確認はしてますが、おかしなこと書いてるかもしれません。
身体の奥底から感じる気配。それを身体に宿し、世界を平定するのが私に課せられた御役目だと、お父さんから聞いた。
私は何も知らない。自分の名前も、血液型、生まれた誕生日……。およそ
ただ、神の遣いだと自称するこの男が自分のお父さんだというのは、確信は無いがそうだと言える。何故だろうか。
昔、そのお父さんの事をどんな人か、聞いたことがある。
その結果は、ただの拒絶だった。
『お前が知る必要はない』
「どうして?」
『私が人の“欲”に触れ、そうしてその“穢れ”を背負った人間だからだ』
「……どういう事?」
お前は知らなくて良い。という言葉の後に、私の知る中で一度だけ、たった一度だけ頭を撫でられて言われた。
『お前は私の成果であり、希望でもある。お前が今“欲”に触れ自我に目覚めれば、お前の中の“天照大神”がお前から離れようとするだろう。それは非常に困る』
「……そうなの?」
『あぁ。だから、お前に私の事を語るとするならば、それは今の人類を滅ぼしたその先――』
ゆっくりと、目線を空へと上げて、
『“真なる人間”が、産まれてからになるだろうな』
待ち遠しい人を見ているその目を見て、私もお父さんの目指すそれを見てみたいと、そう思った。
でも、許せないモノがある。
一つは国土の“巫女”。お父さんの計画を邪魔した、厄介者の一つ。
そして、もう一つは――
――人は終わらない。諦めない限り、何度でも立ち上がって歩いていける、手を取り合える!!
大神紅葉。私の双子の兄、らしい。
私と同じ、御役目を受けて産まれた
名を付けられた事で、それは忘れてしまったらしい。それはまぁ、仕方ないと思う。
私も、たまに何をすれば良いか分からないことがあるから。
でも、
どうして
どうして同じ“神”を宿すのに、私達に敵対するの?
考えれば考える程に苛立つ。“穢れ”を溜めるだけ、抑えろとお父さんは言うが、全然治まらない。
そんな時に来た、四国への二度目の襲撃。
次こそ殺す。慈悲も、何もかも与えずアイツが築いてきた全てを犯して無に返してやる――。そう、思っていたのに。
目の前に放られた、一冊の古びた書物。
銘には、見慣れた文字で書かれた“神造御記”という文字。
「
ぎゅっ、と身体の中の何かが締め付けられた気がした。
◆
「お、父、さんの?」
「あぁ、初代大神家当主……。つまりは俺達の父親の事だ」
此方への注意を切らさず、だが手にした書物への興味も尽きないのか、少女の気配から強い困惑と動揺を感じる。
その反応を見て手応えを感じると同時に、この先の展開も考える。
あまり時間は掛けられない。
「自分が何のために動いているのか、分かってないんだろ? そこにはアイツの計画が全部載ってる。それを見て、今一度自分の行動を省みろよ」
「…………、私は、お父さんの為にお兄ちゃんと国土の“巫女”を」
「それを行う根本的な理由は何だ。綾乃の件にしても、薄々は分かってるんじゃないのか?
「――!!」
そう、意味など無い。
綾乃の身体を触媒に“天照大神”との繋がりを保つと言っていたが、それは意味など持たない。
そもそもの“
俺の母親の場合は、初代大神との子を成したという血縁上の“縁”があり、それを利用して身体を乗っ取られた。
だが、子でもなく、血縁上の関係が他人に近い綾乃に対してそれは出来ない。不可能なのだ。
~~
『そもそもあの娘の家系、国土家は代々“国津神”を奉っていたからのぅ。その名の通り、“国土”に冠する家系じゃ』
なら何故、綾乃を狙うのだろうか。
『……いや、まさかの』
「どうした?」
口に手を当て思案顔をする諏訪神へと問う。モミジに話し掛けられてはっとなったが、直ぐに話題を変えた。
『それよりヒトガタの娘の事じゃ。自我を持たせ、自分という形を持たせれば自ずと“天照大神”は身体から出てくる』
「……そうすると、どうなる?」
『そこからは賭けじゃ。暴れるとしてもそうは“力”は出せんだろうが、今のお主なら確実に即死する。良くてそのまま結界の外に逃げるくらいじゃろうな』
かっかっかと他人事の様に笑う諏訪神に苦笑いする。いや、暴れられたら俺ごと四国が吹っ飛ぶだろう。
だからこそ、と諏訪神は此方を見据えて、
