大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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ヒトガタ(モミジ)(ヒトガタ) 4

「ほい、またワシの勝ち」

 

「あー、もー。その遠隔攻撃マジで反則だろ……」

 

「かっかっか。“神の御業”とはこういうものよの」

 

 

思い返すのは諏訪での出来事。毎日の様に夢見で繰り返していた諏訪神との修行の日々。

 

あの時には今一理解できていなかった神力での攻撃に、俺は毎日の様にボコボコにされていた。

 

俺に宿る“天津神の因子”に気付いていながらにそれを教授しなかったのは、俺が天の神側へ堕ちる事を危惧しての事だったのかどうかは今更分からない。

 

もしくは、出来るだけ人の身で在り続ける事を願っていたのか。真偽は不明だ。

 

 

「つーかそれMPとかないのかよ。無制限でポンポン撃たれたら洒落にならん」

 

「えむぴーとやらは知らんが、基本は無制限じゃぞ」

 

「マジかよ。本当になんでもありだな、“神様”ってのは」

 

気軽に返答する諏訪神に、モミジは落胆にも似たため息を吐いた。そんなモミジを気遣ったのか、はたまた諏訪神のちょっとした世間話としての物なのか、諏訪神はいやいや、と手を振って答える。

 

「案外面倒なるーるがあるんじゃよ、ワシら神にもの」

 

「ルール?」

 

モミジの言葉にうむ、と言って

 

「まず、単体で顕現すればよっぽど有名な神でない限りただの雑魚じゃ。ミミズ以下の力しかなく、しかも勝手に消える」

 

「……え、何で?」

 

「ワシらの力。つまりは“神力”じゃが、これの源は人類からの畏れから生じておる」

 

「畏れ? 信仰心とかじゃなくて?」

 

「然り。ワシらを崇め、その恩恵に肖ろうとする信仰心もまた畏れ。分かるように言えば、ワシの事を一人でも多くの人間にすげーやべぇ神、こりゃ従っとこ。と思わせれば良い訳じゃ」

 

「かなりぶっちゃけたな」

 

その方が分かりやすいじゃろ、と諏訪神は笑う。

 

話の続きを促せば、うむと言って口を開いた。

 

 

「“神”がその力を振るうには、一つは力任せ。己の内の神力をごりごりと消費しながら放つ状態じゃな。ワシもしようとすれば出来るが、かなり骨が折れる」

 

「なるほど。……なら、今のアンタはどうやってんだ?」

 

「話を急かすな。もう一つは力を行使する“神”が自身の領域を作ることじゃの」

 

「領域……?」

 

モミジの疑問に頷くと、諏訪神がトンと地面を叩く。すると水で出来た鏡の様な物が生じ、そこに諏訪大社が映し出された。

 

「ワシでいえば此処、諏訪大社や諏訪湖周辺の全域じゃの。領域とはつまり自身の縄張り、近頃の言い方で言えばてりとりーとやらかのぅ」

 

それで、と諏訪神が続ける。

 

「自分の縄張りであらば、その“神”は全ての力を無制限に行使できる。まぁ、無制限でも容量があるから無限という訳でもないんじゃがな」

 

ワシだって諏訪全域にまともに結界張れんかったからのぅと頬を掻きながら言った。

 

つまり、もし諏訪神程の神威を持つ者と戦う時には、相手の領域から遠ざける。もしくは俺自分の領域で戦えという事だろう。

 

実際、四国の神樹が強い結界を張れているのも攻撃を捨て自身の領域に閉じ籠り防御に専念するという、基本に忠実にこなしているからかもしれない。

 

そしてその攻撃役が、神具と神樹に選ばれた若葉達“勇者”なのだ。

 

 

ここまで考えた所で、純粋な疑問が浮かぶ。

 

「なら、もし敵地で戦うとして……神力が無くなったらどうやって回復するんだ?」

 

「それは神々によって変わるが……、ワシで言えば諏訪湖の水を飲む。諏訪の地で成った食物を食べる、かの」

 

