大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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変革の予兆 2

 

大社指定食堂、“戌崎”での食事会が始まって数時間経った。

若葉達4人も遅れながら参加し、歌野と水都の紹介も問題なく終了。

 

後は各々が交流をする自由時間となっていたのだが……。

 

「んー?どーしたひなたぁ。食べないのか?」

 

箸でうどんの麺を摘まんだまま、ぼーっと虚空を眺めているひなたを球子がヒラヒラと目の前で手を振りながら声を掛けた。

 

その声にはっと我に返ると、大丈夫ですよと言って麺を啜る。

 

何時もと違うひなたの態度に不審がる他に誤魔化す様に言ったのは若葉だった。

 

「諏訪の受け入れを整えるのに忙しかったからな。節目を迎えて、緊張が解けたのだろう」

 

「えっ。そ、そんな私達のせいで……ごめんなさい」

 

「い、いや。別に水都達が悪いという訳ではなくてな?!」

 

思ったより傷付いた水都に若葉が慌ててフォローを入れる。

そんな意味合いを込めて返答をしたのは歌野だった。

 

「なら、今度は私達が頑張る番ね。元諏訪の勇者の力、見せてあげるわ!」

 

「おぉ、頼もしい!」

 

ガッツポーズをしながら宣言する歌野に、友奈がパチパチと拍手をしながら盛り上げる。その隣では千景がそんな友奈を微笑んで見つめていた。

 

 

だったら、と友奈は意気揚々と立ち上がり、

 

「私は元々奈良の人。ならば私は奈良の勇者だね!」

 

「……となると私は高知の勇者?」

 

歌野に張り合うように宣言する友奈と、首を傾げながら言う千景。

それに同調するように声を上げたのは球子だった。

 

「おうおうてやんでぃ! ならタマと杏は愛媛の勇者ってぇわけだなぁ!」

 

「なんで江戸っ子口調……」

 

苦笑いしながらツッコミを入れる杏。それにしても、と続けた。

 

「出身地はバラバラですけど、皆無事でここに集まれたのは本当に良かったですね」

 

杏の言葉に、それぞれが思い返す様に記憶を辿る。

 

その中でそういえば、と口を開いたのは友奈だった。

 

「私が奈良で勇者の力に目覚めて、初めて同じ力を持った人に会ったのはモミジ君なんだよね」

 

「へぇ、そうだったのか」

 

お摘みの枝豆を口に放りながら球子が言う。そうそう、と続けて友奈が言った。

 

「奈良から四国に行くってなって、バーテックスがわーって来てピンチだったんだけどモミジ君がどかーんって追っ払ってくれて」

 

「どうしよう。モミジが四国のヤベー奴にしか聞こえないんだが」

 

「その解釈はやめてくれぃ」

 

若干引き気味の目で此方を見てくる球子。やめろ、これは冤罪だ。

 

友奈の話を聞いて笑って答えたのは店主のおっちゃんだった。

 

「おう。俺の嫁さんと子供もその中に居たんだけどよ、高嶋のお嬢ちゃんと一緒に四国まで連れてきてくれたって感謝してたんだ。勿論、俺も感謝してるけどな」

 

 

お代わりのドリンクをジョッキで目の前に置きながらそう言われる。

あの時は神樹からの要請の神託もあったが、若葉達も動けなかった為俺が動くしかなかったのだ。

 

護衛したといえば聞こえは良いが元々友奈達一行は四国の間近まで来ていた為、そこから四国までのバーテックスだけを追っ払ったにすぎない。過剰な評価である。

 

そして梓の尊敬の眼差しが辛い。恥ずかしいから止めて。

 

 

「店来る度に言ってんだろ、おっちゃん。もう聞き飽きました」

 

「ならこれから先何度でも聞くんだな」

 

がっはっは、と笑う中年親父にモミジははぁ、とため息を吐いた。

別に感謝される事を嫌っている訳ではないが、耳にタコが出来るほど聞かされれば嫌気が差す。

 

「大体、他の人達にだって感謝されてんだろ。黙って褒められてろ」

 

「そうなの?」

 

はいはい、と軽く流そうとした話題を梓が聞き返す。そうだとも、と胸を張って出てきたのは防人のモミジを含め、他の勇者達の武勇伝。

 

暴力的な話も含むためあまり話してほしくはないのだが、おっちゃんの顔を見る限り話したくて仕方がないといった所だろう。

 

もうどうにでもなれといった感じで、モミジはジョッキを煽った。

 

 

 

 

賑やかな喧騒の中、ひなたは話題の渦中に居るモミジを見つめていた。

 

思い返すのは、先程大社で言われた内容。

 

 

〰️〰️

 

「反大社組織の掃討、ひいてはその粛清部隊に、大神紅葉様を据えると申しました」

 

 

「……何故ですか?」

 

少しの沈黙を破って出たのは、若葉からの疑問の言葉だった。

 

「武力としての側面、とでも言っておきましょうか」

 

 

粛清という言葉に武力と続けば、血生臭い事であるのは誰だって理解できる。

この神官は、モミジに恐怖の象徴になれとでも言うのだろうか。

 

無茶苦茶だ、若葉がそう思うと同時に、言葉を無くしていたひなたが声を荒げる。

 

「武力……? 人同士の争いを、神樹様は黙認される筈がないでしょう?!」

 

