大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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ちょっと凝った書き方しようと思ったら長くなりました。

個人的には暗いかな……。

暇つぶしにお付き合い下さい。


勇者慰安旅行-堕ちるとしても-

 

 

 

夢を見る。

 

 

 

 

「防人様、四国の敵を御討伐下さい」

 

 

「天の神を信仰する天の神側の“巫女”から、その力を奪うしかない」

 

 

 

 

夢を見る。

 

 

 

 

広がる呪印。

 

 

死が迫る“呪い”

 

 

 

「モミジ、お前は全て知ってたんだろう?」

 

「モミジ、アンタ全て分かってたのよね?」

 

 

大事な人達から向けられる、此方を突き刺す様な侮蔑の目。

 

 

 

 

夢を見る。

 

 

 

 

衣服、肉体を突き破り身体を貫通した手に握り締められた、天の神の“巫女”の心臓。

 

 

「……こ、ぉ、……こ、の」

 

 

 

 

夢を見る。

 

 

 

 

「「「人殺し(ひとごろし)」」」

 

 

 

 

 

~~

 

 

「――っは?!」

 

 

ガバリと掛け布団を跳ね飛ばし起き上がる。ぜひゅ、と喉を鳴らし肩で呼吸をしている自分を確認し、胸に手を当て落ち着いて今一度呼吸をする。

 

落ち着いてきた呼吸とは別に、不意に生じた胸の痛みに思わず浴衣をぐっと握り締め耐えた。

 

 

ダラダラと額から滝の様に流れ出る汗を袖で雑にぐいと拭いながら、テーブルに置かれた水の入ったピッチャーへと手を伸ばし、そのまま口を付けてゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいく。

 

 

「……ぷはっ!……っ、痛ぇ……」

 

 

穢れ。人の理に背き、同族殺し等や魔の道へと進むとその者に生じる負のエネルギー。

 

その本人を堕落させ、その魂を喰らおうと魔境のモノから目を着けられると、そう諏訪神から聞いていた。

 

魔境のモノというのは、(あやかし)(おに)の類らしい。

 

 

大嶽丸(オオタケマル)辺りが喜んで狙ってきそうだなと、ゴトリと半分ほど飲み干したピッチャーを置きながら考える。

 

 

――人殺し

 

 

「……夢だ。忘れろ」

 

 

ゴン、と頭を軽く拳骨で叩いて気持ちを強引に切り替える。

 

 

その時。

 

 

「大神様、お目覚めですか?」

 

 

コンコン、と控えめなノックの後で大社の神官の声が聞こえる。壁の時計へと目をやれば今は朝の六時だった。神事に務める者なら、この時間はとうに起床時間だろう。

 

 

「あぁ、今起きた」

 

「まだお早いお時間ですが、早急なご用件がございます。お部屋の中に入っても?」

 

 

その声にドアへと目を向ければドア越しに幾数人かの魂が見える。

 

悪意はなく、また殺意も感じられない。問題はないだろうと納得する。

 

 

入れ。と声を掛ければ、ぞろぞろと大社の神官が部屋へと入って来た。

 

面々の様子からして何時もの定期連絡ではないな、と理解しまだ濁る頭の中をガリガリと乱雑に搔く。

 

用を申せ、と言えば筆頭の神官が恭しい態度を崩さず言う。

 

 

「“天の神”が“巫女”、その内の一人の所在が割れました」

 

 

その神官の声に、思わずモミジの動きが止まる。

 

 

「“防人”、大神紅葉様に御役目の執行をお願いしたく、参りました」

 

 

神官の動きに倣う様、周囲の神官も同じくモミジへと頭を垂れる。

 

最早見慣れた光景ではあったのだが、今のモミジにはそれどころではなかった。

 

 

――人殺し

 

 

ずきりと痛む胸を、無意識の内に押さえていた。

 

 

 

 

 

旅館を音もなく飛び出し、端末に記された座標へと足を進める。

 

既に“精霊システム”を起動させており、普段からは考えられない様な機動力を可能としていた。

 

雑木林の木から木へ、飛び移る時間も短く跳ねる様に進む。

 

“神花”には大きく劣るが、これだけ動ければ御役目には支障無さそうだと感じていた。

 

 

「……彼所か」

 

 

記された地点へと到着する。

 