『お主の中の神性、その神柱に認めさせるしかない。そうすれば同じ“天津神”同士、話し合って穏便に事が進むかもしれぬ』
「やっぱりそこか」
結局は俺次第という事だ。あれから俺の中の“神性”に問いかけようとはしているのだが、中々に反応が無い。
以前の俺の窮地時、やっと重い腰を上げたのが神具“天叢雲”の方だった。その神柱も同じく、中々に面倒な性格をしているらしい。
『人間は追い込まれてこそ本性が出るからの。案外そこまで待っておるのやもしれぬ』
「マジかよ。前の時は四国が吹っ飛ぶ寸前だったぞ」
『まぁ、他人事じゃろうしの』
頭が痛い。どんな神格を持った神かは分からないが、面倒な神だというのはよく分かった。
最悪の場合、一生話すこともないのかもしれない。
~~
「どうした、読まないのか?」
此方を気遣うような口調に、思わずカッとなって武器を振るう。
今は戦闘中だ。余計な感情なんて要らない。
だが、簡単に流された攻撃に身体の動きが悪いことに気付いた。
……ムシャクシャする。
「俺達の父親は、平安の頃から身体の代替を行いながら生き延びた、呪術師の家系だ」
私が読まないと思ったのか、お兄ちゃんは口頭で語る。聞いてはダメだ。油断を誘うだけだろう。
「俺やお前の身体に神を降ろす理由は不明だ。だが、それを自身の御役目と感じた出来事があったんだろうな」
やめろ。
それ以上、お父さんを語るな。
「俺達の母親の事も書いてある。お前にはそう記憶がないんだろ?読めよ。此処に書いてある」
「うるさいッ!!」
此方を見透かすような態度に腹が立つ。お腹の中がぐるぐると気持ち悪い。
何でこんなにも苛立つのか、何で聞いてはダメだと分かっているのに聞いてしまうのか。
身体と心がバラバラになっている。今の私は、どうしたいのだろう?
「お前自身が言ってただろう。“分からない”ってさ。なら、これを読めば答えが書いてある」
うるさい。うるさい。うるさい。うるさい――!!
苛立ちと共に武器を振り上げる。技術も何も無い。ただ力任せに振り上げて、目の前の障害物を吹き飛ばす為の力を込める。
――殺してやる。
「“赤雷よ――!!”」
バチバチと迸る様に赤雷が長剣へと纏う。あらゆる物を破壊する災禍の雷は、少女の感情に呼応するようにその姿を猛らせる。
――お父さんの、
かの敵を滅ぼす災禍の雷を長剣に纏わせ、そのまま敵へと叩き込もうとした所で、
「――えっ?」
――赤雷が、長剣から解けるように搔き消えた。
◆
少女の動きが止まる。
それは驚愕か、それとも現状の把握の為か。
今モミジから理解出来ることは、少女の“神”としての権能が剥奪されたという事だった。
ガクンと少女の身体が傾く、持っていた長剣、
咄嗟に拾い上げようと少女が手を伸ばすが、まるで地面に縫い付けられた様に剣は動かない。
「何で……? どうして急にこんな……!」
「権能が剥がれた……?」
先程まで感じていた圧倒的な神威が欠片も無い。まだ多少の神力は感じるが、それも雀の涙程度だ。
周囲の気配を探る。幾つかのバーテックス等の反応はあるが、“天照大神”程の馬鹿げた神威の反応はない。
計画は、成功したのだ。
思わず笑みが浮かぶ。成功したのだ。後はこのまま、綾乃の所まで連れて行き、少女の魂を通して“天照大神”へと“呪い”を返すのみ。
一度は“天照大神”そのものと繋がっていた魂だ。まだ残りカスみたいな神力も残っている。成功する可能性は高い。
『何事だ……?!』
「あ……」
その場にへたり込んだ少女の元へ、一人の神官が姿を現した。見た目こそ大社の神官の格好をしているが、間違いない。神遣だ。
その傍らに人間型の不気味な異形が佇んでいる。まさかバーテックスとでもいうのだろうか。
少女の現状とそこから感じられる筈の神威が無くなったのを理解したのか、神遣の顔が驚愕と憤怒に染まる。
『貴様……、一体何をした?!』
「神様に元居た場所へと帰って貰っただけさ。後はお前だけだよ、お父さん?」
口に出して後悔する。お父さん等と、思ってもいないことは言うものではない。
育ての親ではあるが、俺にとっての父親は若葉の親父さんや爺さん、そして綾乃の伯父である和人おじさんだったのだ。
ここでコイツを討てば、綾乃の“呪い”を解く手掛かりの一つにもなるだろう。そして、和人おじさんの仇でもある。
コイツはここで仕留める――!
