる。ガチガチと興奮気味にならされるギロチンの様な歯に、モミジは舌打ちを吐いた。

 

「学習されたか。……時間もない、出し惜しみしている場合じゃないか」

 

ぎゅ、と棍を握り直しながら肉体砲弾の準備をしているバーテックスへ睨む。

 

 

「進化してんのはそっちだけじゃねぇ。新しい“精霊降ろし”、見せてやるよ」

 

 

 

かたかたと震える身体を抑える様に、梓は自身の肩を抱いた。震えが止まらない、外から聞こえるガチガチという音に比例するように恐怖心が煽られる。

そんな梓の肩に優しく置かれた手があった。見上げれば綾乃が軽く手を上げて隣に座り込む。がさりという音に反応すれば、反対の手には飴が入った袋が握られていた。

 

「梓ちゃん、あーん」

 

「へ? あ、あーん……」

 

コロリと口に転がってきたそれを舐めれば、柑橘類の果実の味が口一杯に広がった。思わずきょとんとした顔をする梓に、綾乃が笑って言う。

 

「肩に力込めすぎだよ。歌野さんの事を信頼してないの?」

 

「い、いや。信頼はしてる、けど……」

 

「普段はあれな水都ちゃんでもどーんと構えてるんだから。リラックスしなって」

 

「綾乃さん、普段からあれってどういうこと?!」

 

 

さらりと出た綾乃の言葉に、少し離れた位置で子供達をあやしていた水都からのツッコミが入る。歌野が以前「みーちゃんと私のコンビは最早夫婦も同然!」と言っていたが、なるほどツッコミ役はいつでも自分の役割を理解し、待機してるんだな、と梓は納得した。

 

「水都おねーちゃんはツッコミ、と」

 

「嫌な立ち位置が確立されようとしてる?!」

 

水都の半ばガチな抵抗に、ケラケラと綾乃が笑う。そんな様子の綾乃を眺めていると、梓の頭に軽く手を置いて綾乃が言う。

 

「確かに私達は何も出来ないよ。戦う力を持たない、非力な存在だからね。でも、“巫女”っていう存在だからこそ出来る役割があるんだよ」

 

「役割……?」

 

綾乃の言葉に、未だ自信がはっきりと持てない水都も静かに耳を傾ける。

歌野やモミジに、自分から出来ることはないかと探る思いで。

 

それはね、と綾乃が指を立てて笑顔で言う。

 

「“祈る”事だよ」

 

「「“祈る”?」」

 

言葉が重なる。そう、と綾乃は胸の前で手を組んで、静かに目を閉じ言葉を続ける。

 

「恐怖から逃れようとする“逃げの祈り”ではなく、他者を信じその者の無事を“信じて祈る”という意味での祈りだよ」

 

その言葉に、外から聞こえるガチガチという音の他に鞭を叩きつける音が混じっていることに気付いた。

そうだ、私達がまだ無事なのは外で戦っている“勇者”が居るからだ。

 

「怖いのは仕方ないね。誰だって怖いものは怖いから。でもね――」

 

 

自分達よりも前で、怖い思いをしている人達が居るんだ。

 

 

「だからこそ、私達“巫女”の“信頼の祈り”を、歌野さんと、あのバカ(モミジ)に届けなくちゃいけないんだよ」

 

 

身体の震えは、いつの間にか消えていた。

 

 

 

「数が多いわね……」

 

有効打は受けていない。身体の疲労は溜まる一方だが、弱音を吐いている時間と余裕はなかった。

このままでは不味い、と歌野は今までの経験と直感から感じる。日が高い今ならまだ視界を広く保て、対処が可能だが。

 

「日の入りを狙ってるなら、かなーりデンジャーね」

 

今までにない人海戦術に思わず嫌気が差す程だった。本来ならモミジと合流すべきなのだろうが、後ろに守るべき人達が居る以上、ここは死んでも離れられない。

 

そこまで考えて、不意に身体が軽くなるのを感じた。勇者衣からの新しい恩恵か?と考えるのと同時に、何かが流れ込んで来るのを感じる。

 

――頑張って、うたのん!!

――負けないで、歌野おねーちゃん!!

 

「――……。~~~ッッ!!」

 

 

此方を気遣う言葉、そして伝わる自分の負けを考えてもいない信頼の言葉に、歌野は思わず悶絶し身体をぷるぷると奮わせる。

チャンスと見たバーテックスの群れが歌野へと殺到するが、鞭の一振りで一瞬にして塵となった。

 

 

「最ッ高にハイってヤツだわーッ!! みーちゃんに梓ちゃん、諏訪の皆、大好きよーッ!!」

 

 

目に見えて気配が変わった歌野に、取り巻くバーテックスも思わず攻撃の手が怯んだ。そんな事を知ってか知らずか、薙ぎ払いながら歌野は大きく謳う。

 

「農業王改め、農業王ハイパー、ここに見参よ!! 絶対に、守ってみせるんだから!!」

 

その傍らで、一匹の猿の精霊が静かに寄り添っていた。

 

 

蜘蛛の糸に、何かが通った。

 