場所はなるほど、海岸沿いの海に面した洞窟であった。考えたものだな、と素直に称賛する。

 

 

さて、と目を凝らし洞窟へと集中する。数は多い。別の巫女が死んだのが分かっているのだろうか、近くでは武装している者が多数いた。

 

そして、その奥の部屋で鎮座する一人の“巫女”。

 

 

「――見つけた」

 

 

その魂は、“天津神”の力を放っていた。

 

 

~~

 

 

「首尾は?」

 

「問題ありません。交代行ってきます」

 

「あぁ、任せる」

 

 

一人の若い男が、壁に掛けられた槍を持って入り口へと向かう。

 

入ったばかりだが、真面目な男だ。敬虔な信徒であると、これからの道を頼もしく思う。

 

 

「おわっ?!」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「これくらい大丈夫です!」

 

 

元気が余ってか、不安定な足場に躓きずっこけていた。頬にケガをしたのか、血が僅かに流れていたがサムズアップをして足早に進んでいく。

 

入れ違いで入り口の警護に当たっていた者が二人、此方へ会釈して仮眠室へと向かう。

 

襲撃の神託が“巫女”様に降りたのが今日。大変だとは思うが、今日だけの辛抱だ。

 

四国の“防人”、大神紅葉が我等が“巫女”を捕らえに来るらしい。

 

他の拠点の“巫女”様は亡くなった。それも、地の神である神樹を奉る大社の手によって。

 

 

捕まればどのような目に遭うか分からない。無垢な魂を持つ“巫女”の命、ここで護らずいつ護るのか。

 

 

決意を新たにした所で、入り口の警護部隊から無線に連絡が入る。

 

 

「どうした?」

 

『いえ、それが……。先程から一人の人影が見えるのですが、一向に動かないもので、どうしようかと』

 

「人影……?」

 

『はい。マント、と言いますか。身体と顔をすっぽりと隠す装いで気味が悪く』

 

 

その言葉に思わず首をかしげる。

 

地元のチンピラの類ではないだろう。では噂の“防人”だろうと当たりは付くが、何故攻めてこない?

 

 

『……ちょっと、確認して来ます!』

 

「な、ちょっと待て?!」

 

 

迂闊過ぎる、とは思ったが警護の三人はそのまま離れたのか無線が届かない場所へと離れてしまった。

 

畜生と駆け足で入り口へと急ぎ、三人の動向を窺う。なるほど確かに、そのマントで身体を覆った不審な輩へと向かっていた。

 

 

 

――その三人が、突然宙に待った。

 

 

 

「なっ?!」

 

 

遠くからでも聞こえる驚愕と悲鳴。抵抗むなしく、三人は地を滑る様に何処かへと引きずられて連れ去られた。

 

後に残ったマントの姿が、風ではためきマントが飛ぶ。

 

そこには、一本の丸太が立っていただけだった。

 

 

~~

 

 

「他の入り口は?!」

 

「言われた通りに固めました。入り口は此処だけです」

 

「よし」

 

 

時間は過ぎ夕刻。水平線へ太陽が沈むのを眺めつつ、憎々しげに薄暗くなる平原へと目を向ける。

 

朝方此方の人員を誘拐された後何故か襲撃は無かった。

 

此方の人員配置を聞き出し対策を練っているのだとすれば、それはもう遅いとも言える。

 

 

朝は人員を割いていた為対応に遅れたが、今は一つに纏め武装もしている。

 

これなら、如何に神樹に選ばれた者といえども迂闊には攻められないだろう。

 

 

その時。

 

 

「……あれは、まさか?!」

 

 

見張りの声に、双眼鏡を手に示す方向へと注視する。

 

 

――そこには、誘拐された三人が一列になって此方へと歩みを進めていた。

 

 

 

 

「大丈夫か?!」

 

声と共に肩を引き寄せられる。安否を確かめる様に顔を覗き込まれるが、何も言わない。

 

 

「ダメだ。放心状態だな、報告にあった通りだ」

 

「取り敢えず医務室へ!休ませるのが大事です!」

 

 

肩で支えられ、一歩一歩ゆっくりと運ばれる。入り口の不安定な足場を幾人かで支えられ、此方を心配する様な声も掛けられた。あぁ、なるほど。やっぱり。

 

 

――()()()姿()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

不意に違和感を感じた。

 

 

