大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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夏風邪&夏バテでダウンしてました。
皆さんも気を付けてね。




四国へ 2

 

早く終わらないものか。

 

乃木若葉は、会議室で議論を交わす声を聞き流しながらそう考えていた。

今の四国は、神樹様を奉り平穏を保とうとする大社と、“天災”が起こる前までの日本を統治していた日本政府が対立している。

 

現に今聞いている内容は、唯一バーテックスに対抗出来る私たち“勇者”の処遇についてだ。

 

丸亀城にて訓練、そしてバーテックスへの戦闘に備えるよう提示する大社。

対して、私達の勇者衣や神具を解析し、量産、戦力強化への一歩とすべしと提示する日本政府。

 

どちらの言い分もまぁ分かるが、若葉自身としてはそれどころではなかった。

 

「モミジや歌野達は無事だろうか……」

 

通信中に突如ぶつ切りにされた会話。ひなた曰く、神樹様からの神託では諏訪から四国へ向かう事になったと言っていたが、そう簡単に行くものではない。

 

援護に行くべきだ、と大社の上役に詰め寄ったのだが、緊急時に戦力が居なくなっては事だ。という至極全うな返答を貰い撃沈した。

 

 

はぁ、と思わずため息が出る。

 

不意に感じた視線に目を向ければ、何か言いたげな複数の視線を受け、慌てて姿勢を正す。

 

 

――あぁ、嫌だなぁ。今日は好きな具材をたくさん乗せたうどんを食べよう。

 

 

勇者というのも難儀な物だ、と若葉は現実逃避をしながらそう思った。

 

 

〰️〰️

 

「上里さん、この書類はどうしますか?」

 

「あぁ、それは此方の方に……、はい、ありがとうございます」

 

諏訪から大勢引き連れてモミジが帰ってくるという神託を受けて、大社内はバタバタと動き回っていた。

 

まず諏訪の勇者である白鳥歌野、その専属の巫女である藤森水都の大社内の受け入れ。

 

更には特異な能力を発現した巫女見習いの望月梓への対応。

 

そして更には増える住人の居住スペースの確保、当面の衣食住の用意など列挙するだけでも両手の指では足りない事柄が多かった。

 

 

 

その時、不意にひなたがハッと何かに気付いたのを側の巫女は分かった。

 

「――むむむ。若葉ちゃんたらご機嫌斜めですね。……今日は豪勢に全部乗せうどんにしましょう!!」

 

 

何やら不思議な電波を受信したひなたが、書類の隅にメモを取る。

 

傍らの巫女がそれ重要な書類――と言いかけるが、直ぐにやめ上げた手を降ろした。

大社における、“怒らせたらやべー奴等トップスリー”にランクインしているひなたに対して意見できるのは、幼馴染である若葉やモミジ、綾乃だけだ。

 

 

テキパキと書類を仕分け、担当の者に仕事を任せるとひなたは次の部署へと足を運ぶ。

 

「さてさて。モミジさん達が帰ってきたら、今以上に賑やかになりますね♪」

 

もうすぐ会える顔ぶれに楽しみにしながら、ひなたは大社の通路を急ぎ足で歩いて行った。

 

 

 

「ワオ、あれが瀬戸大橋?」

「大きい……」

「ながーい!」

 

霧がかった視界の先に広がるそれを見て、諏訪の人間から口々に声が上がる。

聞けば写真等で見たことはあるらしいが、実物を見るのは初めてとの事。

 

 

「もう目と鼻の先だから、焦らずゆっくり、確実に行こう」

 

「あら、一気に進まないのかしら?」

 

「この辺り、バーテックスが多いんだよ」

 

 

そう言って構えていた双眼鏡を歌野に手渡して瀬戸大橋付近を示せば、それを覗いた歌野からうげ、と声が上がる。

どうしたの、と心配する水都にも同じように見せれば、水都からも辟易する声が上がった。

 

「神樹の結界の目の前だからなぁ。“道”で見付かりにくいとはいえ油断するとあっさり見つかるぞ」

 

「流石にへとへとな身体であれはノーセンキューだわ……。今日は休みましょう」

 

「だね……」

 

海沿いにある旅館の大広間に皆を誘導し、就寝の為の準備、食事の準備をする者とに分かれていく。

綾乃と水都は気休め程度だが結界を張り、バーテックスの接近に備えていた。

 

 

「モミジお兄ちゃん、これどうしたら良いの?」

 

「うん? あぁ、これはこうやってな……」

 

道具の手入れを手伝っていた梓から声が掛かる。それを手伝ってやりながら、モミジは別の事を考えていた。

 

――綾乃の呪いは、今のところ特に異常はない。

 

ならばあれはあの人型バーテックスが吐いた嘘なのかと考えれば、即座に否定できるだけの自信はある。

 

あの人型バーテックス、いや、“天津神”からの使いで“神遣”(シンシ)としようか。奴の怒りは本物だった。

“天津神”は俺が得た新たな力、“神花”を自分達の為に使わせたかったが、それは頓挫。俺が大神“紅葉”という名を持っているため、自分達が介入する隙すらも無くなってしまったのだ。

 

そしてそれは、国土綾乃という存在が関わっている。となれば、

 

 

「狙われる、よなぁ……」

 

 

ふと呟けば、隣に居る梓が首を傾げながら此方を見上げていた。何でもないよ、と頭を撫でてやれば、目を細めて笑う。少しだけだが気が紛れた。

 

