大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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ちょいと遅れましたorz

ギャグにしたいのに、どーしてもシリアスに走る修羅場大好き社畜野郎です(・c_・。)

だって好きなんだもん。闇堕ち。美少女の病み堕ち。

それでは、暇潰しにどうぞ(*^^*)


雨の日にて。来訪者来る

数メートル先くらいから闇に包まれる、薄暗く霧が漂う森の中。

 

 

「はぁ……、はぁ……っ!」

 

「梓ちゃん! 此方ですよ!」

 

 

息も絶え絶えな梓の手を引くのは、怪我した腕からダラダラと血を流すひなた。

 

庇いながらも走るその姿に何時もの余裕はなく、目は何かを探すように常に周囲へと走らせている。

 

 

「モミジお兄ちゃんと、若葉さんは……?」

 

「二人は……、ダメでした」

 

「そんな……っ」

 

 

頼れる兄貴分とそんな彼が信頼する若葉の安否を問えば、帰ってくるのは最悪の答え。

 

なんて事だ。あの二人が居ないと、帰れないのに……!

 

 

その時。

 

 

「「っ!!」」

 

 

静寂の場に生じた物音に、梓とひなたが即座に振り返る。

 

振り返ったその場には……、何も居ない。

 

 

ただの気のせいか。と安堵したと同時に、隣のひなたがドサリと音を立てて地面に倒れた。

 

 

「え……」

 

 

倒れた背中に走る刃傷から、それが深く、尚且致命傷である事が一目で分かる。

 

それを確認出来る程に、スローモーションの世界の様に梓の視界はゆっくりと動いていた。

 

 

そして眼に写る、ひなたの背後に居るソレ。

 

 

「みぃーつけたぁ……」

 

「っひ……!」

 

 

ソレが手にする血塗れの大鉈を振り下ろすと同時に、梓の断末魔が響き渡った……。

 

 

 

 

「――っか~! 負けた負けた!」

 

「千景さん強いよ~」

 

 

「当たり前よ。C-シャドウは伊達じゃないわ」

 

 

画面に映る"敗北"という文字を悔しげに見ながら、梓が手にしていたゲーム機を床に置いた。

 

その隣ではモミジが、畜生とは言うが楽しげに笑っている。

 

 

「4人がかりでもダメか」

 

「そうみたいですねぇ」

 

「いや、ハンターから逃げるゲームなのに何故立ち向かったんだ、若葉」

 

 

一足先に脱落した若葉が、呑気にお茶をずず、と啜りながら他人事の様に言う。

 

同意するひなたとは違い、ゲームの趣旨に真っ向から立ち向かうプレイをした若葉へとモミジがジト目で言うが、

 

 

「いや。ワンチャン行けるかな、と」

 

「懐中電灯でどう戦うつもりだったんだお前はぁ!!」

 

 

開始早々に、フィールドに置かれているボックスから懐中電灯を手にした若葉。

 

 

「うぉお!! ハンター覚悟っ!」

 

「待てぇ、若葉ぁ!」

 

 

止めるモミジ達の言葉を振り切りハンターである千景へと立ち向かうその姿は、そんな光景を見学していた他の者もこう思った。

 

 

"いや、そういうゲームじゃねぇ。"と

 

 

「乃木さんはまずゲームのルールから覚えるべきね……」

 

 

「よーし、なら次は私が良いなー! 誰か代わって代わって~!」

 

「おっ、タマもするぞー!」

 

 

若葉の奇行に千景が苦笑いして言えば、高奈(たかしま ゆうな)と球子が手を上げる。

 

 

「っし。なら、俺抜けるよ。ちょっと休憩」

 

「私も、お茶を淹れて来ますね」

 

 

モミジとひなたが抜け、代わりに入った高奈と球子が意気揚々とゲーム機を握る。

 

球子は兎も角、高奈(ゆうな)はゲームがそこまで得意ではなかった筈だが、大丈夫なのだろうか。

 

 

「ちょ、友奈さんそっちはハンターが居る方向だよ?!」

 

「えっ、何処だろここ……」

 

「友奈ぁ、今助けに行くぞぉ!」

 

「お前は大人しく発電機回してろ!」

 

 

トイレへと続く通路を歩いていると、後ろからそんな会話が聞こえる。

 

きっと、今頃ゲーム画面にはハンターへと突撃する若葉の姿が映っている事だろう。

 

 

~~

 

 

「モミジさんもお茶で良いですか?」

 

