大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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大変長らくお待たせしました……orz

体調不良、戻らない体力、夏バテのコンボをくらい寝込んでいた次第です( ・ω・)

相も変わらずの拙い文章と語彙力ですが、それでも楽しんで頂けたらと思います。




結ぶ歴史 8

 

「――私が知ってるのは、これで全部だよ」

 

 

ふぅ、と肩の力を抜くように脱力する赤嶺。何処か達成感やスッキリしたような印象を与えるその表情は、若葉への後ろ暗い感情があったからだろうか。

 

 

「……その後の事は知らないのか?」

 

「その騒動の後、直ぐに此処に……って状況かな」

 

「そう、か」

 

 

仮面の巫女、すなわち国土梓の安否を気にしていた若葉だが、返ってきた赤嶺の分からないという返答に気落ちした様に肩を落とした。

 

腕を切り落とされる程の深傷だ。出血多量で大事になる前に保護するのが最優先だと思っているのだろう。

 

 

「でも、さっきの夜の樹海で出会った時には両腕じゃなかったかしら?」

 

「多分、義手を着けてるんだと思う。……あの人、少しだけなら植物を操る力を持っていたから」

 

「……そうか」

 

 

"植物を操る力"。と聞いて幾つかの目線が此方へと集まったのを見て、モミジは思わず苦笑いを浮かべた。

 

神力というのは、そもそもがその神様を信仰、または同じ宗派に属せれば同じ神力に染まる傾向がある……というのを和人おじさんから聞いた事がある。

 

神樹で言えばひなた達"巫女"へ神託をスムーズに受け取らせる為だったり、悪い道へと進む信徒を引き留める為だったりするらしいが、真相ははっきりとは分からない。

 

 

だけど。

 

 

「……? モミジお兄ちゃん、どうかしたの?」

 

「んー? 何でもないよー」

 

「……えへへ、変なのー」

 

 

信仰とみなす程にモミジの事を想ってくれていた梓に、そして仮面の巫女へと今更ながら何と言えば良いか分からず取り敢えず頭を撫でる事にした。

 

頭を撫でられながら疑問符を浮かべ梓が此方を見上げるが、モミジの返答にも嫌な顔を一つしなかったので本人も満更ではないのだろうか。

 

 

「話を進めよう。……綾乃はどうなったんだ?」

 

 

慎重に、言葉を選ぶように若葉が問う。

 

言葉が少ないのは、幾つかの禁句を取り除いた為か。

 

本当はこう聞きたいのだろうと、同じく綾乃を知る西暦の四国の面々は理解していた。

 

 

"綾乃の遺体はどうなったのか"

 

"国土亜耶は国土綾乃の血縁なのか?"

 

 

幼い梓や亜耶本人に聞かれるのも……という事で濁した言葉であったが、モミジには届いたらしく頷いて返した。

 

 

「あの戦い……終末戦争の後、大社としても、人類史としても大きな出来事があった」

 

 

一つは、"天の神"からの人類への猶予

 

"防人"大神紅葉が成した、バーテックスの殲滅戦。

それでバーテックスの全てが死滅した訳ではないが、あの時代に居た物は全てその際に消滅している。

 

つまり、人類がバーテックスに攻められる事は一時的に皆無となった。

 

結界の外が一面の地獄と化したのと同様に、これは神樹、そして大社のごく一部の人間しか知らないトップシークレットとなる。

 

 

「戦いは終わった。次に動いたのは、"勇者"、"巫女"と呼ばれる者達だった」

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん、これ」

 

 

話がある。という理由で呼び出された若葉を待っていたのは高嶋友奈だった。

 

お互いに忙しく、ここ数年は会っていない間柄であったが久しぶりに会った彼女は変わらず元気そうだ。

 

 

「友奈……、これは」

 

「うん。私にはもう、必要ないかなってね」

 

 

差し出されたのは、彼女の"神具"である"天の逆手"の籠手。

 

バーテックスと戦う際の大きな武器である筈だが、これをどうするというのか。

 

 

「必要ないって……、どうして?」

 

「……えーっと、ね」

 

 

嫌われた訳でも、裏切られた訳ではないだろうという想いはある。

 

突然の事に若葉が友奈へと聞けば、友奈は少しの間の後に口を開いた。

 

 

「昔、モミジ君が言ってたから。私の、私が思う道を進めば良いって、それを応援するって」

 

「っ」

 

「私は、皆で守った今の平穏の中で幸せを探したいの」

 

