大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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最近一気に暑くなってきましたね……。

熱中症には気を付けて!


暗中模索

 

 

「次、こっち手伝って貰って良いですかー?」

 

「はーい」

 

 

他所から掛けられた声に、脚立の上で作業していたモミジは返事を返した。

 

手に持った折り紙で作られた壁飾りを指定された所に画鋲で留め、簡単には落ちない事を確認すると脚立を抱え移動する。

 

脚立を持って先程声が掛かった場所に移動すれば、エプロンを身に着けた保育園の先生が軽く手を上げた。

 

 

「ごめんなさいね、色々とこき使っちゃって」

 

「こういう体力仕事は慣れてるんで、大丈夫ですよ」

 

 

先生の言葉になんて事ないと返事をして、手に持っていた無数の輪っかで作った紙飾りを受け取り脚立へと登る。留める位置を調整してやれば、見事に部屋内の装飾が完了した。

 

 

「おぉー、終わってみれば結構豪華になりましたね」

 

「本当に助かったわ。他の子達には、園児の世話までして貰って……」

 

 

脚立から降りて、オリエンテーションで使用するという遊技場を見渡す。

 

折り紙で作られているとはいえ、壁一面に色とりどりの装飾が飾られているというのは結構見応えがあった。

 

 

――保育園の先生が急病で数人寝込んでしまい、オリエンテーションの準備が間に合わないので手伝ってほしい。

 

 

讃州中学校勇者部に届けられたその依頼は、部長である犬吠埼 風(いぬぼうざき ふう)の目に留まると直ぐ様出動となった。

 

聞けば出勤している保育園の先生は二名だけ。当初の予定とは変更し、モミジが力仕事もある飾り付け担当となり他は園児の相手をする事となったのだ。

 

 

「此処の子達とは何回も遊んでるらしいので、寧ろ楽しんでると思いますよ」

 

「えぇ。何時もお手伝いして貰ってるけど、今回は特に助かったわぁ」

 

 

心底ほっとした様に息を吐く先生に、それは良かったと返して片付けの為に脚立を担ぐ。

 

片付けが終わり皆が過ごしているであろう教室に向かえば、遊ぶ時間なのか大分賑やかな雰囲気が流れていた。

 

教室に入って中を見渡すと、園児を相手に遊んでる風を見付けて声を掛けた。

 

 

「オリエンテーションの飾り付け完了だ。先生がお茶を用意してくれるってさ」

 

「そうなの? 取り敢えずお疲れ様!」

「おつかれさまー」

 

 

風の言葉に、一緒に遊んでいた園児も真似して声をあげる。ありがとう、と頭を撫でてやるとにこりと微笑んだ。

 

待っている間、何か園児達の相手を手伝うか。と周りを見れば、少し離れた所でまだ小さな幼児の相手をしている杏の姿が見えた。隣の球子と何やらあたふたとしているのが分かる。

 

 

「どうしたんだ、二人とも」

 

「あっ、モミジ。この子が急に泣き出しちゃって……」

 

 

球子の言葉に子供を見ると、モミジは直ぐに原因に気付いたのか替えのオムツを用意した。

 

要するにあれだ、トイレをしたからオムツを替えてほしいのだ。

 

 

球子と杏に他に必要な物を伝え、子供を寝かせるとオムツを交換する。

 

テキパキと作業するモミジを見て、杏と球子から驚きの声が上がった。

 

 

「モミジさん、子供のオムツ替えなんて出来るんですね」

 

「全然そんな風には見えないゾ」

 

「避難者の中には小さい子が居る時もあったしな。……よし、終わり!」

 

 

交換が終わり子供を杏に預ける。綺麗になりすっきりしたのか先程の様にはぐずる事はなかった。

 

 

「モミジさん、ありが――って、あれ?」

 

「モミジなら別の所に行ったぞ、なんか忙しそうだ」

 

 

機嫌が良くなった子供に安心し、礼を言おうと杏が顔を上げれば、先程までそこにいた筈のモミジの姿がなかった。

 

