大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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遅くなりました……。納期という言葉が頭を巡る……。


今回で閑話は終了となります。
次回からは主人公、大神紅葉の物語を書いていきます。

ぐだぐだな設定、広げて畳み方の忘れた風呂敷等色々とありますが、暇つぶしの御相手にどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


閑話 勇者青春御記 7

気まずい空間に居るのが、昔から苦手だった。

 

人と接するのは別に苦手ではない。寧ろ得意な方だと言える。

 

でも、人と意見をぶつけ合って、それで言い争いやケンカになったりするのが嫌だった。

 

だから、

 

 

「千ー景っ。またゲームしてるのか?最近寝不足気味になってるだろ、気を付けろよー」

 

「……む。夜遅くまで起きてるのはお互い様でしょ。部屋の電気、見えてるわよ」

 

「その分しっかり睡眠取ってるから大丈夫だ。ただし授業中にだがな!」

 

「威張るんじゃない!」

 

 

若葉の拳骨がモミジの頭部へと振り下ろされる。ゴッ、という重い音の後に、痛みから頭を押さえるモミジをため息混じりに若葉が見つめていた。

 

 

「千景も千景だが、モミジもモミジだ。有事の際に動けないようでは困るぞ。常在戦場を心掛けろ!」

 

「おいおい聞いたか千景、耳掃除で毎度ひなたにふにゃっふにゃに骨抜きにされてる奴が何か言ってやがる」

 

「説得力皆無ね……」

 

「何だと貴様らーッ!!」

 

 

怒号と共に折檻用の竹刀を振り上げる若葉を確認した瞬間、モミジと千景はそれぞれ脱兎の如く走り出した。

 

怒り心頭で二人を追い回す若葉と逃げ回る二人に、教室に居る他のメンバーはまたかと呆れていた。

 

 

「あーあ、始まった」

「あらあらまあまあ」

 

「おっ、今回はどっちが逃げ切る?」

「そうやって煽っちゃダメだよ?」

 

 

「あはは。二人とも頑張れー!」

 

 

最近になって見ることが多くなったこの光景に、私は正直嫉妬していたのだと思う。

 

 

――こんな風に、容易く相手に踏み込める関係を作れる人が、堪らなく羨ましかった。

 

 

モミジ君を中心に、皆が少しずつ変わっていく。悪い方向にではない、良い方向にだ。

 

壁を作ったり、どう接したらいいかどきまぎしていた私達をどう進めば良いか分からない道を先立って歩き、優しく照らしてくれる。

 

そんな、太陽みたいな人だと、彼に対してそう感じた。

 

 

だからこそ。

 

 

「……良いなぁ」

 

 

私もモミジ君と、丸亀城の皆と本当の意味で友達に、“仲間”になりたいなって、そう思った。

 

 

 

 

「――それではお二人とも。準備はよろしいですか?」

 

「いつでもオーケーだ」

「大丈夫だよ」

 

 

審判を務める神官の確認に、友奈とモミジが揃って答える。

 

友奈の両腕には神具である“天の逆手”が、モミジはスポーツボクシング用のサポーターを厚めに巻いている。

 

それ以外にお互いに同じ物と言えば、肩付近のポケットに厳重に収納されたスマホ。

 

 

“精霊システム”という、神具や神樹に選ばれた人間に神的な付与を与える力を秘めているらしい。

 

試運転のテスターを探していたらしいのだが、そこに丁度良く俺達が通りかかったという訳だ。

 

 

等間隔で支柱が植えられた鍛練場に立つ二人を囲むように、円が描かれている。

 

一見するとレスリングの試合場に見えるその中で、モミジが口を開いた。

 

 

「ルールの確認だ。鳩尾以外の急所への攻撃はなし、同時に相手を死に至らしめるであろう攻撃はなしだからな」

 

「うん。大丈夫だよ。円の外に出たら場外だよね?」

 

「あぁ」

 

 

言葉を返しつつも、相手の様子を窺いつつ集中する。

 

