大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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お待たせしました。orz

気に入らず書き直し、を繰り返して幾日。漸く完成です( ̄▽ ̄;)

どんどん深くなる闇を見つつ、お暇潰しに付き合えたらと思えます。

それでは、どうぞ(*・ω・)




寒い日には、暖かい物が欲しい。1

 

この人なら、何処へでも着いて行こうと思えた。

 

 

(ぼん)。まぁた書物とにらめっこか。剣も振らねば強くなれんぞー?」

 

「(脳筋の)御館様と違って坊は書官向きなのでしょうな」

 

「おい、今変な伏せ語が聞こえたのは気のせいか」

 

 

誰にでも真っ直ぐ相対し、変に媚びへつらったり威張り散らしたりしないこの人に。

 

 

 

誰かを祝福出来るこの人に。

 

「御館様、先日産まれた我が子です。是非とも抱いて、名を考えては頂けませんか?」

 

「おぉ! それはめでたいな! うぅむ、今は春先……なんと付ければ良いかのぅ」

 

 

 

誰かの為に怒れるこの人に。

 

「御館様ぁ! 山に山賊が!家畜や子供達が危ねぇだ!」

 

「者共ワシに続け! 我が家の庭に土足で上がる輩を逃がすな!」

 

 

 

誰かの為に泣くことが出来るこの人に。

 

「御館様、此度の戦での戦火が想定外に多く……」

 

「ワシの采配の結果だ。……すまない……!!」

 

 

 

誰かと共に笑う事が出来るこの人に。

 

「いやぁめでたいな!! よーし、今宵は宴じゃ。村の者も招いて宴を開くぞ!! たらふく飯と酒を準備せい!!」

 

「またこの人は急に無茶を言う……。(ぼん)。手伝ってくれないか?」

 

「はい!」

 

 

 

この人になら、この第二の人生を捧げるのも悪くはないと思えていた。

 

 

 

「人に、失望するな。自分を強く持って、最期まで幸せに生きろ」

 

 

 

――あの日までは。

 

 

 

 

「――先生?」

 

 

覚醒する。

 

重い瞼を上げ、覗き込む様に見上げる仮面を付けた小柄の女の存在を確認し、現状を即座に把握した。

 

 

「……寝てしまっていたようだね。済まない」

 

「いえ。先生もお疲れでしょうから。今日はもう休まれますか?」

 

「今のうたた寝で目が冴えた。大丈夫だよ」

 

 

心配してくれているのだろう。女の申し出にそう思いつつも断った。

 

この身は最早人のそれではない。見かけは人であれど、中身は全く違う物だ。人でないこの身に、疲労による睡眠は不要なのだから。

 

 

でもなぜか。この世界に来てからではあるが、ふと息抜きに深呼吸をした最中で夢を見る。

 

……何か、虫の知らせとでも言うのだろうか。

 

 

「経過は?」

 

「今のところ順調かと。後は……、向こうの人員をどのくらい此方へと引き込めるかですかね」

 

「"勇者"は一人でもその戦力は充分に強い。気付かれないよう、慎重にね」

 

「分かりました」

 

 

頭を下げ立ち去って行く仮面の女を見送って、分厚い雲に覆われた空を仰ぐ。

 

もう少しだ。きっと、きっと、これで……。

 

 

「"真なる人間"に、一歩近付ける……!」

 

 

 

 

「ん~♪ 雨が降って肌寒いから、温かい物が美味しい!」

 

「そうだなぁ。あ、すみませーん。肉うどん大盛りと、肉豆腐と天ぷら盛り合わせ追加で」

 

「良く食べるわね……」

 

 

昼時。とあるうどん屋にて。

 

偶然会った千景と友奈(たかしま ゆうな)との三人で食事に来ていた。

 

上機嫌でうどんを啜る友奈に触発され、メニューを捲ってお目当ての物を頼めば向かい側に座っていた千景に軽く引かれていた。なぜだ。

 

 

連日の雨のせいで初冬なのに真冬の様に寒いのだ。温かい物をお腹一杯食べたい。

 

 

「モミジ君は食べ過ぎだと思うわ」

 