「……ん?」

 

 

最後に運ばれる、今朝見た好青年を見て何処か疑問を感じる。

 

 

疑問は、次第に確信に。

 

 

確信は、そのまま恐怖に。

 

 

「……お前、頬のケガはどうした?」

 

 

その問いに、ピタリとその場の皆の動きが止まる。

 

 

数瞬の間。

 

 

返答はぐちゃりという壁に頭を叩き付けられる音。戦慄から動きを止める一同の前で、その好青年は顔の皮膚をベリベリと剝いで言う。

 

 

「事情があって、遅れて悪ぃな。四国の“防人”、大神紅葉――」

 

 

此方を覗く眼は、碧金の光を灯した神性を象徴する畏怖の瞳。

 

 

「――お前ら全員、皆殺しに来ました」

 

 

四国の一角の洞窟内が、阿鼻叫喚に包まれた。

 

 

 

 

コツリ、と足音が響く。

 

壁に散った血、松明がその場の惨劇を轟々と照らす中モミジは歩みを進める。

 

その眼に普段からの覇気は無い。機械的に動き、ある一点を見つめ足を進める。

 

 

「なるほど、この“神具”の能力が使えないのはそういう理由ですか。同じ“神”同士、余計な諍いは起こしたくないらしい」

 

 

「……お前が“巫女”か?」

 

 

部屋の真ん中、そこで長刀(なぎなた)を手に此方を見据える少女へと問う。

 

 

「はい。此方の支部を任されております。貴方方で言うところの天の神側の“巫女”、というものですかね」

 

「へぇ。……なるほど、情報通りって事か」

 

 

油断なく此方を見据え長刀を構える彼女を見る。

 

“神具”、つまりは神の力が宿る武器に選ばれた“巫女”が居るという情報は間違っていなかったのだと再認識した。

 

 

今回侵入に手間取ったのがこれが原因でもある。“天津神”ではなく、神樹と同じような地の神同士が衝突。

 

その為互いの神が力の譲渡を止め、モミジは此方の領域内での“精霊システム”の使用諸々を、“巫女”は“神具”の能力を使用出来ないでいる。

 

 

つまりは、互いの持つ個々の能力で決着をつけよ、という意味合いだろう。

 

個々の能力とは言っても、“巫女”の方には何やら特別な力が流れているのを感じるが。

 

初めて“神具”を手にしたときの、若葉達と同じような波動を感じる。

 

 

「因みに能力ってのはどんな?」

 

「軍の能力向上、といった所ですかね。“勇者システム”を持つ“勇者”達以外なら問題なく鎮圧出来ると踏んでいたのですが」

 

「なるほど、それで結構な武装をしてた訳だ」

 

 

思い出す様に顎に手を当てる。実際武器捌きが上手い者も何名か居り、あれが自分(モミジ)レベルで動けるのであればヤバかっただろうなぁとゾッとする。

 

 

「まぁ、いいや。此処に来た理由分かってるんだろ?」

 

「えぇ、理解していますとも」

 

「なら話が早い。さっさと――、何だよ」

 

 

此方を見ながらクスクスと笑う“巫女”に、思わず肩透かしを食らう。

 

悪意ある笑みではなく、純粋に面白がる。年頃の少女の笑みが、そこにはあった。

 

毒気が抜かれ嫌な顔をするモミジに、“巫女”はいえ、とまだ僅かに笑いながら言う。

 

 

「随分と悪役(ヒール)に徹するのだなぁと。ちょっと、実家の弟を思い出しちゃいました」

 

「――は?」

 

「意地を張って強がって……、男の子って皆そんな感じなんですかね」

 

 

……やり辛い。

 

モミジの額に、一本の汗が流れ落ちた。

 

 

 

 

斬る。

 

突く。

 

薙ぎ払う。

 

打ち上げる。

 

 

長刀(なぎなた)は、一対一であれば無双出来ると聞いていたがそれは本当だと理解する。

 

速度は大したことはない。若葉の剣速、友奈の手刀、そのどれらにも及ばない程だ。

 

だが、問題はその次の手数。

 

 

切り払いを避け相手の懐へと接近する。それに対し踏み込んだ右足を下げ逆半身となり、クルリと持ち手を反転。長刀の尻の部分が打ち上げとしてモミジの顔面に強襲する。

 

