大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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展開練り直してたら気付けば大分経ってました……(*´ー`*)許して。

数話は伏線や若干話を進めながらも軽い話で行こうと思うので、またお付き合い下さいまし。

それではどうぞ( ・ω・)


緊急時には開き直りが大事

 

――空を見上げれば、上空をゆったりと飛ぶ(とんび)の姿。

 

ぴーひょろろー、なんて気の抜ける鳴き声を聞きながら、鷲尾須美はふっ、と一息笑う。

 

 

「遭難してしまった……」

 

「そうなんよ~……、なんちゃってー」

 

「園子。流石に今のは良くない」

 

 

鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀の三人娘は、何処か知らない山で絶賛遭難中だった。

 

 

~~

 

 

事の始まりは、一匹の仔犬。

 

仔犬が多く産まれた、家では飼いきれない為に里親を探してほしい。という勇者部では割りとよくある依頼なのだが……。

 

 

「ひっ?!」

 

「あら、本当にダメなのね。須美」

 

 

勇者部部長である風が抱き上げた仔犬を見て、短く悲鳴を発する須美に意外そうな顔をした。

 

 

「嫌いなの? こんなに可愛いのに~」

 

「い、いえ。今まで生き物と触れ合う機会がなかったもので、どう接したら良いか分からず……」

 

「なら、抱き上げてみれば良いじゃない。ほれほれ」

 

「ひぃぃ?!」

 

 

結奈(ゆうきゆうな)からの質問に冷や汗を流しつつ答えると、それを聞いた風が腕に抱いていた仔犬を須美へと近付ける。

 

それだけで、須美は悲鳴と共に部屋の隅まで後退りした。

 

 

「あまり、須美ちゃんを虐めないで下さい。風先輩?」

 

「ごめんごめん。普段冷静沈着の須美が、あんな反応するなんて珍しいから……。東郷は、平気なのね」

 

「私は、勇者部の依頼で動物の相手に慣れましたから」

 

 

須美をからかって面白がる風へと、美森がため息混じりに注意する。

 

平気なのか?と差し出された仔犬を、美森は笑顔でゆっくりと撫でた。

 

 

「な、なるほど。慣れ、なんですね……!」

 

「そうよ、須美ちゃん。こんなに大人しい仔なんだから、怯えずに触ってみて?」

 

「は、はい……」

 

 

風に抱えられ、美森、結奈(ゆうな)が楽しそうに触れ合っている姿に須美の警戒心が徐々に緩んでいく。

 

ちょっとずつ、ちょっとずつではあるが、震える手でそーっと仔犬へと手を伸ばす須美を見て、仔犬の尾がぶんぶんと振るわれた。

 

 

――余談ではあるが、ここで一つ"仔犬"について説明をすると。

 

仔犬とは、大きくなった成犬と比べ遊び盛りである。

 

同じ様な雰囲気の犬吠埼風、結城友奈、東郷美森の反応はこの仔犬からすると"見慣れた反応"。

 

だがしかし。

 

びくびくと、何かに怯える様に此方に手を伸ばして来る鷲尾須美という少女の反応は、"初めて見る反応"だった。

 

では、何が起こるか。

 

 

「わふっ!!」

 

「うわっ」

「ひゃ?!」

 

 

その身を大きくくねらせ風の腕からの脱出を成功させると、その光景を見て驚く須美(おもしれーやつ)へと一直線に走り寄る。

 

ここで覚悟を決めて仔犬と触れ合えば、後の事を思うと楽だったのだが……。

 

 

「いやあああああ?!」

 

「わふーっ!!」

 

 

「す、須美ーッ?!」

「わっしぃー?!」

 

 

「あ、ちょっと。アンタ達?!」

 

 

悲痛な叫び声と共に、追い掛ける仔犬から部室を出て逃げる須美を銀と園子(小)は即座に追い掛けた。

 

後ろから掛かる風の声を無視して、三人と一匹はどんどん讃州中学から離れていく。

 

 

商店街で。

 

「何処まで追い掛けて来るのー?!」

 

「はっはっ」

 

 

「おーい、待てよ二人ともー!」

「わっしー止まってぇ~」

 

 

橋の上で。

 

「ぜぇ、……こ。ぜぇ、ぜぇ、来ないで……」

 

