大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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四国へ 4

「アンタ……、もう人間辞めてるわね」

 

「洒落にならんからあまりそういうのは言わないで」

 

翌日、四国へと繋がる“道”を警戒しつつモミジ達一行は着実に進んでいた。

もはやバーテックスも脅威となる数も居ない。いつでも対処出来そうな数が、宛もなくふよふよと漂っているだけだった。

 

そんな中で昨日の戦闘が残る痕跡、モミジが作ったクレーター跡を見て、綾乃がどん引きしながら言った。

後ろで歌野と水都も、同意するような感想を言っている。

 

 

「わぁ、道がデコボコ……」

 

「足元気を付けて歩きなよ、梓」

 

「うん!」

 

足元を見て、一歩一歩確かめる様にふらふら歩く梓にモミジが注意を促す。四国に漸く入れる事への安堵か知らないが、梓は上機嫌で返事をした。

 

後はもう一本道。瀬戸大橋を渡りきってしまえば良いだけだ。周囲にバーテックスの気配も感じられない事に、モミジは少し気を緩める。

 

そんな雰囲気を感じ取ったのか、綾乃があー、と気ダルそうに言う。

 

「早くお風呂に入りたーい」

 

「おー、流石に今回はくたくただ」

 

前回四国に戻った時には衣服等の新調も行えなかった。歌野さん達の手配もあるし、ゆっくりと羽を伸ばす事としよう。

 

そういえば、と歌野さんが言う。

 

「私達はどうなる予定なの?」

 

「大社には伝えてあるから、取り敢えずの衣食住は事欠かないと思うよ。後は、顔合わせかな」

 

「顔合わせ?」

 

聞き返す歌野へ、モミジはニッと笑う。

 

「勿論、若葉やひなた。他にも四国で鍛練中の“勇者”達とな」

 

「わお。それは楽しみね!」

「うぅ……、いい人達だと良いなぁ」

 

「少し気難しい奴も居るが、基本は良い奴等だよ」

 

おどおどとした、小動物の様に警戒する水都へ、同じ様な気弱な彼女を思い出しながら言う。

 

暫く会えてなかったし、顔合わせを兼ねて皆で食事と行きたい所だ。

 

 

乃木若葉と上里ひなたは、揃って瀬戸大橋の出口、つまりは四国の入り口で立っていた。

大体一月。体感は数年ぶりだろうか。見送ったモミジと綾乃、そして新たな仲間の歌野と水都達を迎えるべく、ここで待ち構えていた。

 

「そろそろか……」

 

「えぇ、神託に間違いがなければ」

 

腕時計をちらりと確認すれば、神託によって予言された時刻も僅か、という所だ。

早く会いたい、という感情もあるが、同時に不安にも駆られる。早く来ないものか。

 

 

「乃木様。移動車、及び補給品の準備が終わっております」

 

「ありがとう」

 

背後を見れば、マイクロバス数台に、簡単な軽食や飲み水、医療品が揃っていた。

諏訪との連絡が断たれて日も長い。準備しすぎ、とはならないだろう。

 

若葉が礼を言うために後ろを振り返ったのと、ひなたが息を飲んだのは同時の事だった。その異変に気付いて若葉が視線を戻せば、ふわり、と風が頬を撫でる。

 

何もない空間に溶けるように入ってきたのは、家族のように大事な幼馴染の少女。それに続くように、一人、また一人とぞろぞろ連れだって現れる。

入ってきたそれぞれが感嘆の言葉を上げるなか、先頭の少女、国土綾乃は此方に気付いて近付いて来た。

 

諏訪から四国まで徒歩で移動という苦行を成した、そのどろどろに汚れた服や疲弊が見られる表情に笑顔が浮かぶ。

 

「綾乃っ」

「綾乃ちゃん」

 

「うぐ」

 

感極まって抱き付けば、少しキツそうな声を上げるがそのままされるがままになっていた。

 

存在を確かめる様に抱き締めれば、綾乃の背後からわぉ、と声が上がる。

 

「四国はかなり情熱的な出迎えをするのね……。私達もハグしましょうか、みーちゃんっ!」

 

「わっ、ちょ、う、うたのん……」

 

バーテックスという恐怖から逃れ張っていた緊張の糸が弛んだ水都は、抱き着く歌野に特に抵抗出来ないままでいた。仕方なしにもぅ、と呟くその表情は安堵を浮かべている。

 

 

うたのん、みーちゃんという言葉に、若葉とひなたの脳裏に二人の名前が上がる。

間違えては失礼と考え、恐る恐る訊ねた。

 