「おう。ついでに杏達に差し入れ入れてくるよ」

 

「分かりました」

 

 

こぽこぽと急須にお湯を注ぐひなたの言葉に、戸棚からお茶菓子とティーバッグを取り出しながら言う。

 

紅茶の銘柄等は知らない。不味くなければ大丈夫なのだという精神でカップにお湯を淹れて温める。

 

ふと耳を澄ませば、お湯を注ぐ音に混じって雨粒が窓を叩いていた。

 

 

「……雨、止みませんね」

 

「んー?……あー、そうだな。タマが釣りにも山にも行けないってぼやいてたしな」

 

「アウトドア趣味な人には辛いですもんねぇ」

 

 

台所の小窓から外を眺め言うひなたへと、小皿を取り出して言う。

 

 

――ここ数日、天気がずっと雨模様だった。

 

 

今日のゲームの集まりもそれが原因で、外に出られずストレスの溜まった球子や高奈が暴れださないよう、発散する場を作ってやるのが目的だ。

 

千景に複数人で遊べるゲームがないかと聞いてみた所、300年先の未来のゲームを手当たり次第にプレイした千景が推すゲームを皆でしている。

 

日常的にゲームをする面子ではないが、気心知れた仲間内での対人戦の為か必然的に複数人で行うゲームは白熱していた。

 

 

だがまぁしかし、集まった全員がゲームをしているという訳ではなく。

 

 

「よっと」

 

 

複数のカップとクッキー等のお茶菓子を乗せたトレーを持ち、紅茶の入ったポットを持って台所を出る。

 

ゲームをしている連中が居るその手前の一部屋の前で立ち止まると、コンコン、とドアをノックした。

 

 

「……?」

 

 

反応が無い。返事や、ドアへと寄ってくる足音さえも。

 

部屋の中に複数の気配は感じる為、誰かが居るのは分かるのだがノックにも反応しないとは何をしているのだろうか。

 

 

「入るぞー?」

 

 

トレーを上手く支えつつ、肘を使いドアノブを下ろして開ける。

 

 

そこには。

 

 

『俺、もう我慢出来ねぇ……!』

 

『っ……、ダメだよ。だって私には許嫁が居るのに……!』

 

『そんなの関係ない!』

 

 

…………。

 

 

「あぁ~……、そんな所までイっちゃうのぉ……?」

 

「あ、あわわ……!!」

 

「わー……、すっごくえっちな映画だね……」

 

 

赤面しながら、どちらかといえばアウトよりの濃厚な絡みのシーンを、固唾を飲んで観ている杏、樹、亜耶の中一トリオが居た。

 

 

――なんでも、杏が西暦の時代の時に好きだった恋愛小説を元に映画化した物らしい。

 

 

そんなにも面白いのか、ドアをノックした挙げ句足音を忍んでさえもいない俺の存在に気付いていない。

 

 

そっかー。気付いてないし、ここは紅茶とお茶菓子を置いてクールに立ち去――ってちょっと待て。

 

 

「おい、お前ら」

 

「「ひゃい?!」」

「わぁ?! ……あ。大神様!」

 

 

リモコンで映像を一時停止し、DVDのパッケージを手に声を掛ければ、杏と樹の二人は跳び跳ね、亜耶はびっくりした後に此方を奉る様に綺麗なお辞儀をした。

 

 

「モミジと呼んでくれ、亜耶ちゃん。……それで、だ。杏?此処に書いてある文字が読めるか?」

 

「え?! えーっと……」

 

 

大神の名は好きじゃない。亜耶にモミジと呼ぶようお願いをして、パッケージを杏に見えやすい様に態と目の前に吊り下げる。

 

タイトルの下にあるレート、つまりは対象年齢の欄を見せれば、杏は明後日の方を向いて冷や汗をかいていた。

 

やはり確信犯か、こやつ。

 

 

「これ、16歳以下……。つまりは高校生以下は観たらダメな奴だが?」

 

「か、借りた時には何も言われませんでしたし? それにそんなに小さな文字じゃ気付きにくいと言いますか……」

 

「ほぅ。これは誰が借りたんだ?」

 

 

ぷふぃー、と下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうと画策する杏だが、続くモミジの言葉にギクリと肩が跳ねる。

 

えーっと、と指をつんつんと合わせながら、

 

 

「大赦の大人ですけど?」

 

没収(ぼっしゅーと)

 

「そんなぁ?! 今が一番良いところ何ですよ?!」

 