『……なるほどな。詰みか』
「だろうな。お前に俺が止められるならともかく、今はその子でも無理だぜ?」
『――そうか』
……何処か落ち着いた雰囲気の神遣に疑問を持つ。諦めた様には見えない。この程度で諦めるようなら、とうの昔にコイツの計画は終わっていた筈だ。
ならこの余裕は何だ。と考える所で、神遣が少女を抱き起こしながら言う。
~~
『お前も知っている通り、私の計画には絶対的な力が要るんだ。お前に降ろしていた、“天照大神”のような』
強引に“神”を降ろしていた反動か、身体が全く動かない。
そんな私を優しく抱きかかえながら、お父さんは続ける。
『お前の力と、奴の“魂”。その“魂”の神力を組み込むことで、バーテックスの力を更に昇華させる“御霊”が出来る』
……そう、それが最初の計画。
だが今は私から“天照大神”の権能が剥がされ、お兄ちゃんから“魂”を奪う方法が無くなった。
もう、終わりだ。
『私はな。ここで終わる訳にはいかないのだよ』
ぽつりと出た言葉。だが、強い決意を感じるものだった。
どうしたのだろう、と感じると同時に、背中から何かが刺さる感覚がする。
身体の中をうぞうぞと何かが動く。掴まれた感覚の後に、ブチブチと千切られる感覚が走り、急に来た咳きを出せば血がどばどばと吐き出た。
「お前、何を?!」
視界の端でお兄ちゃんが怒鳴る。動けない身体のまま放り出されると、お兄ちゃんが抱きかかえてくれたのが分かった。
お父さんは? と探せば、何かを持って立っていた。あれは、そう、見たことがある。
私の、心臓だった。
言葉が出ない。こひゅ、と掠れる様な呼吸しか出来ない。
私、ダメだったのかなぁ。もう一回で良いから、お話出来ないかなぁ。
私の身体を支えるお兄ちゃんのゴツゴツした手が、いつかのお父さんの手を思い出す。
――もう一度、頭を撫でて貰いたかった。
~~
「畜生ッ!!」
棍を振り上げ神遣へと振り下ろすが、すんでの所で避けられる。
少女の心臓は人型の異形へと取り込まれ、ムクムクとその形を変えていく。
『不完全だが“御霊”は成される。――天の遣いである星の御子よ、此処に来たれ』
「させるか!」
神力を最大まで練り上げ、棍を壊す勢いでそのまま異形へと叩き付ける。
轟音と衝撃波が起こり、手応えにモミジの頬が上がるが、土煙が晴れる毎に驚愕に染まる。
傷一つ無い、文字通り無傷だった。
『無駄だ』
神遣の声が聞こえる。
『今のお前の様な“仮初めの神の力”では、これには対抗出来んよ。これと同じ、本物の神の力でないとな』
異形は何時しか、形を取っていた。
先程よりも精巧な、人そのものの形を。
『……ふむ、やはり力が足りないか。十二星座の内の一つしか呼び出せないとは。だが、まぁ』
神遣が何か言っているが、モミジはそれどころではなかった。
少女の時とは違う、また別の威容。
神威はまだ小さい。だが、そこから感じる殺意や悪意が桁違いに高い。
近くに居るだけで危機感しか感じない。まるで何時爆発するか分からない爆弾が近くにあるみたいだった。
『さて、ではお手並み拝見といこうか。“レオ・バーテックス”』
神遣の言葉に、その名を呼ばれたバーテックスが反応する。
『手始めに、そこらのゴミを一掃しろ』
“レオ・バーテックス”
獅子王を冠する頂点の一角が、咆哮と共に牙を剥いた。
◆
「――何だ?!」
降り注いでいたバーテックスの侵攻が止まり、一度体勢の立て直しを行っていた若葉が異変に気付く。
何か巨大な、嫌な圧力を感じる。先程までのあの少女のとは別の力に警戒していると、音を立てて何かが吹き飛んできた。
周辺の細い木々を薙ぎ倒し、巨木の幹にぶち当たって漸く止まったそれはモミジだった。綺麗な紅葉色に染まっていた神官服が、ボロボロな上に血で赤黒く染まっている。
よく見ると、モミジの双子の妹であるあの少女が、ぐったりとした様子で抱かれていた。
「モミジ、どうしたこれは、何があった?!」
「わ、かばか。早く、逃げろ……っ!!」
「何を――」
「乃木さんっ!!」
かなり消耗しているモミジから話を聞こうするが、千景の切迫した声に振り向く。
他の“勇者”の面々が緊張した面持ちで睨むそこには、ぱっと見人と大差ない姿のバーテックスが居た。
だが、明らかな異質はそこから感じる濃厚な殺意。
「……戦闘態勢。気を抜くなよ、気を抜けば、」
不動のままのバーテックスに、居合いの型で“生大刀”へと手を掛ける。
切り札に躊躇してはいられない。それを理解しているのか、前衛の友奈、千景、歌野も同様に、バーテックスから目を逸らさず精霊を降ろす準備をしている。
後衛の球子と杏は理解してくれたか、“巫女”を護るためじりじりとシェルターへと向かう。
「――死ぬぞ」
バーテックスが、動いた。
「来い――
「駆けろ――
「刈り取れ――
「
四国を命運をかけた最終決戦が、今幕を開ける。
一応、強さの基準としては、
アマテラスいもうと=御霊入りレオ(今作)
↓
神花モミジ=禁忌精霊勇者
↓
普通精霊勇者=神遣
って感じで考えてます。