大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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続きです。



神との邂逅 1

 

大型バーテックス二体との戦闘を終えて、樹海化が解けた勇者一行は直ぐ様犬吠埼姉妹の元へと駆け付けた。

 

主に、讃州中学の面々が。

 

 

「風、樹! 大丈夫? 身体に違和感は無い?!」

 

「何故"満開"を…! いえ、確かに時間を掛ければ掛けるほど撃破が難しい相手ではありましたが…!」

 

「目は見えてる?! 頭大丈夫?! これは何本に見える?!」

 

 

矢継ぎ早に声を掛ける夏凜、東郷、友奈(ゆうき ゆうな)。最後の友奈の言葉は馬鹿にされてる様にも聞こえるが、彼女は彼女なりに真剣に問うていた。

 

心配されているのが理解出来ているのか、照れ隠しにあーもーと風が声を上げる。

 

 

「今の所大丈夫だから。落ち着きなさいよ、三人とも」

 

「そうですよ。この通り、平気へっちゃらです!」

 

 

姉の言葉に同意するように妹の樹がむん、と両腕でガッツポーズをして平気だとアピールする。

 

そんな様子を観察するように眺めていた中学生の乃木 園子がほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「確かに大丈夫そうだね……。"満開"した時には寿命が縮むかと思ったよー」

 

「確かに! 何回か止まったかと思ったよー」

 

「いや、一回でも止まっちゃダメだろ」

 

 

中学生の自分に同意するように言う小学生の園子へ、三ノ輪 銀がツッコミを入れる。

 

ツッコまれた園子がえへへと笑い、周囲にも朗らかな空気が流れた所で乃木 若葉が風へと声を掛けた。

 

 

「話には聞いていたが、本当に大丈夫か風さん? このまま病院で検査でも……」

 

「本当に大丈夫よ。……ただ、酷く疲れたわね、今日はもう動きたくないわー…」

 

「わ、私も出来れば……」

 

 

その場へとへたりこんだ二人に周囲がざわつくが、若葉がいち早く指示を出す。

 

 

「取り敢えずは学校へと戻るぞ!棗さん、夏凜、二人を任せても良いか?」

 

「あぁ、任せてくれ」

「へ?……へぇ?!」

 

「なっ?!……完成型勇者として、棗には負けられないわ。樹! 飛ばすわよ、捕まってなさい!」

「いや、夏凜さん出来ればゆっくりめでお願いしま――」

 

 

自信満々に風をお姫様抱っこで抱え、そんな状況に目を丸くした風。

 

そして颯爽と走り去る棗に対抗心を燃やした夏凜が、樹が要望を言い終わる前に背中に樹を背負い走り出した。

傍目からでもがくんがくんと首を揺らしていた樹が、無事に讃州中学にたどり着くとは思えない。

 

 

「……取り敢えず、学校へ戻るゾ。樹が心配だ」

 

「救急箱に酔い止めはあったかしら」

 

 

後を追い掛ける一行の中で、球子と千景が呆れた様に息を吐いた。

 

 

~~

 

 

「浮かない顔してるわね。思ったのと違った?」

 

「……そうだな。気配はしてたんだが」

 

「以前の戦闘から此方との戦力差は理解しているでしょうし、案外様子見に来たのでは?」

 

 

帰り道。周囲を探るように警戒しているモミジへと、綾乃が生乾きの衣服のシワを手で簡単に伸ばしながら言う。

雨続きだった天候は綺麗な青空を覗かせ、空では太陽が燦々と照らしていた。

 

周りを見れば、まだ乾いてない様子の面子も居る。風邪を引く前に一度寮に戻って、風呂に入って服を着替えるのが良いだろう。そういえば。

 

 

「日用品の買い出し行ってたろ?買った物はどうした?」

 

「あっ……」

 

 

モミジの言葉にしまった、とでも言いたげに梓が声を漏らした。

疑問符を上げれば、綾乃があー、と頭を搔いて言う。

 

 

「ごめん、ショッピングモールに置きっぱなしだわ。取りに行かなきゃ」

 

 

帰り道を先行する若葉達とは別れる様に進もうとする綾乃に、モミジが待ったを掛けた。

 

 

「なら俺が取ってくるよ。風邪引く前に先に風呂入って着替えてな」

 

「あらそう?モミジは大丈夫なの?」

 