 

DVDデッキに手を伸ばすモミジの腕へ、杏が身体ごと縋る様にしがみついた。

 

 

「没収なんて止めて下さいよぉ! 私がどれだけ楽しみにしてたか分かるでしょ?!」

 

「わ、ちょ、待て杏! 取り敢えず落ち着け?!」

 

 

必死過ぎて気付いてないのか、腕に伝わる柔らかい感覚に此方が焦る。

 

外野で見てる樹は気付いたのか、顔を赤らめた後に自身のモノを見てがっくりと気落ちする。

 

 

頑張れ、お姉ちゃんは立派じゃないか。ってそれどころじゃねぇ。

 

 

「分かった、分かったから取り敢えず離れようぜ、な?な?」

 

「離れるのはモミジさんの方ですよ! リモコンを此方に渡してDVDデッキから100メートル以上離れて下さい!」

 

「家から出ろってか?!」

 

 

「あ、あの、お二人とも冷静になって……」

 

 

迫る別の脅威を感知して言っているが、杏は一向に気付かない。

 

どたばたと暴れる二人をあわあわと亜耶が止めに入るが、暴れた拍子にリモコンが宙を舞った。

 

 

綺麗な放物線を描いたリモコンは、床に落ちると勢いそのままに転がり入り口のドアの前で止まる。

 

 

――それを、ゆっくりと拾い上げる者が居た。

 

 

「「「あ」」」

 

「……どたばたとうるさいと思ったら、何をしているんです?」

 

 

若い男女の過激なラブシーンが映るテレビ、その前で密着して縺れ合うモミジと杏、それを見守る樹と亜耶。

 

そんな光景を前に、リモコンを手ににこりと微笑むひなたはこの状況をどう受け取ったのだろうか。

 

 

「……モミジさんが、私(が観てる映画を消す為)に無理やり……」

 

「伊予島ぁ!重要な要素を略すんじゃねぇ! それじゃ誤解しか受けなってちょ、ひなたさん待っ――」

 

 

――鬼が、降臨した。

 

 

 

 

「酷い目に遭った……」

 

 

ひなたの折檻から命からがら逃げ出した先は歌野の農園。雨も降ってるし、此処ならひなたも易々と来れまい。

 

野菜を入れるプラケースを裏返し椅子にして一息吐く。回収した野菜を配達先に振り分ける倉庫に来たが、歌野や水都の姿はなかった。明かりは点いていたので、休憩中だろうか。

 

 

野菜の振り分けで忙しいと言っていたので、手伝おうかと思っていたのだがどうやら的を外したようだ。

 

 

「んー。……お」

 

 

二人が来るまで暇だな。と手持ち無沙汰に周囲を見渡せば、熟れすぎたか、形が奇形で食用に満たない野菜が入ったカゴを発見した。

 

小腹も空いたし丁度良い、とカゴからトマトときゅうりを拝借する。

 

 

「"実れ"」

 

 

神力を使い、細目の樹木を精製しそこに野菜の成長を促す様に神力を込めて地面へと埋める。

 

発芽から早送りをするように、最初に精製した樹木を軸に立派なトマトときゅうりが成った。

 

へぇ、と俺の中に居る妹の声が聞こえる。

 

 

『お兄ちゃんが居れば飢える事はなさそうだね』

 

「野菜やフルーツしか作れないけどな」

 

 

元は建御名方(タケミナカタ)、つまりは諏訪神の権能でもあったが、神力の譲渡時にそのまま俺の権能にもなったらしい。本人に聞いてみたが、その辺り神の権能とは結構適当なのだとか。

 

がぶりと一口齧れば、トマトの甘酸っぱさが口に広がった。旨いには旨いが、どちらかと言えば歌野が作る野菜の方が旨い。

 

 

『――――』

 

『――!』

 

 

「……うん?」

 

 

トマトを齧っていると、雨音に混じって誰かの声が聞こえる事に気付いた。

 

俺が入ってきた所とは逆の農園の入り口の方で、傘も差さずに話し合い……いや、口論か。スーツ姿の男数名と見慣れたジャージ姿の歌野と水都が居た。

 

 

「……何やってんだ?」

 

 

何時も笑顔で居ることが多い二人が、険悪な雰囲気を醸して男達と相対している。

 

相手は男の大人、そもそもが二人は中学生の上に女だ。どちらが悪いにせよ、このまま静観している訳にはいかない。

 

 

 

~~

 

 

 

どうしよう……!

