大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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滅茶苦茶お久しぶりです。
もう話忘れたよ!って人も居ると思いますが、帰って来ました。
またゆっくりとですが、今回程の期間は空けないと思います。
またお付き合いの程、宜しくお願いします。


寒い日には、暖かい物が欲しい。2

 

 

初めて見る、体験する、まさにバケツをひっくり返した様な大雨。

 

ノイズの様に耳の中を蹂躙する雨音の中でも、彼女の言葉はよく聞こえた。

 

 

「二人もあるでしょ、"変えたい歴史"ってのがさ」

 

「過去の自分達を見て、現在(いま)と見比べてみて、ふと思う所はあるんじゃないのかにゃあ」

 

 

 

「"此処で、ずっと夢見てたい"ってさ」

 

 

 

――告げられるその言葉に、雨で冷えた身体の芯から熱い何かがジワリと浮き出るのを少女は感じていた。

 

 

 

 

「敵は大型ニ体! 雨で視界は最悪だから、慎重に攻めるわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

雨の中で聞こえる風の怒号にも近い号令に、フォーメーションで散っている者達から声が上がる。

 

敵は大型ニ体。戦闘による観察時間は短いが、何時もとは違い星屑バーテックスの動きに不明瞭な物があるのを見るに向こうにも此方の視認は難しいのかもしれない。

 

 

「それにしても……」

 

 

"金弓箭(ボウガン)"を構え、星屑バーテックスへと向けて引き金を引こうとして……少しだけ、風向きを読んで打つ。

 

放たれた矢は空を切り裂きながら、僅かに軌道を逸れつつも星屑バーテックスへと当たった。

 

 

「戦いづらい……!」

 

 

ボウガンとはいえ、神具である武具の矢がここまで阻害されるのは異常ではないだろうか。

 

見えてないとはいえ、何処かで同じ様に戦闘している須美や東郷の遠距離戦闘組はどうなのだろうかと思わず視線を他へと走らせる。

 

 

その時。

 

 

「杏っ!」

 

「っ?!」

 

 

掛けられた声に我に返れば、雨の中から星屑バーテックスが数体大口を開けて迫って来る所だった。

 

焦ってボウガンを向けるが、そこには既に踏み込み腰にある"生大刀(いくたち)"を抜き放つ若葉の姿。

 

 

少しの間を置いて、両断されたバーテックスが消滅するのを見ながら若葉がふぅと息を吐く。

 

 

「油断は禁物だぞ。視界も狭いんだ、何時もと同じように構えては危険を招く」

 

「す、すみません。慣れない環境で、攻め手が効かずについ……」

 

 

杏のその言葉に、神具による状況の優劣に気が付いたのかなるほどと若葉が頷く。

 

 

「確かにこの暴風の中ではな。遠距離戦闘組は、少し考えて配置せねばならないのかもしれないな。何か案はあるか、杏」

 

「具体的な打開策はまだ……。ですが、この暴風雨が大型バーテックスの仕業であるならば、その連携を崩す事で勝機がある筈です」

 

「確かに、せめて雨か風のどちらかは消したい所だな。分かった、他の皆の確認がてら聞いてくるよ」

 

「はい!」

 

 

杏の返事を聞いて、若葉は一つ頷いて暴風雨の中を駆けて行った。

 

風に煽られてもぶれない体幹に、改めてよく鍛えているのだなと感心する。

 

 

「さて、私にも出来ることをしないと!」

 

 

指示の出しにくい、伝えにくいこの空間でも、やれることはある筈だ。

 

がしゃりと、金弓箭(ボウガン)の矢をリロードしながら杏はそう考えた。

 

 

 

 

――ぴりぴりしてるなぁ……。

 

 

雨避けと防護の為にモミジが作り出した樹木のドームの中で、雨でずぶ濡れになった衣服の端をぎゅ、と絞りながら梓はそう思っていた。

 

その人物はドームの入り口で仁王立ちし、何かを探るように集中しているモミジだ。合流してから少し時間が経過したが、何処か張りつめた雰囲気を漂わせている。

 

 

その時。

 

 

「っきし!……うー、寒」

 

「奥に寄った方が良いですよ。身を寄せあって、お互いの体温で暖まりましょう」

 

「おしくらまんじゅうですね!」

 

 

ひなたと水都に亜耶、鼻を啜る綾乃の四人に混じり固まれば、確かに一人で居るよりは暖かい。

 

ふぅ、と梓が一息吐いていると、綾乃が不満げに口を尖らせて言う。

 