「そうか? 俺からすれば千景の量は少なすぎだと思うが。腹減らないか?」

 

「これで丁度良いくらいよ。……このかりんとう美味しいわね」

 

 

友奈と同じ肉うどんの並盛とサラダのセットを食べ終えた千景が、店員からサービスで付けられた蕎麦のかりんとうを食べて僅かに目を丸くする。

 

追加の料理を待ってる間一つ摘まめば、なるほど確かに蕎麦の豊かな風味と上品な砂糖の甘さが上手くマッチしていた。

 

 

「本当だ。旨いな、これ」

 

「最近取引を始めた仕入れ先から、オススメのお菓子だって教わってねぇ。お客さんの反応も良いし、万々歳よぉ」

 

「へぇ、何処かのお菓子屋さんか何かですか?」

 

 

モミジ達の会話を聞いていた店のおばさんが、トレーに料理を載せてやって来た。

 

かりんとうを一口食べて美味しい!と目を輝かせた友奈が、料理を受け取りながらおばさんへと問えば違うわよぉ、と間延びした声が返ってきた。

 

 

「農園からよぉ。"ホワイトスワンファーム"から」

 

 

「……ホワイトスワン、ファーム……?」

 

「何処かで……」

「聞いたような……?」

 

 

割りと身近な所で聞いたなぁ、いやでもそんな野菜の卸売りだなんてしてる筈ないよな、ましてやうどん屋相手に。

 

と、千景と友奈に対しアイコンタクトで聞けばこくりと頷いて肯定の意味で返ってきた時、

 

 

「私を呼んだかしら?!」

 

 

我らが農業王、白鳥歌野(ホワイトスワン)が店の入り口でそう叫んでいた。

 

 

やはりお前か、ホワイトスワン。

 

 

「う、うたのん?! 大声出したらお店の人に迷惑でしょ?!」

 

 

「あ、水都ちゃんも一緒だ」

 

「二人がうどん屋に来るなんて珍しいわね」

 

 

歌野の堂々たる態度とは反対に、周囲の視線を集めないように慌てる水都を見て友奈と千景がぽつりと呟く。

 

四国に居た際にも、"戌崎"以外のうどん屋には一切入らなかった二人が進んで足を運ぶのは正直珍しい。

 

というより。

 

 

「このかりんとう、水都のアイデア?」

 

「うん、そうだよ。諏訪に居た時に良く作ってたお菓子でね、皆にも受けが良かったから作ってみたの」

 

 

美味しい。という高評価に頬を綻ばせる水都に、やっぱりかとモミジは思う。

 

初めて諏訪に救援に行った際にも、お茶菓子として野菜で作ったお菓子でおもてなしをしてくれたのを思い出す。

 

 

こういう、身近な物を使っての新たな物を作り出すのは俺の知る限りでは水都が一番才が有るように思えるのだ。

 

 

「虎穴に入らずんば虎児を得ず。みーちゃんから教わった言葉に私は(サンダー)に撃たれた様だったわ」

 

 

ぐっ、と拳を握り、

 

 

「蕎麦を広めるなら、まずは利用者(ユーザー)の多いうどん屋から攻めるべきだってね! ゆくゆくはメニューの半分以上を蕎麦で埋めるわ!」

 

 

そんな、若葉が聞いたら激怒しそうな野望を歌野は語っていた。

 

 

「待て! 私の目の黒い内はそんな横暴は許さんぞ!」

 

 

というか居た。どうしたんだ?

 

 

水都の後ろから現れた若葉に続くように、上着に付いた雨を払いながら現れたひなたが口を開く。

 

 

「もう、お店で騒ぐのは駄目ですよ。歌野さんも、若葉ちゃんも」

 

「ひなた? そんな人数で……、偶然か?」

 

 

狙った様に同じ場所に集結した面々に思わず口に出せば、それを聞いたひなたが口を開く。

 

 

「私たちは、西暦の人間で話をしないか。とお食事に誘われまして」

 

「――西暦の人間で? 誰に?」

 

 

変わった提案をするなぁと思えば、千景が興味を持ったのか口を開く。

 

その返答をしたのは、ガラリと開けられたドアの先に居た人物。

 

 

