大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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とある仕事中の会話
「コロナ騒動のせいで仕事溜まってるよ、皆頑張ろう!死ぬ気で頑張ろう!」

「ヘイ上司。一日缶詰でも終わらへんぞ。これ何日予定や?」

「明後日」

「ふぁ?」

「明後日」

「ふぁっ?!」

「大丈夫、一日23時間頑張ればイケルイケル」

「イク前に逝きそうなんですがそれは……」

終わらせましたよ、そう、気合いでね……。

なお会社内死屍累々。

誰か助けて。





荒野より君へ告ぐ 2

蒼白い神聖な炎を纏う刀が、浮遊するバーテックスを切り裂いた。

 

――?!

――!!

 

切り払い、吹き飛ばし、焼き払う。あらゆる方法で次々とバーテックスを消滅させる中で、聞こえる疑念と叫び。

 

無理もない。自分達と同じ力を持ち、行使する者が次々とその味方に襲いかかるのだから。

 

人類という、滅ぼすべき悪へと振るわれる筈の神刀が、自分達へと向いているのだから。

 

 

『――――――!!!!』

 

 

レオ・バーテックスが咆哮を上げる。その意図を察した融合体や他のバーテックスが、裏切り者へと殺到する。

 

次々と作業の様に斬り殺されるが、レオ・バーテックスも準備を終えていた。

 

先程迄とは比べものにならない大きさ、熱量の火球が現れる。

 

足元の樹海が燃え上がり、レオ・バーテックスを中心に大規模な火災の様に火が広がった。

 

 

焼け死ね、とばかりに火球が放たれた。モミジの元へと通過する箇所を抉るように蒸発させながら、死を撒き散らす。

 

 

それを目にしても焦ることなく、モミジは“天叢雲”を握り直す。

 

 

「纏え、“神浄の雷”よ」

 

 

紡ぐ言霊。数瞬の後に、天から一条の雷が“天叢雲”へと落ちる。

 

雷を受けた神刀は、雷鳴の様な轟音を放ちながら蒼白い雷をその刀身に宿していた。

 

 

「“雷よ、不浄を祓え”」

 

 

迫る火球、そしてその奥で立つレオ・バーテックス目掛けて神刀を一閃する。

 

その直後、火球が弾ける様に消し飛び、そこから生じた雷がレオ・バーテックスへと直撃した。

 

最期の悲鳴を、苦痛の声を上げる事も無くレオ・バーテックスが消滅するのを見て、そこまでその戦闘を見ていた若葉達から信じられないと驚愕から声が洩れた。

 

 

「勝った……、のか……?」

 

「うん……、あっという間に終わっちゃった……」

 

 

球子と友奈が呆然と声を上げた。

それを皮切りに、力無く座り込んでいた若葉が“生大刀”を杖代わりに立ち上がるとモミジの元へと足を進める。

 

 

「モミジ!」

 

「おう、若葉」

 

 

若葉の声に、モミジが振り向く。いつもの、聞き慣れた返事に若葉に笑みが浮かぶ。

 

 

「先程の戦い、見ていたぞ。お前には何というか、いつも度肝を抜かれるな」

 

「若葉達が奮闘してくれたおかげだよ。俺一人じゃ、こうはなってなかった」

 

「……なぁ、モミジ。私の見間違いじゃなければ、お前は」

 

 

こうはなってなかった。というモミジの言葉に、若葉は言い淀む。

 

()()()()()()()()()。言外にそう言うモミジにどう話し掛けようかと考えれば、そこに声を掛ける者が居た。

 

 

「モミジさん、色々と聞きたい事があるわ」

 

 

――画面の中の“大神紅葉”の反応が消えたままのスマホを握る歌野を見て、若葉は無意識に息を飲んだ。

 

 

 

 

レオ・バーテックスを消滅させた時、一つの魂が放り出されたのが見えた。

 

まるで迷子の子供のように、当てもなくふらふらと浮遊するそれは、直ぐに自分の片割れの物だと気付く。

 

言葉に出さず、こっちにおいで。と念じればふよふよと漂いながら身体に溶け込むように入った。

 

