ヒント:上司「仕事やぞ^^」
察して。
「ぷはーっ!食った食ったぁ!」
「もぅ、タマっち先輩。お行儀が悪いよ?」
時間が進み、夜。夕飯を食べ終えた球子が、腹を擦りながら満足じゃと床に倒れ伸びをする。
そんな球子の姿を呆れ混じりのため息を吐きながら、杏が急須のお茶を湯呑みへと注いでいた。
「でも、本当に多かったわね……。おかげでお腹がハードだわ。爆発しそうよ、ぼーんって」
「それは洒落にならない状況だようたのん……。でも、もう入らないかも」
二人の会話を聞きながら、確かにとテーブルの上へ視線を移す。バーテックスを見事撃退した勇者様への慰安旅行と聞いてはいたが、これは些かやり過ぎでは?と思いたくなる量だ。
球子、梓、友奈が並んだ料理を見てこれが満漢全席……っ!と目を輝かせていたがあながち間違いではないなぁと思える。
この後どうする?と誰ともなく切り出せば、不敵な笑みを浮かべた球子がトランプを取り出して笑う。
「くっくっく……。誰が“最強”か、今こそ決める時だなぁ。お前ら」
球子の挑発を含めた言葉に、ゆらりと三人の姿が続々上る。
「“最強”……、そう言われれば退く理由はないな。受けて立とうじゃないか、球子」
「ゲームとなれば負けは許されないわ……。私が勝つ……!」
「諏訪の最強デュエリストと言われた私に隙は無いわ。デュエルよ!」
闘志満々な面々に球子も好戦的にニヤリと笑い、ならばと口を開く。
「お腹がこなれたら勝負だ。ちょっとタンマ……」
「あぁ……」
「そうね……」
「ミートゥーよ……」
そんな会話を聞きながら、ひなた、杏、水都はテキパキと胃薬の準備を進めていた。
◆
『ぬわーっ?!梓お前?!』
『もう少しで上がり……っ!』
『させないわ!』
ガラス越しに聞こえる騒ぎを聞きながら、やっぱりこうなったかと苦笑いする。
トランプ系のゲームでは“予知”が使える梓の独壇場だ。対抗するならスピード等の手数が物を言うゲームか、千景の様に状況から次の一手を思案し打てる者かだろう。
玄関でサンダルに履き替え、ペタペタと音を立てながら川辺へと足を進める。
夕方辺りから水菓子用としてスイカを冷やしてあったのだ。お腹はいっぱいだと言っていたが、ああも騒いだ後なら果物くらい入るだろう。
「モミジ、何処に行くんだ?」
「若葉か」
声に振り向けば、浴衣姿の若葉が此方へと歩いて来ていた。
「ゲームはどうした。まだ決着は着いてないと思ったんだが」
「完全に梓の独壇場でな……。この後の人生ゲームで取り返すさ。モミジはどうして?」
「スイカを取りに来たんだ。喰うだろ?」
石階段を降りきる位で、薄暗い中見える結び紐へと指を差す。若葉も気付いたのか、おおと声を上げた。
紐を引き上げ、スイカへと手を当てる。ずっしりとした重さと共に、川の水温で程よくひんやりと冷えたのがよく分かった。
「冷蔵庫も良いが、こっちのが風情があるだろ?」
「だな。後は団扇と蚊取り線香と花火だ」
若葉の言葉に、幼い頃の乃木家のことを思い出す。夏になると、若葉、ひなた、綾乃、俺の四人で小遣いを出し合って花火を買うというのが恒例になっていた。
実際にはおじさんやおばさん達が値段の良い花火を購入してくれているのだが、その中でも若葉の爺さんが毎年スイカを振る舞ってくれたものだ。
色とりどりの火花が散る中、蚊取り線香の匂いの中スイカに齧り付くのは今でも思い出せる。
若葉もそれを思い出しているのか、懐かしそうに、そして少しだけ寂しそうな顔をしていた。
――“乃木”、“上里”、“国土”、“土居”、“伊予島”、“高嶋”、“郡”、“大神”、“白鳥”、“藤森”。
現在この10の家系が、大社内、つまりはこの四国において最重要とも言える家系となっている。
その中でも“乃木”、“上里”、“大神”、“白鳥”、“藤森”の家系は身内を亡くしており、実質的に天涯孤独の身となっている。
さて、バーテックスを打倒し世界に少しの平和が戻った今、次なる課題というのが。
「夕飯の前に、大社の神官からまた言われてな……」
「あー……、縁談の話か」
旅館への帰り道、苦笑いをしながら口を開いたのは若葉だった。
次世代。つまりは子孫を残せと先程上げた5つの家系は特に言われている。