「幸せ……をか?」

 

 

モミジ。という彼の名前を出され若葉が僅かながら身構える。それを知ってか知らずか、友奈は若葉へと続けた。

 

 

「美味しい物を食べて、綺麗な景色を見に行って、新しい事を始めて……。好きな人と恋愛して、結婚して、その人と家族になって――」

 

「そんな、平凡だけど小さな幸せを、私が選んだ幸せを……モミジ君と綾ちゃんに教えてあげたいんだ」

 

 

「――っ」

 

 

「……だからね。"勇者"高嶋友奈は平和な今の四国にもう要らないの」

 

 

ギュ、と拳を握る友奈と目が合う。

 

何故だか、その目と目を合わすことが出来ず直ぐに反らしてしまった。

 

 

「私の"勇者"としての覚悟は、次の"勇者"に託したいから」

 

 

手渡された"神具"が、布袋にあるそれがズシリと若葉の手にのし掛かる。

 

重い。物理的にではない。友奈の言葉が、彼女の想いが乗っているが故に。

 

 

――"神具"の返還は、友奈だけの話ではない。

 

 

球子が、杏が、千景が。

 

若葉と諏訪の神様から頂いたという歌野以外が、全員"神具"を返還している。

 

皆、それぞれの理由があった。

 

だが、その中でも友奈のその言葉に若葉は大きく揺さぶられた。

 

 

――モミジ。綾乃。

 

――お前達の魂は、今も皆の中で生きているらしい。

 

 

「……若葉ちゃん?」

 

「――む、すまんすまん。ぼーっとしていた」

 

「えぇ?! 大丈夫?! 大社のお仕事そんなにキツいの?!」

 

「まぁ、暇ではない……。それより友奈。先ほどの"神具"の件、確かに預かるぞ」

 

 

コロコロと感情をはっきり出す彼女に、相変わらずだなと思いながらくすくすと笑みを溢し若葉は"天の逆手"が入った布袋を抱える。

 

 

この想いは無駄にはしない。

 

更に先の時代へ。血脈の様に、"勇者"と呼ばれる者達が彼女の想いを受け取れる様に。

 

その資格を持つ者が、いつの時代か現れる様に。

 

 

~~

 

 

大社本部。

 

その奥にある"神樹"を奉る本堂。

 

 

その場所へと、ひなたはゆっくりとした足取りで進んでいた。

 

本堂へ入る大扉を前にして、自分が緊張していることに気付いて一つ息を吐いた。

 

 

「――ふぅ」

 

 

大丈夫だ。大丈夫だ。……大丈夫だ。

 

 

胸に手を当て呼吸を落ち着かせると、神事に挑む時の様な心持ちで扉へと手を掛ける。

 

ぎぃ、と音を立て扉を開ければ幾度か見たことのある注連縄(しめなわ)とそこに鎮座する"神樹"を見つけた。

 

そして、その隣にある一つの棺桶も。

 

 

「神樹様。役目を終えた勇者から、武具の返還を承りました。此方をお納め下さい」

 

 

"天の逆手"を布袋から取り出し、神樹へと奉る台座へと置く。

 

今までの"神具"も納めてきたが、そのどれもが何時の間にか姿を消している。

 

神樹からの神託もないので、特に問題があるという訳ではないだろうが。

 

 

「……覚悟、ですか」

 

 

"神具"を預かる際に若葉から言われた言葉を、ふと思い出す。

 

"神具"を奉り、去り際に目に入ったそれを見ながらぽつりとひなたは呟いた。

 

 

"国土綾乃"と名前が彫られた、()()()()()()を。

 

 

「――"国土"という、"国津神"に関わりある名を持つ綾乃ちゃんを吸収して、神樹様は結界の維持を安定されました」

 

 

身体を清め終わり、棺へと納棺した筈なのに葬儀になって遺体が消えていたのを、今でも覚えている。

 

あの時は驚きもあったが、同時に例えようのない怒りが沸いたものだ。

 

 

「"人類存続の為に、堪えてください"……でしたっけ」

 

 

綾乃が消えた動揺から神託を受けきれず困惑していたひなたへと、神託を受けた別の"巫女"が言った言葉だ。

 

ふざけるな。と口に出そうなのを必死に堪えた記憶がある。

 

だが。

 

 

「……自分一人の感情で動かず、"次"を、未来を考えて行動しなければならないんですよね」

 

 

自分本意な、子供の様な考えはもう出来ない。

 

