主人公の詳しい過去等の描写がありますが、疲れた頭で書いてるので一部分かりづらいかも。
何度か推敲はしてますがミスあったら申し訳ない。
大神家。
人の身でありながら神に成り上がる事を目指しそして実践したその家系には、しかして一族において大きな誤算が起きていた。
「何て事だ。いよいよ神降ろしの段階になるというのに……」
その男の顔は、大きな壁にぶち当たったかの様な、苦虫を噛み潰した様な、そんな苦々しい顔をしていた。
大神家の家長であり、そしてその
原因は一枚の用紙。そこには妻である女の胎内を撮影したエコー写真が貼り付けられていた。
診察結果は経過は順調、予定日を目指し安静に過ごすよう努める事という喜ばしい旨を書いた内容が綴られている。ただ、問題はその胎内の存在だった。
双子だったのだ。
古来より双子は不吉の象徴とされ、家柄や宗教、人種によっては生まれた際に双子の片割れを処分するという掟さえあった。
その原因は理由は主に一つの生命を二つに別ち誕生した存在である、所謂ドッペルゲンガーの様な存在である為、そして本来一つの命運を二つに別つ歪な存在である為、等といった身勝手な理由がほとんどだった。
かつて大神家にも双子が誕生したことが一度あり、その際に家系継続の為の降霊を施した事があったのだが、どういう訳か短命であったのだ。
「
遥か昔から繰り返してきた降霊と代替わりだったが、初代大神にはある焦りがある。
魂の完全な定着が近頃危ぶまれて来たのだった。
直接的な血の繋がりがなければ行えないヒトガタだったが、時代の流れか、はたまた代を重ねる毎に血が薄くなっていくのか。呪いの行使処かその使用さえ上手く行かない事があった。
おそらく
――という所で出た問題が、この双子という存在だった。
「処分だなんて。そんなの勝手すぎます。私だけでも、この子達を責任を持って育てますから」
妻である女は毅然とした態度でそう言う。優秀な巫女の家系でもあり、日本で指折りの神職の跡取り娘であった彼女を狙い妻と迎えた時には大変喜んだが、彼女が見せるその堂々たる振る舞いは時に初代大神を悩ませる種でもあった。
「処分といっても、家としての関わりを絶ち何処か遠方へと送るだけだ。別に命を取ろうという訳ではない」
とその場しのぎの嘘偽りで宥めたとしても、
「ならば名を変え、私の実家でも良いでしょう。折角縁あって紡がれた生命です、親の都合で子を捨てる等とは出来る筈もありません。第一、国――」
等と、自分が納得のいく方法でなければ決して頷かない女であった。
今は男である初代大神も、かつては女として過ごした事は何度かあり、後継の為の子を孕み産んだこともある。子に愛着が湧くのも理解が出来る事ではあるのだが、それとこれとは話が別だった。
「(兎に角、時期を見て処分する)」
野望、欲望、願望。あらゆる物が渦巻く人間の胸中で、そんな考えが行われていた。
〰️〰️
子供が産まれた。
耳障りだと思える泣き声が病院の産婦人科で鳴り響いている。出産を終え、そんな子供の様子を妻は微笑ましく見守っていた。
名は無い。世を過ごすための名は用意するが、それはヒトガタの儀が完了してからだ。寄り坐しに名などは必要ない。
幸いな事といえば、妻の方も名を準備していないという事だった。女の実家では祭神に申し立て、その神が選んだ名を身に刻むという。
子が名を理解するまでに猶予があると知って、男は内心ほっと胸を撫で下ろした。
生まれた双子は二卵性の男女。無垢な少女であり、何より降ろす神の神話でのイメージや性別をなぞると女児の方で即決した。
妻の退院に合わせ、女児を秘密裏に回収、大神家所縁の者に預からせると男はもう一つの懸念材料へと手を伸ばす。
――男児の方を始末する為だ。
◆
樹海に伸びている樹木が、広範囲に渡って変色していた。