キョロキョロと周囲を探れば、それに気付いた球子が言葉の後で指を差す。そこには、別の子のお世話に入るモミジの姿があった。

 

 

確かに先生の人数が足りないが、勇者部の人数もかなりの数を連れて来ている。予程の事がない限り、どたばたとするほど忙しい事はないのだが……。

 

 

「……前のお役目から、モミジの奴なーんかおかしいんだよな」

 

「何かあったのかなぁ?」

 

 

まるで何かしてないと治まらないとばかりに忙しなく仕事をするモミジを見て、二人はそう呟いた。

 

 

 

――脳裏を過るのは、天照大神(あまてらすおおみかみ)から語られた、初代大神とその祭神である"禍津神"の事。

 

 

初代大神が経験した地獄、人間への絶望と恨み……。そうした穢れの積み重ねが、人類に"天災"という一つの終止符を打ったのだと語られた。

 

 

「妾はあの男、初代大神には何ら恨みも、怒りも抱いては居らんよ

 

確かに"禍津神"に我が名を使用したのは些か腹が立つが、言ってしまえばそれだけじゃ」

 

 

「人類への所業は人同士のいざこざがあっての事。"禍津神"が我ら"天津神"という神の力の一部を使ってはおるが、それはそれ。という事じゃ」

 

 

人類が滅ぶ事には本当に何とも思ってはいないのか、先程話していた時とは表情が大きく変わり興味が失せた様に何処から音もなく出現した椅子に座る。くぁ、とだらしなく欠伸をしていた。

 

諏訪神(タケミナカタ)に"神"というのは基本人類そのものはどうでもいいと思っているとは聞いた事はあったが、まさかこれ程とは思っては居なかった。

 

 

「――じゃあ、アンタは一体何が目的で俺にあの男の話をしたんだ?」

 

 

~~

 

 

「それでは皆で、いただきます」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 

先生の号令の後で、手を合わせる音と共に元気な声が一斉に上がる。

 

おやつの時間。子供だから、という訳ではないだろうが、皆目の前に用意された色々なお菓子へと手を伸ばしていた。

 

一つを手にとって、変わった形をしているが、これは動物を模しているのだな。なんて思いながら口へと運ぶ。旨い。

 

 

「ひゃー、皆元気で参っちゃうなぁ。疲れたよー」

 

「そうね、高嶋さん……」

 

 

そんな声に顔を向ければ、上気して仄かに赤くなった頬を手でぱたぱたと扇ぐ友奈と千景の姿があった。

 

疲れた。という言葉とは裏腹にまだまだ元気そうな友奈とは違い、力無くよろよろと用意された椅子に座る千景は確かに疲労感が漂っていた。大丈夫だろうか。

 

 

「おいおい、大丈夫か。特に千景」

 

「子供の体力を舐めてたわ……」

 

 

聞けば、外での遊びに誘われたらしい。インドアで運動自体が得意ではない千景だが、小さな子供だし余裕だろうと了承した結果、この有り様だ。

 

 

「もう少しで"勇者システム"を起動する所だったわ……」

 

「絶対に止めろ」

 

 

お前は何と戦うつもりだ。

 

 

隣の子供から大丈夫?と労られる千景を哀れに思いつつ、マグカップに入ったお茶を飲む。

 

お茶の水面に写った自分の顔を見て、昨日の(アマテラス)からの言葉を思い出していた。

 

 

~~

 

 

「"人神"、大神紅葉」

 

「妾がこうしてお主に会いに来たのは、あの"禍津神"の事を伝えに来ただけではない」

 

 

人神。

 

人の身でありながら神の力を手に入れ、神と成った存在。

 

それが俺、大神紅葉の神としての神格。

 

 

「あの時、妾は見ていた」

 

「お主はこう言っていたな」

 

 

――天の神よ、聞き給え! これより行うは我が咎の清算! そして、我が願いは一つ!