「わふ……わふ……」

 

 

「おま、えら、……いい加減、止まれ……」

「ひぃー、ひぃー……」

 

 

森の中で。

 

「もう……無理ぃ……」

 

「わ、ふ……」

 

 

「やっと……、おい、ついたぁ……」

「…………」

 

 

滝の様な汗を流しつつ、ばたりと倒れる須美と仔犬。

 

それに肩で息をしながら追い付いた銀の背中には、酸欠で青い顔をした園子が背負われていた。

 

 

ぜぇぜぇと激しく身体で息を整えて居ると、何やら生暖かいモノがペロリと顔を撫でた。

 

驚いて目を見開くと、仔犬が須美の顔を舐め上げる。

 

 

「く、くすぐったぃ……!」

 

「あはは。その犬に気に入られた様だな、須美は」

 

「えぇ?!」

「わふっ」

 

 

銀の気に入られた、という言葉に須美が驚きの声を上げると仔犬が肯定するように尚も舐める。

 

そんな仔犬を見て、そーっとその身体を撫でればもふもふとした毛並みの感触が手に伝わった。

 

 

「ふ、ふふ……」

 

「どうしたー、須美?」

 

 

仔犬を撫でながら力無く笑う須美に、銀が疲れて気でもおかしくなったかと不安そうに須美を見る。

 

だが返ってきたのは、苦笑する須美の顔。

 

 

「何で仔犬にあんなにも恐れてたのか、って馬鹿馬鹿しくなっちゃって。落ち着いて見れば、こんなにも可愛いのに」

 

「だろー? アタシもよく拾ったりしてたけどさ、どんな奴でも可愛いんだぜ?」

 

「そうね。……あら」

 

 

銀のトラブル体質なら、よくそういった出来事も多そうだな。と微笑んだとき、ぴたりと手が止まった。

 

 

そういえば、此処は何処だ?

 

 

「……銀。此処が何処か分かる?」

 

「へ? 何処って……山のなかだな」

 

 

~~

 

 

そして、冒頭へと戻る。

 

 

「何処か目印になるものって有るかしら?」

 

「木がいっぱいあるなぁ」

 

「それは目印とは言わないのよ!!」

 

 

道無き道を掻き分けて進むが、行けども行けども森の中。

 

先ほどのマラソンの疲れもあるのか、三人と一匹の顔に疲弊の色が見えた。

 

 

「――にしてもさぁ。どうする?」

 

「……最悪、"勇者システム"を起動して走って帰る? 球子さんが以前愛媛に"カガミブネ"でテレポートした時みたいに」

 

「そうだね、そうしようよ」

 

 

日がだんだんと傾いて来て、空に朱色が混じり始めるのを見て須美がそう提案する。

 

"樹海化"や鍛錬以外で変身するな、とは言われているが今回の場合は特別見逃してくれるだろう。

 

 

その時。

 

 

きゅるる~、という音が鳴り、音の出所を見れば仔犬がぐったりと銀の腕の中で項垂れていた。

 

音に気付いた三人が互いに顔を見る。須美が取り出したスマホには、もう少しで夕飯刻といった所だ。

 

 

「お腹が空いたのね」

 

「うー、私もお腹減ってきたよー」

 

「アタシも。……ってうわ、風さん達からメールや電話がバンバン来てる?!」

 

 

銀が此方に見せてきたスマホの画面には、風を始め他の勇者部のメンバーからのメールや電話が数多く入っていた。

 

最初は"何処に行ったの?"や"大丈夫?"等の心配を思わせるメールだったが、終盤の方では"取り敢えず連絡しなさい!"等の焦りや不安を抱えているのが見える。これは不味い。

 

 

「急いで連絡しないと……って圏外ぃ?!」

 

「私もよ……」

 

「い、急いで戻らないと……!」

 

 

不安を募らせて、警察や大赦等に連絡されては大事だ。

 

それを焦った三人がスマホを操作するが、"勇者システム"を起動させようとした園子の顔が青ざめて行く。

 

 

まさか、嘘よね……?