突如起きた地を揺らす程の爆音と暴風。そしてけたたましいアラームを鳴らすスマホを鑑みて、戦場の状況を見ていた杏は指示を飛ばす。
「友奈さんとタマっち先輩は若葉さん達の保護をお願いします!」
バーテックスは粗方倒した。“切り札”を使うための余力ある体力を更に温存させて、これからの戦略を練る。
スマホに大きな赤い点で表示された、“最重要危険的存在”。先程の爆発を考えれば、若葉やモミジ達が居る方からの筈だろう。
幸いな事にスマホにはまだ全員の表示がある。ということは誰も死んではいない……筈だ。
だが動かないということは気絶、もしくは拘束されている可能性がある。ならば機動力と突破力のある二人を向かわせる方が良い。と杏は瞬時に思考を走らせていた。
「伊予島さん、私は何をすれば良いの?」
千景が状況の変化に戸惑いながらも指示を仰ぐ。
そういえば、千景さんはモミジさんと関わってから最初の頃の暗い雰囲気がなくなったなぁと思いながら、頭を回す。
「では、巫女組の護衛を。千景さんなら、もしもの時の“切り札”が今の状況には最適ですから」
「そうね。分かったわ」
「でも、本当の緊急時にしか使わない様にしてください! モミジさんの“精霊降ろし”の様な穢れの存在が確認されてますから!」
「勿論よ」
短く返事を返して、巫女組を避難させてある場所へと跳躍する。逃げ場の無い袋小路ではあったが、それこそ死に物狂いでバーテックスを殲滅させた。
千景がスタリと着地すると、怯える表情をした梓をひなたと水都が慰めていた所だった。
目線の合ったひなたにアイコンタクトで安全を伝えれば安堵の息を吐く。
「先程の爆発と、強力な力は?」
「おそらく敵の親玉じゃないかしら。私は貴女達の護衛に来たわ」
いや、正確には。とモミジ達が居る方を無言のまま思案顔を浮かべている綾乃を向いて、
「貴女を、なんだけどね。綾乃さん」
「……アタシ?」
普段あまり見ないきょとんとした驚き顔の綾乃を見て、珍しい物を見たと千景は内心思っていた。
◆
「……ここは……?」
「やっほー、
以前シンシに誘拐される形で取り込まれた白い世界。何処か荒廃した様子に思い出しながら記憶を捻る。
崩れていく。塗ったペンキがボロボロと崩れていく様に世界が崩壊している。
此方を見る少女の遥か後ろに見える、真っ黒な鏡の様な楕円形の物。その中に、
人間の形をしたナニカが、磔にされて居るように見え――
「ここに来るのは初めてじゃないよね。……あぁ、大丈夫だよ。ここは写し世、現世とは真逆の世界だから現実の時間からは切り離されてる」
「……つまり、ここに一年居ても向こうでは一瞬だと?」
「簡単に言えばそーだね」
ぶっきらぼうに、何処か機嫌が悪そうに少女は言う。好意は微塵も感じられない視線を送りながら、確認する様に問う。
「あなたは今まで、一人っ子として生きてきたの?」
「……そうだな。少なくとも君の様な妹が居るとは聞いてない」
「…………そのようだね」
少しの時間を置いて少女が言う。俺の言葉を肯定したという事は、俺の記憶か思考を読まれているのだろうか。
「両方だよ」
両方らしい。なんだろう。“神”の力を持つものにろくな奴が居ねぇ。特に諏訪の神様とか。
さて、と少女が言う。此方を見る少女の目と合った瞬間、頭の中に何かのイメージが濁流の様に流れ込む。
若い男女。
女の腕には男児が抱かれ、男は女児を抱いている。
見覚えのある家。大神家。
男児を庇う様に立つ女と、それに同調し立つ数名。
消える。
消える。
消える。
最後に残る女が、男児に向けて笑顔で――
◆
「●●●、大丈夫か?!」
大きな神社、その本堂らしき場所で敷かれた布団に一人の女が伏している。
その傍らには、何も事情を知らない一人の赤子がすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