「す、すまない。白鳥歌野さん、藤森水都さんで間違いないか?」

 

若葉の質問に、歌野はええ、と笑みを浮かべ手を差し出した。

 

「諏訪の勇者、白鳥歌野。そういう貴女は乃木若葉さんで間違いないかしら?」

 

「……あぁ。乃木、若葉だ!」

 

差し出された手を、強く握る。

通信機越しでしかやり取りがなかった二人だが、ようやく対面が叶った瞬間だった。

 

 

「ふ、藤森、水都、ですっ!」

 

「はい。上里ひなたです、ようやくお会い出来ましたね」

 

「……はいっ!」

 

ひなたと水都の二人も、喜びを分かち合う様に手を握る。

 

 

「あれ、かなり派手な出迎えだなぁ」

 

驚き混じりの間延びした声に振り向けば、綾乃、歌野、水都達と同様に待ち望んでいた一人の少年の姿を捉える。

 

その姿を見て、若葉の目尻に涙が浮かんだ。

 

 

――私の我が儘を叶えてくれてありがとう

 

――危険だと分かりきっている事に巻き込んですまない

 

様々な想いが胸中に浮かぶが、それよりも先に、少年に向かって歩き出しながら片手を上げる。

それを見て意図を察したのか、少年もニッと笑いながら片手を上げた。

 

 

「ただいま、若葉」

「おかえり、モミジ」

 

 

パン、とハイタッチの音が鳴り響いた。

 

 

 

それからの流れは劇的だった。

 

 

諏訪から移動してきた諏訪の住民の受け入れ、衣食住の準備諸々。

 

諏訪の勇者、白鳥歌野。諏訪の巫女、藤森水都。そして巫女の才能のある望月梓の大社での受け入れ。

 

俺や綾乃は諏訪までの“道”の確認や、都市部の状況の報告。

何でも、神樹の様な土地神の集合体だけでなく、今回の諏訪神(タケミナカタ)の様な単神で強力な逸話、または信仰を持つ神様はまだ残っているのでは、という事だった。

 

実際、アイヌ神話のカムイの居る北海道、琉球神道の沖縄等、生存者の反応がある地域があるらしい。

 

ならば“道”の接続に伴い、救援に向かうべきか、と問えば答えはノーだった。

国津神、土地神達の集合体である神樹とはその系統が違う為、下手に接続すればどうなるか分からないということらしい。

 

此方に避難で向かっているという情報が掴めれば救援に行く、という形で話は終わった。

 

 

そして。

 

 

「あぁ~……、極楽」

 

身体の芯まで染み渡る温度に、疲れが癒されていくのを感じていた。

完全に脱力して湯船に足を伸ばせば、じんわりと迫る眠気に眼を閉じる。

 

大社が気を効かせてくれたのか、大社直営の温泉旅館で疲れを癒す事となった。

今まで事後処理で捕まって休めなかった為、一人気儘に湯船に浸かる。

 

天井に吊るされているテレビに目を向ければ、若葉が今回の事で取材を受けていた。四国に来た当初は緊張でガチガチだったが、最近は慣れてきたのか、すらすらと答えている。

 

 

ただ、問題はここで起きた。

 

 

スピーチを頼まれたのか、小さなカンペを盗み見しながら演説をする若葉。

歌野さんや水都さん、諏訪の皆を四国で歓迎し、勇者である自身もこれまで以上に邁進する。

 

 

ここまでは良かった。

 

演説慣れしてるなぁ、凄いなぁ。と持ってきて貰ったコーヒー牛乳を行儀悪く湯船に浸かりながら飲んでいると、若葉の表情が変わった。

 

何だこれは、と言いたげな顔。

 

 

『何だこれは』

 

事実だった。

 

突如の変化に、傍らの大社の神官が慌てて駆け寄る。先程までの変化に、報道陣もざわつき始めた。

 

 

『の、乃木様?』

 

『何故今回の功労者が私の名になっている。ここには歌野達やモミジの名を入れるべきだろう』

 

『ひっ』

 

『貴様、これはどういうこ――』

 

横からカメラのレンズへと手が伸ばされ、ブツリという音の後に音声と映像が切られる。

数秒の後にスタジオへと映像が切り替わるが、皆言葉を無くしていた。

 

「……何やってんだ、若葉」

 

怒る理由も分からない訳ではないが、きっとこの後ひなたからのお話(制裁)が待っている事だろう。

 

コトリ、と空になった瓶をタイルへと置いて、ふぅと息を吐いた。

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