 

「モミジの神様パワーで何とか出来ないの? それか元凶のバーテックスをどついて来るとか」

 

「……あのなぁ。若葉達、勇者への"試練"だって言ってるだろ?」

 

「でも、あの様子じゃ皆気付いてないんじゃない?」

 

 

綾乃からの反応に、モミジ自身も薄々感じていた事なのか、むぅ、と言葉が詰まる。

 

"試練"、という言葉に反応したのはひなたと水都だった。

 

 

「前から聞いていましたが、"試練"というのは結局の所何をさせたいのですか?」

 

「バーテックスを倒すことが主な目的ではないんだよね?」

 

 

二人からの質問に、うーむと唸りながらモミジが腕組みをして悩む。

 

数秒の逡巡の後に、まぁ良いかと諦めにも似た呟きをして五人に向き合った。

 

 

「これは勇者全員……、特にこの時代、神世紀の勇者達だな。その皆が気付かなければならない事なんだが、他言無用で頼むぞ?」

 

 

どかりと目の前に腰を降ろし、指を立てつつ他言無用と注意する。全員が頷いたのを見て、モミジは口を開いた。

 

 

 

 

このままじゃジリ貧だ。

 

 

「もぅ、どうしろってのよこれぇ!」

 

 

姉の風が苛立ち気に怒鳴るのを聞きながら、樹は吹き荒ぶ風と雨の中考える。

 

身体が冷たい。雨のせいで体温と体力が奪われているからだ。

 

攻撃が通らない。暴風雨により、攻撃の制御が難しくなっているから。

 

 

向こうもまともに攻撃が出来ない。と判断を下していたが、それは間違いだ。

 

攻撃する必要がない。雨と暴風で弱った者から順次撃破すれば良いだけなのだから。

 

 

「どうしたら……」

 

 

この状況を打開出来るだけの策。

 

目にかかる雨をぐいと手で拭えば、樹の脳裏に一瞬だけ幻視した姿があった。

 

 

少し前に会った、大嶽丸(死の恐怖)の姿を。

 

 

――“覚悟”の無いお前に、“神”に挑む資格はない

 

 

覚悟。

 

あの夜の樹海での戦闘の後、姉の風と姉貴分の夏凜からは気にするな、と励まされた。

 

実際、自分の能力が勇者部の中で劣っているのは理解しているし純粋な戦闘面でも足を引っ張っているのは理解している。

 

だからこそ……。

 

 

 

「敵影確認! これは……っ」

 

「乃木さん! 近付き過ぎたら危険よ!」

 

 

敵に最接近している若葉と千景の声が暴風雨の合間に聞こえた。

 

霧の様な雨幕が晴れた一瞬に見えたその姿を、勇者の力で強化された樹の視力は見逃さなかった。

 

 

亀の様な重厚な外骨格。背にそびえるのは、ヘリコプターの羽の様に高速で回転する船の櫂を思わせる巨岩の羽。

 

機動力なんてものは考えていない。ただ居るだけで敵の動きを阻害する存在が、そこに鎮座していた。

 

 

「無闇に突っ込まないで! あれに弾かれたらひとたまりもないわよ!」

 

「っ」

 

 

千景の言葉に、確認して即座に斬りかかろうとした若葉の足が歯噛みして止まる。

 

質量、速度共に御しきれないあれを、負傷覚悟でないと斬れないと判断した為。

 

……うん、確実に死ねるな。あれは。

 

 

暴風を起こしている元凶を視認して、樹は冷静に状況を見る。

 

 

――正確には、自分を説得させるだけの材料を揃える為に。

 

 

~~

 

 

「この時代の勇者と、過去の勇者。何が違うか、分かるか?」

 

 

焚き火用の木々をくべて、火種に使う綿にぱちりと赤雷を走らせてモミジが問う。

 

 

「チャッカマン」

 

「やかましい」

 

 

ふぅふぅと息を送り、徐々に大きくなる火種を見つつぽつりと呟いた綾乃へと苦言を言っていると、焚き火用に組んだ組み木へと身を寄せるひなたが言う。

 

 

「違い、ですか?」

 

「あぁ。"勇者システム"とかの性能じゃあないぞ。根本的な物だ」

 

 

釘を刺すように言うモミジ。"試練"にそんなものは関係ないと考えていたが、改めて考えると難しい。

 

うーんと梓も唸っていた所で、もしかして、と声を上げたのは水都だった。

 

 

「お役目に対する姿勢、とか……?」

 

「方向性は合ってる……が惜しいな。綾乃、分かるか?」

 

