大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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今回二本立てです


丸亀城の変 1

四国に戻って、数日後。

 

 

「大神様。此度の諏訪への遠征、本当にお疲れ様でした」

「んぐんぐ」

 

「国土様も。神樹様の結界の強化に繋がる大仕事、ありがとうございます」

「むぐもぐ」

 

 

「二人とも、一度食事の手を止めて……」

 

 

大社貸し切りの旅館。一般の利用者は誰も居ないだろうという中で開かれた食事会で、スーツに身を包んだ男、及川から挨拶の嵐に会っていた。

 

ほこほこと美味しそうに湯気と香りを広げる鍋料理や吸い物。艶々とした今が旬で食べ頃な刺身の数々……。炊きたてのご飯を片手に休むことなく綾乃と食べ続けていると、お茶のおかわりを注いでくれたひなたが呆れ顔で言う。

 

 

「むぐ……。んぐ。あー、うん。お疲れ様でした」

 

「雑ですね……」

 

茶碗が空になったタイミングで、自然に手を差し出してくるひなたに礼を言って渡せば及川が慌てて言う。

 

「いえいえ! お食事中に押し掛けたのは此方ですから。暫くはこの旅館でごゆるりとお過ごし下さい! では!」

 

「あっ……。行ってしまいました」

 

そそくさと。()()()()()()()()()()立ち去ったその背中をひなたが呆然と目で追う。

本人が言う通り、中々休めなかった俺を思っての事もあるだろうが、大体の原因はアイツのせいだろう。

 

「ずるずるずるずるずるずるずるずる……」

 

「若葉、うどんに罪はないだろ」

 

「むっ……、すまん」

 

しかめっ面でひたすらうどんを啜り上げていた若葉が、確かにそうだと一度麺を噛みきる。

 

あのスピーチの一件の後、荒れに荒れているらしい。

関係ないご飯のおかわりを持って来てくれる仲居さんが、びくびくと怯えながら配膳しているしまつだ。

 

 

「もぅ。むすっと若葉ちゃんはダメですよ? うどんを食べるときは何時ものぽやぽや若葉ちゃんでないと」

 

「うむ、すまな――待て、私はうどんを食べるときにぽやぽやしているのか?」

 

「ぽやぽやかは分からんが、幸せそうな顔で啜ってるぞ」

 

「マジか」

 

んんっ。と仕切り直す様に一つ咳をすると、若葉は口を開いた。

 

 

「だが、今回の功労者。所謂主役は私でなくモミジ、綾乃、そして歌野や水都達だ。私達“勇者”を御輿に上げたいのは分かるが、あれはやりすぎだろう」

 

「何々、何の話?」

 

若葉の言葉を聞いてか、まだ髪が少し濡れた歌野が若葉へと近付く。

 

「あれ、さっきの人。及川さんだっけ、 もう帰っちゃったの?」

 

「おう、若葉が追い返した」

 

「ちょっと待てモミジ、その言い方は誤解を招く」

 

「そっかー、畑を貰ったお礼を言いたかったのに」

 

「歌野も納得しないでくれ?!」

 

四国に着いて早々、畑に使って良い土地をくれと大社に迫ったらしく、そこで土いじりを終えて温泉に浸かって来たらしい。

それに付き合わされた水都が、ドライヤーを持って後から追ってきた。大変だなぁ。

 

「あのスピーチの時の事だよ」

 

「あぁ、若葉がアングリーだった時の事ね」

 

「むぅ、あまりそう笑わないでくれ。私からすれば真剣なんだ」

 

ケラケラと楽しげに笑う歌野に、ジト目で不満を訴える若葉。そんな若葉にあら、と歌野は言う。

 

「私は全員無事に四国に来れただけで満足よ。今は凄くハッピーな気分だわ」

 

「だな。俺も無事にお役目を果たせたし、ハッピーだ」

 

どうぞ、と昔話盛りを彷彿とさせる盛られ方をしたご飯をひなたから受け取ると、早速刺し身を数切れご飯に乗せ、醤油を一回し掛けて食べた。幸せ。

 

 

「わ、私も、無事に到着しただけで十分で……。寧ろこれからが不安というか」

 

「アタシみたいなのが巫女こなせてるから心配しないで良いんじゃない? あ、肉料理無くなった」

 

「なにぃ?!」

 

「おかわりを頼みますね」

 

モミジと同様にご飯をかきこむ綾乃が、空になった大皿を寂しげに見ながら言う。それを聞いたひなたが部屋の内線を手に取るとオーダーを取ってくれた、ありがたい。

 

全員から不満が無いことを聞いた若葉が、怒っているのが馬鹿らしくなったのかため息を吐いた。

テーブルに広がるオカズをどれにするかと目移りさせながら、ぼやく様に言う。

 

「だとしても、もう少しやり方はないものか」

 

「“勇者”っていう、今や人類の切り札だからな。前みたいに民衆からデモ紛いの事をされない為にも、ある程度の名声ってのが要るのさ」

 

「それが、あれだと?」

 