「なんか普通だな」

 

「やかましい」

 

 

 

〰️〰️

 

 

そんな、諏訪でのやり取りを思い出した。

 

 

 

 

「くそっ、まさかバーテックスを喰うとは!」

 

想定していた以上の結果に悪態を吐きながらモミジが駆ける。バーテックスが少女に集中しているため少女への道が塞がれる事となるが、“神花”により勇者以上に上がった身体能力で片っ端から吹き飛ばしていく。

 

突然の出来事に注意力が落ちているのか、何度かバーテックスに喰いつかれるが、その度に口から真っ二つに引き裂き消滅させる。

 

モミジが対処に手間取る間に膨れ上がる気味悪い程の神力に、焦りからか汗が流れていた。

 

 

「そんなに主様の身体が大事かぁ? そいつはパチもんだぞ!」

 

一塊の肉塊を成し突撃してくるバーテックスに思わず舌打ちを打つ。質量がデカい、コイツは素では勝てない。

 

金熊童子(かねくまどうじ)。そぉらッ!!」

 

パワーに定評のある鬼を降ろし、触れる物を大気ごと燃え上がらせる熱量と共に拳から放つ。ドロリと溶けるように着弾点から弾けとんだ風穴から、モミジは少女へと迫る。

 

 

少女はそこに居た。

 

 

「お待たせ、二回戦始めようか」

 

 

潤沢な神力と、迸る赤雷を纏わせた大刀を持って。

 

 

 

はじく。

 

反らす。

 

受け流す。

 

掻き消す。

 

 

「ほら、樹海守んなくて良いの?」

 

「くそっ……っ」

 

言葉の後に明後日の方向に振るわれる赤雷を、伸ばす大樹の木々で受け止める。樹海への直撃を避け安心したモミジが視線を戻せば、その顔へ向けて蹴りが放たれていた所だった。

 

防御が間に合わず、蹴りをモロに喰らい樹海へと吹き飛ぶ。その結果に満足そうに頬を緩ませると、少女は大刀を構える。

 

迫る少女に応じる様に棍を構える。神力と鎌鼬(かまいたち)を纏わせた棍を振るい迎撃するが、同じように赤雷を纏わせた大刀と競り合い爆発を引き起こした。

 

 

「ははっ、スリルあって良いね、この使い方」

 

「女の子が小さい内から危ないことするんじゃないの!」

 

「なら、止めてみなよ!」

 

武器と武器が撃ち合う。そこから生じる衝撃が、神威の余波が樹海に最悪の影響を与えているのを肌で感じていた。

 

このままではダメだ。戦闘が長引けば長引く程に、樹海が穢れに侵食され彼方が有利になる。

 

今現在の俺自身に出来る切り札は“精霊の使役”。生半可な精霊ではダメだ。何か、リスクを厭わない絶対的な強者の精霊を――

 

 

そこまで考えて、肩に在る精霊の存在を思い出す。

それをむんずと掴むと顔の前へと引きずり出し、

 

 

『こ、小僧? こんな時にオレをどうするつもりだ?』

 

 

そして。

 

 

「とりあえず時間稼ぎを頼む」

 

『なんとぉ?!』

「きゃああ?!」

 

少女の顔面へと叩きつける様に投げつけた。

予想外の出来事に反応が遅れた少女が、可愛らしい悲鳴を上げてじたばたと暴れる。

 

 

急ぎ足で少女から離れ、精霊システムから新樹へと直接繋ぐ。今使える強力な上位精霊。若葉達が契約しているとはいえ、まだ何体かは居る筈だ。

 

そして弾き出される、一体の精霊の名前。名を確認し、そして割りと身近に居ると反応してそこを見て、

 

『て、てててテメェくそガキ! この“大獄丸(おおたけまる)”様に何しやがる?!』

 

 

――禁忌精霊の一体、大獄丸(おおたけまる)が、そこに居た。

 

 

 

 