私は四国を守護する大社、そしてその守り神である神樹の"巫女"なのだから。

 

だから、"覚悟"を決めなければならないのだ。

 

それが、彼や彼女に対する一番の恩返しになるのだろうから。

 

 

「――ひなたお姉ちゃん」

 

 

声に振り向けば、入り口のドアの所に見慣れた少女の姿があった。梓だ。

 

本来は下の"巫女"は立ち入り禁止。怒られるだろうな、と不安げな顔をして此方を見る彼女に、思わずくすりと笑ってしまった。

 

丁度良かった。話があったのだ。

 

 

くいくい、と手招きすればぱぁと笑顔になって此方へと駆け寄って来る。

 

……ここまでの道のりといい、手慣れた風の入室といい。

 

 

「さては初犯じゃありませんね?」

 

「ぎくっ」

 

 

梓が分かりやすいリアクションを浮かべ冷や汗をかいている。

 

その様子にはぁとため息を吐いて、何時の間にかさっきまでとは違い、自身の肩の力が抜けているのを感じた。

 

 

「綾乃ちゃんを見にきたんですか?」

 

「……うん。もしかしたら、帰ってないかなって。モミジお兄ちゃんも」

 

「そうですね……。私も、ここに来ると緊張します」

 

 

嘘や気休めではない。

 

神樹から告げられたのは、"神力の補充の目処が立つまで"だった。

 

 

つまり、遺体が返って来る可能性はゼロではない。

 

 

「何時になるんでしょうかねぇ」

 

「私の"予知夢"でも分かんないや……」

 

「まぁ、神様の事ですからね。……それはそうと、梓ちゃん」

 

「なぁに?」

 

 

しょんぼりと気落ちする梓の頭を優しく撫でながら、伝えようと思っていた本題をひなたは切り出した。

 

 

「実は、綾乃ちゃんが居なくなった事で"国土家"の血筋を引く者が居なくなったのです」

 

「そうなんだ?」

 

「はい。それで、梓ちゃんに"国土"の名を継いで貰えないかなと」

 

「……え?」

 

 

家名というものは、読んで字の如く家の名そのものを表す。

 

今の四国の、特に大社にとっての"国土"の名は"勇者"と同等に重要な物だ。

 

以前、綾乃本人からはどーでも良い物よ。と煎餅を齧りながら聞かされていた梓だが、自分が今どんなに大変な場にいるかは直ぐに理解できた。

 

 

「で、出来ないよ?! 私なんかじゃ、とても……」

 

「若葉ちゃんや、他の皆からの賛同は得ています。それに……この話は、元々綾乃ちゃんからでして」

 

「綾乃お姉ちゃんから?」

 

「はい。"アタシの弟子は、アタシの家族も同然"と。修行の終わりと共に、伝える予定だったそうですよ」

 

「そう、なんだ……」

 

 

ゆっくりと、胸に手を当てて噛み締める様に言葉を嚥下する。

 

自分が学んだ事、あの二人から伝えられた事を思い出し、ひなたを見上げた。

 

 

「私、まだまだ未熟だよ」

 

「えぇ」

 

「綾乃お姉ちゃんから教わった"力"も未完成だし、祝詞も唱えられないし」

 

「そうですね」

 

「それでも……。こんな私でも、綾乃お姉ちゃんは家族だって認めてくれるかな?」

 

 

きっと。

 

あのずぼらな彼女がこの場に居れば、気恥ずかしさから真っ直ぐには答えてないかもしれない。

 

でも、答えは決まっている。

 

 

「"当たり前の事を言うんじゃないわよ。嫌だって言っても逃がさないからね"」

 

「――!!」

 

「あの子なら、綾乃ちゃんならそう言うでしょうね」

 

 

一瞬。綾乃の姿を幻視してしまう程に言われたその言葉に、梓は流れる涙を袖で拭う。

 

そんな彼女をゆっくりと抱き締め、ひなたは言う。

 

 

「決まりですね。……貴女はこれから、以前の"望月"から"国土"の名を継ぐ事となりました」

 

「はい……!」

 

「"国土綾乃"の名を汚す事のないよう、その名に恥じぬ働きを期待します」

 

 

ひなたの言葉に、涙を拭うと強い決意を宿した眼で梓――国土梓が頷いた。

 

"大社"は"大赦"と名を改めた。大神紅葉の働きにより、敗北を認めた人類が"天の神"から赦しを得た……そんな意味合いを込めて。

 