そんな赤子を、女はやつれた顔で満足そうに見つめている。
「兄さん、あの子は……?」
「ダメだ。●●の野郎、しらばっくれるばかりで会わせようとしない……」
「そう……、残念ね。双子なのだから、一緒に育って欲しかったものなのだけれど」
「それより、お前の身体の方が――」
流れ込むイメージが、動画を早回しするかのように加速する。
日々頬がこけ、健康的だった顔には疲れや焦燥感が見えてくる様になった。
月日が流れる。
月日が流れる。
「――まだ、この子に名前が降りないの?」
「あぁ。申し立てをしてるんだが、一向に返事がない」
「そう……。同じくらいに産まれた子は名前が降りたのにね。綾乃ちゃんだったかしら」
「瞳姉さんの子だな。この子と比べてじゃじゃ馬で困るが」
「あら、この子にもそのくらい元気で居てほしいわぁ」
「それもだがお前も元気になってくれよ。そんなだとこの子が大きくなった時に困るぞ」
再び早回しが始まる。
男児を引き取りに来ていた男はぱったりと来なくなった。
そして、男児を見守っていた女はますます体調を崩していく。
「――和人様、●●●様の容態が?!」
「結界を張れ! 奴の思うままにさせるな!」
周囲がバタバタと慌ただしい。何も分からず、何も知らない男児はキョロキョロと辺りを見渡して宛もなく這い回ろうとしたが、その前に女に抱き寄せられた。
「こーら、危ないわよ」
頭を優しく撫でる。壊れ物を扱うかの様に、優しく。
何処か安心するそれに目を細めていると和人が言う。
「お前も危ないんだ。頼むから安静にしていてくれよ」
「分かってるわよー」
――その日を境に、女は起き上がる事さえ出来なくなった。
バタバタと人が走り回る音が聞こえる。
怖い怒鳴り声もたくさん聞こえる。
「怖いよねぇ。何をそんなに慌ててるんだか……」
耳をそっと手で覆われる。力ない手越しに見える女の顔は、それでも優しい微笑みだった。
「――――――――――」
何かを言われる。
「――――――――――」
楽しそうに目を細め、クスクスと笑っている。
「――――――――――」
ぐったりとした手が、男児の身体に寄り添われた。だんだんと閉じられていく女の瞳が、男児を見つめている。
「――ごめんね」
その言葉が、
〰️〰️
「待てッ!!」
此方に背を向ける人影に、和人は怒鳴り声に似た制止の言葉を掛ける。
その者の腕には、和人から見て甥に当たる男児が抱かれていた。
声を掛けられた者は動かない。豪雨とも取れる雨が降っているからか、厚手の雨具を着込んでおり傍目からは正体が見分けにくかった。
「その子は私の身内の忘れ形見だ。返してもらおうか」
強行手段に出て、赤子に万が一があってはいけない。ジリジリと間合いを詰める算段を立てていると、目の前からクスクスと笑い声が聞こえる。
――和人の時間が、一瞬止まった。
「あら、この子は私の子よ? 母親が子供をどう扱おうと勝手じゃない」
そう言って笑うその顔は、まさしく●●●の顔。物真似や似せ化粧ではない、本物である事は直ぐに看破出来た。
ならどうして、と考えると同時に最悪のシナリオが頭に流れる。そんな事があって良いのか、と。
●●●は、いや、
「貴様、●●●にヒトガタの儀を行ったのか?!」
驚愕と悲哀に満ちた和人の叫びが響く。それを受けて
「あぁ、そうさ。子を成し縁を持ったからなぁ。多少強引にだが降ろさせて貰った。かなり快適だな、この身体は」
「この……ッ!!」
嘲笑う様に此方を見る女に、和人が拳を震わせて歩き寄る。だが、
「殴れるのか? というより、状況は理解出来ているか?」
動けなかった。首筋に伸ばされた手は、軽く力をいれるだけで男児の首をへし折るだろう。
何より大切な妹を、死んだといってもその妹の子供の前で殴るという行為が和人には出来なかった。