 

 

先程から毅然と相手している歌野とは違い、水都は内心ハラハラしていた。

 

 

「だから、何処に居るのか教えてくれるだけで良いんだ」

 

「此方がそれを教える理由がありませんし、存じ上げておりません。すみませんが、お引き取りを」

 

「嘘を吐かないで貰えるかな。此方の情報網を舐めないでほしいね」

 

 

男達の中の一人が、眼鏡をくいと上げながら口を開く。眼鏡の奥の瞳に暖かみが無いことを感じた水都の背筋に冷たいものが走る。

 

でも、だからといって素直に答える訳にはいかない。ここは堪えるか、誰か助けを呼んだ方が――

 

 

「どうしたんだ、お前ら」

 

 

「モミジ君……!」

 

 

ジャストタイミングとばかりにやって来た頼れる存在に、水都が安堵からかほっと息を吐く。

 

歌野も助かったのか、険しかった目付きが幾らか緩んでいた。

 

 

モミジが二人の前に割り込む様に立ち、男達と相対する。

 

大人と比べれば身長こそ低いけれど、その身体から放たれる威圧感は段違いだった。

 

萎縮する様に一歩退く男達へと、モミジが問う。

 

 

「突然すみませんね。二人が何か粗相でも?」

 

「……いいや。ちょっと訊ねたい事があって、お二人に話をしていた所だよ」

 

 

ニコニコと愛想よく言っているが、その皮一枚の下に感じる得体の知れないモノに男が言葉を選びながら返答する。

 

 

「そうですか。僕も二人とは付き合い長いし、この辺りの事も熟知してますから、俺が代わりますよ」

 

「いや、それには及ばないよ。お二人から直接聞きた――」

 

 

モミジの事を避けるように、強行手段……とは言いがたいが、男の一人が歌野へと手を伸ばす。

 

言葉が途中で途切れたのは、動いた男の肩に手が置かれたから。

 

 

()()()()()()()

 

 

一言一言、はっきりと伝わる様に口に出すモミジに今度こそ動きが止まる。

 

場が膠着し、お互いに次にどう動くか伺いあっている時、別の声が掛かった。

 

 

「なぁーにちんたらやってんですかぁ。さっさと居場所を……おやぁ?」

 

 

気だるそうに、面倒臭げに現れたのは一人の少女。

 

傘から覗く覇気の無い眼にモミジを映すと、僅かながら驚いた様に眼が見開く。

 

 

「これはこれは。初代防人様ではないですかぁ。御会いできて光栄ですねぇっと」

 

「……何処かで会ったか?」

 

 

けらけらと笑う少女の言葉に、モミジが訝しげに眉を寄せる。

 

神世紀の、()()()()()()()がモミジの事を知っている筈がないのだが。

 

 

「私の上司が、貴方の大ファンでしてねぇ。耳にタコが出来るくらい話し込まれてしまいましてぇ、あははは」

 

 

一頻り笑うと、さて、と腰に手を当てて少女が言う。

 

 

「待ち人は居らず、って事なら帰りますよぉ。勇者様とその御付きの巫女様、はたまた防人様となれば命が幾つ有っても足りないしねぇ」

 

「……待ち人?」

 

「あ、口が滑った。ほらほら、さっさと行きますよぉ――」

 

 

モミジの言葉に意味深に返すと、傘を翻しすっぽりと姿を隠す。払い除ける様に掴み取れば、そこには先程居た筈の少女の姿は消えていた。

 

何処へ、と視線を周囲へと向けるが、そこには歌野、水都以外誰も居ない空間が広がるだけ。

 

 

「……歌野、あの男達は誰を訪ねに来てた」

 

 

僅かに感じる"疑似精霊"の反応に、梓の仲間かと警戒しつつ、何時でも動ける様に構えていた歌野へと問う。

 

歌野が、僅かに目を細めて言った。

 

 

「私達と同世代の、西暦の"勇者"や"巫女"達の居場所(ホーム)を聞かれたわ」

 

 

 

 

 

部屋のチャイムが鳴った。

 

 

ピンポーン、という、無機質なチャイムの音に部屋に居た梓が反応する。

 

お菓子が無くなったという事で球子や高奈、そのついでに必要な細々な物を買ってくるとひなたと若葉も出掛けてしまった。

 

入れ違いで綾乃が帰宅しており、鳴ったチャイムに目を合わせると数秒後にお互いに手を突き出した。

 

 

綾乃がグー。梓がチョキ。

 