“勇者”の資格、つまりは“神樹”や“神具”と波長が合いやすいのは“勇者”に選ばれた家系の者だという結果が出たらしい。
これは完全に秘密の話だが、
「子孫を残すというのは否定はしないが……、二人以上産めというのは些か機械染みた気がして嫌だな」
「良かったじゃないか、二人で済んで……」
「……モミジはなんて?」
「
「なんと……」
「それも、各員につき3人が望ましいとさ……」
ぼやくように会話を続け、お互いに南無と手を合わせる。
確かに四国には人口が少ない。これから先の未来を考えれば少子社会では話にならないだろう。
大社からしても無理を言っているのは自覚しているらしい。
だが出来れば、いや本当にマジで頼みます。と話を持ってきた神官は頭を下げていた。
なら、“勇者”の家系同士で子孫を成してはならないのか。という疑問も当然の如く上がったが、
「今、大社内では権力者同士でのいざこざがごさいます。その中で“勇者”様程の家格の方が結ばれるとなりますと……」
要するに、“確実なトップ”が決定するのが怖いらしい。面倒くさいものである。
はぁ、とため息を吐いて空を仰ぐ。星がきらきらと輝く中、ぽつりと若葉が言った。
「……大人になるって、面倒な物だな」
「そうだなぁ」
「これならバーテックスと戦う方がまだ楽かもしれんな。斬るだけだ」
「…………そうだな」
そうかもしれない。
若葉のその言葉に、不思議と納得した帰り道だった。
◆
「――なら、結構早めに皆と打ち解けたのか」
「あぁ、球子は妹分が増えたと喜んでいたぞ」
笑みを浮かべ言う若葉の言葉に、そうかと此方も笑顔になる。
諏訪から越してきた梓だったが、年代が離れた皆と仲良く出来るか心配だったのだ。
勿論皆良い奴なのは知ってはいるが、だとしても心配してしまう。
「……悪いな、面倒事を押しつけて」
「面倒だとは思ってない。梓も良い子だからな」
そうやり取りをしつつ、ふと空を見上げる。夜にしてはやけに明るいとは思っていたが、そこには立派な満月が昇っていた。
若葉もそれに気付いたのか、ほぅと感慨深げに息を吐く。
「……あの日も、こんな夜だった」
「“天災”の日か」
「あぁ、今の私達が始まった日だ」
僅かにだが、月を見上げる若葉の目に力が籠もる。
あの日、バーテックスが降ってきた時の事を思い出しているのだろうか。
「バーテックスが来たことは、今では恨んでばかりはいられないと思っている。勿論、家族やあの日亡くなったクラスメート、あの人達の無念を忘れた訳じゃない」
「なら、どうして?」
「“仲間”に会えた。……もし、“天災”が起こらなかったら出会う事すら無かったかもしれないかけがえのない大切な“仲間”が」
そう言って笑う若葉の顔は、無理をしているのではない、心の底からの本音だと分かる物だった。
“勇者”として四国に集まった皆。
元々四国出身の者も居れば、奈良、長野と遠方からの者も居る。
バーテックスを倒すという使命を持って日々鍛錬をしてはいるが、本来はただの子供だ。遊びたいし、恋愛だってする。人類存続の為に戦うなんて考えた事すらないだろう。
でも、起きてしまった。
戦うしかない状況になったのだ。
「“次”は起こさせない。四国も、民草も、仲間も――」
「私は、もう何一つ失いたくない」
拳を強く握り締め顔を上げる若葉には、何か強い意志が宿っている眼をしていた。
そんな眼を見て、ドキリと心臓が跳ねる。
俺がしている“御役目”には気付いていないし、バレてもいない筈だ。
なのに、見透かされた様なその目に鼓動が速くなる。
「モミジ」
呼ばれた事に、少しだけ反応が遅れた。
返事をすれば、若葉がついと旅館の近くにある運動場を指で示す。
「食後の運動だ。私の鍛錬に付き合ってくれないか?」
此方に振り返る若葉を、空から差す月光が淡く照らす。
その姿に、少しだけ見とれてしまった。
「……なら、トレーニングウェアに着替えて来い」
「あ、そうだな。スイカも置いてこよう」
見とれた事への照れ隠しか、上手く返事することが出来なかった。
モミジハーレム設立確定。やったぜ。
因みに最初に縁談の話持ってきたときに、大社の上役は謎の勇者仮面にしばき回された模様。