反射的に棍を振るい、バーテックスを打ち落とす。円を描くように棍を振るい終わると、あれほどいたバーテックスの群れも疎らになっていた。

 

「纏え、“鎌鼬(かまいたち)”」

 

ゴゥ、と轟く様に暴風が嵐の如くモミジの身体を包む。以前使用した時とは段違いの威力に、歯を見せて笑みを浮かべた。

 

「そぉら、避けれるもんなら――」

 

身体に纏う暴風が止み、持つ棍にうっすらと逆巻く様に風が生じた。

 

「避けてみなぁッ!!」

 

棍を振るうと同時に、微風(そよかぜ)が如くバーテックスと融合体の間合いへと吹き込む。瞬間。

 

僅かな間を持って、空に浮かぶ雲をも捲き込んだ竜巻が発生した。

どっしりと地面へ据えられた融合体さえも、砂檪や木々が身に叩き付けられる衝撃で天へと舞い上がる。

 

その光景は、まさに“天災”とでも言えるような地獄絵図でもあった。

 

 

そんな光景を作り出したモミジは、しかし油断せず慢心もなく融合体を見据える。

 

「効いてはいるが、決定打ではない、か……」

 

あれを倒したとき、それは自身がボロボロになりながらも放ったまさに諸刃の剣だった。

あれをまたしようにも、諏訪神から貰った棍ですれば間違いなく折れるし、あの時とは違い敵も複数体居る。

 

 

「有利な様に見えて、あまり状況変わってないよなぁ。まぁでも、やるしかねぇんだ」

 

――お願いね、モミジ。

 

「――っは、綾乃の奴か。全く、誰に言ってんだか」

 

ぎゅっと、首もとにぶら下げた勾玉の首飾りを掴む。

 

 

「任せとけよ」

 

 

モミジの身体に、ばちりと何かが迸った。

 

〰️〰️

 

 

『前にも聞いたの。“お主が戦う理由”を最後に確認したい』

 

「えー…、今?」

 

『それが必要なんじゃよ』

 

手の中の勾玉が淡く光る。それに首を傾げながらも、急かすように要求する諏訪神へ答える。

 

「簡単だ。“俺の身内が、笑顔で居てくれる為に”だよ」

 

『身内とは、お主は天涯孤独の様なものであろうに』

 

「血の繋がりなんて関係ないさ。若葉、ひなた、綾乃……、そして、あいつらが守りたい大切な人まで、俺の“身内”だ」

 

どくりと、ゆっくりと心臓が動いた。その動きに合わせて、身体中に熱い何かが伝わって行く。

手の中の勾玉も、幾つかあるそれぞれが違う色とりどりの発光を見せていた。

 

モミジは続ける。

 

「俺はあいつらの笑顔が好きだ。泣くより笑って欲しい。苦しむより楽しんで欲しい。それを邪魔する何かがあるなら排除するし、解決出来る事なら解決したい」

 

『――相変わらず中々に我が儘じゃの、お主は。ならばその“身内”とやらが、世界中の人を守りたいと言ったならばどうする?』

 

「守るよ」

 

諏訪神との問答を続ける度に、身体中が熱く、身体から何かが迸るかの様に噴き出している感覚がある。

スポーツカーのエンジンの様に止まらないそれを感じつつもモミジは言葉を続ける。

 

 

「正義のヒーローなんかになりたい訳じゃあないさ。俺がなりたいのは――」

 

鳴り響いていた鼓動が、身体中を迸る何かが、一瞬止まった。

 

 

「――あいつらにとっての、“勇者”になりたいんだ」

 

 

〰️〰️

 

竜巻から何とか抜け出した融合体達が見たのは、神々しいまでの光だった。

此方を照らすその輝きは、まるで()()()()()()()()()()で、それで次の動きまでが遅れた。

 

その輝きの形は、鮮やかなまでの紅葉した紅葉(モミジ)の葉。それを背負うかの様に君臨するそれは、閉じていた目を開いた。

姿は先程までと大きく変わり、全身が紅葉色の神官服。背には巴型に勾玉が備えられ、それぞれが常に違う色に染まっていく。

 

目は神性を宿したものになっており、それに射ぬかれた一体の融合体は金縛りが如く動きを封じられた。

 

その融合体を見て、危険を察知した他の個体がモミジの同行を確認しようと視線を戻して――そこには姿はなかった。

 

「余所見する暇は無いぞ。……あまり時間はない」

 

再び確認した時は、自身の肉体をモミジが貫いたその時であった。

払うように手を振るうと、融合体達を見据えて言う。

 

 

「四国が防人、大神紅葉。今この一時、“勇者”になる!!」

 

 

モミジの神威を示すかの様に、背後の紅葉の輝きが光を増した。

 





モミジの防人/勇者としての覚悟。

家族を絶対に守る。イメージするのは皆笑顔の写真。
助けた人達、若葉達の友人、そして諏訪の皆。大きくなり、枚数の増えていく思い出。
それを泣き顔で汚したりしない、邪魔する者は排除する。自分で解決出来るものは率先して解決する。


ただしその写真には――
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