「私だよ~ん。現実に戻った時の為に、色々と各地の情報を仕入れたくてねん」

 

「……わかめうどん。ミニ海鮮丼のセットが良いな」

 

 

秋原雪花と、ぼーっとメニューを見ては呟く様に注文を決めた古波蔵棗の姿があった。

 

 

 

 

ぷは、と出汁まで飲み干して一言。

 

 

「……旨かった。沖縄そば程ではないが」

 

「そだね、美味しいよ。ラーメン程じゃないけど」

 

「うん。美味しい(ベリーグッド)なのは認めるわ。蕎麦程じゃないけど」

 

「うどんがあれば良いな。他の麺類とか要らんだろう」

 

 

「何故勇者部にはこんなにも麺類キチが多いのか」

 

 

自分の推し麺を強く主張する四人に、思わずツッコミを入れてしまった。

 

腹も膨れて一息吐いたのか、温かいお茶が入った湯呑みを両手で包むように持ちながら雪花が言う。

 

 

「ま、そのへんは追々話し合うとして……」

 

 

「何時でも受けて立つぞ」

私もよ(ミートゥー)

「私もだ」

 

「本当に仲良いよね、君たち」

 

 

こほん、と咳を一つして、

 

 

「取り敢えず、各地の情報を擦り合わせない? 四国はノギー達一行として……、沖縄は?」

 

「沖縄か? こっちは……」

 

 

話を振られた棗が顎に手を当てて、思い返す様にうーむと悩んで数秒後、

 

 

「バーテックスが居たな」

 

「それは全国各地だろうね」

 

 

「……夕飯は大抵海の幸だった」

 

「土地柄かな」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

数秒、頭を抱えた棗を周囲が見守るという静かな時間を置いて、

 

 

「………………海が、青かった」

 

 

搾り出すように出た返答がそれだった。

 

 

「沖縄は平和だった……のか?」

 

「バーテックスは確かに居たが……。あ、そうだ」

 

 

呟く様な若葉の言葉に、棗が思い出したのかそういえばと口を開いた。

 

 

「四国が安全だと聞いて、今居る生存者を可能な限り連れていこうとしていたが……。どうなったのだろうか」

 

「成功したんじゃない? その人達の子孫の一人が赤嶺さんでしょう?」

 

「あ、そうか。そうだったな」

 

 

千景の返答に納得が行ったのか、棗が悩みが晴れたように顔を綻ばせる。

 

寡黙な様で、良く見れば結構多彩な表情をするようだ。

 

 

次は、と答え終わった棗が雪花へと言う。

 

 

「北海道はどうだったんだ?」

 

「んー……。北海道はでっかいどーだから、大変と言えば大変だったけど」

 

 

思い返す様に、棗と同じく雪花も顎に手を当ててうーむと悩む。

 

少しだけ時間を置いて、たははと苦笑いをしながら口を開いた。

 

 

「守らなきゃいけない人も多いし、四国までの道も長いから籠城だったかにゃあ」

 

 

雪花が言ったその言葉に何処か変な違和感を感じたが、はっきりと何処か変なのかが分からない。

 

違和感に考え事をしていると、雪花がそういえばと口を開く。

 

 

「歌野達は諏訪……、長野だったんだよね。どうやって四国までたどり着いたの? 蕎麦のおかげ?」

 

「そうね。蕎麦の力があれば可能だと言えるけれど……。それは冗談として、違うわ」

 

 

話を振られた歌野が、得意気にしながら言うが直ぐにおふざけを止めてモミジへと手で示す。

 

蕎麦の力で可能なのか。恐るべし諏訪のソウルフード。

 

 

「四国に行く切欠も、手段もくれたのはモミジさんと綾乃さんのおかげよ」

 

「……へぇ、というと?」

 

 

歌野の言葉に、雪花の目が僅かに細くなった。

 

 

「モミジさん達は"防人"として、私達の居る諏訪へ救援(レスキュー)に来てくれたの」

 

「人数もかなり多かったし、大変だったけど無事に着けて良かったよね!」

 

 

歌野の説明に当時の事を思い出したのか、水都が興奮気味に話し出す。

 

 