前までの彼女が持っていた、悪意や殺意は微塵も感じない。疲れ、眠るように落ち着いたのを感じつつ、此方を見据える歌野へと向き直る。

 

 

その手に持つのは、大社から支給された“勇者システム”を内蔵するスマホ。

 

表示されるその画面は、皆の位置情報をリアルタイムで表示する物であり、

 

 

――“大神紅葉”の文字が、消灯した様に光を失っていた。

 

 

「お前達が思っている通りだよ。俺は一度死んだ」

 

「……っ」

 

「今の俺は偶々、本当の偶然から生き返っただけだ。いや、違うな……綾乃が助けてくれたんだ」

 

 

自分が死んだ。ということを何てこと無いように言うモミジへと、一同が言葉を無くす。

 

 

「今の俺は、“神樹”から敵と見なされた存在だ。この樹海化が解ければ自然と結界の外、つまり、四国の外へと放り出される」

 

「そんな……っ、どうにかならないのか?!」

 

「ならないな。……もう、どうしようもないんだ」

 

 

モミジの言葉に、若葉の脳裏に過去の記憶が蘇る。

 

大神家

 

天津神の因子を宿す子

 

ヒトガタの呪術

 

 

それを一緒に聞いていた歌野も、思い当たる節があるのか黙ってそれを聞いていた。

 

だが、そこへ待ったを掛けたのは球子だった。

 

 

「ふざけんなよ、モミジ……」

 

「球子」

 

「自分はダメだ。って言われて、納得出来るわけないだろ?! お前自身はどうなんだよ?!」

 

「そうだよ。要するに“神樹”様から認めて貰えたら良いんでしょ? なら皆で考えようよ!」

 

「友奈……」

 

 

球子と友奈の言葉に、嬉しさと恥ずかしさが混じった笑みが浮かぶ。

 

純粋に此方を気遣う彼女達の言葉に、こんな状況でなければ揺らいで居たかもしれない。

 

 

だが、もう無理だ。遅すぎるのだ。

 

 

「さっきのバーテックスを見たろ。四国の外は奴等でいっぱいだ。それに、さっきの様な進化体の事もある」

 

「……っ」

 

「そう。四国はもうジリ貧だ。防衛に全てを回し、抵抗という手段はお前達“勇者”しかない四国は、数の差で押し切られる」

 

 

その内容に、面々の顔が曇る。

 

そうだ。今回のこの一戦ですらこの有様。これが更に続くとなれば、自分達の身は保たない。

 

 

だからこそ、とモミジは言う。

 

 

「俺が、向こうの敵と交渉してくるのさ」

 

 

 

 

もうじき堕ちる。

 

 

さぁ、もう少しだ。

 

 

毒は回った。土地神の後ろ盾も無くなった。

 

 

あの身体は、私の物だ。

 

 

――さぁ、後もう一押し。

 

 

 

 

「交、渉……だと?」

 

「あぁ、交渉だ。だが、上手く行く確率は高い」

 

 

「……具体的に、どうするの?」

 

 

話の内容が分からず繰り返す若葉に返せば、歌野が目を細めながら言う。

 

彼女ならば知っているだろう。何せこれは、彼女が元いた諏訪の神様がとった行動なのだから。

 

 

「“国譲り”。四国、つまりは神樹の結界内のみを国土として認めて貰い、相手の神様へと許しを請うんだ」

 

 

かつての諏訪神。建御名方(タケミナカタ)建御雷神(タケミカヅチ)に負け許しを得るために行った神事。

 

諏訪から出ないことを条件に交わされたそれのせいで、四国への移動の際かの神は共に逃げることを断念したのだ。

 

 

「願うは四国内の長期の安寧。その間はバーテックスの侵攻は止めてくれって形でな」

 

「その供物は、どうするつもり?」

 

「勿論、俺だよ」

 

 

ヒトガタとして“神”を人の身で閉じ込め、かつ“天災”の引き金となった神の怒りをかった大神家。その子供ともなれば、供物には相応しいだろう。

 

 

「……モミジ、ふざけているなら怒るぞ」

 

「ふざけてないさ。至って真剣だ」

 

「っ、お前!!!」

 