 

火が安定して来たのを見て、冷える身体をうー、と震わせながら手を火にかざす綾乃へとモミジが問う。

 

 

モミジの言葉に何か考える様に声を上げて言葉を選んで口を開く。

 

 

「どこまで非情になれるかどうか?」

 

「うーむ。まぁ、惜しいが良いだろ正解にしておいてやる」

 

 

こほん、と一つ咳払いをしてモミジが言う。

 

 

「要するに、自身の目的の為に何処までやれるかどうかの"覚悟"を持てるかだ」

 

 

~~

 

 

「私が縛ります!」

 

 

ワイヤーを飛ばし、普段相手しているバーテックスへの対処通りに敵の捕縛に移る。

 

近付けないなら、遠くから動けなくしてしまえば良い……!!

 

 

だが、

 

 

「きゃあ?!」

 

「樹!」

 

 

ワイヤーが縛れたのも一瞬の事。当然の様に引きちぎられたそれは、糸を巻き取る様に回転を始めそれの元に居る樹は引き寄せられるように宙を舞った。

 

 

それにいち早く気付いた風が手にした大剣でワイヤーを切断し、放り投げられた樹をキャッチする。

 

 

「無茶しちゃダメじゃない! 落ち着いて対処しないと……!」

 

 

風が心配から無茶をする樹へと思わず怒鳴る。だが、その樹の顔を見て思わず止まった。

 

 

自分を鼓舞するような、荒い呼吸。

 

何か、踏ん切りをつけた、覚悟を決めた目。

 

 

「お姉ちゃん」

 

「……な、何。樹?」

 

 

未だ敵を見据えつつ言う樹へと、脳内で何かを思い出しながら風は返答する。

 

私は、前にこんな顔をしたこの子を見た筈だ。

 

 

「大神さんの偽物と戦った時に、私が言われた事覚えてる?」

 

「それは、確か……」

 

 

――“覚悟”の無いお前に、“神”に挑む資格はない

 

 

覚えている。

 

妹を値踏みするような、侮辱するような声音のその言葉を。

 

確かにお役目は遊びではないのは重々知っている。打倒すべきバーテックスの侵攻のせいで、風と樹の両親は死んだも同然なのだから。

 

だが、たった一人の家族を、妹を殺伐とした世界には関わらせたくないのも本心なのだ。

 

 

「私のワイヤーなら、あの大型バーテックスを止められるの」

 

「……ダメよ。樹」

 

 

その言葉から、妹が何を考えているのかが分かる。

 

分かるからこそ止める。あれは、使ってはならない物だと。

 

それをしたせいで、どんな地獄に落ちたか覚えていないのかと。

 

 

「私の、"満開"なら」

 

 

 

 

"満開"

 

神樹が新たに勇者へと授けた力であり、言わば諸刃の剣。

 

一時的に神に等しい力を行使する事が出来、御霊入りのバーテックスであれど一人で打倒する事が出来る程の力を引き出せる。

 

だが、神の力に無償はない。

 

神に等しい力は、()()()()()()()()()()()として借り受ける物であった。

 

 

「――話には聞いています。二度と使わせないと、風さんが仰っていましたが」

 

「別に使うのを強要する訳じゃないさ。使わずに状況を切り抜ける事が出来るなら、それが一番だからな」

 

 

ぱちりと薪から音が鳴る。火が安定したのを見つつ、がらん、と木材を放り込んでモミジは更に続ける。

 

 

「だが、どうしようもない状況。それしか手が無いって時に、我が身可愛さに使わないのは下の下だ」

 

「……厳しいんだね。神様って」

 

「水都なら分かるだろ。諏訪の様な場所なら特に」

 

 

本当の極限状況において、頑張るなんて言葉は全くの意味を為さない。

 

バーテックスに喰われたくないのなら倒すしかないのだから。

 

生き延びたいのなら、どんな手を使ってでも食べ物を、生を得るしかない。

 

 

自分だって、白鳥歌野(うたのん)という()()()が居たから気付けなかったが、本来ならばそういった地獄に居た筈なのだ。

 

 

……その場合、私ならどうするのだろうか。

 

 

「その"覚悟"とやらがないと、"天の神"には勝てないの?」

 

「あぁ、勝てない。絶対に」

 

 

綾乃がモミジへと問う。そんな問いに、モミジはきっぱりと断言した。

 

モミジの返答に言葉を失う面々へと、モミジは続ける。

 

 

「今の……、神世紀の勇者は幼すぎる。戦いへの覚悟も、その精神も」

 