ぶぉん、と空を切る音がすれすれで過ぎた事に僅かに冷や汗を流し後ろへと跳躍する。

 

 

「扱いが上手いな……。もしかして経験者?」

 

「えぇ。御家の方針で、護身術として少々」

 

「なるほど、そりゃあ教育熱心だな、っとぉ!」

 

 

薙ぎ払いを避ける。時折ずきりと痛む胸を押さえながら、攻撃を避けて逃げ回る。

 

“神花”は使えない。いや、使わない、というのが正しいか。

 

以前とは違い旅館に居るひなたや水都達“巫女”との距離が近い。もし使えば、その神力に気付かれる恐れがある。

 

若葉達も以前のバーテックスの侵攻の際に見られている。気付かれないとは言い切れない。

 

 

「貴方は、何故戦うのですか?」

 

「……今、言うべき事か?」

 

「えぇ。互いの信念を聞けば、もしかすると分かり合えるかと思いまして」

 

「……無理だろうな、そりゃ」

 

 

綾乃の“呪詛返し”の為に“巫女”の力が要る。ではその為に死んで下さい、とは通じないだろう。

 

此方の言葉にそうですか……、と少し寂しげに返しつつ、では、と続ける。

 

 

「私の事を話しますね。あ、戦闘は続けますよ」

 

「結構マイペースだな」

 

「私には一人の弟が居ます」

 

 

言葉の語調とは裏腹に、嵐の様な長刀捌きがモミジへと降りかかる。

避けて、打ち払い、躱しながらモミジは“巫女”の猛攻の中次の手段を探す。

 

 

「あの悪夢の様な“天災”を乗り越えたある日、弟は“天恐”を発症しました」

 

「大社、そして病院と方々を尽くしましたが、治る手立てがありません」

 

 

ガキリ、と壁にあった槍で長刀を受け止めるが武器の質量は向こうが上、じりじりとモミジが押し込まれていく。

 

 

「ですがそんな時、あの方からお話を受けました。此方の要望を聞くのであれば、お前の弟の病を治してやろうと」

 

「そんな詐欺みたいな話に乗ったってのか……っ」

 

「詐欺でも何でも。あの子が元気に過ごせるのなら私はっ!」

 

 

槍が折れる。押し込まれた刃を危機一髪躱し、棍の精製を試みるが強襲され失敗に終わる。

 

さっきからこれだ。此方の情報を流した奴は、モミジの戦闘法(バトルスタイル)を熟知しているらしい。

 

 

「させませんよ。貴方の神力を通した武器は、私の“神具”を超えると聞いてますから」

 

「……そいつは、誰に?」

 

「秘密です!」

 

 

振るわれる長刀。一つ、二つと洞窟の壁に斬撃の傷が走るが、意に介さない様に此方へと迫る。

 

普通崩落等を考えると思うのだが、それは頭には無いのだろうか。

 

 

「私の御役目は、ここで貴方を倒し大社の“巫女”、国土綾乃を捕らえ“天の神”への贄とすること」

 

 

その言葉に、以前力を奪った“巫女”の事を思い出す。

 

アイツも確か、“巫女”を殺すと言ってなかっただろうか?

 

 

「綾乃を……、“巫女”を狙う理由は何故だ?」

 

「さぁ、そこまでは。私はそれの報酬として、弟の病を治して貰うだけですから」

 

 

“巫女”の目に、覚悟が宿る。

 

このまま俺を殺し、隙を見て綾乃を探しだし殺すのだろうか。

 

今日ここで出会ったのも、何処からか流れた今回の慰安旅行の件を聞きつけ、好機と見たに違いない。

 

そしてそれは、他の全ての“天の神”側の派閥が把握している情報でもある。

 

 

「……させねぇ」

 

 

――人殺し

 

ずきりと、胸が痛む。

 

 

「そんなこと、させてたまるかよ」

 

 

覚悟を決めろ。

 

このままでは全てにおいて(モミジ)(天津神)の後手に回る。

 

情報、武力、その全てを網羅しなければ綾乃を守る事などは出来やしない。

 

 

覚悟を決めろ。

 

世界全てを敵に回しても、綾乃を守り抜くと。

 

 

「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

 

 

油断なく此方を見据える“巫女”。

 

対するモミジに残されたのは、先程応戦し割り箸の様に中程から折られた槍のみ。

 