「もしもの時のスペアだが……。コイツは国土の血を濃く受け継いでいる、だとすれば……」
下卑た笑い声が上がる。後に残ったのは、呆然と立ち尽くす和人の姿のみだった。
◆
何だ、今の映像は。
莫大とも取れる情報量に、モミジの頭が混乱する。綾乃の叔父である和人の事もそうだが、今の映像に居た男女、あれがもしや。
「そう。私達の両親だね」
少女が言う。その顔を見て、あぁ、何処か似た顔立ちをしているから本当の事なんだなぁと他人事の様に感じていた。
というより、簡単には飲み込めなかった。
そして、気になる事がある。
「なぁ、気になる事があるんだ。俺達の母親、その人を父親が魂ごと乗っ取ったんだよな」
「うん。そうなるね」
「……彼処にある変な丸っこい奴に、人っぽいのがあるんだけどよ」
モミジの言葉に、少女は笑顔で告げる。
「うん。
軽く放たれたその言葉にモミジは絶句する。
そんなモミジを無視して、おほんと仕切り直すと少女が言う。
「お父さんの事を窮地に追い込んだのは多少許してあげる。知らなかったのは、やっぱりどうしようもないからさ」
でも、と続けて。
「あの女……。国土家の巫女をこっちにくれないかな?」
「綾乃を……?」
「うん。私に降ろしてる神、“天照大御神”は本物ではない模造品とはいえ、かなり体力を削っちゃうんだよね。だから母親、国土の巫女という
改めて真っ黒な楕円形の鏡を見る。そこに居る人間の形をしたナニカ――俺の母親――は、磔にされ身体にはガラスのヒビの様な模様が走っていた。
「子供を産んだってことで無垢な巫女としての能力は大分落ちてた。だけど、現存する国土の巫女を補充出来たら問題ないでしょ?」
狂ってる。
この少女は人を生け贄にすることを、まるで電化製品のバッテリーを交換する程度にしか捉えていないのだ。
そもそも、何で大神家は人類に牙を剥く?神を降ろし、人々を掌握出来るだけで良かったのならば、諏訪の壊滅やこうした四国への襲来等、被害が軽くなる物はたくさんある筈だ。
「……さぁ、初代様が何を見たのかは分からないけれど、今とりあえずはやるべき事ってのを理解は出来てる」
「俺の身内に手は出させねぇ」
「そんなの、こっちだって一緒だよ。お父さんを回復させるのに一杯あの
お互いに気力が沸き上がる。ここは写し世、ここでは決着が付けられないが、現実に戻れば嫌でも戦闘を行う事になるだろう。
「……伝えることは伝えた。なら、最初の宣言通り皆殺しにしていくね」
――モミジの視界が、眩しいほどの光に包まれた。
◆
身体が重い、全身に広がる痺れにも似た痛みに耐えながら辺りを見れば、大刀を構えた少女が若葉と歌野に狙いを定めていた所だった。
――その“神花”の力。使うほどに“神”へとその身を近付けるだろう。
諏訪神の忠告が脳裏に思い出される。だが、躊躇している暇はない。
俺は“大神紅葉”。俺は戦う、俺の大事な全ての為に。
「さ、せるかぁぁぁッ!!!!」
「なっ?!」
“神花”を発動。纏う神衣が完璧に装着されるのを待てず、最初の戦闘の時のように力一杯少女を横合いから殴り飛ばした。
大刀でその一撃を防ぎつつも、生じた衝撃に顔を驚きで歪ませながら少女は吹き飛んだ。
「させねーよ」
――――ごめんね。
母親からの言葉を思い出す。俺の母親は、俺を全力で守っていてくれたのだ。
だが、意思は最後まで遂行されず、あの人は悔いの言葉を残して死んだ。
最後まで、俺や少女の事を案じていた。
ならば兄として、間違った事をした妹を正しい方向へと導くのが役目だろう。
それが
「う。痛たたた……」
ぶつけた頭を擦りながら少女が起き上がる。元より一撃で勝負が着くとは思っていない。
やるなら、徹底的にだ。
「四国が防人、大神紅葉。推して参る」
武器代わりの棍を振って構えると、モミジは少女へと踏み込んだ。