大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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四国へ 3

 

綾乃、歌野、水都の三人が揃っているのを確認して、会議用のテーブルの前に立つモミジはさて、と手を打った。

 

 

「それじゃ、今日は四国に入るためにバーテックスを暗殺してくる」

 

「暗殺? キリングって事?」

 

モミジの言葉に、歌野が聞き返す。あぁ、と返事してモミジは簡単な地図を広げた。

 

「四国の領土内は神樹からの結界で、バーテックスは足一歩入れないのが現状だ。だが、そのバーテックスが何故か数多く徘徊しているんだよ」

 

「そうなの?」

 

 

歌野への返答として、出来るだけ接近できる場所で撮影した動画をスマホで再生する。

何時もならある程度の時間で引いてくる数が、いつまで経っても変わらないのが現状だった。

 

 

「あの数に対してこの人数だからなぁ。絶対にバレる。んで戦闘になる」

 

「瀬戸大橋も走って逃げるには距離が長いし……。うーん、どうしようかしら」

 

「だろ? だから、様子見も兼ねて暗殺しようかなってな。修行してどれ程変わったのかの確認もあるし」

 

処理できるのなら出来るだけ処理したいのも事実だ。無理もしない様に気を付けたい。

 

「なら、私の出番もあるって事ね!」

 

「いや、歌野さんは此処で待機しててくれ。安地だが、万が一という事もある」

 

「むぅ……、仕方ないわね」

 

 

ガッツポーズの歌野が、モミジの言葉を受けしゅんと落ち込む。

 

歌野さんの身体はまだ本調子ではない。幾らか動けるようにはなったが、それで無理をしては元も子もないというものだ。

それが理解できているのか、渋々、といった形で了承してくれた。

 

 

綾乃から手があがりそちらを見ると、自信満々に言う。

 

「なら、アタシが同行するわ」

 

「いや……ダメだ」

 

「何でよ。“道”の確認もあるし、そこまで危険な事をするつもりも――」

 

「ダメだ」

 

思ったより強く出た言葉に自分でも驚いた。言われた綾乃も少しだけ目を見開いたが、直ぐに不満の色に変わる。

 

不満が出るのも仕方がない。自分にしか出来ない仕事をしなくても良いと言われたのだ。俺でも不満になる。

 

取り繕う様に、慌てて言葉を捻り出した。

 

 

「直感だけどさ、嫌な予感がしたんだ。俺も“神花”があるとはいえ、まだ未知数な所もあるし……」

 

「…………そうね。絶対に無理しないでよ」

 

「分かってる」

 

はぁ、とため息を吐いて引き下がる綾乃に感謝する。

 

ふと視線を感じて見れば、はー、と歌野が感心する様な顔で此方を見ていた。何だろう。

 

「どうかした?」

 

「いえ、凄い信頼関係ねと思って。流石はベストパートナーだわ」

 

「昨日亀裂が入ったけどね」

 

「うぐっ」

 

綾乃の鋭い一言に思わず胸を抑える。仕方がない事とはいえ、暫くは文句を言われ続けるだろう。というかかなり機嫌も悪い。

 

 

「でも、こんな大事な事、私達だけで決めても良いのかな……?」

 

「お偉いさんには話をしてある。勇者様方を信じていますってさ」

 

不安そうに言い出す水都に、モミジが地図を片付けながら言う。

 

皮肉ではない。諏訪の地での歌野の活躍やモミジの実力等、年長者達が納得する要素は数多くあった。

その全てを見たわけではないが、諏訪を守護していた歌野が全幅の信頼を置いている、というのが効いたのだろう。

 

 

バーテックスが天空(そら)から降ってきた“天災”のあの日、人類は当然の様に反撃をした。

あらゆる火力兵器、科学兵器……その全てを動員したが、全てが無駄の一言で終わる。

 

そんな中全国の一部各地で覚醒した、“勇者”や“巫女”の子供達や強力な結界を張る土地神様。

今まで軽視してきたそれらに護られるという形で生活基盤を立て直し、復興しているのが今の日本という国だ。

 

戦争兵器が効かないバーテックスを、神の力を宿す武具、“神具”で屠る“勇者”を認めるには時間が掛からなかった。

 

諏訪のお偉いさんがモミジを信頼してくれるのは、そういった所もあるのだろう。

 

 

因みに歌野さんはそういった信頼ではぶっちぎりらしく、”四国での諏訪組代表は歌野ちゃんに全て譲るよ!”とはお偉いさんの言葉である。

農業“王”とはあながち間違いではないのかもしれない。

 

 

「なら、準備が整い次第出発する」

 

身体の調子を確かめる様に、モミジは拳を強く握った。

 

 

バーテックスが数多く徘徊するそこを、モミジは大きな大木から眺める。

綾乃が敷いてある“道”の近くにもバーテックスが近づいており、予測通り強引に突破しようとすれば戦闘は避けられないだろう。

 

「何かを探している……というよりは、()()()()()()()って感じだな」

 

奴等はそれなりの知能がある。もし()()()()()()()から命令されているとすれば、俺、もしくは綾乃を重点に狙う筈だ。

 

または、両方か。

 

 