 

 

覚悟を決めろ。

 

その為には――

 

 

 

「っ?!」

 

 

モミジが足元の何かを“巫女”へと蹴り飛ばす。

 

不意を突かれた攻撃ではあったが、間一髪その飛来物を長刀で打ち払い、その正体を見る。

 

それは、折れた槍の穂先であった。

 

 

なる程、イタチの最後っ屁というやつか。と“巫女”はそれを見送り、モミジへと視線を戻す。

 

もう武器は無いはず、次の一撃で終わりにする。と見た所で、

 

 

 

――その為にはまず、武器を()れ。

 

 

 

モミジの手に、在るはずのない“棍”が確かに握られていた。

 

 

 

ゴキャ、という何かが砕ける音が鳴り響く。

 

少し遅れて聞こえるのは、“棍”によってぐしゃぐしゃに打ち砕かれた手を押さえ悲痛な叫びを上げる“巫女”の姿。

 

 

出てくるのは何故、という疑問。

 

大神紅葉が植物を操り棍を精製するのは知っていた。

 

だが、一から棍を作る時間は与えていない――

 

そこで思い出す、モミジが先程蹴り飛ばした槍の穂先、そして柄の部分。

 

 

「まさか、槍から棍を……?」

 

「あぁ、そのまさかだよ」

 

 

棍を振るい、“巫女”の武器である長刀を打ち払い明後日の方向へと飛ばされる。

 

もう扱う事が出来ない手であったが、それを見て“巫女”は戦意喪失気味に笑う。

 

 

勝敗は、確かに決した。

 

 

力を奪うべく“巫女”へと歩き出したモミジだが、最期に良いですか?という“巫女”の言葉に止まる。

 

 

「何だ?」

 

「いえ、ちょっとした老婆心というか……私まだ10代ですけどね」

 

 

脂汗を流しながらテへと笑う“巫女”、だが直ぐに真面目な顔に戻り言う。

 

 

「貴方の決断は間違いではないと思います。貴方も私も、互いに守りたいモノの為に戦い、そして決着がついた。ですから……」

 

 

す、とモミジに指を差し苦笑いを浮かべて言う。

 

 

「そんなに、辛そうな顔をしないで良いんですよ?」

 

 

“巫女”の言葉に、思わず顔へと手を当てる。

 

濡れていた。それが涙だと気付くまで、少し時間が掛かった。

 

 

さて、と辛そうに息をする“巫女”が凜とした姿勢に座り直す。

 

抵抗する為ではない、死に際で見苦しくない様にだというのは、直ぐに分かった。

 

 

 

「“次”出会うなら、友達になりたいですねぇ」

 

 

棍を握り締め、“巫女”へと一歩踏みしめる。

 

 

「出会い方が悪かったですから。ドラマチックな出会いを所望しますね、神様」

 

 

神力をギリギリまで込める。痛みを感じる間もない様に、一撃で絶命させる為に。

 

 

「……あぁ、最後に――」

 

 

モミジは、ゆっくりとその棍を振り上げ、

 

 

「――あの子をもう一度抱っこしたかったなぁ」

 

 

“巫女”へと、確かに振り下ろした。

 

 

 

 

月明かりが照らす、海辺の洞窟から一人の少年がゆらりと出てきた。

 

足取りは重い。鉛の荷物を背負っているかの様なその足取りは、まるで幽鬼のそれだ。

 

 

「御役目ご苦労様です、大神さ――」

 

 

御役目完了と理解し声を掛けた神官の言葉が、そこで途切れる。

 

ゆらりと此方に向けられた碧金の瞳に見つめられただけで、心臓を握られた感覚に陥った為に。

 

 

「……次の“巫女”の場所を、分かり次第即教えろ」

 

「かしこ、まりました」

 

「……寝る。後始末は頼む」

 

 

崩れ落ちた神官を、別の神官が支える。

 

そんな様子をチラリと見ただけで、また重い足取りで元来た道を歩き、旅館へと足を進める。

 

ざあざあと、生い茂る草花が風に吹かれて揺らめいていた。

 

 

――モミジの通る道だけ、草花は枯れ、朽ちていた。





洞窟に侵入したときの顔を剝いだやつは女郎蜘蛛の糸で作った物です(念の為)

モミジの穢れ、8割程度なう。
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