友奈との組み手は初めてではない。鍛練の時には、丸亀城組で対人の訓練として何度も拳を合わせている。

 

得意な動きは空手を主軸とした格闘技。テレビで格闘技の試合を熱中して見るほどに好む彼女は、それに応じた技能も会得している。

 

 

それでは、という神官の言葉に二人して構える。

二人が構える。それだけで二人の間に重苦しい重圧が生じた様に見え、

 

――腕を振り上げて制止する神官が、ゴクリと唾を飲み込んだのが聞こえた。

 

 

「始めっ!」

 

 

「速攻っ!」

「させないよっ!」

 

 

開始と同時に姿勢を低く下げ、下半身のバランスを崩すためのタックルを仕掛けるが背中に手をついて躱される。

 

たん、と両手を使いその場で体勢を変えているのが分かった。避けなければ。

 

 

「おわ?!」

 

 

床板を蹴って強引に横へと跳躍する。チッ、と頬にかかとが擦り、姿勢が崩れた友奈が驚いた声を上げて床に落ちた。

 

まともに受けていれば、俺は床とキスしていたらしい。

 

 

「あっぶな……。すれすれだ」

 

「うーん。やっぱり難しいね。映画のアクションにあった技なんだけど」

 

「そりゃ、見た目の派手さ重視だろうしな。……因みに、当たるとどうなるんだ?」

 

「頭がザクロみたいになってたよ!」

 

「殺す気か!」

 

 

笑顔で言い放つ友奈に思わずツッコミを入れる。

 

“精霊システム”で能力を底上げしているとはいえ、当たれば痛いでは済まないだろう。

 

 

「いやぁ、モミジ君なら大丈夫かなって」

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ……」

 

「んー……、秘密っ。私に勝ったら教えてあげるね!」

 

 

会話が終わると同時に、友奈が此方へと接近する。

 

“精霊システム”のおかげで身体が滅茶苦茶に軽い。先程の友奈のアクロバティックな動きもそれが理由だろう。

 

 

顔目掛けて打ち出す拳を腕で庇いながら避ける。続く二打目が下段からのアッパー。身体を仰け反らせてギリギリで躱した。

 

視界の端に映る友奈の顔に笑みが浮かぶ。まずい、と思った時には遅かった。

 

 

「本気で行くよ……っ!」

 

 

後ろに倒れる身体を支えるべく足を動かすが、足払いで体制を崩される。

襟首を掴まれ下に引っ張られる為、踏ん張ろうにも動けなかった。

 

下に下げる動きと共に友奈が踏み込みを終える。流れる様に下に落ちる顔へと振り下ろされた肘鉄を、俺には避ける術が無かった。

 

 

「お父さん直伝、“喧嘩に巻き込まれた時年上の男もこれで1発パンチ”」

 

「ぐ、っああああ……っ!」

 

 

肘鉄じゃねーか!とツッコミを入れたいが痛みでそれどころではない。

 

揺れる視界の中、此方の安否を気にする神官に手を振って返し、友奈へと足を進める。

 

 

「まだまだ余裕だよ、高嶋さん!」

 

「……うん、もっと行くよ!モミジ君!」

 

 

 

 

モミジと友奈が殴り合いの喧嘩をしている。

 

 

普段の二人を知っている者からすれば驚愕の内容に、丸亀城のクラスメートは一同鍛練場へと急ぎ足を運んだ。

 

門限が過ぎてますよ!という神官の言葉を無視して、二人が喧嘩をしているという場所まで走る。

 

 

「高嶋さん……大神君も……」

 

「千景……。心配すんなって、タマが絶対に止めてやる」

 

 

心配からか顔を真っ青にした千景に、球子が肩に手を置いて力強く言った。

それに同調したのはもしもの為にと“生大刀”を持参した若葉だった。

 

 

「そうだ。それにしても何故喧嘩なんて……二人は……」

 

「どうかしたんですか、若葉ちゃん?」

 

 

