納得行かず推敲を繰り返した結果こんな時間に……。
続きの構想は出来てます。また気長にお願いします。
「暇だなぁ……」
「そうだね……」
千景の地元駅。その近くの商店街に存在する茶屋の店先で、お茶の入った湯飲みを片手にモミジと友奈は老人の様にゆったりと過ごしていた。
他愛ない事を言いながら、空に浮かぶ雲がゆっくりと流れる様を見送る。そんな事を始めて二時間程経つ。
「ごめんなさい。家には来ないで」
ショックに染まった友奈へと、千景が焦って弁明を始めたのはすぐ後の事だった。
今回の帰省は、“天空恐怖症候群”に罹った疑いのある母親への見舞い。だが、個人的な理由として家の内情を見られたくはないらしい。
そこまで聞いて、友奈は納得行ったのか了承の返事を返し、モミジも続いて了承した。家のことが複雑なのはお互い様だ。
なら何処かで過ごすか……。と千景の実家の近くで茶を飲み始めたのは良いが、思ったよりも長居しているらしい。家族とは滅多に会えないのだ、当然だろう。
「モミジ君、モミジ君や」
「何だぃ、高嶋さんや」
「“しりとり”しよう。食べ物縛りで。リンゴ!」
「ゴマ」
暇が限界まで達したのか、突如始まったしりとり。確かに暇だったのは事実だし、とモミジも即座に乗る。
「ま。マンゴー」
「
「
「
「石焼き芋!」
次々と上がっていく食べ物の名前。つかの間の暇潰しを友奈と行っていると、視界の端で人だかりがあるのが見えた。
友奈も気になったのか、視線が此方から人だかりの方へと向けられる。何があったのだろうか。
「おい聞いたか、あの家の子供が帰って来てるって話」
「らしいな。あの
微かにだが聞こえるその話の内容に脳裏に千景の姿が映る。商店街に店を構えている各所から、ぞろぞろと人が一人、また一人と連なり、何処かへと足を運ぶ様だ。
無言で友奈へと視線を移せば、此方の意図が通じたのかこくりと小さく頷いた。よし、とテーブルにお金を置けば店の方から毎度ありと声が飛ぶ。
「(それにしても、さっきの会話)」
姿を見失わないよう、そして尾行しているのが極力バレないように集団と距離を離して歩いて行く。
――最近、ちょっとイライラしてて……。そんな心にも無い手紙を貰ってカッとなったの
雲行きが悪くなりそうだ、とモミジはそう感じていた。
◆
「学校はどうだ、同じ勇者の子達とは仲良く出来ているのか?」
「……それなりよ」
何処か気遣いを感じる笑みを浮かべながら、父の言葉を千景は曖昧に返した。父に対して思うところはあるが、これはそこから来る感情ではない。
何となくだが、原因は分かる。だが、それに対しての答えというか、どう行動に移せば良いかが分からない。
――郡さんは、どうしたいんだ?
丸亀城に居た時に感じた、暖かいのと冷たいのがまだらに混じった様な妙な気持ち悪さを思い出し、それに堪えるように胸に手を当てる。
彼、大神紅葉に言われた言葉が、不思議な程に頭を巡っていた。
――あなたを産んだのは失敗ね
「勇者に選ばれるなんて、あなたを産んで正解だわ。私の誇りよ」
――お前に構っている暇はないんだ。良い子にしてなさい
「千景。勇者としての生活はどうだ?頑張れよ、応援しているからな!」
父と母に言われた言葉が、明滅するように頭に響く。頭痛で痛む頭を抑え立ち上がると、足早に玄関へと向かう。
「千景、大丈夫なのか?」
父の言葉を無視する様に振り切り、靴を履いて引き戸を開ける。
来るんじゃなかった。出てくるのは後悔の念。
来て良かった。出てくるのは欲しかった
今更どうでも良いと、一時は捨てた過去だと割り切ってはいたものの、肉親だという情で見舞いに来ればこうだ。
今更親面しないでほしい。
産んで良かったと言わないでほしい。
最後まで、嫌いなままで終わらせてほしい。
分かってはいる。
愛されているのは“勇者”の郡千景だと。
価値あるのは“勇者”の郡千景だと。
……認めてしまえば、楽になれるのだろう。
郡千景は、“勇者”だからこそ価値ある少女なのだと。
「はぁっ、はぁっ……ッ!!」
気付けば、息を切らせながら走っていた。嫌な物を振り切る様に走ったからか、それとも疲れのせいか、幾分か気分がましになった。
その時だ。
「あ、居たぞ!」
「やっと見つけた。探したんだからね?」
聞いた声だった。忘れたい、無かったことにしたい過去に聞いた、そんな声。
――キモいんだよ、息しないでくれる?いんらんの娘。
「覚えてる?私達友達だったよね!」
千景の心の奥底で、何かが軋む音がした。
◆
郡千景は、大神紅葉の事を好ましく思ってはいない。
粗雑な言葉遣いは威圧的に感じ、過去の忌まわしい出来事を思い出してしまうから。
郡千景は、国土綾乃の事を好ましく思ってはいない。
彼女の言葉は強く、独りの世界に入ろうとする千景を事ある毎に邪魔してくるから。
だけど。
――皆で飯行こうぜ。一人で食っても、味気ねーだろ?