「そうでしょうか」

 

感情の起伏の無い口調。事務的な、こちらの事を相手にしていない様な物言いに若葉は舌打ちが出かけるがぐっと堪える。

今ここで手を出せば負けだ。冷静になれ、頭を回せと自身に言い聞かせた。

 

だが、それもそこまでだった。

 

 

「これまでの人類の歴史の中で、どれ程の数人々は争いを起こしましたか? そして。どれ程の数、神々はそれに誅を、救済を下したでしょうか?」

 

そんな事は、誰だって分かる。

 

 

「……それは、」

 

「関係ない、とは言い切れませんよ」

 

逃げ道を塞ぐ様に言う神官に、ひなたは返す言葉を見つけられなかった。

 

だが、そこに待ったを掛けたのは若葉だ。

 

 

「確かに歴史上ではそうかもしれないですね。だが、今回の事はそれとは話が別な上に、私にはどうでも良いことだ」

 

「若葉ちゃん?!」

 

「下がっていろひなた。私はあの日誓った。尊い命を救い、バーテックスを殲滅させると」

 

若葉から僅かに殺気が上る。ひなたが止めようとするが、若葉はそれを片手で制した。

 

歩みを進め神官の前に立つと、感情の無い目で此方を見る神官から目を逸らさずはっきりと告げる。

 

「私の家族にそんな事をさせてたまるか。力づくでも止めさせて貰う」

 

「……そうですか」

 

「…………」

 

糠に釘。暖簾に腕押し。覇気の無い返答と反応に、若葉の気力も空回りする。

周囲に気配がないか探るも特に誰か居るような雰囲気でもない。

 

この神官は、一体どうしようというのか。

 

「ただの事務報告ですよ」

 

「なに?」

 

若葉の意図が分かったのか、神官が淡々と続ける。

 

「乃木若葉様が此処で私を無力化させようと、この粛清部隊の計画は既に進んでおります。今日ここにお呼びしたのは大社のこれからの動きを勇者、そして巫女の筆頭の立場にある両者にお伝えするだけなのですから」

 

ですから、と続ける。

 

「後日大神紅葉様には私から、もしくは別の者がお伝えするでしょう」

 

それでは、と神官は出口へと歩みを進める。

止められない、止めることが出来ないと二人は悟る。

 

ここで無理矢理にでも止めてしまえば、若葉やひなたは何らかの罰としてモミジから隔離されてしまう可能性がある。

 

ならば、先回りしてこの後会うモミジに伝えるのが得策だろう。

 

 

――と二人が考えた所で、あぁ、と神官が振り返り言った。

 

「大神様はこの話をお受けするでしょう。他の勇者様方にはこんなことさせませんでしょうし」

 

何より、と続け

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

――必ず、守るから

 

 

あの日言われた言葉が、ひなたの中で繰り返される。そうだ、他の勇者にその役目が回るとなれば、彼はきっとするだろう。

 

どれだけの地獄が待ち受けているとしても、彼は必ず引き受ける。

 

 

それでは、とその場を後にする神官を、二人は何も言えず見送るしかなかった。

 

〰️〰️

 

「――おい、ひなた?」

 

「っ」

 

気が付けば、自分達が寝泊まりする寮の入り口だった。

目の前には、スヤスヤと眠る梓を背負ったモミジが心配そうに顔を覗き込んでいる。

 

「大分疲れてんなぁ。風呂にゆっくり浸かって、早めに寝ろよ?」

 

「ぁ……、そう、ですね」

 

「俺は梓を部屋に送って帰るから。んじゃお休み」

 

「……も、モミジさん!」

 

笑って歩いて行くモミジ。ひなたにはそれが何か嫌な胸騒ぎがして、思わず声を掛けた。

 

 

――あぁ。こんな事、聞くべきではないだろうに。

 

 

少し驚いた顔をした彼は、それでも直ぐに笑顔で返事をする。

 

「どした?」

 

「……変な事を聞きます。嫌なら返事をしないで良いので、そのまま帰ってください」

 

「えぇ……」

 

明らかに困惑した様な苦笑いをするモミジに内心申し訳なく思うが、それでもと息を整えると一息で言った。

 

 

――勘の良い彼なら、直ぐにでも気付くだろうに

 

 

「もし、モミジさんの近しい人が酷い目に会いそうになったとして、モミジさんが代わりにそれを受けられるとしたらどうしますか?」

 

「……ん、難しいな。要するに、俺がその子の身代わりになれるって事?」

 

「そう、なります」

 

「うん、身代わりになるよ」

 

即答だった。

 

彼ならそうする、と分かってはいたが、ひなたはそれでも聞かずにはいられなかった。

 

何も言わなくなったひなたに質問は終わったと感じたのか、じゃあな、とモミジは背を向けて歩きだす。

 

寮のカギを開けて、玄関で靴を脱いで――そのまま、崩れ落ちる様に脱力した。

 

止めどなく涙が溢れる。嗚咽を洩らさぬよう口に手を当て、必死に堪えた。

震える手で取り出したスマホの明かりが、月明かりが射す薄暗い部屋の中でひなたの顔を小さく照らす。

 

 

――私は、何て非力な存在なんだろう

 

 

幼き日の若葉、ひなた、モミジ、綾乃が笑顔で写っている画面をひなたはただ眺めていた。

 

 

 

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