最悪の事態までは、シンシの話を信じるなら約半年。その間に何らかの手を打たねば――綾乃は死ぬ。

 

 

あの時、俺がシンシを倒せていれば

 

 

「テント出来たー!」

 

「うん。しっかり出来たな、偉いぞ」

 

 

あの時、俺がバーテックスの融合を阻止出来ていたら

 

 

「夕飯出来たわよー、私特製の蕎麦が!」

 

「おっ、多分ラスト蕎麦だな。味わって食べろよー」

 

「ワッツ?! 四国では蕎麦は禁じられているというの?!」

 

「若葉がうどんキチだからな。蕎麦食べるとうるさいんだよあいつ」

 

 

――俺が、もっと強かったなら

 

 

「伸びる前に食べるわよ。早く座って座って」

 

荒れた畳に布を敷いて、組立式の長テーブルを置けば、簡単な食卓が出来上がった。

その上で美味しそうな匂いと湯気を上げる器を見て、綾乃の言葉に同意して席に着いた。

 

いただきます。という言葉の後で、皆思い思いに蕎麦を食べていく。

 

「むむむ……。これは四国に着いてから一戦交える必要性がありそうよみーちゃん」

 

「私達避難させて貰うんだからね?! 争い事は勘弁だよ?!」

 

「良いぞぉ歌野ちゃん。諏訪の“そうるふうど”を四国の人達に食べさせてやろう!」

 

「ダメだから! 諏訪と四国で戦争が起こるから!」

 

 

歌野の四国での野望を聞いて水都から待ったの声が掛かる。周囲の大人達の応援から更に気持ちを昂らせる歌野を、水都は必死で抑えていた。

 

「元気ねぇ、皆」

 

「流石に疲れたか、しんどいなら早めに寝ろよ。明日は更に神経使うだろうしな」

 

「それもそうねぇ……。なら、早めに休ませて貰うわ」

 

でも、と綾乃は汁を飲み干し器をごとりと置いて言う。

 

 

「ちょっとアンタに話があるのよ、少し時間良い?」

 

 

――全部お前のせいだ。

 

 

心の中で、もう一人の自分にそう言われた気がした。

 

 

 

「話って何だよ、綾乃」

 

諏訪の皆とそう離れていない場所まで来たモミジは、先を歩く綾乃へとそう言う。その語調にも、普段とは違う違和感を綾乃は感じていた。

 

――やっぱり何かを隠している。

 

間違いない、とそう直感が告げている。伊達に数年、修羅場を潜り抜けてきた間柄ではない。相棒に何かがあった事は、直ぐに察しがついた。

問題はそれが、()()()()()()()()()()()という事だ。

 

モミジは基本顔に出やすい。本人はポーカーフェイス(笑)を気取っているが、チラチラと此方を気にしているのは分かっている。

 

共に行動を始めて日が浅い諏訪の三人にも分かるくらいなのだから、それは相当なものだろう。

 

 

――そして、それから出てくる答えは一つ。

 

 

「アンタ、私に隠し事してるでしょ」

 

モミジの顔に、焦りと不安の入り交じった感情が浮かんだ。

 

〰️〰️

 

――どうする。

 

「大体ねぇ。アンタみたいな分かりやすい奴が人に隠し事なんて出来る訳ないでしょ。何かあったの、言ってみな」

 

ため息混じりの呆れ顔をしつつ此方を見る綾乃と目を合わせながら、モミジは必死に頭を回していた。

 

()()()()()()()()、それは絶対だ。言ったが最後、何か最悪の一歩を踏み込んでしまう気がする。

 

「恐らく、アタシかひなちゃんか若ちゃんって所?」

 

「な、何でそう思うんだよ」

 

「そりゃあ、そうでもなきゃ服捲り上げて調べないでしょ」

 

ジト目で此方を睨む綾乃に、そういやそうだとモミジは頭を抱えた。

不安が先走って行った珍事だったが、綾乃からすれば何か疑問に思うのも仕方がない事だ。

 

再びどうする、と悩む。言ってしまうのは楽だ。だが、そうなると取り返しのつかない事になる可能性が高い。

 

 

――回れ、俺の頭! おぉ、神よ。今こそ神託を……っ

 

 

凡そ人生で三本の指に入る程の下らない理由で祈ったそれは、確かなアイデアとしてモミジの頭に舞い降りた。……心なしか、ニタニタと笑う老人(諏訪神)の顔が見えた気がするが。

 

 

――だが今は、このたった一つの冴えた選択を選ぶしかないだろう。

 

「……そうだな、綾乃。確かにお前の服を捲ってしまったのには理由がある」

 

「やっぱりね。ほら、さっさと吐いて楽になっちまいな」

 

「あぁ、実は俺――」

 

笑顔で此方を見上げる綾乃の肩を掴み、そう告げた。

 

 

「俺、実は貧乳派なんだ」

 

 

間。

 

間。

 

間。

 

「そう、か」

 

そうゆっくりと呟きながら、ユラリと綾乃は拳を握る。あぁ、やっぱりこうなるのね。

 

「だったら一杯夢見てこいッ!!」

 

「ぐぼっ?!」

 

綾乃の鋭い一撃が鳩尾へと突き刺さり、モミジは蹲ってピクピクと痙攣する。

ふん、と鼻息を一つ鳴らすと、肩を怒らせ綾乃は去っていった。

 

 

――翌日、女性陣からの視線が痛かったのは言うまでもない。

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