最後に要約というか、簡単にまとめてるんで分からなかった方は申し訳ありません(;´д`)
――何でアイツばっかり
――私だって頑張ってるのに
――ずるい、ずるい
――憎い、憎い憎い憎い!!
――『『『嗚呼、神様』』』
自分のカタチが定かではない頃、自分の中身に耳を傾ければ、それは何時でも聴こえてきた。
人間という生き物が持つ、嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食……。
大きな分類に分ければこの七つではあるが、この身に満ちる様に詰まっているそれは、もっと禍々しいモノであると理解できた。
否、突き詰めるとそれは、それの行き着く先はただ一つ。
――『『『私以外の邪魔な奴が、皆死んでしまえば良いのに』』』
他者の死を、崇めるべき神へと願うまでに心身が堕落し堕ちた人間の"業"。
それが"私を神と成す穢れ"だとするのならば。
――私は、人間を滅ぼす為に生まれたのかもしれない。
願いし者の幸福を、災厄というカタチで成就する存在であったとしても――
◆
「さて、大神紅葉」
目の前の豪華絢爛な着物に身を包んだ女、
此方の心の内まで覗くようなその視線に、諏訪神との問答を思い出した。
神とやらは、どいつもこいつも心の中が読めるのだろうか。
「いや、読めんよ」
「読めてるからこその返事だよね、それは」
「心そのものを読めはせぬよ。心の色が見えるだけじゃ。今のお主からは、"困惑"の色が見えたからの」
一目見て高価と分かる扇子で口元を隠しほほほ、と笑う女に諏訪神からも似たような事を言われたと思い出した。
分からないからこそ、問答をするのだと。
「――それで、その"禍津神"ってのは一体何者なんだ?」
からかわれているだけだと、会話を打ち切り本題へと進む。
モミジの言葉に、うむと女が相づちを打った。
「先程も言った通り、神とは"産まれながらにして神"である者と、"神に成り上がった"者がおる
両者に違いは特に無い。"神"とは信仰、畏れにより決まるもの」
だが、と続ける。
「人々の信仰、畏れは時に狂気へとその身を堕とす」
言葉と共に、女の背後から暗い幕の様な物が空間へと広がっていく。
悪意、敵意を感じずなすがままにその暗幕に取り込まれれば、次第に一つの灯りが見えた。
正確には、一つの蝋燭の灯りが。
「人には108もの煩悩があるらしいのぉ。ほほ、醜いものじゃ」
「……アンタさっきクレープ旨そうに食べてたろ、あれも欲の塊だぞ」
「妾は神じゃ、人ではない」
「こいつ……」
女の開き直った言葉に僅かに苛立ったが、見よ、とばかりに扇子で差された方を見ると、薄明かりに照らされて何かが動いていた。
それは、書物へと一心不乱に筆を走らせる一人の男の姿だった。
『許せん、許せん、許せんぞ……!』
かじりつく様に、のめり込む様に書物へと忘我の様相で書き込んでいく。
筆に着いた墨が無くなり、文字が掠れれば墨壷へと乱雑に筆を突っ込みまた書きなぐる。
その狂気とも言える様子に何も言えなくなっていると、蝋燭が大きく揺らぎ書き手の顔が照らされた。
その顔に、どくりと心臓が高鳴る。
「そう、そこに居る男こそ。お主の父親でもあり、件の"禍津神"を産み出した張本人」
「大神家、初代じゃ」
~~
『……あれが、お父さん』
「正確には、中身の魂がだがな」
御霊が見れる自分には分かる、その違い。
今の
「同じヒトガタだったお前にも分かるだろ。あれは、魂を殺して相手の身体を乗っとる呪法だ」
『うん……』
初代大神が一心不乱に書物へと書き込んでいるその内容。
それは、モミジ達に"神"を降ろす為に使用したヒトガタの儀だった。
「
『呪い?』
「簡単に言えば陰陽師みたいなもんだ。一時期は京都の守護職に、なんて話もあったらしい」
モミジの話に、へー、と初めて聞くように妹が今までになく反応する。