「全員で力を合わせるって戦法も結構だが、全員が同じステータスじゃないんだ。消耗を重ねればいつか誰かにガタが来る」

 

「それじゃダメだ。一人一人が、自分が倒すという決死の覚悟で戦う程じゃないと」

 

 

「――じゃないと、大事な物は守れやしないんだ」

 

 

その時。

 

――一寸先も見渡せない暴風雨の嵐の中、モミジ達が居るドームの外で爆発的に神々しい光が差した。

 

 

~~

 

 

止めて。

 

樹は、そこまでしなくても良いの。

 

お姉ちゃんが、頑張るから――

 

 

「お姉ちゃん」

 

 

どんな顔をしていたのだろうか。

 

風の目元から溢れた熱い何かに気付いた樹が、微笑んで指で掬う。

 

 

「私ね、今のままじゃダメだと思うんだ」

 

「いつもお姉ちゃんや夏凜さんに頼って、守られてばかりで」

 

「私は、誰かの後ろでしか居られない」

 

 

それではダメだ。

 

誰かの後ろではない。

 

 

「私は、本当の意味で皆と一緒に戦いたいの」

 

 

真っ直ぐに見据える樹と目が合う。

 

いつの間にかあるこの震えは、寒さから来る物か、それとも。

 

 

「ぐっ……! どうする、風さん!この暴風では近付く事すら出来やしない!」

 

「此方も手応え無しです……!」

 

 

武器である弓矢を構える須美が、歯痒そうに噛み締める。

 

この寒さで体力が奪われているのか、周囲の皆の身体の動きが先程から鈍い様に感じた。

 

時間がない。

 

 

「私が行きます!」

 

「樹?! アンタのワイヤーじゃ、あんなゴツいのは無理だったじゃない?!」

 

 

樹の言葉に、また無茶をするつもりかと夏凜が声を荒げる。

 

それに対する返答として、大型バーテックスへと足を進めながら樹は言う。

 

 

「そうですね。()()()()()()

 

「えっ……」

 

 

戸惑う夏凜を置いて、強く地面を蹴って大型バーテックス目掛けて飛び込む。

 

その時、風には聞こえた気がした。

 

――お姉ちゃん、見てて。

 

 

「――"満開"!!」

 

 

瞬間。

 

樹を中心にして吹き飛ぶ豪雨、その場に居た若葉達が目元を拭って見れば、そこには神々しい光を放つ巨大な鳴子百合をモチーフにした紋章を背負う樹の姿があった。

 

先程までの勇者服とは違い、白を基調とした羽衣を纏う異質な神威を放つその存在に、鎮座していた大型バーテックスが大きな咆哮を上げる。

 

 

「っ、暴風が?!」

 

「狙われてるわよ!」

 

 

背中にあった巨岩の羽が変化。大気を掻き回すだけだったそれを、明確な指向性を持って暴風が樹へと向けられる。

 

途中の木々や岩をも巻き込み、当たれば原型を留めないであろう巨大な礫が樹へと向かうが、

 

――そのどれもが、樹へ後少しという所で宙に縫い付けられた。

 

 

張り巡らされたワイヤー。それに全て受け止められていたのだ。

 

樹だけではない。その周囲の"勇者"、皆を守る様にワイヤーが縦横無尽に張り巡らされている。

 

 

「ここ最近の暴風雨続き、原因はあなた達バーテックスなんだよね。そんな悪い子達は――」

 

 

敵へと向ける手の平。それに反応するように、縦横無尽に張り巡らされたワイヤーが形を変え敵へと迫る。

 

元々鈍重であった身体は、逃げるなんて選択肢を迫られる前に雁字搦めにワイヤーが巻かれ、

 

 

「――お仕置きっ!!」

 

 

――そんな、可愛らしい一言と共にバラバラに切断された。

 

別名"死神ワイヤー"とも呼ばれる彼女は、攻守共に優れた能力の持ち主でもある。

 

ただ、それを開花させる機会がないだけなのだ。

 

 

「やった、大型バーテックスを撃破したぞ!」

 

「でも、この大雨の原因は何処?!」

 

 

周囲を取り囲む星屑を蹴散らしながらも、暴風と共に居る筈のもう一体の大型バーテックスを探す一同。

 

探索のアプリには目の前に反応がある筈なのだが、一向に見付からないままだった。

 

 

伊予島杏が見つけるまでは。

 

 

「敵、見付けました!場所は――」

 

杏の声に振り向き、向ける視線を追って目を向ける。そこは、

 