 

球子が拳を握り締め振り上げる。

 

冗談でも何でもない、モミジは本気だ。

 

なら、止めるのは言葉ではなく行動で示すしかない、と。

 

 

だが。

 

 

「……ほら、こんなにもボロボロだ。こんなんで、これから先も戦うつもりか? 無理だろう」

 

 

握った拳は、モミジへと届く前にしっかりと掴まれた。

 

同時に気遣う様に言われた言葉に、球子に羞恥と怒りが湧く。

 

 

「だからって、モミジが死ぬ理由になるわけないだろうがぁッ!!」

 

「いだっ?!」

 

 

咆哮と共に放たれたのは、拳でも蹴りでもなく頭突き。石頭である球子の頭突きをモロに喰らい、モミジがたたらを踏んでよろめく。

 

 

「タマは“勇者”だ! なら、敵が強いっていう理由で逃げる訳には行かないだろ!」

 

「……タマちゃんの言うとおりだよ。私だって“勇者”だもん、なら、戦うときは私も一緒に戦うよ!」

 

 

球子、友奈の勇者服がその意匠を変える。

 

“禁忌精霊”ではないが、“一目連”に“輪入道”をその身に宿している。もうそこまで回復したのか、いや。

 

 

――神樹が、目の前の敵を討てと言っているのか。

 

 

「……球子の言うとおりだ。モミジが犠牲になる理由ではない。四国の平和は、私達だって無関係ではないのだから」

 

「そうね。モミジさんは一々自分だけで抱え込み過ぎだわ」

 

 

若葉、歌野も立ち上がる。言葉での説得は不可能、ならば、残った手段は力尽くだというのはその場の面々は感じていた。

 

 

 

「……そうか、分かってはくれないか」

 

 

――これは、“次”へと託すための戦いである。

 

“花”は散るまでに“種”を残し、次世代へとその種を存続させる。

 

そうやって地球上の生き物は、人間は今日まで生き延びて来たのだから。

 

 

「なら、本気で行くしかねーな。死ぬのは俺一人で充分だ」

 

 

――その為の礎となるのなら、それでも良い。

 

彼女達の為になら、俺は命を張ろう。

 

 

 

これは、“勇者”(かのじょたち)の物語ではない。

 

 

「……それが、どういう意味か分かっているのか、モミジ」

 

 

「――あぁ、理解してるさ。若葉」

 

 

 

花は咲かず、後に続く実や種も結ぶ事はない。

 

 

それでも。

 

 

「だから、止めるなら殺す気で止めに来い。じゃねーと……」

 

 

「……モミジぃ!!」

 

 

少年は武器を振るう。守りたいモノを守る。

 

 

たった、それだけの為に。

 

 

 

 

 

「――降りろ、“源義経”(みなもとのよしつね)

 

「――少しだけで良いわ、力を……、“覚”(さとり)

 

 

 

二人の意匠が変わる。目にも止まらぬ早さで駆ける武士、相手の予測を見通す妖に。

 

普段であれば軍師役である杏の指揮の下動くが、今回は違う。

 

 

これは、意地と意地のぶつかり合いだ……!

 

 

“生大刀”を抜く。駆け出す前に歌野を見れば、任せろとばかりにコクリと頷いた。本当に頼もしい限りだ、と足に力を込める。

 

体力は完全にではないが回復はした。モミジに勝てるかは分からないが、勝算はある。

 

 

「モミジ君、覚悟……!」

 

「っ!」

 

 

友奈の暴風を纏った拳を躱すのを見て、やはりかと確信する。

 

モミジは反撃しない、いや、出来ない。

 

 

普段の鍛錬でも反撃らしい反撃など滅多にすることはない。その甘い所は欠点ではあったが、今はその欠点に救われる。

 

友奈、球子の連撃に隠れ必殺の隙を見付ける。そこを、この精霊の神速とも言える速度で峰打ちを打ち込むのだ。

 

 

球子の盾により視界を遮り、歌野の鞭と友奈の拳で考える時間を与えない。

 

どれも当たれば今のモミジでも痛いでは済まない威力だ。だが気を緩めるな、じっと待て。

 

 

「はぁっ!」

 

「くっ……」

 

「貰ったわ!」

 

 

友奈の地面を巻き込んだ連打に、巻き上がる土煙の煙幕にマズいと思ったかモミジが跳び退く。そこを見逃さなかった歌野が、空中で鞭で雁字搦めに拘束した。

 

 

――ここだ……!