 

 

園子の反応に、須美も恐る恐るスマホの画面をタップする。本来であれば勇者服へと変身するそのボタンを押せば、

 

 

"精神の不安定、または霊道を確保出来ない為変身不可能です"

 

 

「嘘、でしょ……?」

 

 

何処か知らない森。

 

もうすぐ訪れる夜。

 

何の装備も持たない三人(と一匹)。

 

 

――言い逃れ出来ない程に、三人は遭難していた。

 

 

 

 

喉が渇いた。お腹も減った。

 

 

ぐるるー、と音を立てる腹を擦りながら、須美達は森を彷徨って居た。

 

日は遠の昔に完全に落ちた。月は出ているが、木々の葉に阻まれ森には静寂と暗闇が広がっている。

 

 

「くぅーん……」

 

「大丈夫だ。銀様が無事に帰してやるからな」

 

 

先頭を歩く銀が、力無く鳴く仔犬にニシシと笑いかける。

 

時折ふらふらともたつく足は、彼女の体力が限界に近いことを知らせる物だろう。急がなくては。

 

 

それにしても。

 

 

「この森、おかしくない……?」

 

「須美?」

 

 

須美が上げた疑問の声に、銀が首を傾げる。

 

その声に肯定するように返答したのは園子だった。

 

 

「うん、絶対におかしいよ。かれこれ数時間来た道を下るように歩いてるのに、一向に住宅街が見えてこないもん……」

 

 

仔犬に追いかけられ無我夢中に逃げたとはいえ、ここまでの道のりをざっくりとは覚えている。

 

数時間一方の方向に歩き続ければ、何かしらの人工物が見えねばおかしいはずなのだ。

 

 

「同じ所を、ぐるぐる回ってる……?」

 

「そう感じさせる程に広大な山が無ければ、おそらくはそうね」

 

「"勇者システム"も反応しないし……。でも、バーテックスがこんなこと出来るわけないし……」

 

 

三人が思い思いに考えをぶつける。"三人寄らば文殊の知恵"という言葉があるが、まさしくその通りにどうすべきかという方法が次々に出てくる。

 

 

――その時だった。

 

 

ガサリ、と少し離れた所から、大きな何かが動く音がしたのは。

 

 

「わぅ?!」

「「「?!」」」

 

 

最初に反応したのは仔犬。次第に怯え、ガタガタとその身体を震えさせるその様子に銀の脳裏に過去に聞いた話が過る。

 

 

「……こういう時、動物は相手が自分よりデカければビビるんだってさ……」

 

「その子より大きな動物なんて、いっぱい居そうだけどね……」

 

「っ、音がだんだん近くなって……!」

 

 

ろくに見えない暗闇の中、ガサガサという草木を掻き分ける音が此方へと近づいて来る。

 

勇者の力も振るえない、無力な子供三人。

 

震える足で、抱いていた仔犬を須美へと放る様に任せて足元に落ちていた棒を振るい銀が勇ましく吼える。

 

 

野犬か?

 

猪か?

 

それとも熊か?

 

 

「アタシにぃ、任せろッ!!」

 

 

何があっても、コイツらを守ってやる!!

 

 

そんな決意を決めた銀の前に現れたそれを見て、

 

 

闇の森に、少女の悲鳴が響き渡った。

 

 

~~

 

 

「そっちには居たか?!」

 

『いいや、此方にも居ない!』

 

「分かった!」

 

 

耳に当てた通信機から聞こえた球子の返答に、若葉は腹立たし気に返答した。

 

 

須美達が帰ってこない。

 

勇者端末にも、位置情報が表示されない。

 

 

ひなたから聞いたその言葉が、時間が遅くなるにつれて心の中で嫌なざわめきを立てる。

 

以前ならまだしも、今は様々な予想外な存在が四国に居る。

 

もしかすると、あの仮面の女や大嶽丸以外にも自分や赤嶺達の時代から来ているかもしれない。

 

大赦転覆を狙う奴らの狙いが、もし勇者へと向かえば……。

 

 

「っ、くそぉ!!」

 

「乃木さん、落ち着きなさい」

 

 

闇雲に駆け出そうとする足を、掛けられた千景の言葉によって制止する。

 

落ち着かねばならない事は理解しているが、頭では分かっていても身体の抑えが効かない。

 

 

「分かってはいる、だがもしも……!」

 