「おいおい、本当に大丈夫なのかよぉ。若葉と歌野は」

 

「呼吸もちゃんとしてるから、今は平気。身体中の骨が大分やられちゃってるかもだから、急いで治療に行かないと!」

 

「モミジも何か変なになっちゃってたし……、一体どうなってんだよ、色々とさぁ!」

 

自棄に近い叫びを上げながら、樹海の木々を蹴って進む。背中の若葉がぐったりとしたまま動かない事に、球子は不安と焦りで一杯だった。

 

軽い触診とで様子を見た友奈は球子へと返答するが、それでも油断は出来ない。そもそも目を覚ましても戦闘所ではないと結論付ける。

 

背後でいまだに行われる戦闘音にモミジの安否を思いつつも、早めに戻ると決意し足を早める。

 

 

その時だった。

 

 

『――――――――――ッッッ!!!!!!』

 

 

「っ?!」

「わわっ?!」

 

雷鳴にも似た轟声に、球子と友奈は思わず身を縮ませる。びりびりと音の波が身体を叩くのを感じ振り向けば、土煙を上げて何かが上空へと吹き飛んだ。あの少女だった。

 

続いて飛び上がるのは身体をロケットの様に伸ばした黒っぽい何か。それがモミジだと気付いたのは、その纏っている神官服からだった。

 

中空で体勢が整わないままの少女へと接近し、その胸ぐらを掴み引き寄せもう一度殴る。

殴られた少女はきりもみ回転しながら、樹海から伸びる大樹へと叩きつけられた。

 

雄叫びを上げて、吹き飛んだ少女へと大樹を足場に高速で迫る。踏み込んだ足を大樹にめり込ませながら、目にも止まらぬ速さで少女へとたどり着く。

 

「ちょっ、待っ――」

 

「――――ッ!!!!」

 

何かを言いかけた少女をめり込んだ大樹へ押し込む様に再び殴る。狙いなどは特に無し。目の前の少女の身体へ直撃すれば何処でも良いとばかりに殴り続ける。

 

殴る。

 

殴る。

 

殴る。

 

殴る。

 

 

響く打撃音とその光景に、友奈は震える手で歌野を担ぎ直した。モミジが身体を張って守ってくれているのだ。ならば自分達は、少しでも遠くに二人を避難させるのが正解だろう。

 

だけど、だけども。

 

「こんなこと思うのは、ダメ、なのに」

 

――嵐の如く暴れまわるモミジを見て、初めて怖いと思った。

 

 

 

 

止まるな。止まるな。止まるなッ!!

 

拳を振り抜く。脚を振り上げる。がむしゃらに、ただ滅茶苦茶に。

 

大獄丸(おおたけまる)。日本妖怪の中でも上位に位置する“鬼”の妖怪。

暴虐や残虐な言い伝えが残されており、鈴鹿御前と手を組んだ坂上田村麻呂によって討伐されるまで、神通力やその怪物じみた剛力で人々を苦しめたのだという。

 

 

自身の中の神力がごりごりと削られて行くのを感じる。気をしっかりと持っていないと、暴虐という快楽に堕ちそうになる。

 

『ひゃっひゃっひゃ、堕ちりゃあ良いじゃあねえか。今のテメーだって楽しんでんだろ?』

 

炭色の鬼が心底楽しそうに笑い転げる。うるせぇ、黙ってろ。と返せばニタリと笑い、言う。

 

『お前……モミジっつったか。モミジとオレ様は相性が良い。この身体は最高だ。だからオレ様に寄越せ』

 

集中する。少女と戦う戦闘時の自分。この“(おおたけまる)”をコントロールする自分に。

 

 

この短時間では完璧に従属させるのは不可能だ。それほどまでに濃い穢れの濃度に、コイツ自身も言っていたが俺との憑依が極りすぎている。

 

絶対に死ねない。俺が死ねばコイツは身体を乗っとるだろう。それだけはダメだ。

 

 

「こっ、のぉぉぉっ!!」

 