 

「新聞なら追い払いなさい」

 

「はーい」

 

 

負けた梓が玄関へと歩き、ドアに付いた外を見れるスコープを覗き込むが、雨のせいか滲んではっきりと見えない。

 

かろうじて見えた数名の姿に、球子さん達かな?でも鍵持ってた様な……。と疑問に思いつつも、ガチャリとドアを開けた。

 

 

「――え?」

 

 

~~

 

 

 

「じゃあちょっと買い出し行ってくるから、雪花はゆっくりしてて」

 

「はいはーい、留守番は雪花さんにお任せあれー」

 

 

犬吠埼家。風からの提案で寒い雨の日に鍋パーティーを行う事になり、その材料の調達に行った一同を雪花は見送っていた。

 

暇ならテーブル出しといてー、と風に言われてた事を思いだし、押し入れに有るという折り畳みのテーブルを探しに行く。

 

 

という所で。

 

 

「――あ、あの、こんにちわ……」

 

「?!」

 

 

不意に背後から聞こえた声に、雪花が跳び跳ねる様に後退する。

 

声の場所を見れば、一人のおどおどとした少女が立っていた。

 

 

「……貴女、誰かにゃー?」

 

「えと、秋原雪花さん、で合ってるよね、ますか?」

 

「だから、誰かって聞いてんの!」

 

 

素性を問うが、要領を得ない答えに声が荒くなる。

 

普通の女の子じゃない。この感じは、この心にへばり付く様な嫌な感じは、

 

 

「申し遅れました。私どもは、"鏑矢"という部隊の者であります」

 

「っ!」

 

「突然の来訪、申し訳ありません。しかし、こうでもしなければお話がしたくとも難しいだろうと思いまして」

 

 

新たに増えた声の主。軍隊を思わせる様なピッシリとした口調に態度であったが、一人目の少女との共通点に警戒心が更に募る。

 

……冷たい、心の奥底へと染みる冷えた眼に。

 

 

「話ぃ? ……私が仲間呼ぶとは思えない訳? やってることは普通に犯罪だよ?」

 

「うーん、でもぉ、そっちにとっても悪い話じゃないと思うんですけどぉ」

 

「また新手か……!」

 

 

三人。いつの間にかドア、窓の脱出路を抑えられた事に舌打ちしつつ、スマホを持って牽制する。

 

勇者には何時でも成れる。だが、この三人の狙いはそうじゃないらしい。

 

 

「話って何かにゃあ? 早くしないとお仲間が来るよん?」

 

 

スマホを見ずにタップして、来る予定の美森と友奈に"急いで"とだけ送信する。巻き込みたくはないが、誰かの手を借りないと流石に危ない。

 

さぁ、仲間も呼んだ。後は時間を稼ぐだ――

 

 

 

「この世界で、永遠に暮らしたくありませんか?」

 

 

 

言われた言葉に、雪花の時間が止まる。

 

この世界に留まり続ける。

 

それは、今の勇者部の面子と出会って切に願う願い事。叶わないと、願ってはならないと思いつつも諦められない雪花の願い。

 

 

……二度と戻りたくない、あの寒い地獄からの逃避行。

 

 

 

「……何を、言ってるの?」

 

「我々ならば可能です。元の地獄の様な現代に戻るのではなく、この神樹の空間で無限に暮らす。そんな夢物語の様な願いが」

 

「そんなの……、造反神を静めなきゃならないのに……。それに、今会ったばかりの貴女達の事を信じられる訳な――」

 

 

信じてはならない。

 

信じれば、ナニかが崩れる。

 

 

転がり堕ちてはならない坂道を、必死に踏ん張っているのが現状なのに、言われたそれは今の雪花には猛毒にも近い誘惑だった。

 

 

だからこそ。

 

 

「自分に素直になりましょうよぉ。嘘なんか吐かないでねぇ」

 

「……!」

 

「この世界なら出来るんですよぉ? 貴女の想い描く、幸せな生活が」

 

「……や、めて」

 

「また、辛くて苦しい現実に戻るんですかぁ?」

 

「黙ってよ!!」

 

 

気だるげな少女に言われたその言葉に、雪花は大きくぐらついた。

 

堅そうな雰囲気の少女が何かを察し、おいと他の少女に声を掛ける。

 

それに同意する様に頷くと、懐から一枚の名刺を差し出した。

 

 

そこには、電話番号だけが記されていた。

 

 