――はーいはい。ゲームなら後で出来るでしょ?今は皆で行動する時!
二人が私を引っ張る
◆
「いやぁ本当。君はこの町の誇りだよ!」
――穢らわしい。
「この後時間あるかい?ご馳走を作ってあるから、食っていってくれよ!」
――お前に食わせる物はねーよ!
「皆でまた遊ぼうね、丸亀城に遊びに行っても良いかな?」
――こっち見ないでよ、キモい。
矢継ぎ早に掛けられる言葉が、千景の中をぐるぐると回る。上手く返す事は出来ず、出てくるのは乾いた笑い声だけ。
皆、“勇者”に選ばれたと知ってのこの態度だ。“勇者”郡千景だからこそ、こんなに愛されるのだ。
「皆さん」
答えないで下さい。
「私は、価値ある存在ですか……?」
“そうだ”と言われてしまえば、
揺らぐ目。それを知ってか知らずか、問われた民衆は皆笑顔で答えた。
「そうだ。君は価値ある“勇者”なのだから」
世の中は、なんて残酷なんだろう。
半ば確信していた、聞きたくなかった返答に、千景は俯く。
自分自身は無価値なんだと、そう改めて突きつけられた現実に、これから向き合わなければならない。
鍛錬を頑張って、“勇者”としての力を上げて。更に鍛錬を頑張って、バーテックスを数多く屠り人々から称賛されて。
ニコリと、偽りで出来上がった笑顔の仮面が貼られる。民衆は気付かない、誰も本当の彼女を見てないから。
それに気付くのは、それを貼った彼女自身か。
「郡さん、大丈夫か?」
「ぐんちゃん、やっと見つけた!」
彼女の事を真っ直ぐに見る、少年少女達くらいのものだろう。
◆
郡さんの肩を掴む。前に接触を強く拒否された事があったが、今の状況を見るに形振り構っては居られない。
きょとんとした目で此方を見る彼女だったが、揺らぐ目といつもの余裕ある態度とは違い、今は崩れかけの砂城の様な脆さを感じさせていた。
「おい君、何をしているんだ」
後ろの男から声が掛かる。それを無視して、千景と目を合わせる様にして話し掛ける。
「郡さん、俺の声が聞こえる?」
「……大、がみ、君?」
「正解。高嶋さんも居るよ」
俺の言葉に応える様に、高嶋さんも郡さんの肩へ手を乗せ優しく声を掛ける。
何故此処に居るのか。と言いそうに不思議そうな顔をしている彼女へと言う。
「待ってたけど、遅かったからさぁ。待ちきれなかったんだ、ごめんね」
「用事は終わったんだよね。なら、帰ろうか」
「ちょっと待ちなさい。君達、“勇者”郡千景さんに何をしているんだ?」
言葉と共に肩に手を掛けられる。見れば、別の男が着けたメガネをかけ直しながら此方を見ていた。
全て読んだ訳ではないが、手紙は見た。
全て見た訳ではないが、先程までの展開は見た。
そして理解した。千景の現状を、若葉と衝突するほど気を荒ぶらせる理由を。
この町は、彼女にとっての居場所ではないのだ。
「友達が、家の見舞いが終わって疲れてるらしいんでね。迎えに来たんですよ」
「なら車で送ろう」
「いや、結構です。電車で帰りますから」
武器となる神具は無い。まぁ、あんなもので殴れば確実に死ぬだろうが。
地面を見る。舗装されていない、田んぼのあぜ道。これなら。
「いい加減に――」
苛立ち混じりに此方に手を伸ばす男を見て、千景を友奈へと任せて足の指先に力を入れ地面へとつま先が突き刺さる。
