大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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あけおめことよろです。正月休み万歳。

次は早めに上げようと思います。お付き合いお願いします。


勇者慰安旅行-変わった自分-

深呼吸をする。

葉が重なり擦れる音。枝葉が揺れ鳴るざわめき。風に乗って届く、新鮮な空気。

 

それを大きく吸って肺に満たし、ゆっくりと吐き出す。それだけで、何処かリラックス出来た気がした。

 

 

“神花”を長時間使ったからか、はたまた神剣である天叢雲(アマノムラクモ)を使用したからか、俺の身体は“神”にまた一歩近付いていた。

 

あの神剣はあの侵攻以来姿を消した。俺の身体と同化しているらしく、特に問題はないだろうと四国に居る諏訪神からは告げられた。

 

 

――問題は、俺の身体の方だ。

 

 

 

「おーい、モミジー!何やってんだよー!」

 

「モミジくーん、川の水すっごく気持ち良いよー!」

 

 

声に振り向けば、球子と友奈が笑顔で此方へと手を振っている。

水着の上にTシャツを一枚着ただけの姿で、皆で川へと遊びに来たのだ。

 

一緒にお昼にバーベキューをしようという球子の提案で、旅館からバーベキューのセットも借りてきていた。

 

 

「魚釣れないと飯食えなくなるぞ、一緒に手伝え」

 

「食材は旅館から支給されるとか言ってなかったか?」

 

 

そりゃ、釣れたての魚程ではないが今朝仕入れた新鮮な魚や肉、野菜があると聞いていた。

モミジのその言葉を聞いた瞬間、球子が馬鹿野郎と怒鳴る。

 

 

「お前そんな考えでこのサバイバルを生き抜けると思ってんのか!」

 

「歩いて10分くらいで旅館に戻れるんだが」

 

「けっ、このもやしっ子が。杏を見習え、釣りも自分から積極的に――」

 

 

そう言って杏へと目線を向けた球子の動きがピタリと止まる。

どうしたのだろう、と同じく見れば、そこにはお揃いの麦わら帽子を被った杏と梓が――

 

 

「撒き餌ってこんな感じで良いの?」

 

「うん。前にテレビで似たような事してたから!」

 

 

――タッパーに入った釣りの餌を、豪快に流れる川へと放り投げていた。

 

ポチャポチャと着水し、川の流れに乗って流れて行く餌に球子から悲鳴が上がる。

 

 

「杏ぅ!それは釣り針に着ける奴だぞぅ!」

 

「えっ、そうなの?だってタマっち先輩、前に撒いてなかった?」

 

「それは別の餌――ってもう無い?!」

 

「わぁ、魚がいっぱい食べてるよ!」

 

 

遠くの方で水面にバシャバシャと飛び上がりながら、程よい大きさの魚が群がる様に撒かれた餌へと集合する。ひゃっはー!とばかりに餌に食らいつく魚を、球子が悔しげに眺めていた。

 

どうやら旅館に食材を貰いに行くのは確定したらしい。それなら、少し散歩がてら取りに行くとしよう。

 

 

ヤケクソになりながら網を担いで川へと特攻する球子をがんばれよ、と心の中で応援しながらその場を離れていく。

食材を貰ってさっさと戻ろうと思いつつ歩けば声を掛けられた。ひなただ。

 

 

「どうされたんですか?」

 

「魚が無理そうだからな。先に旅館から貰って来ようかと」

 

「なら、私もお手伝いしますね」

 

 

大丈夫、と言おうとしたがひなたは案外こうと決めたら貫くタイプだ。変に言いくるめるのもおかしいし、有り難く手伝って貰うとしよう。

 

二人揃って川辺から旅館へと繋がる石階段を登る。雑多な獣道ではなくきちんと整備され、綺麗に掃除までされていた。

 

事前に此処の旅館の評価を見てみたが、なるほど高い評価をされた旅館なだけはあると改めて理解する。

 

 

「えっと……、その……」

 

 

歩き出して数分、旅館まで後半分だろうかという所でひなたが言葉を濁しながら此方を見上げる。何だろうか、と疑問に思うとひなたが照れながら言う。

 

 

「この水着、どうですか?変じゃないですか?」

 

 

その言葉に改めて、ひなたの姿を眺める。

 

水着、とは言ったが先程も言った通り水着にTシャツ等を上に着るという格好で川で遊んでいる。

 

ひなたもそれに洩れず、明るい色の水着に合わせ白の薄手の羽織の様な物を着ていた。お洒落には詳しくはないが、変ではないと思う。

 

 

「似合ってると思うぞ。少なくとも変ではないかな」

 

「そう、ですか。……なら良いです」

 

 

少し俯きながらのひなたの言葉に、だがなと一言付け加えそうになる。

 

世間的な一般男性が今のひなたを見れば、一部分で視線が止まると断言できるだろう。

 

 

――シャツが水を吸って、身体のラインがはっきりと分かる状態になっているからだ。

 

 

普段女ばかりで見知らぬ男とそう接する事がないからか、ひなたや他の“勇者”一同はその辺りが若干鈍い部分がある。

 

全くの初心(うぶ)という訳ではないが、自分が周囲からどう映るかはあまり理解できていないらしい。

 

 

旅館の勝手口にたどり着き、入る前に上に着ているパーカーを脱いでひなたへ着せる。始めは理解していなかったが、服、と一言言うと理解できたのかいそいそとパーカーに袖を通した。

 

世話が焼ける、と思いつつ勝手口のドアノブへと手を伸ばした。

 

 

 

 

『ふむ、ふむ……』

 

「……どうだ?」

 

 

四国でのバーテックスの侵攻の少し後。怪我も完治し、無事退院したその日の夜に当然の如く現れた諏訪神から検診が入った。

 