「バーテックスがうようよ居て怖かったけど、四国に辿り着けた時には凄く嬉しかったよ」

 

「私達もだ。はっきり言って、生きて会える望みは薄いと思っていた。こうして会えて、本当に嬉しいぞ」

 

「私もです。通信越しの交流とはいえ、知己の者の不幸は辛いですから」

 

 

水都の言葉に応える様に、若葉とひなたが口を開く。それに同意する様に、同じ四国の友奈と千景が微笑みながら頷いていた。

 

此処に居ない球子と杏の二人も、居たらきっと同じように答えていた筈だ。

 

……そういえば。

 

 

「タマと杏は何処行ったんだ? 連絡したんだろ?」

 

「えぇ。でもまだ返信が……、今来たわ」

 

 

西暦の人間で食事、ということで杏と球子にも連絡をしたのだがまだ返信どころか姿も現さない。

 

自由奔放な球子一人だけならまだしも、真面目な性格の杏が? と考えていると、スマホを操作していた千景が画面を此方へと向ける。

 

 

『亜耶達が湿気取りとかの掃除用具買いに行くらしいから、タマ達は護衛兼荷物持ちで着いて行くゾ! 雪花には悪いが、また後日と伝えておいてくれタマへ!』

 

 

というメッセージと共に、杏、タマの他に大赦からの帰りなのか亜耶と梓、綾乃の姿まであった。

 

モミジのスマホを見れば、綾乃から似たようなメッセージが入っているのが見える。

 

 

「そういえば、掃除用品が不足していると亜耶さんが言っていましたね」

 

「こんな雨の日に……、と言いたい所だが連日だしな。大事ないだろうか」

 

「人数居るみたいだし大丈夫だろ。何かあれば直ぐに行ける距離だ」

 

 

アプリのマップ機能で確認すれば、そう離れてはいない場所に居ることが分かった。買い物が終わったならば、合流して帰るのも良いかもしれない。

 

 

「ねぇねぇ、コーヨー君」

 

「……ん、俺か?」

 

「そうそう。大神紅葉で、コーヨー君」

 

 

聞き慣れないニックネームに反応が遅れれば、ニコニコと笑みを浮かべる雪花が此方を見ていた。

 

モミジ、と呼んでくれるのが一番楽なのだが。何だか新しいニックネームは気恥ずかしい。

 

 

「"防人"、って聞いた話だと四国の外で活動してた組織なんだよね? 色々とお話聞きたいなぁって」

 

「それもそうだな。モミジ、私達も結局細かくは聞けなかったし、折角だから話してくれないか」

 

 

雪花の話しに何故か反応した若葉が、新しくお茶を貰いながら湯呑みを傾ける。聞く気満々の様だ。

 

仕方ない、と肩を竦めながらも話をするためにリラックスして身体を落ち着ける。皆が、何処か期待するような目で見ているのを気付いて恥ずかしくて目を反らしてしまった。

 

 

「――――」

 

 

睨むような、恨みがましい目線が向けられた事にも気付かない程に。

 

 

 

 

同時刻。ショッピングモール。

 

 

「えぇーっと、これと、これと……」

 

「亜耶ちゃん、この洗剤も無かったよね?」

 

「あ、そうだったね。……あ」

 

 

暫くは出来なかった物資の買い出しに、記憶を辿りながら次から次へとカートへと放り込んでいた亜耶の顔が曇る。

 

何が、と一緒に居た梓が思えばそこには山盛りに積まれた物資の山。あぁ、そうか。

 

 

「どうやって持って帰ろうか……、今からでも減らす? うぅ、でもなぁ……」

 

「タクシーでも、人が乗るのを含めたら二台分は必要だね……」

 

 

金銭は大赦支給のクレジットカードが有るとはいえ、あまり無駄遣いはしたくない。

 

かといって、この大荷物を寄宿舎まで持って帰るのはあまりにも辛いものがある。

 

 

その時。

 

 

「どうかしたの、アンタら」

 

「あ。綾乃お姉ちゃん」

 

 

食料品の買い出しを終えた綾乃、球子、杏の三人が此方へと歩いて来ていた。

 

やはり数日分となるとかなりの量になるのか、重そうな買い物袋を三人で分担して提げている。

 