柔らかい土に入ったそれを、間髪を入れずに振り上げれば足先から放たれた土砂が目の前の数人を目潰しした。
「行くぞ!」
「うん!」
呆然とする千景を担ぎ上げ、民衆から振り切る様に走り出す。友奈も予想はしていたのか、何処かスッキリした様な顔をしながらモミジへと追従する。
最初の内は聞こえていた背後からの怒声も、神樹から力を与えられている二人の脚力には適わずどんどん遠ざかっていく。
こうして、千景の実家見舞いは幕を閉じた。
~~
帰りの電車。茜色の夕焼けが車内を照らす中、モミジと友奈はぜぇぜぇと息を切らしていた。
まだ完全に混乱から戻っていないながらも、自分のせいで引き起こした事態だと勝手に思い込んだ千景は何をすれば良いか分からずあたふたとしていた。
結局、車内販売されていた飲み物を三人で購入し、こつんとぶつけて思い思いに煽っていく。
甘い人工甘味料の味が、ぐらぐらと揺れる頭にじんわりと染みる。優しく解れていく気持ち悪さを感じていると、郡さん、とモミジから声を掛けられた。
「改めまして。俺の名前は大神紅葉。ニックネームはモミジだ。美味い飯を食うのが好きで、幼馴染みの綾乃や若葉、ひなたとよく食べ歩きをしたりする」
いつしか聞いた内容。更に続く。
「最近あったニュースは攻略が止まってたゲームが進んだ事だな。しかし恥ずかしながら、また行き詰まりそうだから助けがほしい」
こんなところかな。とモミジが終われば、したいことの理解が出来たのか友奈がはい!と手を上げる。
「私は高嶋友奈。奈良県生まれの勇者となりました。新しい生活が四国で始まって、新しい友達も出来たからこれからがすっごく楽しみ!色々したいからね、お花見とか、海水浴とか山でバーベキューとか、他にも色々!」
以上!と友奈の言葉が終わって、二人の視線が千景へと向く。その視線に戸惑えば、モミジが笑顔で言う。
「教えてくれよ、郡さんの事。どんなことでも良いからさ」
「うん!だって、私達皆ぐんちゃんと仲良くしたいから」
――これから先長い付き合いだろ?出来れば仲良くなりたいしな。解決出来ることなら、協力したいんだ
「……ぁ」
無意識の内に嘘だと思って聞き流していた事は、嘘ではなかった。
目の前のこの人達は、四国に居るクラスメイトは、
居住まいを正す。何を話したら良いか分からずどもってしまうが、二人は何も言わずただ待ってくれていた。
――それが、堪らなく嬉しかった。
「私は、郡千景――」
ゆっくりとだが、名前から始まり今更言う必要があるか頭を捻るゲーム趣味を語る。二人は真っ直ぐに聞いてくれていた。
喉が渇いて、ジュース缶を傾ける。
丸亀城までの時間は、まだたっぷりと残っている。
ならばそれまで、千景は
大神紅葉くん。
始めて見たときは、強そうな男の子!という印象だった。
――教えてくれよ、郡さんの事。どんなことでも良いからさ。
自分の殻にこもって、何だか危ういぐんちゃんを大神くんは助けてくれた。
よく居る口先だけの人ではなくて、ぐんちゃんが大変なときは、一目散に私より先に前に出ていた。
さっき話した自己紹介。私は周りの空気を変えてまで自分の我を通すのが苦手で、あまり自己主張というものが出来ないんだけど。
――大神くんなら、こんな私でも変えてくれるだろうか。だなんて、
そんな事を考えてしまった。
ぐんちゃん可愛いよぐんちゃん。