「遥か、上空です!」

 

先程までの大型バーテックスを遥かに凌駕する超大型バーテックスが、悠然と漂っていた。

 

 

 

 

「……あれが、"満開"」

 

「そう。神樹が勇者へと与えた、切り札そのものだ」

 

 

勇者達が居るであろう場所から感じる神威に、ひなたが少しだけ身を竦めながら呟く。

 

近くの水都達も同じような反応を見る限り、巫女は神の力をダイレクトに感じ取る事が出来るようだ。

 

 

「なら、誰かが何かを神樹様に捧げたの……?」

 

「代償の払い……"散華"は樹海化が解けてかららしいから。それまでは何とも言えないわね」

 

 

不安そうに言う梓へと、綾乃が頭を撫でながら言う。

 

"散華"。神の力を振るう代償として、身体の機能が捧げられると聞いたが神樹はどうするつもりなのか。

 

その辺りの話は聞いてないから、結果どうなるかは此方としてもぶっつけ本番でもある。

 

 

「……風は止んだけど。雨はまだ降ってるわね」

 

「大型が二体居るからな。暴風担当と豪雨担当が」

 

「反応的にはもう接敵しててもおかしくないのに、何処に居るの?」

 

「ん? 上だよ、上。あそこ」

 

 

梓の言葉に答える様にモミジが指差す方を見れば、雨雲にうっすらと見える巨大な影があった。

 

バーテックス独特の白い身体を大きくうねらせ動くそれは、まさしく昔話で聞いた"龍"そのものであった。

 

 

~~

 

 

"豪雨"を降らせる龍型のバーテックス。

 

暴風を撒き散らす相方が撃破されたのを理解したのか、豪雨に含めて新たな物が降り注ぎ始めた。

 

それは、大人程の巨大な雹。

 

相方が居るときには同士討ちを避けて放たなかったそれを、勇者を撃破すべく地上へと降り注ぐ。

 

 

人は天より降る物には抵抗出来ない。

 

それが、そのバーテックスに刻まれていた人類の弱点でもあった。

 

 

()()()()

 

 

「樹っ、飛ばしなさい!!」

 

「あぁもう、絶対に無茶しないでよ、お姉ちゃん?!」

 

 

そんな声と共に、地上に張り巡らされていたワイヤーから一つの人影が打ち出された。

 

それへと向けて雹が向けられるが、それを見た当人は声を荒げ吼える。

 

 

「妹が根性出したってのに、姉の私が何もしない訳には行かないでしょうが!!」

 

 

言葉の後に、先程と同様に爆発的に神威が吹き荒れる。神々しい光が天へと昇って行き、それは大型バーテックスの眼前へと躍り出た。

 

一口で喰らうだけだ。と大口を開けたバーテックスの目に写ったのは、何かを振りかぶる風の姿。

 

それは、自身と同じかそれ以上の大きな大剣。

 

 

「――"満開"!……本っ当にもぉ、いい加減にィっ!!」

 

 

それを、樹と同様に白を基調とした羽衣を纏った風が全身を捻ってでバーテックスへと振り下ろす。

 

 

「落ちろぉぉぉおおお!!」

 

 

落とされてたまるものかと、バーテックスが耐えたのも数秒。

 

龍型バーテックスは、大剣に潰される形で土煙を大きく上げ地上へと叩き落とされ、両断された。

 

 

暴風の亀型バーテックス

 

豪雨の龍型バーテックス

 

 

二体の大型バーテックスは、"満開"によって覚醒した犬吠埼姉妹の手で討伐されたのだった。

 

 

 

 

「――む。戻ったか」

 

「おかえりなさい……」

 

 

「戻りましたよぉ」

 

 

同時刻、某所にて。

 

仲間の帰還に気付いた二人が挨拶を交わす。

 

声を掛けられた当人は、にへらと軽薄な笑みを浮かべて手をひらひらと振った。

 

 

「どうだった?」

 

「ぼちぼちって所ですかねぇ。まぁでも、熱心に勧誘して下さってるんで大丈夫だとは思いますよぉ?」

 

 

言葉の後に気弱そうな少女から差し出された湯飲み。昇る湯気が、雨で冷えた身体には嬉しい物だった。

 

礼を言って受け取り、一口飲む。

 

 

「皆さん。色々と溜め込んでる様ですからねぇ」

 

 

――少女の言葉に、他の二人は納得するように頷いた。




久しぶりに書いた?ので、少し文体に違和感あったら申し訳ない。
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