「貴女一人で闇雲に走ろうと? 状況も、どんな危険があるかも分からないのに? 」

 

「っ」

 

「だから、まず落ち着きなさい。冷静さを欠けば状況が酷くなる一方よ」

 

 

その言葉に若干の冷静さを取り戻し、ふぅ、と身体の力を抜く。空気を吐いて、吐いて、吐いて……。

 

空っぽになった肺に新鮮な空気を取り入れ、全身へと酸素を駆け巡らせる。

 

よし、少しだけ冷静になれた。

 

 

「三人はどうやって居なくなった?」

 

「部活で、仔犬とじゃれてたみたいね。その中で、仔犬が苦手な鷲尾さんが仔犬に追い掛けられて学校を出た……らしいわよ」

 

「銀と園子も、それに付いて行ったと」

 

「えぇ。犬吠埼さんがそう言ってたわ」

 

 

死人かと見間違える程に顔面蒼白だった風を思い出す。

 

私が変に茶化さなかったら……。と若葉に土下座でもする勢いで謝る風は、現在自宅で妹の樹と共に居る。

 

あれこそ、闇雲に何処かに行ってしまいかねない。

 

 

ざざ、と通信機からノイズが走る。

 

 

『あーあー、ノギー聞こえるー?!』

 

「雪花か、何があった?」

 

『商店街の人たちが、須美ちゃん達を見たってさ。それで仔犬と共に走ってった方向が――』

 

 

ぴこん、と勇者端末のマップに地点表示のピンが立つ。

 

 

『――未開放地域の、目の前の山だって!!』

 

 

その言葉を聞いた瞬間、若葉と千景は猛然と走り出した。

 

 

~~

 

 

「若葉さん!」

 

「杏か、何を……っ?!」

 

 

雪花に教えられた山へと向かえば、その入り口付近に数人の人影を見つけた。

 

その一人である杏が、勇者服でなく普段着に戻っている事に気付くと同時に若葉に異変が起きる。

 

 

勇者服が、強制的に解除されたのだ。

 

 

何事と端末を見れば、"精神の不安定、または霊道を確保出来ない為変身不可能です"という表示。

 

何だ、これは。

 

 

「分かりません。此処に来ると皆、変身が解除されてしまって……」

 

「今、友奈さん達が大急ぎでライトを集めてくれてるわ。それが集まり次第山に入りましょう」

 

「ちょっと待って。素人で山に入るのは危険よ。警察や消防に任せた方が良いんじゃないの?」

 

「ただの遭難ならね。でも、もし敵が居るなら……」

 

 

敵。

 

私達を狙う敵。

 

 

歌野が神具である鞭を取り出したのを見て合点が行く。

 

彼女はこういった時、頭の回転が速い。

 

おそらくだが幾つかの確信があるのだろう。

 

この出来事は、()()()()()()()()()という確信が。

 

 

「モミジさんは? 男手が有る方が助かるのだけど」

 

「家は留守だった。スマホにも連絡が着かない状況だ」

 

「そう。……もしかすると、彼も巻き込まれてる……?」

 

 

真っ先に頭に浮かんだ希望だったが、残念ながら協力は得られなかった。

 

今の四国で敵う奴の居ないであろう彼の存在は、居ると居ないでは安心感が大きく変わる。

 

 

「……全員、取り出せる人は神具(ウェポン)を取り出した方が良いわ。何が居るか分からないから」

 

「そうだな。……友奈が戻り次第、踏み込もう」

 

「えぇ」

 

 

直ぐには動けない自身の無力さに、歯痒い思いから若葉は拳をぎゅっと強く握り締めた。

 

 

 

 

一方その頃。

 

 

パチパチと、何かが弾ける音が静かに響き渡っていた。

 

周囲を仄かに照らす焚き火の炎は、幾つかの木串に刺さったソレを食べ頃にまで焼いている。

 

じゅぅ、と焼かれた肉から汗の様に垂れる肉汁を見て、それを見守る一人の口の端から涎が垂れた。

 

 

――食べ頃になったのか、一人が串を引き抜くと身の一部を手で千切り口へと放り込む。

 

にぃ、と口の端がつり上がった。

 

 

「良いぞ。食べようぜ」

 

「「「いただきま~す!!」」」

 