「があぁあ?!」

 

殴られ続けていた少女が、大声と共に大刀を此方へ放った。それが直撃すると、熱湯を血管内に流し込まれたかの様な激痛が走り、全身へと巡る。

 

巡る激痛に、恨みを晴らすかの様に少女を地面へと殴り付ける。ゴムボールの様にバウンドしゴロゴロと回転すると、何十メートルと転がって漸く止まった。

 

 

「破魔の力を込めたけど、やっぱ効くみたいだね……」

 

「ぐぅぅ、うぐ。くそ……」

 

 

(おおたけまる)の反応はない。大刀に込められた破魔の力で無理矢理に剥がされたからだろう。今頃は神樹にでも取り込まれたのだろうか、ざまぁみやがれ。

 

少女がふらつく身体で空へと浮かぶ、ボロボロの身体で手をかざせば、そこに渦巻くようにオレンジ色の炎球が出来上がった。

 

風船が膨らむ様に膨張を繰り返し、少女の身の丈を越え、更に巨大化する。

 

 

それはまるで、太陽の様だった。

 

 

俺達が住んでいる丸亀城を越える大きさまで膨れ上がると、少女が言う。

 

 

「その神力の量なら、これは防ぎきれないよね。回復する暇なんて与えない。これで終わりだよ、お兄ちゃん」

 

「く、そ……。まだだ、まだ……」

 

 

受ければ死ぬ。

 

 

避ければ四国が滅ぶ。

 

 

「じゃあね」

 

 

少女の手が、ゆっくりと下ろされた。

 

 

 

〰️〰️

 

 

 

 

 

仕方ない。

 

 

 

 

本来ならば自身で気付き、開花せねばならぬ事柄じゃが。

 

 

 

 

()()()()()()の最期の願いだ。

 

 

 

 

ほら、いつまで寝ているままだ。

早く起きねばお前の主が手遅れになるぞ。

 

 

 

 

――天叢雲よ

 

 

 

 

〰️〰️

 

 

「――なんだ?」

 

力を感じる。迫る太陽から目を離し、そちらへと目を向ける程に。

 

見れば、少女が使用していた大刀が蒼白く発光していた。呼吸をするかの様に、ゆっくりと明滅している。

 

()()()()()

 

確証が無いままにそう思う。あの錆びだらけの大刀は、確かに大神紅葉を呼んでいると。

 

 

なら、それに応えるだけだ。

 

「来い!」

 

モミジの言葉に、弾かれる様に飛び大刀がモミジの手へと収まる。久しぶりの感覚と、大刀から感じるその力に、思わず笑みが浮かぶ。

 

「チャンスは一発。俺のなけなしの神力だが、それでも良けりゃいくらでも喰らいな」

 

モミジの言葉に呼応する様に、大刀の輝きが増す。辺りを照り付ける太陽の光より、更に眩しく、そして何者をも寄せ付けぬ神浄の輝きを。

 

錆びが剥がれていく。直視できぬ程の輝きに包まれたその刀身が露になっていくのを感じつつも、モミジは言霊を紡ぐ。

 

突然の変容に面食らった少女だったが、放った太陽へと更に神力を込めながら叫ぶ。

 

 

「今更何したって無駄!! これで終われ、人間ッ!!」

 

「人は終わらない。諦めない限り、何度でも立ち上がって歩いていける、手を取り合える!!」

 

 

大刀、“天叢雲の剣”を下段に構え、迫る太陽へと狙いを定める。

 

この力なら、この神具ならば、行ける。

 

 

「“灼き尽くせ”ッ!!」

 

「“撃ち墜とす”ッ!!」

 

 

モミジ(ヒトガタ)(ヒトガタ)が互いに放つ神の業が、莫大な熱量を持って辺りを巻き込む。

 

それは決着の一撃ともなり、この四国での初戦が終わることも示していた。

 

 

そして――

 

 

 




短編を何度か挟んで、紅葉の章に行きます。
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