なるほど、と何かに納得するように時折頷きながらモミジの身体を物色する。

 

 

「諏訪に居た神様とは別物なんだよな……」

 

『うん?あぁ、お主の見たワシとは別物じゃな。ワシは所詮それの情報しか知らんからのぅ』

 

「情報?」

 

 

モミジの言葉に返すように、諏訪神は指を立てる。

 

 

『お主と接した諏訪のワシと、今のワシは別物じゃ。そこまでは良いか?』

 

こくりと頷くと、ならばと続ける。

 

『“情報”というのはつまり、記憶。写真のアルバムや映像のデータを眺めて理解した様な物じゃよ』

 

つまり、とモミジに指をさして

 

『お主と話したワシ(前の自分)の視点で、ワシ(今の自分)はお主とのやりとりを見た。と言えば解りやすいかの』

 

 

諏訪神の一連の説明になるほどと納得する。

 

さて、と検診を終えたのかよっこらせと立ち上がって言う。

 

ぽん、と此方の肩に手を置いて、

 

 

『おめでとう。“神”になっとるぞ、お主』

 

「……え?」

 

『正確には、8割方じゃがの』

 

 

そんな、とんでも発言をかましてきた。

 

 

 

――自分でも自覚があるじゃろ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

言われた諏訪神からの言葉は、確かに当てはまる。

 

最初は気のせいかとも思ったが、実験と観察を繰り返し事実だと理解できた。

 

 

「あら、旅館の方居ませんね。どちらにいらっしゃるんでしょうか……」

 

 

厨房に顔を出したが、料理の仕込みが置いてあるだけで人が居ない。困ったようにキョロキョロと見渡すひなたに続くように周囲を見る。

 

二階の通路で歩く仲居の姿を壁越しに発見した。

 

 

――まず一つ。“魂”の感知。

 

暗闇、壁越し、何でも問わず生き物、つまりは命を持つ者については感知、視認が出来るようになった。

結構便利な物で、前の“天の神信仰”の集会へ襲撃した際にも、暗闇で相手を確認出来る。

 

欠点とすればこれを使う際に神力を消費しているらしく、神樹の結界内であれば問題ないが、結界の外で使えば疲労する上にバーテックスからの格好の的になるだろうとの事だ。

 

 

仲居さんに事情を話し、食材を用意して貰っている間良ければどうぞとお茶を貰った。

 

水を浴びた後で少し肌寒かったのもあり、モミジとひなたは礼を言って手を付ける。

 

 

「ふぅ、落ち着きますね」

 

「あぁ、用意して貰っている身で悪いが」

 

「たくさんお礼をしておきましょう」

 

 

少しした後で、仲居さんがクーラーボックス一杯に食材を入れて持ってきてくれた。

礼を言って受け取り、勝手口から出て直ぐに視界の端に家庭菜園程の大きさの畑が映る。

 

夏場だというのにあまり瑞々しさが思えないそれを見てると、あぁと仲居さんがため息を吐いて、

 

 

「お世話はしてるんですけど、どうにも上手く育たなくて……。“勇者”の歌野様にも見ていただいたのですが……。」

 

「……なるほど」

 

 

“豊穣”を司る諏訪神(タケミナカタ)の力を貰ったからか、何が要因かは直ぐに分かった。土地の栄養自体が少なくなっているのだろう。

 

歌野もそれに気付いていたのか、腐葉土等をしっかりと混ぜ込んで対処している。だが、それでは今実っているこの植物らは間に合わない。

 

 

「歌野が見ても分かんないなら、俺に出る幕はないかなぁ」

 

 

そんな事を言いつつ、手の先を土の中に入れ神力を込める。土地と植物自体に豊穣の力を込めた、これで時間が経てば元気に育つだろう。

 

 

――二つ目。神力の制御。

 

前のバーテックスの侵攻の際には、“神花”を使うことで行えたそれが生身の状態で行える様になった。

勿論植物を使って壁を作ったり等の大技は使えないが、こうして植物に作用させ成長を促したり、少し本気を出せば植物そのものを作れたり出来る。

 

 

 

仲居さんに礼を言って別れ、元来た石階段を降っていく。その途中でひなたが口を開いた。

 

 

「さっき、何をされたんですか?」

 

「……何もしてないよ。勘違いじゃないか?」

 

 

とぼける様に言ったが、ひなたの中では何か確信めいたものがあるのだろう。

普段から神樹の元で“巫女”修行をしている彼女の前では、軽率に使う物ではなかったのかもしれない。

 

諦めた様にため息を吐くひなたに苦笑いをしながら頭を撫でる。

 

――少し驚いた様に跳ねた彼女が、足を滑らせたのは直ぐの事だった。

 

 

「危なっ……」

 

「っ!」

 

 

腕を伸ばし、抱き留める様にひなたを支える。腕に伝わる柔らかい感覚と、鼻に掛かる甘い匂いを感じた。

 

 

「大丈夫か?!」

 

「あ、はい……、その、腕が……」

 

 

遠慮がちに言うひなたの言葉に、自分の腕が彼女の胸を押さえているのを理解し直ぐに離す。

 

 

「あー、悪い。つい咄嗟の事でな……」

 

「いえ、それは分かってますから……。あの、だったら」

 

 

腕に寄り添う様に、モミジの腕に掴まりながら彼女が微笑んで言う。

 

 

「少し、ゆっくり行きませんか?少し、足を痛めてしまって」

 

「……あぁ、分かった。ゆっくり行こうか」

 

 

彼女なりの嘘だと気付いたが、モミジも微笑んで歩き出す。

 

 

――彼女の甘い匂いや柔らかな感覚に、一切何も感じなくなった自分を心から残念に感じながらモミジは内心涙して歩き出した。

 

 

 

 

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