ぶつぶつと呟く若葉にひなたが疑問を上げるが、大丈夫だ、と返される。

その返答に異変を感じていると、後ろでヒィヒィ言いながら走る杏が叫ぶ。

 

 

「皆さっ、くんれ、じょ、見えてゲホゲホ!」

 

「杏ぅ!!」

 

 

言い切れず咳き込んだ杏に球子が背中を擦りに走る。肩を貸して介抱されている杏に大丈夫かと思っていると、声が聞こえた。

 

 

「私は、モミジ君が大好きだよ!!」

 

 

その内容に、若葉の喉からひゅ、と息が洩れた。

 

 

 

 

殴る。

 

躱す。

 

蹴る。

 

避ける。

 

殴る――

 

 

一進一退の攻防は、熾烈を極めていた。

 

本気とは言っていたが、モミジは友奈を本気で殴る気はない。故に狙うのは組技、寝技に持って行ければベストだ。

 

だが、ノリに乗る友奈にはそれが通じない。というよりは此方の狙いが完璧に読まれていた。

 

 

拳を弾き、カウンターで腕を取りに行くが蹴りで飛ばされる。

 

反撃のチャンスとばかり拳を振りかぶった友奈に合わせる様に、モミジも友奈の拳目掛けて打ち出した。

 

“精霊システム”により神樹から流される力がぶつかり合い、ビリビリと空間が震える。気付けば、審判役の神官は居なくなっていた。

 

 

「ねぇ、モミジ君。私の気持ち、伝わってる?」

 

「気持ち?」

 

 

息を整えながら言う友奈の言葉に、モミジが聞き返す。真面目な顔をして言っているのだ、冗談の類ではないだろう。

 

 

「いや、悪いな。何も分からない」

 

「そっかぁ、だよね」

 

 

あはは、と力が抜けた様な笑い声を上げる友奈に、次はモミジが口を開く。

 

 

「何だよ、隠してる事があるのか?なら言ってみないと分からないぞ」

 

「んー、隠してるっていうか……。勝ったときのお願いなんだけどね」

 

 

少し悩んだ後、意を決した様に決めた!と声を上げる。

僅かに重心を下げた友奈に、モミジは防御の為構えた。

 

 

「私は、モミジ君が大好きだよ!!」

 

 

拳と共に放たれた言葉に、思わず数瞬時が止まる。

 

 

「綾乃ちゃんも、若葉ちゃんも、ひなちゃんも!!」

 

 

最初の様な技巧的な動きではなく、ただただサンドバッグへストレスを吐き出すため、そんな様子の見える動きだった。

 

 

「ぐんちゃんも、タマちゃんも、あんちゃんも、皆が大切で大好きっ!!」

 

「っ、ぐっ」

 

 

だが、一撃がそれぞれ重い。加えて“精霊システム”のおかげか、此方の防御力を友奈の猛攻が上回っていた。

 

全てを曝け出し、肩で息をする友奈が膝を折るモミジを見下ろす。私の勝ちだね、と意味を込めた笑みを浮かべる友奈へと、モミジが笑う。

 

 

「大好きって……、そんなの今までの態度から分かりきってる事だろ?」

 

「……私は、自分の気持ちっていうのを伝えるのが苦手なの。意見がぶつかって喧嘩したりするのが嫌だから」

 

「そうかい。俺は喧嘩するのも良いと思うけどな。それだけ、分かり合えた時には仲良く出来るだろ?」

 

「でも……、もしそれで話さなくなっちゃったら?」

 

 

不安げな顔をして此方を見る友奈、闘志は消えている。構えも解いた、

 

此処が勝機。

 

 

モミジが動く。座った状態から友奈の腕を取り、合気の要領で床へと引き倒す。視界が大きくぶれ、何事か分かっていない友奈は倒れた後に首元へと当てられた手刀で理解した。

 

 

「その時は、お互いが納得行くまでぶつかり合え。大体、最初から馬が合う奴なんか居ないんだからさ。俺も若葉達と何回喧嘩したか」

 