 

 

両手は塞がっている。空中に跳んで居るため、躱すことは出来ない。

 

“生大刀”を居合いの構えに落とし、呼吸と共にモミジ目掛けて全速、一拍の間に踏み込む。

 

 

「っ、お前ら……!」

 

「モミジ、取り敢えず今は寝ておけ!」

 

 

間合いは三歩半、後は峰打ちを首目掛けて――

 

 

「――強くなったな、本当に」

 

「……え?」

 

 

精霊が、いつの間にか消えていた。突然の異変に、打ち込む筈の攻撃が放てず止まる。

 

その瞬間に、蒼白い雷がモミジの身体から全方位へと放たれた。

 

 

雷により身体から力が抜ける。ダメだ、動こうにも上手く動けない。

 

友奈、球子、歌野もモミジの攻撃で気を失ったのか勇者服から普段の制服へと変身が解除されていた。

 

 

「流石は若葉だな、今の攻撃で気絶しないとは」

 

「な、にを、した……」

 

「ん、あぁ。俺の神様としての力、って言えば良いのかな。“御霊の使役”なんだがな。精霊を自由に操れるのさ、取り込んだり、――強引に剥がしたり」

 

 

なるほど、それでか。と納得する。全員の姿を視認するまで、待っていたのだと理解する。逃げる暇等与えず、一網打尽にするためだと。

 

 

「もう立つな。樹海化が解けて四国に戻ったら、綾乃の葬儀を頼む。穢れに染まってたから、よーく清めてな」

 

「ま、て……!」

 

「さて、取り敢えずはこの樹海の穢れも直しとくか」

 

 

モミジが手を地面へと当てる。目には見えない力の様な物が大地へと流れると、先程の戦闘の跡地がみるみるうちに直っていくのが見えた。

 

ひなたから聞いた、神力を流しているのか。

 

 

「全部は無理か……、まぁ、この程度なら大丈夫だろう。何なら、この後で奴等から補充出来る」

 

 

モミジが大地に刺していた神剣を抜く。ダメだ、このままでは行ってしまう。

 

 

「行く、な。モミジ……!」

 

「……何度も言ったろ。俺は、」

 

「それでも、お前に行って欲しくないんだ……!」

 

 

“生大刀”を支えに立ち上がる。今日何度も杖代わりにしてるな、そろそろコイツからも怒られそうだ。

 

 

「私もひなたも、お前の事は家族も同然だ。家族が死ぬことを看過出来るわけがない!それに、ひなただって……!」

 

「若葉」

 

 

一瞬の内にモミジの姿が消え、声が直ぐ後ろから聞こえた。

 

固い決意の、そこから微かに洩れた優しさを感じる声音で、モミジが最期に告げる。

 

 

「ありがとう。お前達と出会えて、本当に良かった」

 

 

バチリ、という音の後に身体が倒れて行くのを感じる。

 

行かせまいと手を伸ばそうとするが、ピクリとも動かせず若葉の意識は闇に消えた。

 

 

 

 

「――よぉ、お出迎えか?」

 

 

四国の結界の外へと踏み出せば、そこには埋め尽くす様にしてバーテックスが無数に浮遊していた。

 

ガチガチと歯を打ち鳴らすそれは、此方への明確な敵意。

 

 

神剣“天叢雲”を掲げる。これから始めるのは俺の償い、そして、四国の先を守るための“防人”としての役割。

 

 

「天の神よ、聞き給え! これより行うは我が咎の清算! そして、我が願いは一つ!」

 

 

……見えないが、何かバカでかい、巨大な気配を感じる。上空を見れば、広大な青空に透ける様にうっすらと、何か巨大な円盤の様な物が、あれは……古代の鏡だろうか。

 

 