「おう。“諏訪を救い、多くの救助者を四国へと導いた勇者様!”新聞の一面は確定だな」

 

演技掛かった態とらしい物言いをしたが、若葉ははぁ、と沈むだけだった。

別に呆れている訳ではない。前までの四国は、治安としてはかなり悪い方だった。

 

 

「わお。四国ってそんな世紀末的な状態だったのね。皆で畑を耕せば良いのに」

 

「それはうたのんだけだから……。でも、昔に何があったんですか?」

 

「そうだな。料理のお代わりが来るまで時間もあるし、ゆっくりと話すとしようか」

 

 

〰️〰️

 

 

世界を絶望へと陥れた“天災”。それからの逃げ場として国中から逃れた人が向かったのが此処、四国だった。

その際に民衆を四国へと導いた存在が今の“勇者”達。その力を知っている人達は良かった。

 

()()()()()()()()()()()()

 

人口の増加。バーテックスの襲撃による建築物や文化の破壊により、他とは比べれば軽微だが四国もある程度の被害を受けていた。

 

それに合わせて犯罪も発生。強盗や傷害等、痛ましい事件も相次いだ。

 

住む場所を追われ命からがら四国へと逃げてきた人達に待っていたのは、歓迎の手ではない。

 

住居を作るために、自分の持つ土地を強制的に手放さなければならなくなった人や、食い扶持が増えるのを恐れて拒絶気味に接する心無い対応だった。

 

 

神樹、もとい大社はこれに危惧を抱き、直ぐ様行動を開始。“神樹様からの恵み”という名目で食料を無償で配布し、また自分たちの管理する施設などを開放して避難者達の住居とした。

 

それでも僅かながらの争い事は無くならず、元々ある暴力団紛いの組織達は、大社が組織した自警団達の手で鎮圧された。

 

因みにその際に“防人”としての力や“精霊システム”の動作確認の為モミジも勝手に参加したのだが、若葉達にバレると洒落では済まない事になるため割愛する。

 

 

そして月日は流れ、人々の生活や心に少しずつ余裕が出来るととある問題が起きた。

 

 

“勇者”を蔑ろにする動きが起きたのだ。

 

 

 

丸亀城の変。

 

後の土居球子という少女がそう名付けるその事件は、とあるネットの書き込みから始まった。

 

 

――あの白い化け物ってさ、“勇者”様とやらが持つ武器ならぶっ殺せるんじゃねーの?

 

――だろうな。俺、あの女の子が簡単に倒したの見たぞ

 

――あれ、俺たちでも使える物なのかな

 

――なら盗ってみよーぜw

 

 

その当時の俺達は、まだ大社が今とは違い完全に稼働出来ていなかった事、バーテックスがどんな条件下で攻めてくるのか詳細に把握出来てなかった事もあり、油断していた。

 

年端も行かぬ少女が、化け物と渡り合えるというだけで公然と武器を所持しているのを不審に思ってなかったのだ。

 

 

そして、事件は起こった。

 

「ねぇねぇ、君さ。あの化け物ぶっ殺してた子だよね。“勇者”様ってやつ?」

 

「……だとしたら?」

 

「その武器さぁ、ちょっと見せてくんない?」

 

「断る」

 

傍らに居たひなたは、突然として絡んできた青年達に危機感を抱いた。

明確な悪意を感じる。言葉に出さなくとも若葉に通じたのか、毅然とした態度で若葉は返答した。

 

 

「は? 何で? 訳分かんないんだけど」

 

「ちょっと貸してって言ってるだけじゃん。早く出せよ」

 

「断るッ!」

 

 

苛立つ様に言葉を掛けてくる青年達に、尚も変わらない返答をする若葉。神具である“生大刀”に自然に手を置き、“寄らば切る”と暗に警告する。

 

この時の若葉はまだ“天災”でクラスメートを失ったばかり、精神はまだ完全に安定してるとは言い切れない状態だった。

 

切れば如何に“勇者”と崇められている若葉でも非難は避けられない。それを恐れたひなたが抑えようと動いた時、それは起きた。

 

 

「いや、逃がさねーから」

 

「ぅ、い、たぃ」

 

逃げると勘違いした青年の一人が、ひなたの長い黒髪を手荒に掴む。ぶちぶちと何本か抜けた感覚と痛みに思わず声を洩らした瞬間。

 

自身の背後で、めきょりと何かが砕ける音を聞いた。

 

 

「私の親友に何をする」

 

「ひっ、ひぃぃい?!」

 

抑揚のない声。解放されたひなたが見た者は、鞘に納めた状態の“生大刀”を振り抜いた若葉の姿だった。

 

年下の少女の突然の変貌と、仲間が頭部から血を流し倒れているのを見て、青年達の顔から血が引いていく。

明らかに相手が戦意を喪失した状態なのを見て、ひなたは今がチャンスと若葉の手を強引に取って走り出した。

 

「ひなた?!」

 

「良いから、丸亀城まで走って!」

 

大変な事になるかもしれない。

 

ひなたは若葉と走りながら、胸の不安を感じていた。

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