「お仲間さんが来たようなので、今日は失礼させて頂きますねぇ」

 

「――色好い返事をお待ちしております」

 

 

ごぅ、と一陣の業風と共に三人の姿が消えた。

 

そこに残るのは、手渡された名刺を持つ雪花のみ。

 

 

「雪花!」

 

「雪花ちゃん、大丈夫?!」

 

 

血相を変えた友奈と美森が部屋へと踏み込んで来たのは、そのすぐ後の事。

 

本来ならば、敵の可能性があるものが襲撃してきた。と報告するのが正答ではあるのだが、

 

 

「――にゃはは。ごめんごめん。野良猫が突然入ってきて暴れちゃってさ、逃げられたんだけども……」

 

 

雪花は、無意識の内に誤魔化した。

 

 

「えぇー?!」

「あらあら、妙に汚れてるのもそれで……」

 

「そうなんだよー。だから、片付けるの手伝ってほしいにゃあ」

 

 

雪花からの御願いに、任せて!と自信満々に胸を張る友奈を見てズキリと心が痛む。

 

 

 

――雨が、勢いを増していた。

 

 

 

 

 

「――んで、何?」

 

「あ、綾乃お姉ちゃん……」

 

 

場所は変わってモミジの家。綾乃と梓が並んで座る対面に座するのは、赤嶺友奈、弥勒蓮華、桐生静の"鏑矢"の三人。

 

肘を付いてぞんざいに問う綾乃の横で、梓がそんな態度はダメだよと焦って言うが綾乃は黙って視線を赤嶺達に飛ばす。

 

 

「……分かってると思うけど――」

 

「国土綾乃様。どうか失礼を許して下さい」

 

 

国土梓の事は言うな、と釘を刺そうとした綾乃を遮る様に静が普段の似非関西弁を伏せて言う。

 

 

「…………」

 

 

「貴女が望月梓様の事を想って言われてるのは、私どもも理解しています。ですが……」

 

「私達も、あの人を知ってるからこそ助けたいんです」

 

 

黙る。腕を組み、"鏑矢"の三人の話を黙って聞く。

 

 

「ここが仮初の世界だというのは理解しています。……でも、それでも」

 

「私達は、あの人を。……国土梓を助けたい!」

 

 

「っ、アンタら……!」

「……私の事?」

 

 

国土梓。望月梓の前ではタブーとなる名前を出したことに綾乃が怒りを露にするが、それでも三人は怯まずに真っ向から向かい合う。

 

 

「言ってどうなる。この子に辛い現実を思い知らせてどうするの?」

 

「違う! あの人が変わったのは別の原因で――」

 

「だとしても! この子にそれを態々教える理由はないって言ってんのよ!」

 

 

激化する論争。それに口を出したのは、梓本人だった。

 

 

「お姉ちゃん」

 

「……梓、アンタは黙ってなさい」

 

「綾乃お姉ちゃん」

 

 

強い意思を感じる口調に、綾乃の言葉が止まる。

 

 

「私は、弱い私が嫌だ。ずっと守られてばっかりで、このまま二人のお荷物になるんじゃないかって」

 

「私は、そんな風に思って――」

 

「二人が私の事を大事に思ってくれてるのは知ってる。でも、だからこそ私だって変わりたいの」

 

 

ぎゅっと、膝に置いた手を拳に握る。

 

 

「胸を張って、モミジお兄ちゃんと綾乃お姉ちゃんの、二人の妹だって、弟子だって言いたいの」

 

「…………!」

 

 

梓の真っ直ぐな眼に、綾乃は何も言えず口ごもる。

 

葛藤が、長い沈黙が場を静寂にした後に、綾乃のため息が聞こえた。

 

 

「後悔するんじゃないわよ?」

 

「うん」

 

「痛いし、辛いわよ?」

 

「大丈夫だよ、綾乃お姉ちゃんの弟子だもん」

 

「……仕方ないわね」

 

 

綾乃からのOKが出たことに、赤奈(あかみね)の顔に笑顔が浮かぶ。

 

他の二人も、安堵からかほっと息を吐いた。

 

 

 

――そうして、少女は知る。

 

 

 

自身の絶望を、苦しみを、痛みを。

 

それは地獄に落とす厄災か、それとも――

 

 

 

 

 

 




それぞれの思惑が交錯していく展開ですね。

雪花ちゃんはどうするのか、梓はどういった変貌を遂げるのか。

続きは執筆中です、気長にお待ち下さいm(_ _)m
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