「人類の健やかな安寧なり! 愚かな人間は変わる! ならばそれまでの間、手出しをしないでほしい!」

 

 

“天叢雲”が輝く。これから行う戦闘に高揚しているのか、モミジを鼓舞する様にその輝きを増していく。

 

 

「我に試練を! それを乗り越えし時、我が咎を赦し、人類に今一度の猶予を与え給え!」

 

 

モミジの口上が終わると共に、バーテックスの群が波を打ってモミジへと雪崩れ込む。

 

それに呼応するように輝く“天叢雲”に応えるように、神力を流し込みながらモミジは笑う。

 

 

「我が名は大神紅葉! 人類の守護を担う、防人だぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

どれ程の時が経っただろうか。

 

 

何日?何ヶ月?それとも年?

 

 

四国外の理が既に書き換えられているのか、夜が来ないままにモミジは戦い続けていた。

 

 

分かるのは、残るバーテックスが残り少ないという事だけ。

 

 

武器を振るう。疲労なんて物はない。武神の冠を持つかの神に、闘争による衰えなど無いからだ。

 

 

ただ、地形が大きく変わっていた。

 

結界の外にあった山々は何時しかその姿を消し、草原等の自然を感じる風景は見る影もない。

 

環境破壊の現行犯だ。焼け野原しか無ぇ。

 

 

飛来する進化体の攻撃を躱し、剣で薙ぎはらう様に斬る。

 

 

やはりというか、あの少女(いもうと)の魂を入れていたあの人型バーテックスが別格なだけだったらしい。同じような見た目ではあるが、コイツらは何というか、脆いのだ。

 

 

消滅を確認し、ふぅと地面に腰を降ろす。

 

 

疲労は無いが、精神的に来る。一日という概念が無いからか、気が狂いそうになるのだ。

 

 

上空にうっすらと見える鏡に、光が点く。円を描くように配置された十二の紋章が点り、とんでもない量の神力が集まるのを感じる。

 

 

――それこそ、世界を書き換える力が使役される予兆だろう。

 

 

攻撃ではない、ということは認められたのだろうか。

 

 

「どっちにしても、此処までだなぁ」

 

 

やれやれ、と地面に剣を刺す。お疲れさん、と言葉に出さず言えば役目を終えたかの様に輝きが消えた。

 

 

地響きの様な音に見れば、これまでに見たことのないような火球、いや、あれこそが太陽というべきだろうか。が地上へと降りてくる所だった。

 

 

地上に落ちると、大地を嘗めるように炎が這い燃え上がる。

 

 

四国の周りの海は一面の溶岩に、陸だった場所は赤く発熱する燃えさかる大地に。

 

太陽の表面に走るというプロミネンスによく似た炎が、至る所から舞い上がっていた。

 

 

呼吸と共に入る熱気に、これ生身だと一瞬で焼き肉になるなと苦笑いする。凄まじい熱気だ。

 

 

「……なぁ、おい。これで良かったか、綾乃」

 

 

唯一無二の相棒へと、確認を兼ねてポツリと呟く。神力が尽きてきた。もうすぐにでも俺は死ぬ。

 

 

返事など返ってくる筈がない。綾乃はちゃんと葬儀されただろうか、まぁ、若葉とひなたが居るから心配はしてないが、そこが心残りだ。

 

 

「さーて、次は綾乃探さねーとな。どっか遠くまで行ってないと良いんだが……」

 

 

ぐっ、と伸びをして欠伸をする。これから昼寝をするかの様に、一つ息を深く吐いて吸う。

 

 

「……悔いが無い。といえば嘘になるんだが、まぁ、一つ言うなら――」

 

 

ゆっくりと、大きな岩に背中を預けて目を閉じる。

 

夢見心地のまま逝くというのも、悪くはない。

 

 

 

「――アイツらと、もっと一緒に生きたかったな」

 

 

 

少しの時間の後、少年の身体は炎に包まれた。

 

 

大神紅葉の人生は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

 

土地神の集合体であり、四国の奉り神。“神樹”。

 

その中では、とんでもない騒ぎが起こっていた。

 

 

原因は、一つの神格。

 

 