何時もは無気力というか、周囲への関心が薄いイメージだが父親の話には興味が湧いたらしい。
『何でそれを断ったの?』
「平安の後……、所謂戦国時代が来ることを予知したんだと。それで、人気の無い山中でひっそりと暮らしていたらしい」
だが、それは初代の後の話だ。
それの原因となった源が、この狂気とも言える光景の中にある筈なのだ。
モミジの話が一段落したのを見て、
「今お主が言った通り、この男から大神家という
その通りだ。
自分も産まれながらに大神紅葉という神であった訳ではない。
様々な出会い、切欠があって今の自分というカタチになったのだから。
「それでは、その切欠を見るとしようかの」
女がぱちりと指を鳴らすと、先程の様に暗幕が空間を覆って行く。
暗幕に身を包まれていく最中、未だに書物へと筆を走らせる初代大神の背中が見えた。
――姿勢を正す、なんて言葉とは反対に背を丸め、
どうしようもなく、悲しさに暮れる子供の姿に見えた。
◆
昇る黒煙。
周囲から響く、阿鼻叫喚の地獄の様な叫び。
鼻を突く、血潮や肉が焼けるむせ返るような嫌な臭い。
……私は、地獄に居た。
二度とは見たくなかった、子供の頃に見た地獄に。
「ぁ……」
無事とは言えない、傷だらけの身体を引き摺って歩く。
全身から激痛が走る。足を、腕を動かす度に節々から鋭い痛みが走り、千切れるんじゃないかと錯覚する程に。
それでも歩く。本当は走りたいが、身体がそれを拒否していた。
自分たちが平和に暮らしていた城内、その敷地内を、傷口から流れる血を拭う暇もなく歩く。
所々に倒れている兵士や、領地に暮らしていた民、最早物も言わぬその死体をただ黙々と通り越して行く。
ただ、自身がお館様と呼ぶ、その人に会いに行くために。
『大神様、今日も勉強熱心ですなぁ』
死んだ
『大神様~、次はいつ雨が降るか占って戴けんでしょうか?』
死んだ
『僕もね、大きくなったらお館様に仕えるんだ!』
死んだ
顔を見る度に思い出すその人との会話に、頭を振って先を急ぐ。
あの方は陣の後衛だ。敵はそこまで行ってない筈、まだ生きている筈だ。
見慣れた陣の垂れ幕が見え、喧騒が耳に届く。まだ間に合う、と足を早めた所で、横合いから思い切り押し飛ばされた。
「な……?!」
「勘弁して下せぇ、大神様……!」
「お静かに、気付かれます……」
自分たちの側の兵士、見た顔に邪魔された事に驚きつつ直ぐ様疑問が上がる。
何故?何で?
痛む傷のせいで疑問に答えが追い付かず、戸惑ってばかりいると自陣から声が上がった。
「儂じゃ、儂の手柄じゃ!」
「何を言う、儂の手柄じゃろうが!」
「おい、側近のこいつも金になるぞ!」
「首実験じゃ、大将様は何処か?!」
先程までの喧騒とは変わり、享楽の悲鳴が上がる。
嘘だ、嘘であってくれと願う頭とは別に、純粋な疑問が浮かんだ。
「――何故、あの騒ぎの中に我が領民達が共に喜んでいるんだ……?」
本来であれば敵兵のみが喜び、勝鬨を上げるその光景の中で、
何故か、見知った顔の者達が共に喜び、笑っていた。
私の言葉に、傍らの二人が震える。その反応と、垂れ幕の中から出てきたソレを見て、答えを知る。
喜び勇んで駆け出す見知った領民を。
その者が抱える、お館様の首を。
「お――」
お館様。と呼ぼうとして傍らの二人が彼方に気付かれまいと必死に口を塞ぐ。
痛みを忘れて身を捩り、駆け出そうとするも屈強な兵士でもある二人に抑え込まれては、一人では抜け出すことは叶わなかった。
自分の非力に、認めたくない現実に無意識の内に涙が流れる。
何故だ
『
何故だ
『儂は統治等に興味はないよ。飢えず暮らせたらそれで良いでないか』
何故、あのお方を裏切った……?!
『坊、お前は幼い頃の影響で人を信じては居らんのだろうが……』
『一人でも良い。人を信じ、愛してみせよ』
何故?