「この程度大丈夫だよ」

 

「……あぁ、何とかは風邪引かないって言――」

 

 

薙刀の巫女の物言いに、言い終わらぬ内にばちりと指先から赤雷を宙へと軽く走らせれば、ひぃと梓の小さな背中に隠れた。

苦笑いする梓の背中から、そのまま顔を僅かに覗かせると、

 

 

「パワハラ反対!」

 

「何を。神へ不敬な物言いをする信徒に罰を与えるだけだ」

 

「ゴッドハラスメント?!」

 

 

一通り茶番を終え、皆を頼む。と薙刀の巫女に伝えると彼女は快く了承してくれた。

流れでふざけ通す事が多いが、彼女はなんだかんだ最後まで乗ってくれる。

 

さて、とモミジがショッピングモールの方向に向き直り、また後で、と手を振ると瞬きの間にばちりと姿が消えた。

 

 

そんな光景に、まぁ、皆で行くよりはモミジ一人で行った方が格段に速いわよね。なんて綾乃が考えていると、再度梓が思い出した様に声を上げた。

 

 

「どしたの?何か忘れ物?」

 

「いや、ショッピングモールで倒れてた子、大丈夫かなって」

 

「……あー」

 

 

梓の言葉に思い出したが、まぁ、他に人もたくさん居たし、モミジも行ってるから良いでしょ。と心の中で自分を説得して、

 

 

「――忘れなさい」

 

「お姉ちゃん?!」

 

 

全てを放棄した綾乃に、梓から声が上がった。

 

 

 

 

「さ、て、と……」

 

 

場所はショッピングモール。平日ではあるが予想以上に人混みが多いその場所に、思わずうへぇと思いながらモミジは店内へと足を運んだ。

 

荷物を取って来るとは言ったが、そういや場所を聞いてなかったと思い綾乃へと連絡を取ろうとスマホを取り出す。

 

すると、

 

 

「もしかして、これを探してる?」

 

「ん?」

 

 

がさり、という音と共に差し出されたのは、一つの中身入りの買い物袋。

受け取って中を見ると、寮で不足していた日用品が入っており、モミジは声の主へと顔を向けた。

 

 

「勇者のお姉ちゃん達のお友達?」

 

「そうだけど……。何処かで会ったっけ?」

 

 

背中まで伸びた艶のある黒髪に、ひなたと同じ位の長さだなぁと思いながら言葉を返す。

 

勇者部の活動の中で子供とは多少触れ合う事があり、そこで会った子かな?と思い出そうと頬を指で掻いた。

 

 

「んーん、初めましてだよ」

 

「……?」

 

 

違うらしい。

 

では、噂が一人歩きしてるだけか。なんて結論付けた時、ぞわりと身体が総毛立った。

 

感じる。先程も感じたあの気配を。

 

 

……目の前の女の子から。

 

 

「……君、まさか」

 

 

直後。

 

突如目の前で発生した莫大な暴風の様な神威の嵐に、モミジは身体が固まったかの様に動けないでいた。

 

神力だけとはいえ、武神としての側面を持つ建御雷神(タケミカヅチ)の力を継いだ自分が、目の前の少女から発せられる神威にビビっている……?

 

いや、これは。

 

 

建御雷神(あやつ)が力を与えたという人の子に、ちと興味を持ってのぅ」

 

 

その身体から発せられる圧力に何も出来ずに居ると、少女が雰囲気をがらりと変えた口調で話す。

 

動けずにいるモミジをくっく、と笑い

 

 

「まぁ、そう畏まるな。と言っても無理はないか。何せ我が身は――」

 

少女の黒い瞳に、光る様に色が灯る。

 

「――天照(アマテラス)であるからな」

 

 

それは、いつの日かモミジの妹に宿っていた朱金の瞳だった。

 

 

 

 

天照大神(あまてらすおおみかみ)

 

同じ読みでは天照大御神。と表される事もあるその神様は、言わずもがな日本における最高位の一柱である。

どんな神様か、と言われれば多岐に渡るので、ここで語るのは簡単に高天原と呼ばれる天界を統治する主宰神である。とさせて貰おう。

 

――そして、人類を壊滅まで追い込んだ天津神の最高位そのものでもある。

 

 

そんな大それた存在である少女と俺、大神紅葉は、

 