 

「そっちもかなりの量ですよね……」

 

「うん? ……あぁ、そういうことか。大丈夫よ」

 

 

買い物の量の事を懸念しているのを察知したのか、綾乃がにこりと笑っていう。

 

 

「此処にタマちゃんが居るじゃろ?」

 

「ぅおい?! タマの両手は既に重量オーバーだゾ?!」

 

 

軽々と球子の事を犠牲にしようとした綾乃へと、球子が必死に抗議する。

 

冗談よ冗談。と綾乃は言うと、買う物が決まったカートをレジへと持っていくと店員へクレジットカードを出しながら言う。

 

 

「すみません、配送をお願いしても良いですか?」

 

「配送ですね、分かりました」

 

 

カードの明記先が大赦なのを見て、店員がパタパタと忙しそうにカートの中身をサービスカウンターへと運んで行く。

 

暫し待つこと数分、少量の物資が入った袋を持った綾乃がはいと亜耶へ手渡しながら言う。

 

 

「食料品と違って腐らないなら、こうして必要な分だけ避けて配達して貰うのが楽よ」

 

「なるほど、そんな手が有るんですね!」

 

「初めて知ったよ~」

 

 

重たい荷物の分配が終わって、さてタクシーでも拾って帰るか、と考えた時視界の端に居た杏が何かを見つけた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うぅ……。お腹が……」

 

 

腹部を押さえてしゃがむ少女を、心配そうに駆け寄った杏が安否を確認する。

 

続いて駆け寄った球子が立てるか、と肩を貸せば、少女が青い顔をして力無く呟いた。

 

 

「お、お腹空いた……」

 

「「…………へ?」」

 

 

聞き間違いかと聞き直した二人の耳に飛び込んで来たのは、きゅるるーなんていう可愛らしい腹の音だった。

 

 

 

 

「へぇ。"道"を使って、他の神域と接続、かぁ。通信ケーブルみたいな物だね」

 

「おー。まぁ似たような物かな」

 

 

"防人"としての四国外での活動内容を話せば、雪花が納得するように手を打った。

 

先程何か違和感の様な物を感じたが、あれは気のせいだったのだろうか。

 

 

その時。

 

 

「――!」

「こ、これって……」

 

 

ひなた、水都の二人が突如として何かに反応する。流れ込む何かを抑える様に、頭に手を当てて目を閉じ、何かを読み取るように集中していた。

 

"巫女"である二人が反応する出来事といえば、あるのは一つしかない。

 

 

「神託です。……ここ最近のこの連日の雨、水害の原因となるモノを撃破せよ。という事でしょうか」

 

「多分そう、だと思います。……大型のバーテックスが数体、進行しています」

 

 

「なるほどな。この雨模様続きはバーテックスが原因だったか、出撃は何時だ?」

 

 

湯呑みを手に取り、ぐいと飲み干した若葉がテーブルへと戻しながらひなたへと問う。

 

 

その湯呑みが置かれたのはテーブルの上ではなく、空中でぴたりと止まった。

 

 

「これからです……!」

 

 

樹海化の侵食するような光の中で、ひなたの焦る様な声が届いていた。

 

 

~~

 

 

ふざけるな。

 

 

ふざけるな。四国の連中。

 

 

『北海道や沖縄には、遠かったから行かなかったんじゃないですよぉ』

 

 

あの間延びした、気だるげな声の少女に言われた内容が頭に響く。

 

 

『神としての在り方が違う、異質なモノを四国に組み込んで土地神が喧嘩するのを防ぐ為に、貴女方は切り捨てられたんですよぉ』

 

 

信じたくはなかった。

 

違うと言ってほしかった。

 

ここは、全部が暖かい所だったから。

 

 

「北海道? 救援に行く予定だったんだが、結局は行けなかったな」

 

 

"防人"である大神紅葉のその言葉に、四国の考えが読み取れた。

 

見捨てたのだ。切り捨てたのだ。

 

バーテックスへの囮の一つとして、私達を差し出したのだ……!