ふらふらと迷い込んだそれは、余所者でありながらまるで自分の庭かの様に土足で踏み荒らしていた。

 

 

それに激怒した一つ神格。木っ端のそれを消し去ろうと躍り出るが、

 

 

「邪魔」

 

 

その未熟な神格からは考えられないその力に、蝋燭の火を吹き消す様に掻き消された。

 

 

周りの神が処罰をと“神樹”の主人格へと詰め寄るが、“神樹”は応えない。

 

 

とある一つの高位の神格は、「手出しせねば無害じゃ」と宣う始末。

 

 

だが、とある一つの魂を見つけてからは借りてきた猫の様に大人しくなった。

 

 

穢れが酷く、浄化に300年程掛かるだろうと見込む一つの魂をだ。

 

 

あれほどの暴れん坊が見初めた、穢れし魂……、神々の興味を引き、手を出すには充分な素材だった。

 

 

そして引かれる二度目の怒りの引き金。

 

 

そんな騒動に、神々を宥めていた高位の神格はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

時が経った。

 

 

花弁を纏う魂が、次々に流れてくる。

 

 

最初が姫百合(土井球子)、そして紫羅欄花(伊予島杏)

 

次に(高嶋友奈)、そして彼岸花(郡千景)

 

 

怒られた。泣きながら怒られた。

 

もっと話したかったと、何で考え直さなかったのかと。

 

時間を掛けて話して、やっと許して貰えた。

 

でもやっぱり許さないらしい。何故だ。

 

 

次に流れ着いたのは金糸梅(白鳥歌野)とそれに着いた黄緑色の魂(藤森水都)

 

 

怒ってはいたが、それも程ほどにこれまでの事を話してくれた。蕎麦屋をチェーン展開したのだとか、蕎麦愛凄し。

 

野菜を育て、そしてそれを配達するという事をしていたらしい。なるほど、夫婦営業とはこの事か?と言えば笑われた。

 

 

少し時間が経って流れたのは、気品を感じる赤色の魂(上里ひなた)

 

 

ずっと待っていました。と開口一番に言われた。怖い、顔が見えないのに怖いのは分かる。近くの綾乃も怯えていた。

 

説教もされた。こうして怒られるのは何十年振りだろうか。神になったし余裕、とは思ったが別物だった。誰か助けて。

 

 

怒られ、泣かれて、また怒られ……そうして待つが、肝心のもう一つが来ないままだ。どうしたのか。

 

 

聞けば、誰にも分からないのだとか。そろそろ来ても良い頃合いだ、遅れては、正しく逝くことが出来ない。

 

 

 

――迎えに行ってあげて下さいな。

 

 

 

彼女に言われ、分かったと二つ返事で飛び出した。

 

もしかすると、心の何処かではそう言われるのを待って居たのかもしれない。

 

 

 

 

 

少し前に、ひなたが逝った。

 

死因は老衰。大きな病気もせず、綺麗に逝った。

 

 

「――ふぅ」

 

 

眠れなくて、布団から出て縁側へと腰を降ろした。

 

闇夜を照らす満月の月明かりが、懐中電灯なぞ不要とばかりに明るく地上を照らしている。

 

 

――こんな夜は、あの日の事を思い出す。

 

 

皆で旅館に泊まりに行った、あの日の夜の事を。

 

 

「……そろそろ寝るか」

 

 

茶を飲み干し、ただぼぅとしているのも嫌になり寝ようと思う。

 

年寄り臭いとあの二人にはよく笑われていたな、と思い返すと声が聞こえた。

 

 

「ん、旨いなぁ。この緑茶、良いとこのか?」

 

「――」

 

「んだよ、呆けた顔して。……あ、もしかして忘れ去られてる俺?」

 

「……忘れるものか、この馬鹿者が」

 

 

大神紅葉が、そこに居た。

 

あの日と変わらない、年相応の笑みを浮かべて。

 

 

~~

 

 

「――怖いなー、ひなた。そんな事したなんて」

 

「……お前が救った平穏を守るためだ。ひなたも、私も、それしか考えられなかった」

 

「……そっか」

 

 

俺が綾乃を探してる間、四国で起きていた歴史を聞いていた。

 