 

 

――人類の健やかな安寧なり! 愚かな人間は変わる! ならばそれまでの間、手出しをしないでほしい!

 

 

国譲り。

 

諏訪の神でもあった建御名方神(たけみなかたのかみ)が、建御雷神(たけみかづちのかみ)に勝負を挑み敗北した。

 

その後負けを認め、許しを得るために諏訪の地から出ないことを条件に許しを得たという、神話の一説。

 

 

あの時の四国は絶望的だった。若葉達勇者は連戦の疲れやバーテックスとの戦力差からボロボロ。

 

全滅まで秒読み、といった所で"天津神"側から恨まれているであろうモミジが行ったのが、この"国譲り"だった。

 

 

襲い掛かるバーテックスを、文字通り命尽きるまで迎え撃つ。それが出来たなら、その功績とこの命を引き換えに四国の平和がほしい。

 

それが、モミジにおける"国譲り"だった。

 

 

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「――っ」

 

 

その言葉に、何も言い返す事が出来なかった。

 

"平和という殻に居る雛"

 

以前、薙刀の巫女に現代はどんな世界だと聞かれそう答えたが、今でも間違った例えではないと思う。

 

 

犯罪は確かに減った。

 

悪意を持つ人間も減った。

 

不幸だと嘆く人間も、苦しむ人間だって減った。

 

 

――ただそれは、誰かに管理された平和な世界でもあったのだ。

 

 

「大神紅葉。妾がお主に興味があると言ったのは、別に酔狂や享楽からではない」

 

「人と神、双方の観点からこの世をどう評すのか。どういう答えを出すのか。それに興味があるのじゃ」

 

 

――率直な事を言ってしまうならば、俺には、大神紅葉には初代大神を裁く権限は無いと感じた。

 

 

人から裏切られ、命と同等かそれ以上に大事な人を奪われたその絶望と恨み、怒りから"禍津神"を生み出し、復讐に燃える初代大神。

 

それは、綾乃が呪われその呪いを解くために"天津神"側の巫女を殺害していたモミジと何も違わないんじゃないだろうか。

 

 

…………そんな俺に、何が語れるというのだろうか。

 

 

~~

 

 

「モミジ君?」

 

「――っと、悪い。ぼーっとしてた」

 

 

千景に声を掛けられ、はっと意識を戻す。

 

周囲を見れば、ちらほらと食べ終わったのか遊ぶ子供や迎えが来て帰り支度をしている子達も居た。

 

視線を感じて下を見れば、近くの子達がモミジの皿とモミジを交互にちらちらと見ながら目で何かを訴えている。

 

 

「食べたいならどうぞ、やるよ」

 

「「ありがとう!」」

 

 

手で促せば早い者勝ちとばかりに凄いスピードでお菓子が無くなった。喜びの声を上げながら外へと繰り出す子供を見送り、マグカップのお茶を啜る。

 

 

「……何か、考え事?」

 

「ん? ……んー、ちょっとな」

 

「……大事になる前に、必ず相談してほしい」

 

 

大事。といつのは、おそらくだが四国に居た頃の綾乃の件だろう。

 

悩み事に対して深くは追及して来ない千景に内心で礼を言いつつ、同時にごめんと謝った。

 

 

……この内容は相談出来る事じゃない。自分で探すしかない、大神紅葉の"試練"でもあるんだ。

 

 

さて、俺も片付けるか。と席を立とうとすれば皿にまだ一枚のクッキーが残っているのに気付いた。全部取るのは申し訳ないとでも思ったのだろうか。

 

最初に食べた動物を模した形のそれを摘まんで口へと運ぶ。

 

 

何故か、最初に食べた程美味しくは感じなかった。

 




初代大神が犯した罪を悪とするならば、モミジのした事も悪となるのだろう。

同じ悪行を犯した自分に、人を断罪する権利はあるのか?初代大神に、何を語れば良いのかと悩むモミジの話でした。

考え込む程に悩むと味しなくなるよね。え、ない?
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