 

少年、大神紅葉の号令に須美、銀、園子は串を手に取ると魚や肉へとかぶりついた。

 

腹が減っていたのもあるのか、塩を振っただけの物だがかなりの美味に感じる。三人の目元が、味わう度に細くなっていた。

 

 

「それにしても災難だったなぁ。こんな所で遭難しちまうなんてよ」

 

「大神さんが居たから助かりましたよ! もしかしたら、朝まで迷ってたかも……」

「うっ……」

 

「モミジで良いぞ。まぁ、結果良ければ全て良し。ってな」

 

 

銀が責めた訳ではないが、遭難の切欠を作った須美がその言葉に罰が悪そうに唸る。

 

大方の話を聞いていたモミジは、そんな須美の顔を見て苦笑しつつだがフォローした。

 

 

「モミジさんは、こんな所で何をしてたんですかー?」

 

「ん? "精霊"の反応が幾つかあってな。探してた物かと様子を見に来てたんだ」

 

「探し物ですか?」

 

 

焼いていた魚肉ソーセージが頃合いになったのを見て、串から取り外すと皿代わりの大きな葉に乗せ仔犬へと差し出す。

 

そうだよ。と返事をしながら、がつがつと魚肉ソーセージに一心不乱に食らい付く仔犬へと手を伸ばすと、背中を摘まむように引っ張った。

 

 

「……?」

 

「よっ、と」

 

「わぁ?!」

 

 

何をしているのか、と三人が疑問符を上げていると、掛け声と共にモミジが手を振り上げる。

 

すると、ばたばたと暴れながら半透明な何かがその手に摘ままれていた。

 

 

「タヌキ?!」

 

「半透明のタヌキー?!」

 

「いや、そんなタヌキ居るわけ……居たわ?!」

 

 

三者三様の反応に、モミジがくっくと笑う。

 

じたばたと暴れるタヌキを少し離れた草むらへと放り投げて、一仕事終わったとばかりに元の位置に座り込んだ。

 

 

「"マヨイガ"に似た、人間を森等で迷わせる力を持った"精霊"だろうな。完璧な"精霊"じゃない、"疑似精霊"だ」

 

「"疑似精霊"?」

 

「"精霊"擬き、って言った方が良いかな。スマホの電波障害も、これで直る筈だよ」

 

 

須美がスマホを手に取れば、その通り画面には圏外の文字は消え変身が可能となっていた。

 

驚く須美の様子を見ながら、焼けた魚を手に取りあちちと言いながらモミジはかぶりついた。パリパリと良い感じに焦げ目の付いた皮が、噛む度に良い塩梅に旨さを出している。美味い。

 

 

「まぁ、その内改めて話すとして。どんどん焼けるから、じゃんじゃん喰ってくれ。急がないと焦げるぞー」

 

「それは勿体無い!」

 

 

モミジの言葉に、最初に取った分は食べきったのか銀が骨を焚き火へと放り込んで次を取る。

 

私も!と園子と須美も新しいのを取るのを微笑ましく見ていると、何かの気配が近付くのを感じた。

 

 

これは――

 

 

「お前達! 無事――だな?」

 

「ワッツ?! 貴女達何をしているの?!」

 

 

鬼気迫る表情で登場した若葉は、焚き火を囲んで食事をしている四人と一匹を思わず呆けた目で見ていた。

 

続いて登場した歌野が、目を丸くしてその場の面々を見やる。

 

 

お互いに状況の整理が着かないのか、互いに静かに見つめ会うこと数秒。

 

ぐぅ、と誰ともなく聞こえた腹の音に、モミジがまだ残る串を手に取ると言う。

 

 

「……食べる?」

 

「……頂こう」

 

 

若葉が、小さく頷いた。

 

 

 

 

「あ゛ん゛だだぢぃ~、無事でよ゛がっだああああ!!」

 

「「「うぐぅ……!」」」

 

 

帰ったのは深夜。出迎えた風は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で三人へと抱きついた。

 

苦しげな声を上げるが、それでもお構い無しに離さないとばかりに抱き締める。

 

 

「ごめんねぇ須美ぃ!! 二度とあんな事しないからぁぁ!!」

 