~~
『酷い……』
「この時代では何もおかしくはない。普通の事じゃよ」
眼下に広がる地獄の光景を見た妹の言葉に、女が答える。
「謀略、裏切りなんぞは当たり前。される方が悪いとさえ言える、そんな時代だった」
その言葉とは裏腹に、女の目はくだらないものを見るような、冷めた目をしていた。
時代から道理では普通の事だとしても、人の行いとしては納得はしていないらしい。
初めて、この"神"の中身を見た気がした。
「この時代の人の中では、中々に見どころがある人物であっただけよ」
また心を読まれたのか、女が腕を組んで眼下を眺めながら言う。
「私腹を肥やすがそれを自分だけでなく、飢えた者や貧困に喘ぐ者達にも分け与える、珍しい男だった。……まぁ、それもこの結果じゃがな」
言い終わると、女はまたも指を鳴らした。
最早見慣れた暗幕が広がり、モミジの身体を包んでいく。
暗幕が晴れるとそこは、とある古びた家屋が連なる廃村の様な場所だった。
生活感を微塵も感じない場所だが、何処か不気味な雰囲気を醸し出している。
「――」
『どしたの、お兄ちゃん』
これは……と感じた事のある気配をモミジが探っていると、背後から怒鳴り声が聞こえる。
「此処に居る筈だ、探せ!」
「手柄は儂のものじゃ!」
「うっせぇよ、黙って探せ!」
手に鍬や棒切れ、鉈等を持った農民らしき男達が建物を一件一件探して回る。
家屋の扉を蹴り壊し、中を土足で荒らし回る。
そうして男達が最後に顔を合わせたのは、村の外れにあるこれまた廃れた長屋。
外から中を確認した一人の男が、にやりと口を歪ませると我先にと扉を蹴り倒して鉈を手に中に飛び込んで行った。
手柄を取られたと悔しがる者、せめて死体を晒し者にして楽しもうと画策する者が待つ中、壊れた入り口から何かが出てきた。
否、放られた。
――先程飛び込んだ男の頭部が、引きちぎられた様な傷痕を残して飛んできたのだ。
「っひ……!」
「な、……なぁ?!」
「怖れるな! 数は此方が上なんだ、男一人くらいさっさと殺せ!」
その異様な様子に数人が腰を抜かすも、一人の男が檄を飛ばす。
無くなりかけた戦意が数の多さによって立ち直りが、その様子を見ていたモミジの顔に一筋の汗が垂れた。
「ヤバい……」
『ねぇ、さっきからどうしたの?』
「ふむ、お主には分からぬのだなぁ」
顔を青ざめさせたモミジとは違い、何を焦っているのか分からない妹に傍らの女が興味深そうに見ていた。
"御霊の使役"という権能が無いからか、はたまた"神"の身体ではないからかは分からないが、理解出来ていない妹に分かる様に伝える。
「アイツが出てくる……」
力自体はそこまで大きくはない、だが、感じる気配が、見ただけでヤバいと感じるどす黒い程の禍々しさが、身体に警告を訴える。
「諏訪で出会った、お前の身体に降ろされた
~~
あれは何だ?
先の戦で敗走したとある男を追い掛けて、漸く探し出したは良いものの、目の前の光景に男は身動きが取れずに居た。
仲間である一人の男が、空中に縫い付けられている。
正確には、空中で首もとを握り潰されていた。
「――~~!!」
「ひっ……」
苦しいのか、痛みからか男の身体が締められた魚の様にびくびくと痙攣する。潰され、もう治らないであろう傷口からは血が吹き出すように飛び出していた。
逃げ出そうにも、身体が恐怖からか動かない。鼻や口から吸う空気がとても重苦しい物に感じる。
まるで水中にでも沈められた様な、異界にでも迷い込んだその感覚に動けないでいると、先程蹴り倒した扉の方から一人の人影が見えた。
追い掛けていた、大神家の者だ。
かつての、領主の家臣だ。
――だが、見えたその顔に嘗ての面影は微塵もなかった。
何も見えない、虚ろの様な眼と幽鬼の様に青白く、痩けた顔。
それが、此方をじっと見つめていた。
「ぉ、大神様ぁ!!」
危険を感じ取ったか、先程までの飄々とした雰囲気とは変わり手に持っていた武器を捨てて地面に額を打ち付ける。所謂土下座だ。
何やら早口で謝罪の言葉を捲し立てているが、当の男を見ればそんなものは一切聞こえていない様だった。
否、端から興味すらない。
「――ずっと、考えていた」
沈黙から口を開いた大神の言葉に、土下座していた男は顔を上げる。その目には許しを得たと希望があったが、大神の顔を見るやいなや徐々に不穏に塗り潰されていた。
「お館様が言っていた、天下泰平の世。何処もかしこも戦続きの世の中で、それはどうやって成すのかを」
「"人"では無理だ。その人間が戦を起こす、裏切りを起こす、誰かを踏みつけにして自分だけが幸せを享受する」
「何故分け与えない、凡夫の分際で他の可能性を踏みつけにする? 皆が受けるべき当たり前を奪い取る?」
大神が口を開く度に、その身体を中心に何かが渦巻いているのを肌で感じた。
空気ではない、重苦しい何かが。
それを見るだけで、冷や汗が止まらない、命の危険を感じるナニかが。
「その答えが、漸く分かった」
目の前の
言葉の後に数瞬置いて、身体が不意に掴まれた。
見えない大きな何かに鷲掴みにされて、先程の男の様に空中に縫い付けられる。
身体中から、骨や内臓が潰される音が辺りに響き渡った。行き場を失った血や体液が、口や耳から吹き出るのが分かった。
……何で、こんな状態になっても俺は死ねないんだ?