 

 

……ふざけるな。

 

 

『でもぉ、ここで全部(ぜーんぶ)変えれるんですよぉ?』

 

 

『――()()、をねぇ』

 

 

~~

 

 

樹海。

 

神が造りし、バーテックスとの戦闘の場はその風景を普段とは異なる物に変えていた。

 

 

「な、なにこの雨ぇ……?!」

 

「台風でもここまで降らないわ……?!」

 

 

変身を終えた千景と友奈が、一瞬にして身体をずぶ濡れにするほどに降り注ぐ雨に驚愕する。

 

バケツをひっくり返した様な。という比喩表現がぴったりなそれは、数メートル先ですら見通せない程に絶えず雨を降り続けていた。

 

 

「"覆え"」

 

 

モミジがだん、と足を樹木に打ち付ければ、メキメキと音を立ててあっという間にドームの様な物が出来上がった。

 

その場に居たものを中に入れると、この場の指揮官である若葉と援護対象のひなたへと言う。

 

 

「若葉、これはお前達への試練らしい。気張って頑張れ。ひなた、水都の"巫女"組は此処に。俺は綾乃と梓と亜耶ちゃんを迎えに行ってくる」

 

「なっ、手伝ってはくれないのか?!」

 

 

モミジの言葉に、若葉が驚愕を顔に浮かべて言う。

 

そりゃあ私達への試練であるとは分かっているが、こんな異常(イレギュラー)があるとは聞いていない。

 

 

「ここまでじゃないが、俺も四国の外で環境異常の中で戦った事はある。……どうしてもヤバそうなら手は貸すさ。取り敢えずは頑張ってみろ」

 

「お、おぉ……?」

 

 

少し冷たい様な雰囲気のあるモミジに、若葉が困惑しつつ返事する。

 

それに気付いたのか、モミジが悪い、と苦笑いして言う。

 

 

「妙な気配を感じるんだ。悪いが、先に行くぜ」

 

 

言うが早いか、ばちりと音を立てると瞬間的に姿が掻き消えた。

 

蒼白い火花が軌跡を残し、雨の中に消えていく。

 

 

それを見送って、幾らかこの状況に余裕が出来た若葉が口を開く。

 

 

「取り敢えずは仲間との合流だ。レーダーを見るに、風さん達も固まって動いている。最低三人一組で動く様にしよう!」

 

「うん!」

「分かったわ」

「そうね」

「あぁ」

 

 

スマホを取り出し画面を見れば、他の仲間が固まって居るのが見えた。

 

……なるほど確かに、これならば彼女達と話が出来るかもしれない。

 

 

「――分かったにゃあ」

 

 

雪花の目に、暗い何かが見え隠れしていた。

 

 

 

 

「あの子、大丈夫かなぁ」

 

「戦闘終わった後、さっさと戻れば大丈夫だよ! 切り替えろよ!」

 

 

心配するような声音の杏に、球子が激を飛ばす。

 

先程出会った少女だったが、何か食べれる物を……と探している内に樹海化したのだ。

 

終わったら直ぐに戻ろう。うん。

 

 

「若葉達が近い。 直ぐに行くぞ!」

 

「そうだね。二人ともはぐれないでね」

「うん!」

「分かりました!」

 

 

先が見えない雨の中、レーダーを頼りに球子を先頭に置いて間に"巫女"の綾乃、梓、亜耶、後ろに杏という並びで進んでいく。

 

バーテックスの反応もあるが、向こうもこの雨で此方に気付けないのか向かってこない。

 

 

「ったく、馬鹿みたいに雨を降らしやがってこん畜生……!」

 

 

雨を掻き分ける様に進む中、愚痴る様に球子はそう呟いた。

 

 

~~

 

 

「さぁて、見せて貰うぞ。人の子よ」

 

 

球子達から少し離れたそこで、少女が雨の中気にする事なく自然体で呟く。

 

見た目には似合わない尊大な言葉遣いが、少女の異質さを極立てていた。

 

 

「滅びの火は再び灯った。300年前は消えたが、此度(こたび)はそれが燃え上がるか、それともまた消えるか、お主達次第じゃからの」

 

 

その両目には、朱金の輝きが灯っていた。

 

 

 




雪花ちゃんまじ闇メガネ。でも可愛い。

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