ふぅ、と息を一つ吐いて背中に備えた棍を取り出す。起動させた“精霊システム”に呼応して、棍に力が流れ込むのを肌で感じる。

 

“神花”はあるが、今は使わない。

奴等の数は絶えず一定であり、進化体の姿は見られない。

 

ならばタイミングは今しかない。

 

 

ポケットから取り出した小石を一つ、鋭く近場のバーテックスへと投げつける。殺すのが目的ではない、疑問に思わせ、此方へ誘導する為だ。

 

ふらふらと導かれる様に来たバーテックスが森に入った瞬間、女郎蜘蛛(じょろうぐも)を降ろした。

 

 

音もなく、バーテックスがその身を絡め取られる。大木の影に隠すように拐うと、その糸を一気に締め上げた。

 

「――――!」

 

「まずは一匹」

 

胴体を二つに別れたバーテックスは、消滅の光を出して消えた。それを確認して、バーテックスの群れへと視線を戻す。

 

次はアイツだ、ともう一度小石を手に取った。

 

〰️〰️

 

あれから大分バーテックスを暗殺した。

 

半分程とはいかないが、あれくらいの数ならば対処出来るのでは、という数まで減らすことが出来た。

 

バーテックス側も異変に気付いたらしく、先程から忙しなく広範囲に索敵を巡らせている。

 

そろそろ潮時らしい。

 

 

「行くぜ……っ!」

 

自らを鼓舞する様に静かに呟くと、棍を振り上げ飛び上がった。

 

手近に居たバーテックスの頭上を取る。影に気付いて上を向くがもう遅い。

 

勢いよく棍を頭目掛けて振り下ろす。鈍い音を立てて、バーテックスは地面にめり込んだ。

 

 

敵襲に気付いた周囲のバーテックスが、包囲するようにモミジを取り囲む。

それを見て冷静に、モミジは威嚇する様に棍を大きく振り回す。

 

「来いよ!」

 

モミジの威勢に応える様に、数匹のバーテックスがガチガチと歯を鳴らして接近した。

それを棍で吹き飛ばし、飛ばされたバーテックスが体勢を立て直した時には異変に気付いた。

 

身体にうっすらと何か、糸のような物が巻き付いている。

 

 

それを取ろうと身を捩るのと、モミジがニィと笑うのは同時の事だった。糸は強靭で、全く千切れる予兆が見えない。

 

 

「そぉぉぉらぁぁッ!!」

 

 

モミジが棍を振るう。それにつられて引きづられる様にバーテックスが宙を待った。

 

糸の巻き付いたバーテックスが他のバーテックスにぶつかる度に、二つ、三つ、四つ……バーテックスの塊が一つになっていく。

 

バーテックスの多くを巻き込み上に振り上げると、モミジも共に空へと舞う。団子状になったバーテックスの上空を取ると、モミジは更に精霊を降ろした。

 

 

金熊童子(きんくまどうじ)。これで決めるッ!!」

 

身体が熱した鉄の色に染める。諏訪での修行を経たそれは、更に熱量を増して身体の周囲を陽炎で歪めた。

 

拳を振り上げ、眼下の標的に狙いを定める。糸を縛り上げ、団子状のそれを更にぎちぎちと凝縮させると、くたばれ、と歯を食い縛る。

 

 

その一撃は、大気を大きく揺らすほどの轟音を立て、直撃したバーテックス達は地面にクレーターを生じさせて消滅した。

 

 

 

順調に育っている。

 

嗚呼、一時はどうなるかと思ったが、これは楽しみだ。

 

早く。

 

早く。

 

此方へ堕ちろ。(こっちへこい)

 

 

ふらり、とよろめいて地面へと墜落した。痛い。

 

長時間の“精霊システム”に加え、“精霊降ろし”に費やした体力の消費が激しい。

流石に無茶だったか、と地面に座り込んで息を吐けば、ふわり、と身体が軽くなった様な気がした。

 

「?」

 

思わず周囲を見るが、バーテックスの消滅の光とクレーター以外見られない。

 

気のせいか?と考えていると、スマホが震えた。画面を見れば、国土綾乃と表示されている。

 

 

「もしもし? 」

 

『もしもし?! 何か地鳴りしたけど何をしたの?!』

 

俺が何かしたの前提な事に揺らぎない信頼を感じた。全然嬉しくない。

 

まぁ、俺が原因な訳だけど。

 

「“精霊降ろし”を使ったら思いの外威力が上がっててな。でもバーテックスは掃討出来た」

 

『無茶すんなってあれほど言ったのに……』

『やっぱりモミジさんだったのね、救援は必要?』

『だ、大丈夫なの?』

 

電話の後ろで歌野さんや水都さんの声が聞こえる。大丈夫な旨を伝えると、安堵の声が帰って来た。

 

 

「今がチャンスだと思ったんだよ。明日には四国に入れるぞ」

 

『そう』

 

電話の向こうで呆れ顔をしているのが分かる。確かに無茶ではあったが、綾乃の“呪い”の事もある。四国には急いで入るのが一番だろう。

 

こっちの考えが分かったのか、綾乃がため息を吐いた。何だろうか。

 

『色々と文句言いたい事があるけど、取り敢えずお疲れ様』

 

「おう、疲れた」

 

明日は漸く、四国に帰れそうだ。

 

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