 

「おっほー!! 旨いのぅ、これ! このもっちりした物!」

 

「……はぁ」

 

 

――クレープを片手に、フードコートの一角で座っていた。

 

 

水菓子(ふるーつ)も溢れる程入っておるし、何よりこの白いぽてっとしたこれ! 牛の乳の風味もするがこれが特に良い! というか全部良い!!」

 

「因みにそれクレープって言います」

 

「くれーぷ良いの! 非常に美味である! 褒めて使わすぞ!」

 

 

はぐはぐ、と手に持ったクレープへとかぶりつく少女(アマテラス)を横目に、モミジもクレープを口に運ぶ。

 

美味しい、美味しいけど今はそれどころではない……!!

 

 

「おかしくない? これは俺の認識が異常なのか?」

 

「分かる。分かるぞ。この美味しさは異常であるよな!」

 

「そこじゃねーよ!」

 

 

話の通じなさに思わず少女にツッコンでしまった。

諏訪の祭神でもあった建御名方(タケミナカタ)の時もそうだったが、神様というのはマイペースなのが多い。

 

此方の事などなんのそのだ。

 

 

モミジの真剣な様子に、クレープを食べ終え指に付いた生クリームをぺろぺろと舐めながら、人心地着いたのかふー、とソファーへと座り直して口を開く。

 

 

「いやぁ、済まなんだ。天界から人の子達の様子を見る度、美味しそうな物で溢れていての。この機を逃せば食べられまい?」

 

「……こうして食べられるのは、神樹が作った世界だからか?」

 

 

モミジの言葉にご名答、と少女がにやりと口を歪める。

 

 

「お主も知っておる通り、神というのは自分の領域からは出られん。"国津神"共は兎も角、我ら"天津神"は地上に顕現する事は難しいからな」

 

「やろうと思えば出来るのか」

 

「細々とした事は調整が難しいが、出来ん事はないぞ? 例えば――現し世の全てを焼き払う為とかな」

 

 

その言葉に、思わずクレープを握る手に力が入る。

 

にやにやと笑う少女を無視し、形の崩れたクレープを大口で片付けると、包み紙をぐしゃりと潰してモミジは口を開く。

 

 

「じゃあそんな中、態々俺に会いに来た理由は? 俺を殺しに来たのか?」

 

「ふむ、それは違うぞ」

 

「違う? あの時、諏訪で会った神遣(ちちおや)は天照の名の元に俺を呪うと言った。そしてその結果――」

 

 

――綾乃は死んだ。

 

 

「……神威が漏れておるぞ。煽ったのは謝ろう、まずは落ち着け」

 

 

先程までのにやけ顔が真面目な物へと変わる。神威が漏れているのを指摘されて、モミジは落ち着く為に深く息を吐いた。

 

――"天津神"、天照大神の呪いで綾乃が死んだのは間違いない筈だ。

 

あの時胸に刻まれていた呪いの刻印は、確かに"天津神"によるものだと諏訪神(タケミナカタ)にも確認をして貰ったのだから。

 

 

「取り敢えずは場所を変えるか。害は与えん。抵抗するなよ」

 

 

言葉の後に、ぱちん、と指を少女が鳴らすと一瞬にして世界が塗り替えられた。

 

諏訪神に初めて会った時の様な、何も無い真っ白な世界。

 

ショッピングモール内にあった人々の喧騒が、荘厳な静寂に変わる。

 

 

「……樹海化みたいだな」

 

「領域に取り込むという点では同じであろうな」

 

 

落ち着いた、大人の女性の声に向けば、そこには絢爛豪華な着物に身を包んだ女の姿があった。

 

一目見て見た者より遥かに上の身分だと示すその有り様は、確かに高天原の主宰神であると納得できる姿でもあった。

 

 

「……さっきの姿は趣味で?」

 

「あの様な幼子であれば、無為に危害を与えようとする輩も居まいと思うての。この姿は少々、派手であろう?」

 

 

少々所ではない。大分派手だ。

 

そんな事は良いから、さっさと始めろ。と手で促せば、(アマテラス)はうむと頷く。

 

 

「最初に言っておくと、お主の身内の少女が受けたという"天照の呪い"、()()()()()()()()()()()()()()

「"天照の呪い"は実在する。だが、国土綾乃へ刻んだ呪いは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……何が言いたい?」

 

 

"天照の呪い"は実在するが、自分がやった訳ではない?