「私が、お館様の様な"真なる人間"を創れば良いのだ」
「何者にも負けぬ力、人々から崇められる、まさしく"神"そのものを!」
「"人"という枠から外れた、大いなる力を宿りし"人神"を!!」
そう空へと吼えた後に、腹の底から沸き出る様に笑い声が上がる。
次第に腹を抱え、本当に愉しそうに笑うと、少しして呼吸を整えふぅと息を一つ吐いた。
「手始めにお前達には慰み物になって貰おう。何、辱しめようって訳じゃない。出来るだけ痛めつけ、苦しめ、恐怖を与えてなぶり殺すだけだ。"犬神"という式神の作り方は御存じかな?」
にやりと嗤うその顔から狂気しか感じず、先程土下座していた男から言葉にならない悲鳴が上がった。
その悲鳴の後に、頭部を掴まれる感覚があった。
徐々に、めきめきと音を立てて頭部が握り潰されていく感覚が、身動き一つ取れない状態で襲う。
「出来るだけ恐怖を、苦しみを感じて死んでくれ。それが私の、お館様へのせめてもの手向けになるだろう」
その言葉の後に、男の意識は途切れた。
~~
「……」
『あれが……"禍津神"』
「左様。まだ"神"としてのはっきりとしたカタチは無いがな」
離れた此方からでも感じる、禍々しい気配。
そんな気配に当てられながらも、今の女の言葉に違和感感じる感じ取ったモミジが、次第にその表情を歪ませる。
そんなことが、あって良いのかと。
「……そうか、だからか」
『?』
「――気付いたようじゃの」
何かに合点が行った様子のモミジに、女が口許に扇子を当てて笑う。
一人気付けていない妹がどういう事かと考えているとモミジが口を開いた。
「お前に降ろされた偽者の
『えーと……?』
「陰陽師でもある大神家が祭神として奉ってある神様は誰だ?」
『そりゃあ、天照大神でしょ……、あ』
妹がそれに気付いたのと、眼下の大神に異変が生じたのは同時だった。
"禍津神"らしき禍々しい気配が、靄の様な姿からそのカタチを変えていく。
「初代大神が、"禍津神"を本当の神へと成り上げるには多大な信仰と穢れが必要だった」
「ならばどうするか、
靄がカタチを変えていく。
一人の女の姿へと、
天女の様な、女神の姿へと。
――それは、まさしく"天照大神"そのものだった。
「初代大神が奉り上げた"天照大神"は、高天原の主宰神ではなく、同じ名前と姿の偽者だったんだ」
混沌が、その名と形を得て動き出した。
――人の業を、精算する為に。
初代大神は当初お館様と呼ぶ男性に仕えていた。
↓
領民に裏切られ、身内はほぼ殺害される。
↓
初代大神が元々使用していた、
↓
人という存在への絶望、怒り、恨みが積もり"禍津神"の成り損ないが爆誕。
↓
争いを起こさない、全ての世界を平和に導く圧倒的な力を持つ"真なる人間"を造る為、信仰、穢れを"禍津神"へと集中させる。
↓
一から神様作るより、ネームバリューのある神様の名前借りた方が早いよね。あ、そうだ。
↓
妹が天照を降ろした際、偽物の方だったのは初代大神が信仰していた天照が偽物の方だったから。という事です。
分かり辛かったら申し訳ありません。
大体週一くらいのペースにしたいです。
次くらいから日常混ぜていきます、お付き合いよろしくお願いいたします。