だがそれでは終わらない。人類は、いつかきっと"天の神"の支配を打ち破るのだ。

 

 

その為に一歩一歩、着実に"次"へと進んでいこう。

 

 

それが、上里ひなたが決めた"覚悟"だから。

 

 

 

 

「そして、その"国土"の名を継いだ"巫女"は無事子宝に恵まれましたとさ」

 

「……なるほど、その人が亜耶ちゃんのご先祖様って訳ね」

 

 

所々の人物の明確な名前を伏せ、何とか説明を終える。

 

真面目な顔して聞いていた芽吹が納得するようにうんうんと頷いた。その近くに居た当の亜耶は、ほへーと気の抜けた顔をしていた。どうしたんだ。

 

 

「どうかしたか?」

 

「あ、いえ。ご先祖様が、そんなに凄い方とは知らなかったので」

 

「あら、文献とか残ってないの? "巫女"なら修練方とか残すでしょ」

 

「それが、全く残っていないんです……」

 

 

申し訳なさそうに肩を落として返答する亜耶。

 

おそらくだが、綾乃のデータを抹消した際に一緒に処分したのだろうか。

 

当時は結構ごたごたしていたらしい。あまり考えず綾乃に関係ある、という事で取り敢えず処分したのだろう。

 

 

「ま。色々な人間の思惑やしがらみによって、いろんな事が起きたって訳だ」

 

「わー、凄く大雑把に纏めた」

 

「長い説明は苦手でな。分かりやすいだろ?」

 

 

多分今の話を理解してないであろう高嶋の友奈――もう高奈で良いや。に笑顔を向ければ、それもそうだねと返事をした。

 

 

「……本当に、色々とあったんだな。あの後の四国は」

 

「人類にとっての歴史の切り替わりそのものさ。"天の神"からの猶予に人間同士手を取り合い繁栄を望むか、はたまた絶滅を選ぶかのな」

 

「神世紀の四国は見ての通り平和だから、皆が尽力したんですね」

 

「そうだな。球子に杏、お前ら二人も大赦の人間として動いてたらしいぞ」

 

 

しみじみと、讃州中学と"防人"の面々の顔を眺めながら球子が呟く。

 

神世紀の四国へと転移して、一段とその平和を感じていた杏が笑みを浮かべて同意するようにそう言った。

 

 

――その時だった。

 

 

最初に異変に気付いたのは、人数が増え動かしていた物をいそいそと整理していた風。

 

手を滑らせた拍子に落ちた書類が、ぴたりと空中でその動きを止める。

 

 

「――まさか、こんなに早く……?!」

 

「お姉ちゃん!」

 

 

風の言葉に、不安を煽られた様に妹の樹が声を上げる。

 

助かったとはいえ、危うく大怪我を負う場面があったのだ。不安も大きいのだろう。

 

気遣うように樹を庇う風を見て、若葉が冷静に指示を出す。

 

 

「皆、疲労があると思うが堪えてくれ。全員でかかれば――」

 

 

問題ない。と言おうとした所で、モミジが遮るように手を上げる。

 

 

「どうした、モミジ?」

 

「悪いな若葉。今回は俺に行かせてくれないか」

 

「何……?」

 

 

神力を含め、強い力を持っているとしても中々に危険な試みに若葉の眉間に皺が寄る。

 

 

「それは自惚れか、モミジ」

 

「そんなのじゃないさ。俺が此処に来た理由、まだ話してなかったろ」

 

 

御馳走様でした、と茶碗を置いて椅子から立ち上がれば、いつの間にか園子(小)に拉致られていたサンチョを頭からむんずと持ち上げる。

 

 

「あぁ~……、サンチョがぁ……」

 

「これが無いと困るんでな。ちょいと返してくれよ」

『すぃ、むーちょ』

 

 

サンチョを奪還された事にショックを受ける園子(小)へと、銀と須美が慰める様に声を掛ける。

 

 

「お前あれ一杯持ってるだろー?」

 

「あの色合いは見たことないからレア物なの~! 良い感じの23cmだったしー」

 

「分かるよそのっち、あれは何処で買ったか是非聞かないとだね!」

 

「わ、分からないわ……23cm」

 

「私もよ、須美ちゃん……」

 

 

樹海化の光が迫る中、行われたそんなやり取りに思わず笑みが溢れた。

 

 




直ぐに投稿出来るかは分かりませんが、足りない頭を使って誠意執筆中ですので、お待ち頂けたら幸いです(*´ー`*)
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