何でも、また“天の神信仰”が復活していたとか。そしてそれを掃討する組織が在るとかないとか。

 

 

二人とも、子宝には恵まれたらしい。その事について語る若葉の顔は、少し誇らしげだった。これが親の顔か。

 

 

「……モミジは、どうなんだ?」

 

「綾乃も見つけて、他の皆も一緒に居るよ。そろそろ頃合いなのに、中々若葉が来ないーって、ひなたが文句言ってたぞ」

 

「ふふっ、そうか。ひなたは何時まで経ってもひなたらしい」

 

 

嬉しそうに笑う。ひとしきり笑うと、何処か神妙な面持ちで若葉が言う。

 

 

「……これからの事を考えていてな。大丈夫なのだろうか、と」

 

「人類がって事か?」

 

「あぁ。あの“天災”を知る者は、おそらくもう数える程しか居まい。あの恐怖が、あの苦痛を知る者が居なくなる時、どうなるかと考えてしまう」

 

 

湯呑みに口をつける。少し前まで熱かったそれは、冷めたのか飲みやすいぬるめの温度にまで下がっていた。

 

お前ならどう考える。と言われ思う。そうだなぁ。

 

 

「分からねーな」

 

「……そうか」

 

 

モミジならば、答えを出してくれるかもしれない。

 

そんな淡い期待を持っていた若葉だったが、予想外の答えに正直落胆した。

 

 

「……それが、心残りか?」

 

「……え?」

 

「“この先、人類が正しく歩めるのか”。それが心残りかって聞いてる」

 

「あ、あぁ……」

 

 

若葉が突然の事に言い淀んでいると、よし、とモミジが立ち上がる。

 

 

「お前の願いなら叶えない訳にはいかないな。特別に叶えてやろう」

 

「ど、どうやってだ?!」

 

 

困惑を隠せない若葉に、落ち着け、と促して得意気に指を立てる。

 

 

「“大神紅葉”の名において、乃木若葉、お前の願いを聞き届けよう。これより行うは花より花へ。命のバトンとも言える魂のリレー」

 

 

散り際に残す“次”への種。

 

それが芽吹くか、それとも枯れるか、それは神にだって分からない。

 

花から花へ、その魂のリレーとも言える繋がりを結ぶ儀を、こう呼ぶとしよう。

 

 

「“花結いの儀”。若葉、お前自身の目で、未来を見定めてこい」

 

 

此方へと差し出されたモミジの手の平で、一輪の桔梗が淡く光ながら花を咲かせる。

 

嘗て当たり前の様に感じていた力が戻るのを感じながら、若葉の目の前が光に包まれた。

 

 

 




さぁ、ここからが(自分的な)本編。ゆゆゆい始まるよー!深夜テンションです。前書き見て察して。

もうちょっとだけ進むんじゃ的な感じなので、そこまでドシリアスは無いかな。ゼロではないけれど。

簡単な説明。その後の勇者、そのお付きの巫女組。

大神紅葉→死亡
国土綾乃→死亡

乃木若葉→子供出来る。大社総合トップ

上里ひなた→子供出来る。大社巫女トップ。でも若葉を抑えつけられるから実質の総合トップ。

土井球子→子供出来るが勇者の力は引き継がれず。警備隊教官としての道を歩む。

伊予島杏→子供は出来ず、その代わりというか孤児院を設営。晩年は大社の書庫の管理人に。

高嶋友奈→戦いの終わりを知り神具を神樹へ返還。大社から身を引いて彼女が望む平凡な人生を進む。若葉の願いで名誉家系としての名は残る。

郡千景→友奈と同じく、大社から身を引いた。名誉家系としての名は残る。子宝に恵まれ、隣人の高嶋家と共に平凡な日々を送る。

白鳥歌野→ホワイトスワンファームを設営。四国の野菜事情を牛耳る程に。ついたあだ名が農業神。結婚はするが、子供は無し。

藤森水都→ホワイトスワンファームから出荷する物流センターを経営。四国一の企業へ。ついたあだ名が物流神。これもう分かんねぇな。キャリアウーマン一筋で結婚せず。
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