「い、いえ、私の方こそ大袈裟だったというか……。というより、そもそも風さんは悪くないと思いますけど……」

 

「それでも謝らせてぇぇぇ!!」

 

 

自分達の無事に本気で喜んでくれていると分かるのか、おいおいと泣く風を突き放す事も出来ずにどうしようかと須美と銀が頬を掻く。

 

そんな中、嗚咽が一つ聞こえた。

 

 

「うああああ、助かって良かったよぉぉぉ!!」

 

「うわ?! 園子まで感染した!」

 

「感染って……。あぁ、もうそのっち落ち着いて……」

 

 

何時もの騒がしさに加えて無事に三人が見付かった事への安堵もあるのか、漸く若葉は肩の荷が下りた様に息を一つ吐いた。

 

用事も終わったし、後はもう寝るかな。とモミジが考えていると、歌野が声を掛ける。

 

 

「ねぇ、モミジさん」

 

「おー? 何だ、歌野?」

 

「探し物とやらは見つかったの?」

 

 

歌野の言葉に、須美達が喋ったかとモミジは頭を回す。誤魔化せたと思っていたのだが。

 

別に隠すような事ではないが、心配症な若葉に気取られないようにしなくては。勝手に動かれては困る。

 

 

「本命はまだかな。まぁ、結果は重畳って所だ」

 

「そう。……危険(デンジャー)な事ではないのよね?」

 

「俺にとってはな。歌野ならよく知ってるだろ?」

 

「えぇ、それはよく」

 

 

泣く風を妹の樹と夏凛が抑えながら、帰路に着くのを見送る。明日には(アイズ)が腫れ上がってそうね、と歌野が笑う。

 

寄宿舎の方へと歩き、そこまでの距離はないがそれぞれを見送った。

 

また明日。と手を振る中で、歌野がモミジにのみ聞こえるように言う。

 

 

「危険な事なら、絶対に相談して。一人でなんて、絶対にダメ(ノー)なんだから」

 

 

そう言った後、モミジが返事をする前におやすみ。とドアを閉められた。

 

こんなことを言う理由分かる。俺が一人で行っていた、あの大社の粛正組織に居た頃の事を言っているのだろう。

 

 

「……勿論、頼らせて貰うさ」

 

 

天に昇る見事な満月を見ながら、モミジはぽつりと呟いた。

 

 

 

~~

 

 

同刻。とある山中にて。

 

 

「――お久しゅうございますぅ。国土梓様ぁ」

 

「同じく。もうお会いする事はないと思いましたがね」

 

「……また御役目?」

 

 

暗い洞窟の中、国土梓の前に三人の人影が傅いている。

 

一人は言葉尻に感じる程に気だるげで。

 

一人は誠実な、堅そうな口調で。

 

一人は気弱な、蚊の鳴く様な小さな声で。

 

 

国土梓の横にいる、大赦の神官服に身を包んだ男は震える身体で梓へと口を開く。

 

 

「こ、これが初代勇者様方の後継である、"鏑矢"部隊の方々ですか……?」

 

「えぇ。実働の赤嶺、弥勒、桐生とは別の、所謂()()()()()をする存在ですがね」

 

「なるほど……。しかし凄いものですな。覇気と言いますか、感じる気迫が……」

 

「勿論。それこそ、稽古の相手には事欠かなかったものですから。なんたって――」

 

 

にぃ、と梓の口の端がつり上がる。

 

 

「彼女達の師は、初代勇者様達ですもの」

 

 

狂気を含んだ嗤い声が上がる。

 

そこから離れる木々の上で欠伸をしていた大嶽丸が、チッと舌打ちをした。

 

 

「穢れに完璧に染まってやがる。まぁ、オレ様としてはどーでも良いんだが、一体どうするつもりだよ、モミジよぉ?」

 

 

四国の一部で、黒い闇が広がり始めていた。

 




オリキャラ入りまーす!

元々入れる予定でしたので、へー、くらいの感じで受け入れて下さいm(_ _)m

簡単ながら補足おば。

国土梓 穢れMAX。目的の為なら手段も選ばない状態。

最後のオリキャラ三人。 "鏑矢"部隊の一員。若葉等の良識ある大赦上層部には存在を伏せられていた。目的の為なら何でもする。文字通り何でも。

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