 

あれは神の呪いだ。完全な神ではない神遣(ちちおや)が刻める筈はない。

 

では、誰が――

 

 

「人の身でありながら神に成った"人神"、大神紅葉よ。お主は神をどう判別する?」

 

「俺が知っているのは、大まかに"国津神"、"天津神"だけだ」

 

 

モミジの返答に、女は満足そうに頷く。

 

宙へと指を走らせると、ぐにゃりと空間が歪みが生じた。

次第に何色もの絵の具を水に溶かし混ぜ合わせたかの様にぐるぐるとかき混ぜられていく。

 

 

「お主も知っておる通り、"呪い"には穢れが必要不可欠である。草木を生やすのに大地に種を蒔くように、基礎となる穢れが」

 

 

それは分かる。綾乃の呪いを解く鍵を探す際、呪いについて調べた時に一番最初に学んだ事だ。

 

0から1は生まれない。

 

 

「だが、それは妾達"神"と呼ばれる一部の存在も同じ事。神として産まれた者、()()()()()()が居る」

 

「神に、成った者……」

『お兄ちゃんとは少し違う。人々の信仰や思想によって、存在そのものが神様として出来上がった物だよ』

 

 

神に成った者。

 

神そのもの(タケミカヅチ)から力を譲り受けた大神紅葉の事を言っているのかと思えば、話し掛けて来た妹がそれを否定する。聞いていたのか。

 

その話から要するに、日本の各地でたまに見る大岩に注連縄を巻いた御神体や、古くから言えば雷や雨なんかもそうなのだろうか。

 

 

『大体そうだね。八百万の神々、なんて言うから成り立ちなんてどうでも良いんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おやおや、聞いた事のある声がすると思えばその娘子が妾を降ろしたという子かの?」

 

 

妹の説明の後、女がにこりと微笑みを浮かべ言う。

少女の時の様な悪戯な笑みではなく、友好的な笑みだった。

 

 

『……ねぇ、お兄ちゃん。この女の人が天照で間違いないんだよね?』

「嘘を吐いてなければな」

 

「妾は嘘など吐いて居らぬよ」

 

 

妹の言葉に女が返す。

 

妹とは神力の補給を兼ねて魂を相互補助している関係でもあり、妹の感情が此方側に流れる事もある。それほどに強い衝撃でもあるなら尚更。

 

 

『……この人(アマテラス)じゃない』

 

 

――妹からは、酷く困惑しているのが強く伝わって来た。

 

 

『私が降ろした神は、天照大神じゃない……?』

 

 

「大神紅葉。先程お主は言ったの、神には"国津神"、"天津神"の二種が居ると」

 

「え、あぁ……」

 

 

困惑して落ち着きがない妹を何とか抑えていると、天照がモミジへと問い掛ける。

 

さっきまでぐるぐるとかき混ぜられていた空間は、色が混じりあい次第にその中央には歪んだ黒に近い色が生まれた。

 

 

「それは間違いではない。神として産まれた者はそれに分類される。だが、そうでない者も居る」

 

「神に成った者」

 

「左様。人々の信仰、思想により生じた神の事である」

 

 

混じりあう色が強くなる。最初は黒に近い色が、だんだんとどす黒くなっていく。

 

 

「人々の信仰、思想とは中々に面白くての。時に我ら神にも想像せなんだ存在が出来上がる事がある」

 

 

その言葉と同時に、混じりあう色の渦の中央にぽっかりと穴の様な漆黒が生まれた。

 

その他全てを飲み込む様な、ブラックホールさながらの様な、混沌をイメージする存在が。

 

 

「人々の信仰からは八百万の存在が生まれた。だがその中で人々の欲、恨みと言った穢れから生じた神も居る」

 

 

「妾達はそれを、"禍津神"(マガツカミ)と呼んでおる」

 

 

"禍津神"

 

穢れそのものから生じた神。

 

――モミジの脳内には、諏訪で会った天照が強く思い出されていた。




神様の定義としては、作者の解釈が多分に含まれています。
宗教的な思想を押し付けたい訳ではなく、あくまで一個人としての解釈だと思っていただけたら幸いです。

同じペースで続き書けたら良いなぁ(*´ー`*)←
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