「……そうなの?」

 

「おう。何回もボコボコにされた」

 

 

噂をすれば何とやら。ガラリと鍛練場のドアを開き入って来たのは若葉達丸亀城組の面々だった。

 

此方へと焦り顔で入ってきた若葉は床に倒れた友奈と、それを押さえつけているモミジの姿を見て血相を変える。

 

というより、キレた様に見えた。

 

 

「モミジ貴様ーッ!!」

 

「ごふっ?!」

 

「モミジ君ー?!」

 

 

若葉のドロップキックが綺麗に極まり、モミジはゴロゴロと鍛練場の隅へと吹き飛んだ。

 

続いて球子が友奈へと駆け寄り、怪我が無いか安否を確認するが、次第に怪訝な顔付きになっていく。

 

 

「……怪我してないな、これ」

 

「えっ?」

 

 

球子の言葉に、気を失ったモミジへずんずんと歩みを進めていた若葉が呆けた顔で球子へと振り返る。マジで?と顔に浮かべる若葉に、マジで、とサムズアップして球子は返した。

 

友奈が苦笑いをして言う。

 

 

「モミジ君、全然攻撃してこなかったから……。防御の為に弾かれたくらいかなぁ」

 

「むしろモミジの方が重体だな。安心しろ若葉、傷は深いゾ」

 

「モミジーッ!!」

 

 

南無、とモミジへと手を合わせる球子。それを見た若葉が慌ててモミジを抱き上げた。必死に声を掛けるが、一向に返事がない。

近くでは千景が、救急車救急車……と青い顔をしてスマホを震える指で操作していた。

 

 

「何やってるんですか!!」

「早く病院に連れて行きなさい!!」

 

 

鍛練場に、二人の鋭い怒号が響き渡った。

 

 

 

 

友奈とモミジが殴り合いをしている、という大きな誇張があった騒動から数日。

 

くだらん理由で怪我するな、という医者からのありがたい説教を受け無事に退院したモミジは、皆と共に丸亀城の教室に居た。

 

円を作る様にして座り、その中心で気まずそうに笑うのは騒動の発端である友奈だった。

 

 

「なんか、ごめんね?私のせいで……」

 

「あぁ、安心しろ。トドメの一撃は若葉の蹴りだから」

 

「ごふっ」

 

 

モミジの言葉に、隣に居る若葉が咳き込む。ひなたに助けを求めるが、やり過ぎだと感じていた彼女は優しく微笑むだけだ。凄く怖い。

 

次に口を開いたのは球子だった。それで?と頬杖を付いて言う。

 

 

「モミジと腹割って話したかったってのは分かったけどさ。なんで殴り合いなんだよ」

 

 

球子の言葉に、他の面子もうんうんと頷く。普段の人との接し方を見る限り、友奈はその辺り不自由しなさそうだったからだ。それだけ、今回の騒動の意外性が窺える。

 

 

「その……、恥ずかしいって気持ちもあってね。それに、」

 

「……それに?」

 

 

もじもじと指を合わせて少し悩み、そして言った。

 

 

「前に読んだ漫画で、拳を合わせれば言葉が無くとも理解できる。って……」

 

 

動きが止まる一同。

 

てへ、と笑う友奈に、球子がわなわなと震えた後叫んだ。

 

 

「出来るかぁぁぁぁ!!」

 

 

丸亀城に響く球子の絶叫。

 

友奈の(ある意味)告白騒動は、こうして幕を閉じた。

 

 

~~

 

 

「此処に居たのか」

 

「お?若葉か、ひなたはどうした?」

 

「明日は大社で修行らしくてな、準備をしたら直ぐに寝たよ」

 

 

夜。大きな満月が地上を照らす中で月見とはしゃいでいると、後ろから若葉が声を掛けてきた。

 

場所は丸亀城天守閣。聞けば、ここでよく同じようにお月見をしたりひなたぼっこをしているらしい。寝ぼけたら落ちそうだが。

 

 

ほら、と持ってきた缶ジュースを渡せば、礼を言って受け取り隣に腰を下ろした。

 

二、三話をして、若葉がそれにしてもと言う。

 

 

「友奈には驚かされたな。まさかあんな一面があるとは」

 

「あれが素らしいぞ。嫌いになったか?」

 

「まさか」

 

 

冗談で聞けば、笑顔と共に返答が返ってくる。だろうなと思っていた返答を聞きつつ、缶を傾けた。

 

 

「……なぁ、聞いて良いか?」

 

「なに?」

 

 

ぽつぽつと会話をしていた中で、不意に若葉が問う。見れば、少しだけ頬を赤く染めていた。

 

 

「友奈に告白されたと勘違いした時、心臓が止まるくらい驚いてな。……何故だろうか?」

 

「それは……、驚いたからだろ?」

 

「……だな」

 

「うん」

 

 

納得がいったのか、そうだな、うん。と若葉が頷いた。

 

何が言いたかったんだ、と思えば若葉が言う。

 

 

「話は変わるが、例の“精霊システム”……だったか?驚きの性能だったな」

 

「だな。若葉達勇者に渡るときには“勇者システム”っつー更に性能を上げた物になるらしいが」

 

「本当か」

 

 

若葉の問いにおう、と肯定で返すと、湧き上がる何かを堪える様に“生大刀”を強く握る。

 

大方、あの“天災”の日にバーテックスに殺された同級生達の事を考えているのだろうか。

 

 

「いよいよだ。奴等との決着を付け、報いを受けさせる日までは」

 

「動機は復讐か。悪いとは言わないが、程々にしとけよ」

 

「……どういう意味だ?」

 

 

“生大刀”から視線を外し、此方へと向ける若葉。……少しだけだが、嫌な物を感じた。

 

 

「お前は熱くなりすぎる。猪突猛進、とでも言うかな。“仲間”が居るって事、忘れんなよ」

 

「……“仲間”」

 

 

繰り返す様に言う若葉にそうだと言う。

 

 

「タマ、伊予島さん、千景、高嶋さん。同じ戦場に立つ勇者でもあるが、“仲間”だ。ひなたと綾乃も、巫女としてサポートに就いてくれる」

 

「……そうだな」

 

「相手は強大だ。惨めでも、情けなくても、最後に笑って生き残れば俺達の勝ちだ。……それくらいかな、俺が言いたいのは」

 

 

そこまで言って、缶の中身を煽る。夜に吹く少し肌寒い風が、今は心地良かった。

 

 

「……なら、モミジは何の為に戦うんだ?」

 

「うん?」

 

 

若葉からの問いに、そうだな、と考える。

 

今まであまり意識して戦った事はなかった。ただ守りたい、それだけだ。

 

だから。

 

 

「俺は、お前達の為に戦うよ。若葉が守る物の為に、お前が出来ない事に、代わりに俺が戦ってやる」

 

「……例えば?」

 

「むかつく奴が居たら言え、ぶっ飛ばして来てやるから」

 

「ふふっ。滅茶苦茶だな、モミジは」

 

 

二人して少し笑い合った後に、どちらからでもなく缶を持ち上げる。 

お互いにしたいことが分かったのか、にやけ顔のまま缶をぶつけた。

 

 

「四国の明日の為に」

「お前達の為に」

 

 

「「乾杯」」

 

 

コツ、と缶がぶつかる音がする。

 

子供二人のお月見を、空から照らす月は優しく照らしていた。

 

 

 






これは、“勇者”(かのじょたち)の物語ではない。


「……それが、どういう意味か分かっているのか、モミジ」


「――あぁ、理解してるさ。若葉」



花は咲かず、後に続く実や種も結ぶ事はない。


それでも。


「だから、止めるなら殺す気で止めに来い。じゃねーと……」


「……モミジぃ!!」


少年は武器を振るう。守りたいモノを守る。


たった、それだけの為に。



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